FC2ブログ

plumeria

plumeria

父さんから聞いていた産業用ロボットの開発プロジェクトについての社内会議が始まったのは本社勤務になってから10日も経ってからだった。

花沢の中でも優れたエンジニア達が招集され、このプロジェクトが成功すれば数年間の安定した利益が見込まれるだけに気合いは充分。ただ、プロジェクト責任者に若い俺が就くと言うことに反感を持つ連中も少なからず居るらしい。
そのせいなのかピリピリとした雰囲気もあったが、滞りなく第1回目の打ち合わせは終わり、今後は他社合同の打ち合わせに入っていく。

会議終了後、まだ席に残っていた俺に「専務、くれぐれも宜しく」などと、信用も信頼も無いと言った感じのエンジニアに嫌みっぽい口調で呟かれた。


「こちらが各社の責任者名簿です。初回打ち合わせは来月の10日、Mホテルの会議室で行われます」

「Mホテル?社の会議室じゃなくて?」

「はい。まぁ、道明寺ホールディングスが参加してますからね」

藤本が渡してくれた資料を見れば、主な企業は道明寺のロボット事業部と花沢のロボットシステム開発部。後は部品メーカーやIOT機器の開発会社など数社。
そこにあげられた責任者欄・・・俺の上に名前があったのは「道明寺司」だった。

「その会議にはここに書かれてるメンバーが揃うと考えていい?」
「えぇ、おそらく参加されるでしょうね。その為の責任者ですから。専務・・・逃げようとしてませんよね?」

「そんな訳ないだろ」
「失礼しました。フランスでの噂を少し聞いていましたので」

「逃げてた訳じゃない。向こうの人間のノリについていけなかっただけだ」


藤本の戯言に冷たく言い返したけど、俺の目は司の名前を見ていた。
総二郎ともあきらとも、当然俺とも連絡を取ろうとしない司・・・牧野との間に何があったのか聞くのはこの時しかない。会議が終わった後に掴まえて絶対に聞き出してやる。

「専務、次の会議の時間です」
「判った」


連勤最後の会議・・・明日は初めての休日だ。
今まで足を運んだ所にもう1度行ってみようと、それを考えながら会議室に向かった。


**


翌日、2年前まで牧野が働いていた会社に行ってみた。
これまでは電話だけの確認だったから、突然現れた「花沢」の人間に随分驚いていたようだ。

そこは道明寺の関連会社で俺の訪問はあまり歓迎されなかったみたいだけど、花沢とも取引は可能だとほんの少し仕事の匂いをさせると代表者はニヤリと笑った。
これなら話を聞けるかもしれないと牧野の退職の流れについて説明を求めると、やはり返事には困ったようだ。

「2年も前の出来事で相手は既に道明寺とは縁のない女性です。ただ、今現在の居場所が判らないので捜しているだけであって、あなたが答えた内容を道明寺側に伝える訳ではない。その時の経緯だけ教えてくださればいいんですが?」

「・・・はぁ、それは判るんですが」

「・・・もしかしたらご家族が捜索願いを出すかもしれません。そうなったらここも調べられるでしょうね。事件性が疑われたらその時の雇用状況も詳しく説明を求められると思いますよ?早く見付けないとね・・・」

そんな口から出任せもこの男には恐怖に感じたのか、重かった口を開いた。


「ほ、本当に司様には黙ってていただけるんですね?」

「それはお約束します。お話しください」

「・・・あの時、司様から急に牧野さんを解雇するようにと連絡が入ったんですよ。こっちとしては、理由もなく解雇する事は労働契約に反するので出来ないと申し上げたら『この先働けるのは道明寺HDだけだと思え。他の会社には入れないようにしてやる。仕事をしたかったら道明寺の日本本部に行け』、そう伝えろと仰ったのです」

「は?道明寺以外では働けないって意味?それで牧野は?」

「牧野さんにはその通りに伝えました。それでもうちより給料のいい道明寺HDで働けるのならいいじゃないかと・・・でも、悲しそうに笑って黙って出ていきました。で、この内容は絶対に誰にも話さないようにと厳しい口調で言われましたので、何度か牧野さんの事を聞きに来られた方にもお話しはしていないのです」

きっと総二郎とあきらが手配した人物だろう。
2年経って初めて言葉にした社長は凄く不安がっていたから、もう1度秘密は守ると念押ししてこの会社を後にした。


何処にも働き口がないようにしたんじゃなくて、道明寺に誘った?
牧野との婚約発表を中止したのに仕事先を道明寺に・・・それはどう言う意味だろう。

牧野が無理だと判断して婚約破棄を申し出たのなら道明寺とは縁を切らせるはず。反対に司からもう少し先にしたいと申し出たのなら大河原との婚約内定が矛盾する。
モヤモヤした気分のまま、今度向かったのは牧野が住んでいたアパートだった。


今ではもう別の人間が住んでいる古いアパート。
1度も入ったことはないけれど、何度か迎えに来たことがある思い出の場所の1つだった。
いつもあの窓から顔を出して、俺が判ると小さく手を振って急いで降りてきてくれた・・・あの時と違う色のカーテンが掛かってる部屋を下から見上げて牧野の笑顔をそこに重ねた。


「牧野さん?・・・えっと、あぁ!思い出した、牧野さんね。アメリカの大企業の御曹司と付き合っていたって言う人だね?」

「・・・えぇ、そうです」

アメリカの、じゃないけどここの大家にとってはその程度の記憶なんだろう。
牧野がアパートを出て行った時の事を覚えているか、と2年前と同じ質問をすれば、少し考え込んでいたが変わった事は時にない・・・その返事は以前と同じだった。

「何も思い出しませんか?なんでもいいんだけど・・・たとえば後から牧野が忘れ物を取りに来たとか、誰かが訪ねてきたとか」

「誰かが訪ねて・・・そう言えば儂の所に訪ねて来た訳じゃないが、牧野さんが住んでいた201号室を見上げている男の人を見たことがあるよ。もうコートなんて着てたから、牧野さんが出ていった半年以上後だったと思うがね」

「・・・男が?あの部屋を見てたの?」

「あぁ、背の高い若い男性でね。変わったヘアスタイルの怖い兄ちゃんだったけど。丁度アパートの防犯灯の電球替えのために行ったらそんな男を見掛けて、あんまり怖かったからその人が立ち去るまで儂も近づけなくて困ったよ」

「・・・そう。それは1度だけ?」

「儂はそれしか見てないが?」


大家の言った背の高い男は司に間違いない。
この人が見たのは俺達が必死に探していた時より随分後って事か。

牧野と別れて半年以上経ってここに来た、それは何のために・・・牧野が行方を眩ましたことも知らなかった?それとも知ってて俺と同じように手掛かりを探してたんだろうか。


牧野の事もだけど、司の心の中も判らない・・・あいつの想いは今、誰に向いているんだろう。




********************




「・・・再婚するんだってさ」
「・・・え?」

坂本さんがボソッとそんな事を言った。
再婚・・・別れた奥さんが再婚するって話だった。

それを聞いても「そうなんですか」と返事しただけで、それ以外の言葉は出せなかった。坂本さんも、元奥さんが再婚するからって悔しいとか、面白くないとかって感じじゃなかった。
もうその人とは完全に気持ちが離れてる、そう言ってたから。


「お酒、新しいの作りましょうか?」

「うん・・・華さんも飲んだら?俺の奢り」

「私?あはは・・・私、殆ど飲めないの。飲むとすぐに酔っ払って訳が判らなくなるから帰れなくなっちゃうわ」

「それでもいいのに」

「・・・え?」


クスッと笑った坂本さんが新しいグラスを手に持って、ひと口飲んだ後に溜息を1つ・・・。
今度は淋しそうな表情で小さく呟いた。


「新しい男がね・・・子供と俺が会うことを嫌がるからもう2度と会わないでって・・・そう言ってきたんだ」

「・・・あら、そう・・・それは仕方ないのかもしれないけど、淋しいですね」

「うん。妻とは話し合って決めた別れだから未練はないんだけど、子供はさ・・・意味が違うから。年に数回会えることにしてたんだけど、離婚してからは1回しか会えてなくて。それが最後だなんて思わなかったから残念でね。それに来週にはその男と九州に引っ越すらしいんだ」

「九州?遠いですね」


淋しい話に付き合って慣れないお酒を少しだけ飲んだ。
「それが最後だなんて思わないから」・・・この言葉にはズキッとした。私も急に姿を隠したから・・・彼は少しでもそんな風に思ってくれるんだろうか。
フランスに行く前に会ったのが最後・・・あれが最後だと思わなかったって、そんな風に思ってくれるかな。

グラスに付いた口紅を見ながらぼんやり花沢類の事を考えていたら、坂本さんの言葉が耳に入ってきた。


「俺、子供は欲しいんだよね・・・華さんは子供、好き?」


グラスの向こうに見える坂本さんの茶色の瞳・・・淋しそうにしてるのに怖いのは何故かしら。




forget-me-not-1365857__340.jpg
関連記事
Posted by

Comments 2

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/03/15 (Fri) 07:02 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんにちは。

道明寺も坂本さんも何を考えているんでしょうね💦
両方怖い感じになってきましたが(笑)

うんうん、つくしちゃん狙われております・・・早く類君に守ってもらわないと!

中編的なお話しですからこれから動いて行きます~!待っててくださいね♥

私は花粉症ではないのですが、旦那と娘は花粉症です。
旦那は鼻水で、娘は目に来るみたい。
この季節は1人元気なので逆に申し訳ないぐらいです・・・。

こればっかりは花粉が治まらないとね~💦
辛いでしょうけど頑張ってくださいね!!

2019/03/15 (Fri) 18:24 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply