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「それでは明日から夕方4時間、頑張りますので宜しくお願いします!」

「はいはい、こちらこそ。火曜、木曜の夕方と土曜日は午後から夕方までって・・・大丈夫?うちは嬉しいけど大学生の土曜日は忙しいんじゃないの?デートとか困らないの?」

「・・・あはは!相手がいませんので」


一晩寝たら熱も下がったからバイト探しを始めた。
運良くアパート近くの喫茶店でウエイトレス募集の張り紙を見つけて、その足でお店に駆け込んで申し込んだ。

大学に通ってる間はアパートの家賃負担を花沢が持ってくれるから生活費だけが自分持ち。
この喫茶店のバイト代だけでも何とか暮らしていけそうだったけど、1人の時間を持ちたくないからすぐに他のバイトも探して歩いた。

結局月曜、水曜、金曜にはスーパーのレジ係をする事になり、日曜だけは決められなかった。
まぁ、週に1日ぐらいは勉強するか、って事でそれ以外の自分の時間を全てアルバイトで埋め尽くした。


熱を出したあとだったからかもしれないけど、一日中バイト探しで歩きまわったら夕方アパートに戻った時にはクタクタだった。
だから料理をサボるために買ってしまったコンビニ弁当ももう少し後じゃなきゃ食べる気にもならない。

荷物を全部部屋の真ん中に放り投げて、ボスン!とベッドに飛び込んだら何かが身体の下に当って痛かった!

「えっ?なに・・・なにか潰した?」

急いでお布団を捲ってみたら、そこにあったのはスマホ・・・そう言えばまだ沖縄に来てから電源すら入れてなかった。
でも、よく考えたらバイトの連絡先がこのスマホだから電源ぐらいは入れておかないといけないよね・・・。


電源を入れたらこれまでに類がどれだけ私を探したかがわかってしまう。
しかも何処を見ても類の写真が入ってるからそれを見るのも辛い・・・だけど、いつまでも電源落としたままにはしておけない。

暫く真っ暗な画面を見て悩んだけど、思い切って電源を入れた。



そこに映った壁紙の画像はパリのアパルトマンのお庭。

それを見た瞬間、涙が出た。
そして同時に示された着信の件数・・・アプリを開いたときのメッセージの未読数。


全部見る事が出来ずにスマホケースのカバーを閉じた。
そして数時間後、このスマホが鳴ることが怖くてやっぱり電源を落とした。



**



大学の編入試験は難しくもなくて、終わった途端に「問題ないようですね」と試験官に言われた。
まだ答え合わせなんてしてもないのに・・・そうは思ったけど、ここで不合格を言い渡されても困るから礼だけ言って教室を出た。

講義は明日から・・・だから今日は校内を散歩をする事にした。



ここの大学に入るために渡された書類の中には花沢家からの・・・お父様からの注意書きのようなメモがあった。


『大学内では目立つような行動、イベント参加、部活動等はしない事
花沢家、及び花沢物産の名前を口にしない事
この大学に編入した経緯については誰にも話さない事』



・・・何処まで私を彼から離せば気が済むのかとムッとしてそんなメモは捨ててしまった。

騒がなきゃいいんでしょ?部活動なんて元々しないもん、バイトしないといけないし。
花沢なんて口にしないわよ・・・思い出して辛いのは私じゃないの。
この大学に来た理由?・・・心が寒いからせめて暖かい土地に来たかったのよ・・・それだけよ。


キャンパスマップのようなものはもらったけど、目的地もないんだから適当に歩いていた。何処に何があるかなんて特に知りたくもないし興味も湧かない・・・学食はこの前聞いたからそれだけで充分。
こんなに意欲が湧かないのに大学に行く意味なんてあるんだろうかって思うぐらい気分は乗らなかった。

それでもブラブラ歩いていたら、何処かからピアノの音が聞こえてきた。


それに私の耳が反応した・・・それが「きらきら星」だったから。


この大学には音楽科はなかったから、弾くとしたら教育学部の幼児教育学科かもしれない。私の足は自然と音が聞こえる方に向かっていた。
ここで今まで開きもしなかったキャンパスマップを見て音楽室を探した。

西棟の3階?・・・西棟が何処かがわからなかったから通りすがりの学生に聞いたら自分のいる場所の目の前がそれだった。


何故かドキドキしながら3階に行くと、ちょうどピアノの授業が終わったのか学生が数人、音楽室から出てきて階段を降りていった。
そして誰もいなくなった教室に入ると、グランドピアノが見えた。


ズキン・・・と手首が疼く。
ピアノを見るとあの時の事が頭を過ぎって痛くもないのにズキズキと感じちゃう・・・。
頭の中にはスプリングソナタやカンパネラが流れる。白鳥の主旋律が・・・類のヴァイオリンが聞こえてくるような気がして胸が詰まった。

あの割れんばかりの拍手と喝采、類が喜んでくれた顔・・・私にまで当ったスポットライト、それが鮮明に思い出されて身体が震える。


でも、触ってみたくてゆっくりとピアノに近づいた。
締めてある蓋をあげると、規則正しく並んだ黒鍵と白鍵がまるで「さぁ、どうぞ」って言ってるような気さえした。


人差し指1本で『ド』の音を押す。
その音が静かな教室に響く・・・何処かからヴァイオリンの音がするんじゃないかと耳を澄ましたけど、勿論そんな音は聞こえなかった。


「弾いても怒られないかな・・・怒られたら止めればいいかな」


私はピアノの前に座り、大きく深呼吸した。
楽譜はないけど指は覚えてる・・・あの日を思い出して目を閉じて、それから初めの1音を響かせた。

きらきら星変奏曲・・・今までで1番楽しかったリサイタルでの私の独奏曲。
軽快にそれを弾いていき、途中の悲し場面も目が回るような早い部分もクリアして、1番苦手な場所が近づいた。

大丈夫・・・だって、あの時出来たもん!って勢いよく弾いていったら今日はあっさりとそこで指は止まってしまった!


「あれ?・・・あっはは!やっぱりここは弾けないんだ?あの時がマグレだったのかなぁ?」


自分でも笑いが出てきてここでピアノの蓋を閉めた。
その時背中側からパチパチパチ!と拍手が聞こえて、振り返ったら数人の女の子が教室を覗いていた。


「あっ!ごめんなさい!勝手に弾いてしまって・・・あの、すぐに出て行きますから!」

荷物を抱えて急いでピアノの側から離れようとすると、その中の1人が慌てて手を振りながら駆け寄ってきた。


「違うんです、違うんです!あんまりにも上手だったから聞いてたんです!こっちこそごめんなさい、急に邪魔しちゃって。もっと弾いてもらいたいぐらい!あなた、何年生?教育学部じゃないよね?」

「は?えぇ、私は明日から編入でここに来るんですけど外国語学部で1年生です。そんなに上手じゃないし、実はこれしか弾けないんですよね、あははは!」

「1年の編入生?だから知らないんだぁ!なーんだ、びっくりした!」


この人達は教育学部の幼児教育学科を専攻している人達で、保育士を目指してると話してくれた。
大学にはピアノを専門に教えてくれる人が1ヶ月に2回、外部から来るだけであとは独学なんだとか。私も同じようなもんだって言ったら驚いていた。

「ねぇ、初めだけでもいいからもう1回!・・・もう1回弾いてくれない?」
「え?きらきら星ですか?あはは、いいですよ」

「嬉しいっ!録音しちゃお」
「えぇっ?それはダメですよぉ!緊張しちゃうから!」

「さっきのも実は美佳ちゃんが録音してるもん。ねぇ?」
「ごめんねぇ!あんまり上手かったから黙って録音しちゃったの」

「えぇ~!そうなんですか?!参ったなぁ・・・間違えて途中で止めたのに。今から弾いても同じ所で止まるかもしれないですよ?」

「それでもいいから」ってみんながスマホを構えるから焦っちゃう。でも、こんな明るい会話も久しぶりだったから、調子に乗ってもう1回きらきら星を演奏した。
案の定同じ所で躓いたからそこで止まっちゃって、それでもみんなは拍手して喜んでくれた。


「これからも時間が出来たらここで弾きなよ。どうせ私たちしか弾かないから自由にして?音楽系のサークルもここにはないから心配しなくていいからね」

「はい、ありがとうございます!」

「つくしちゃんって言うんだっけ?なんかすぐに覚えられちゃうね」
「あはは!よく言われます!」


何日ぶりに笑っただろう。
こうやって少しずつ・・・笑っていく時間は増えるんだろうか。


類は・・・あれから笑っただろうか。




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2018/10/20 (Sat) 00:26 | EDIT | REPLY |   
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2018/10/20 (Sat) 00:40 | EDIT | REPLY |   
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2018/10/20 (Sat) 12:41 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様 こんにちは。

類君が笑える日までもう少し・・・つくしちゃんもまだまだ空元気ですから本当の笑顔になるまでもう少し。

お互いに諦めずに追い求めてほしいものです。
きらきら星・・・2人を照らして下さいね♥って感じですね。

応援コメント、毎回ありがとうございます。

2018/10/20 (Sat) 15:24 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんにちは。

あはは!覚えてますねぇ!ソウイチロウ・・・(笑)
そう言えばあのお話も類ママが協力してましたね!

今度は類パパが面白い話を書かなきゃ!
え?そこはいい?(笑)

微弱電波・・・拾えるかな?
これもタイミングらしいですからね。

今頃類ママが頑張ってるかもよ?ふふふ、お楽しみに!

2018/10/20 (Sat) 15:28 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんにちは。

このきらきら星がどう繋がるか・・・もう少し待っててくださいね。
カウントダウンが始まっています。

早く会えますように・・・♥

類君の諦めない気持ちが南の島に飛んで行くかな?(笑)

2018/10/20 (Sat) 15:32 | EDIT | REPLY |   

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