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またふんわりといい香りが鼻を擽った。

幸せな重みが左側にあるような気がして目を向けると、陽葵がベッドの横に椅子を持ってきて座り、俺の左腕を持ったままそこでクゥクゥ寝息をたてていた。
なんだ・・・何処かに行ったのかと思ったのにこんな所で寝てたのか、そう思って小さな身体を抱き上げて陽葵の部屋に連れて行こうとした。

俺が風邪じゃなかったら一緒に寝てやるけどこんな小さな身体にうつすわけにもいかねぇしな・・・。
もう随分一緒にいたみたいだからもしかしたら・・・だけど。



起こさないようにそっと抱えて廊下に出ると、本邸の方がやけに騒がしい。

あぁ・・・紅葉の茶会の終わる時間か。
そんな時間まで俺は何にもせずに寝込んでたんだな、そう思うと情けなかったが兎に角陽葵を寝かせてやろうと歩き出した。



「あら!総二郎様、陽葵様はもしかしてお父様のところにいらっしゃったのですか?」

そう言って奥の方から走り寄ってきたのは陽葵の世話係の早紀。
慌てて近寄って俺の腕から陽葵を受け取ろうとするから「起こしちゃいけないからこのまま運ぼう・・・」、そう言って差し出された手を断った。


「申し訳ございませんでした。ご自分のお部屋で過ごすと言われましたので、安心して本邸のお手伝いに行ってしまって」

「いや、陽葵もみんなが忙しいからお利口にするんだって自分で言ってたよ。気遣いの出来る子になってるのは早紀のおかげでもあるんだから気にするな」

「いえ、お世話係を言い付かっておりますのに目を離してしまってすみません。若奥様のことが気になりましたもので・・・」

「つくしの?何かあったのか?」

「あら?総二郎様はご存じなかったのですか?」

俺が陽葵を抱えたまま不思議そうな顔を見せたら、早紀は今日の紅葉の茶会の話をしてくれた。



俺が熱を出したせいで空白になってしまう茶席の代行・・・おそらく古弟子の誰かか、大叔父さんがしてくれるものと思っていたが、それをどうやらつくしがやったらしい。
それも朝一番、俺が熱で動けないことを家元に伝えに行った時、自分の口で「代行は私が」と、申し出たんだと。

「でも、あいつは野点も殆どしたことねぇし、俺の客からは睨まれることが多いから揉めたんじゃ・・・」

「はい、お家元もそれを気にされて1度は止められたのですが、若奥様が総二郎様の代わりは私しかおりませんので、と言って譲られなかったそうですわ。それに毎日お稽古をしておりますから総二郎様に近いお茶が点てられますわ、ってニコニコされてました」

「そうか、つくしが・・・」

「お茶席の方も女性の皆様は流石に他に移られましたけど、その他のご年配のお客様には凄く褒めていただけて・・・若奥様も嬉しそうにしておいででしたわ。それに裏方の総指揮も若奥様でしたから、皆さんキビキビと動かれてとてもスムーズに終わったようです」


稽古より跡取りを、なんて周りから毎日のように言われていたのに。
それなのに俺の代わりを全部引き受けてくれたのか・・・そんなこと、今朝はひと言も俺には言わなかったクセに・・・。

つくしが必死に笑顔を振りまくその下で、震えながら茶を点てる姿を思い浮かべて胸が熱くなった。



陽葵を小さなベッドに寝かせると、1度「うう~ん・・・」と背伸びをしたけどすぐに布団を抱き締めるようにして目を閉じた。
しばらくその寝息を聞いてから自分の部屋に戻ろうとまた廊下に出たとき、今度は庭師の前田さんが中庭を通った。

「おや、総二郎様、具合はいかがですか?」

「・・・まだ少しふらつくけど明日には治るだろ。心配かけたな」

「それは良かった。お土産が効きましたかな?」

「土産?誰の?」

「ははっ、陽葵様ですよ」


今度は前田さんがおかしなことを言う・・・陽葵が土産?何処にも行ってねぇのに土産なんか・・・そう思ってここでも不思議な顔をしたらタオルで顔を拭きながら昼過ぎの出来事を話してくれた。


**


『お庭のおじちゃん、おねがいがありましゅ』

『は?陽葵様、どうされたんですか?私にお願いですか?何だろう・・・ははは、私に出来ることですか?』

『あい!おじちゃんにできることでしゅ。とっと、こっちに来てくだしゃい!』

陽葵は前田さんの手を持って、東側の裏庭に引っ張って行ったそうだ。
そこで銀木犀を一枝、花が沢山ついてるものを取って欲しいと頼んだらしい。前田さんは茶花にも使わないからいいだろうと思って、花がよく咲いている一枝をハサミで切り、陽葵に持たせた。

『陽葵様、これをどうするんですか?お茶室には持って行ってはいけませんよ?』

『・・・しってましゅ。きんか(禁花)っていうでしゅよ?母ちゃまが言ってまちた』

『あはは、そりゃ失礼しました。自分のお部屋に飾るんですか?じゃあもう少し切りましょうか?』

『ううん、これでいいんでしゅ。これは母ちゃまでしゅから、ひとちゅがいいんでしゅ』

『は?これが若奥様?はぁ・・・またなんで?』


『・・・ききたいでしゅか?』


**


「銀木犀が・・・つくし?」

「はい。総二郎様を目の前にして言うのもなんですがね・・・昔、若奥様がこちらに遊びに来られたときに総二郎様は金木犀より銀木犀の方が好きだと言われたそうですなぁ。それに花言葉を伝えられたとか・・・若奥様はその時に総二郎様に恋をしてしまったんだと陽葵様にお話しになったんだそうですよ」

「花言葉・・・あぁ、そう言えば話したな」

「若奥様は陽葵様に言われたそうですよ・・・それがね・・・」


その言葉を聞いて俺は前田さんの前なのに気恥ずかしくて顔が熱くなった。
それは熱のせいにしてしまおう・・・バレてる気はしたけど「寒気がするから」なんて言って、頭を押さえながら自分の部屋に戻った。



「あら!総二郎、起きてて大丈夫なの?熱は下がったの?」

ちょうど部屋のドアを開けようとしたら後ろから声をかけてきたのは俺の「木犀花」・・・さっきまで大変だったことなんか感じさせない笑顔で走り寄ってきた。
そしてすぐに額に手を当てて「熱いじゃないの!早く寝なさい!」ってまるで子供に言うみたいに怒鳴られた。


「大丈夫だって・・・明日には熱も引くから」
「そんな事言って!目を離すとすぐにウロウロして困った人ね!・・・あら、この香り・・・」

「くくっ・・・お前がずっと傍にいたんだよ」
「え?何のこと?」



柔らかい風に乗って木犀花の香りが俺に届く。
目を閉じると小さなつくしがそいつを持って走ってくるような気がする・・・それは未来の夢だろうか。



『母ちゃまはね、この白いおはなのようにやさしく咲いて、ずーっと父ちゃまのおとなりにいるのがゆめなんでしゅ。
はちゅこいはちがう人だったでしゅけど、しゃいごのこいは父ちゃまなんでしゅって!・・・しゅてきでしょ?こいってわかりましゅか?だいしゅきってことでしゅよ』




その次の年、俺とつくしには念願の男の子が生まれた。
木犀花が香りを放つ10月のこと。





終わり




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総ちゃんのお話、ほんわかしていただけましたか?
次は類君のお話です。お楽しみに♥
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Comments 6

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2018/10/14 (Sun) 13:06 | EDIT | REPLY |   
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2018/10/14 (Sun) 16:55 | EDIT | REPLY |   
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2018/10/14 (Sun) 17:40 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: こんにちは!

えみりん様、こんばんは!

あっはは!今朝のコメントと同じ方とは思えない内容でしたね(笑)
めっちゃ笑いました!

あっ!この名前、そうでしたね!
親近感わきました?ふふふ、よかった♥

・・・でも、なんで彼がはちゅこい?それはちょっと・・・せめて「役立たず」にしてもらえませんか?


そうですねぇ、また陽葵ちゃんに会いたくなったら書くかも?(笑)
たまには可愛いお話も書かないと・・・ね!

2018/10/14 (Sun) 18:05 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは!

ほほほ!これを読んだ後に向こうを読んだら同じ総ちゃんとは思えないでしょ?(笑)

オカルト書いただけに早いうちにイメージアップしておかないとっ!って必死に可愛くしてみました♥

ふふふ。今の時期に産まれると言うことは・・・つくしちゃんのお誕生日にでも頑張ったんですかね?♥
いやいや、可愛いお話にわざわざそんなことを考えなくてもいいか!

小さい子供を書くと何故かほんわかしますよね~。
童話作家ですからねぇ~♥

(るいかさんには『オトナの童話ですか?』って言われてショックだった💦)

2018/10/14 (Sun) 21:08 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

mizutama様 こんばんは。

おぉっ!総ちゃんのお話なのに(笑)
ありがとうございます♥とっても嬉しいです!

あはは!グラッとしました?ふふふ、陽葵ちゃん効果だな・・・(笑)
でも、赤ちゃん言葉が苦手なのでよくわかんないんです(笑)
空色様が上手なのでお勉強させていただきました。


次は類君ですよ~♥
今回は秋のチビちゃんシリーズですのでお楽しみに~。

2018/10/14 (Sun) 23:31 | EDIT | REPLY |   

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