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「ありがとうございましたぁ・・・」

カランカランとドアベルの音を響かせて4人組みは帰っていった。

あのあとはもう美作さんの名前も西門さんの名前も出なくて、でもずっと東京の話をしていた。
学園祭の話だとか今年のクリスマスはどうする、とか・・・聞き耳を立てたわけじゃないけど狭い店内だから少しは内容がわかっちゃう。

この中の2人には彼がいるらしくて楽しそうにこれからの予定を話していた。
残りの2人も「年内には彼氏が欲しい!」なんて笑ってて・・・そうやって恋人を探せるだけでも羨ましいと思った。

恋しい人はいても・・・引き離されたんだもん。


いいなぁ、あの人達は東京に帰れるんだね・・・そんな風に後ろ姿を見送った。



「牧野さんって東京の人なの?もしかして失恋でもしてこんな遠いところに来たの?」
「・・・え?」


店長さんがそんなことを聞いてきた。

今、店内に残ってるお客さんは1番奥の2人連れだけ・・・カウンターに入って洗い物をしようとしたら隣に来て、ちょっとだけ悲しそうに笑った。
「ははは、わかります?」なんて軽く返事したけど、目が赤くなったのは見逃さなかったみたい。

「さっきのお客さんが東京の話をしたから懐かしくなったんですよ。今頃どうしてるかなぁって・・・はは、まだまだ時間が必要ですね・・・なかなか忘れることなんて出来ないもんですね」

「ふふふ、私もそうなの。私は福岡からここに逃げたの・・・っていうか、彼が沖縄の人でね、追いかけて来たんだけど実は奥さんがいたの」

「えっ!酷い・・・それなのに福岡に帰らなかったんですか?」

「うん・・・彼がこの島にいるんだと思うと帰れなかったの。でも、今は思い出に変わっちゃったわ・・・25年もかかったけど。
彼は今でも那覇に奥さんと住んでるけどたまにここに来てくれるの。もう男と女の関係じゃないけどさ、友達として会ってるのよ」


いろんな恋があるんだなぁ・・・私の知らない恋の形。
私なんて初めての恋だから、これが一生続く恋だと思っていたから・・・立ち止まったら動けないのかなぁ。

そのうち心も動き出して、類じゃない方向に向くのかな・・・。


「店長は・・・今は幸せですか?後悔してないですか?」

「ん?そうねぇ・・・後悔しなかったって聞かれたら上手く言えないけど、彼を追いかけてここまで来たことは正解だったと思うことにしてるの。こうやってお店を持って楽しくやってるし、彼の家庭も壊さなかった・・・辛いこともあったけど今は幸せかもね」

「・・・別れた、としてもですか?」

「自分に嘘をつかなかったから・・・彼には嘘をつかれたけどね!でも、私のことは本気で好きだったって・・・離婚も考えてくれたんだって。それを聞いたとき、彼を怒鳴って殴ったのよ。泣くのは私だけで充分だってね・・・ふふっ、格好いいでしょ?」

「・・・くすっ、そうですね」


自分に嘘をつかない・・・今の私は大嘘つきだ。



***************



花沢に戻ると誰にも言葉をかけずに母さんの部屋に向かった。

ノックも忘れて荒々しくドアを開けると呆れたような顔で母さんが俺の事を睨んだけど、そんな事に構っていられなくて側まで走り寄った。


「ごめん、母さん、何かわかったんですか?!」
「・・・困った子ねぇ!牧野さんの事になると人が変わったみたいになるのね。いいから座って」

窘められてそこのソファーに座らされると、母さんは俺の対面じゃなく、横に座った。
そしてパソコンをテーブルに置き、何かのファイルを開き始めた。

画面上に映し出されているのは花沢物産とは無関係の父さんの個人資産・・・預金の流れを示すものだった。


「色々探ったんだけどやはり会社の資金で何かをしている風ではなかったから悪いとは思ったんだけどお父様の個人資産を覗かせてもらったの」

「そんな事出来るんですか?セキュリティパスワードがあるでしょう?知ってるんですか?」

「まさか!お父様は慎重な人ですもの。ここにあるものは完全なお父様の個人預金よ。私にでもそんなもの教えてくださらないわ」

「じゃあどうして・・・?」そう聞くと「後で教えてあげるわ」と言って笑っていた。
少し気にはなったけど、それよりも母さんが俺に教えたいことは何か・・・そっちの方に意識がいってこの件は頭から消えてしまった。

母さんが指で指し示したところ・・・牧野がいなくなった日より少し前から色んなところに金が流れてる。それは小さな金額から1000万という金額まで色々だった。


その1000万円の振込先、母さんはこれが牧野の行き先に関係してるんじゃないかと話してくれた。

「見てご覧なさい・・・ある大学に寄付をしてるの。こんな時期におかしいわ。それにこの大学を調べたけど花沢とは何にも拘わっていないのよ。だからもしかしてと思って花沢の名前は出さずに牧野さんの在籍確認をしたけど『そんな生徒はいない』って即答だったの」

「調べもしないでそんな答えが?」

「そう。保留さえせずにその場で答えたの。だからそうじゃないかと思ったのよ・・・この寄付金は牧野さんの存在を卒業まで隠す代わりに送金したんじゃないかしら」

それ以外にも約500万の送金・・・調べたらこれはこの大学の卒業までの学費に相当するという。もうひとつ高額なのは花沢の子会社の不動産関連会社に250万。
これも母さんが表立って調べるわけにもいかないけど送金先が九州・沖縄を担当する部門だと言うところまでは確認したらしい。


「もし、これが牧野さんの住まいに関係しているのなら・・・どう思う?この金額。大学の寄付をした次の日よ?立て続けにこんなこと、なんのためにするかって考えたら・・・」

「マンションを買うにしては安すぎますね。それに購入となると名義の問題がありますから考えにくい・・・普通のアパートの数年分の家賃と考えれば地方なら納得です」

「そうね・・・でも、これ以上私が動くとお父様に気が付かれてしまうわ。それにお父様が不審に思ってネットバンキングのログイン履歴を調べたらいけないから今回類に見せたらもう終わりにしようと思うの」

「そうですね、母さんまで父さんの逆鱗に触れると後が大変ですよ」

「ふふっ・・・それは大丈夫だけどね」

意味ありげに母さんは笑いながらこの画面を閉じた。


そして今度は送金された大学のホームページを開いて見せてくれた。
むしろ俺はその画面に映った大学の背景・・・如何にも南国を感じさせるトップ画面に驚いた。


「ここ・・・沖縄?もしかして名護市ですか?!」
「えぇ、そうみたいね。どうかしたの?あなた、名護に行ったことがあったかしら?」

「さっきあきらから聞いたばかりなんだ、牧野のスマホの電波が名護でキャッチされたって!」
「えっ?!じゃあやっぱり牧野さんはここにいるんじゃないかしら!」


母さんと2人、そのN大学のホームページを食い入るように見つめた。
外国語学部がある・・・あとは看護福祉学部や文学部、経済学部、環境学部・・・そして教育学部。
それらのページを1つずつ確認していたら最後に開いた教育学部に学生のブログのようなものがあってピアノが映った。

本当に何の気なく・・・ピアノが映っただけで牧野を思い出してそのブログをクリックした。


「・・・類、これ・・・!」

「うそ・・・ホントに?」


その学生ブログの最新記事のタイトルは『きらきら星が降ってきました!』というもの。
そしてそこに映っているのはピアノを楽しそうに弾いている牧野の姿だった。

「ねっ、これ、これ・・・動画じゃないの?る、類!再生して、早く!」
「母さんこそ落ち着いてください、すぐに再生しますから」

動画再生を押したら数秒後に画面が切り替わり牧野の顔が映った。これは隠し撮りだろうか・・・撮っている子が小さな声で『知らない女の子がピアノに座ってます・・・』なんて吹き込んでる。
そして大きく深呼吸した牧野が元気よく「きらきら星」を弾き始めた。

間違いなく牧野の演奏・・・少しだけ跳ねっ返りのクセのある音で、でも楽しくて転がるような音。
母さんと瞬きも忘れてそれを見ながら、俺の心臓はあの日を思いだしてドキドキしていた。

可愛らしいリサイタルドレスに身を包んで、高熱の中俺のためにピアノ伴奏してくれて、もう体力もないのにこの「きらきら星変奏曲」を最後まで弾いた後に倒れて・・・あの時の彼女の姿をこの映像と重ねてしまった。


もうすぐ牧野の苦手なところだ・・・まさか止まっちゃう?

そう思ったとき、やっぱりいつものところで躓いて牧野は演奏を止めた。そして苦笑いしながら画面の中の彼女はピアノの蓋を閉めた。

「あれ?・・・あっはは!やっぱりここは弾けないんだ?あの時がマグレだったのかなぁ?」



牧野の声・・・何日間も聞いてない牧野の声がパソコンから聞こえてきた。



見つけた・・・!
ほらね、ちゃんと俺、見つけたよ。

牧野、今から迎えに行くよ。


母さんが泣きながら俺に抱きついてきて「良かった・・・」、そう言ってくれた。




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2018/10/22 (Mon) 00:38 | EDIT | REPLY |   
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2018/10/22 (Mon) 05:45 | EDIT | REPLY |   
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2018/10/22 (Mon) 06:34 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんにちは。

ふふふ、インスタじゃないけど(笑)
私もたまに子供の学校の生徒ブログ見てるんですよ。

大抵とんでもないところが載ってるんですけどね。
あぁ、元気にしてるんだなぁって笑いながら見てます。

ちょっと見つけるの早かったかな?ははは!


それではお迎えに行ってきまーす!!って、すぐに会えるんだろうか?(笑)

2018/10/22 (Mon) 11:21 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんにちは!

はい、見つけちゃいました♥
些か強引ではありますが・・・ははは、笑って許していただきたいと思います。

もうすぐ再会・・・どんな再会かお楽しみに♥

いつもコメントありがとうございます。

2018/10/22 (Mon) 11:23 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: ありがとう

お名前がなかったのでこのまま書かせていただきますね。

そうですねぇ、ずっと一緒にいて欲しいですよね(引き離した本人だけど)
それがいちばん幸せなんだとつくしちゃん、気が付いてくれればいいですけど。


ご心配を抱えていらっしゃるのですね。
どうぞお母様もお身体を大切になさってくださいね。助けてくれるものは全て利用して無理をなさらないように。

私のようなお話でよければいつでも・・・癒やされるものがあれば遊びに来て下さいね♥
(たまにとんでもないものがあるので要注意ですが💦)

2018/10/22 (Mon) 11:32 | EDIT | REPLY |   
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2018/10/30 (Tue) 13:43 | EDIT | REPLY |   

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