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「それじゃ行ってきます。母さん、色々ありがとう・・・助かりました」

空港に行くために花沢の車に乗り込んで、窓を開けて母さんと言葉を交わした。
まだ目元が赤い・・・母さんは車の真横まで来て「本当に良かった」を繰り返し、その後ろにいる加代まで貰い泣きしていた。


「類、必ず牧野さんを連れて帰ってね。何も心配しなくていいからって」
「はい、必ず」

「見つけたらすぐに教えてね?待ってるから」
「くすっ、わかっていますよ」

「今から行ったら夕方かしら?類、いきなり怒鳴ったりしちゃダメよ?辛いのはあなたじゃないんだから」
「そんなことはしませんって。意外と心配性なんだ、母さん」

「何言ってるの!相手は女の子よ?心配よ・・・」


母さんが中々ドアから離れないから車が出せない。そろそろ行かないとって言うとようやく後ろに下がった。
でも、ここでさっきのセキュリティパスワードのことを思いだして俺の方から声をかけた。

「そう言えば父さんのパスワード、どういう意味だったんです?」
「あぁ・・・うふふ、それはね・・・」


今度は嬉しそうに俺のところに寄ってきてそっと耳元で教えてくれた。それに驚いて母さんの目を見ると「ホントよ!」って笑っていた。
母さんは1度も間違えずにそのパスワードを当てたのだと自慢気に、そして小さく手を振って「行ってらっしゃい」と言われた。


父さんのパスワード・・・それは『RuiXXXX0330』

そんなに簡単なものでいいのかと思うぐらい簡単な・・・俺の名前と誕生日だった。



羽田空港に着いたら牧野が通ったと思われるポスト前を通過して、沖縄行きが飛び立つゲートに向かった。

この通路をどういう気分で歩いたんだろう。
たった1人で知らない土地に行く・・・クレモナに行くときだって不安でいっぱいで、でも2人だったからしっかり手を繋いで行ったのに。

今度は荷物だけ握り締めて向かったんだろうね。
その1歩が重くて辛くて・・・寂しくて泣きたかっただろうと思うと胸が詰まった。


そして今から1番早い便のチケットを取って、俺も1人で知らない土地に・・・牧野が待ってる沖縄に向かった。



***



沖縄に着いたらすぐにレンタカーを借りて名護に向かった。

名護までは那覇空港から約1時間半、牧野がいるはずの大学まで2時間。
気持ちだけが焦って全然進まない気がする。車は凄いスピードを出してるのに景色が流れていないように感じてイライラした。


そして終点の許田インターチェンジについたのはもう夕方・・・思っていたより結構大きな街だ。

急いでナビで大学を調べてそこに向かった。

もしかしたらもう帰ってるかもしれない。牧野の事だからバイトを始めてるかも・・・彼女の性格からして自分の生活費だけは援助されたくないだろうから。
たとえ父さんが金額を提示したとしても、それだけは拒否したはずだ。それが牧野のプライドだから。


N大学を見つけてキャンパス内に車を入れた。
確かにネットで見たホームページの風景がそこには広がっていた。


ここに牧野がいる、そう思ったら心臓がドキドキし始めた。
やっと会えるかもしれない、自分の耳であの声を聞けるかもしれない、俺を見たときの牧野の顔は・・・そう考えたら口元が緩んだ。

でも、もう学生は疎らで空も薄暗くなってる。
それでもキャンパスに入って牧野を探していると何処かからピアノが聞こえてきた。


でも、これは牧野の音じゃない。
弾いているのは牧野じゃない・・・そう思ったけど、その教室を探して歩いた。

学生を掴まえてピアノのある教室を聞き、そこに向かうと窓越しに見つけたのは数人の女子学生。
その子達がワイワイと楽しそうにピアノの練習をしている部屋で、それはパソコンの中で牧野がピアノを弾いていた教室に似ている気がした。


ガラッとドアをあけて中に入ると弾いていた子は手を止めて、そこに居た数人が一斉に俺を見た。
キョトンとした顔で、見慣れない男が入ってきたから驚いてる。

「ごめん、練習中なのに。君達は教育学部?今、大学のホームページの学生ブログでピアノ弾いてる子のことで聞きたいんだけど誰か知ってる?」

俺の質問に全員が目を合わせ、その中の1人が答えてくれた。


「あぁ、つくしちゃんですか?外国語学部の子でしょう?」

「・・・知ってるの?!」


「はい。たまにここでピアノ弾いてますよ。いつもあの曲だけど」
「あれ、凄かったよねぇ!練習しようとして教室に戻ったらつくしちゃんが1人で教室にいてさ」

「そうそう!誰かと思って見てたら急にピアノ弾き始めたんだよね」
「美佳ちゃん、よくこの動画撮ってたよねぇ!」

「その後も撮ったけど照れちゃってよく間違ってさ、みんなで大笑いしたよね」


やっと聞けた『つくし』の名前にホッとした。
この子達は牧野の笑顔を知ってるんだと思うと、居場所に辿り着いた事もあって安心して、また大きく1つ深呼吸をした。


「あのさ、その子の住所知ってる?」

今度は全員から笑顔が消えた。

そして誰も知らないようで首を横に振られた。
おそらく自分の住所も口外しないようにと言われているんだろう、この中の誰も牧野の私生活については1度も聞いたことがないと言った。

「つくしちゃん、急に編入してきたから理由とか何処から来たのかとか聞いたんです。でもニコニコしてるだけで『内緒!』って教えてくれないの」
「うん、でも嫌みな感じもないし明るいし、特に気取ったところもないから何か事情があるんだろうなぁ、とは思ってたんですけど」


「バイト、してないかな」

「アルバイト?どうだろう・・・でもサークルには入ることが出来ないからってすぐに帰ってるはずです。アルバイトする時間はありそうですよ?」
「ここに来た時もさ、ご飯に誘ったらお金がないからって断わられたもんね」


誰とも深く接したらいけないと言われたの?
そんな事一生続けられないのに?

自分だけ隠れたら俺が幸せになれると思ったの?
俺の幸せはあんたの横だってあれだけ言ったのに・・・ホントにお人好し、そして馬鹿だよ、あんた。


彼女たちに礼を言って別れて、今日は名護にホテルを取った。
明日、必ず牧野を見つけよう・・・そう思って大学を後にした。



*************



「はぁ~!疲れたぁ!うわっ、もうこんなに星が・・・早く帰ろうっと」

スーパーを出たのは夜の9時過ぎ。
東京と違って街の灯りが少ないから今日も星空を眺めながらアパートに向かって歩いていた。


きらきら光る お空の星よ ♪
瞬きしては みんなを見てる♪
きらきら光る お空の星よ ♪・・・

そんな歌を口ずさんで小さな鞄をブラブラ振って。


「これってフランス語では恋の歌なのよ。そう言えば少し覚えたっけ・・・えっと、確か・・・」

♪Ah! vous dirai-je Maman,Ce qui cause mon tourment.
Depuis que j'ai vu Sylvandre Me regarder d'un œil tendre,
Mon cœur dit à chaque instant, Peut-on vivre sans amant ? ♪

(あぁ、私 ママに言うわ。私の悩みの理由をね
シルヴァンドル(森の精霊)に出会ってから彼は優しい目で私を見るの
そのたびに私の心は言うの。人は恋人なしに生きられるものなのかと)


「恋人なしで生きていけるのか・・・かぁ。キツいなぁ、この歌詞!」


また星がぼやけて見えなくなる。
手の甲で目元をゴシゴシしながら暗い道を歩いて帰った。




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Comments 8

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2018/10/23 (Tue) 02:09 | EDIT | REPLY |   
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2018/10/23 (Tue) 07:08 | EDIT | REPLY |   
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2018/10/23 (Tue) 09:12 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

Aria様、こんにちは!

はい♥多分・・・逃げないと思います(笑)
話数から考えてもうそろそろ終わらないと・・・ねぇ💦


きらきら星はフランスで生まれた曲ですが、何故かフランス以外では「きらきら星」、フランスでは「恋の歌」なんですって。
お話を書くといろんなことを調べちゃうから変な知識が増えますよね(笑)

誰にも自慢できない「雑学」です・・・ははは!

毎度、読み逃げでごめんなさい💦Aria様も頑張ってくださいね~!

2018/10/23 (Tue) 11:31 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんにちは♥

ふふふ、ちゃんとした再会まであと少し・・・どうやって再会するか待っててくださいね。
本当はもう少し焦らしたかったんですが(笑)

類パパ・・・不器用なんです。頑固で意地っ張りで素直じゃない・・・確かに子供みたいですね(笑)
(実はこれ、私の義父がモデルです)

いつか類君とも普通の会話が出来るようになればいいんですけどね。
それはまたいつかのお話で・・・。

2018/10/23 (Tue) 11:36 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんにちは。

さとぴょん様、なんちゃらって表現(笑)よくあるよね。
笑ってしまったわ。

妄想なしでは?・・・その妄想にも「種類」があるんでしょうね・・・。
(何度も言うけどプロを探してください💦)

もうすぐ再会・・・♥

でも、もうこのお話にはないからね?(笑)

2018/10/23 (Tue) 11:39 | EDIT | REPLY |   
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2018/10/25 (Thu) 09:45 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは。

違いますって・・・苦手なんですって(笑)
1回書いたら1ヶ月は空けないと次は無理なんだって。

いや、お言葉はとっても嬉しいんですけどね(笑)


確かに何回も言ったような気がします・・・それでも許してもらえないけど。


で!これにはホントにないからっ!(笑)
あの「雪の結晶」みたいに最後にいきなりヤるんかーい!!ってなるじゃないですか!(笑)

いかんいかん・・・それはいかん!


2018/10/25 (Thu) 17:47 | EDIT | REPLY |   

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