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「おはようございます、専務。ご機嫌はいかがですか?」
「・・・おはよ。いつもと変わんないよ」

「専務、おはようございます。今日のスーツもよくお似合いですわね!」
「・・・ありがと。俺の見立てじゃないけど」

「おはようございます、専務。本日のお昼のご予定は?」
「・・・藤本の隣で食べると思う」



毎朝繰り返されるこの光景・・・何故か俺が出勤するときにはロビーに山ほどいる女子社員。
誰が誰だか名前もわかんないけど、やたら話しかけてくるから5メートル先の床を見ながら返事をするって決めている。

間違って目を合わせたらとんでもないことが起きる・・・今までそれで何度も「彼女」って名乗った社員が現れたんだから。酷いときには数人で取っ組み合いの喧嘩が始まる。
それを止めずに無視したら「裏切るんですの?!」って言われた時は焦ったよね。

裏切る前の「出来事」が何もないんだから。



「おはようございます、専務。今日も遅刻寸前ですね。お待ちしてました」


5メートル先に見えてきた草臥れた革靴・・・俺の秘書の藤本が見えたらようやく顔が上げられる。

藤本透・・・年齢38歳、身長169センチ(自称170センチ)で推定55㎏。
見事な七三分けの真っ黒な髪で黒縁眼鏡。妻が1人(当たり前)で子供はなし。
都営住宅に住んでて軽自動車に乗ってる。普段はバス通勤。性格は真面目でお節介でせっかちで心配性。


新卒で花沢に入社後、総務、経理課を経て現在役員秘書室勤務・・・俺の秘書も今年で3年目。最近は小姑みたいになってきて五月蠅い・・・気が合うのか合わないのか、よくわかんない秘書だ。



「専務・・・今、私の悪口を頭の中で考えていましたね?目を見たらわかるんですけど」

「気持ち悪いこと言わないでよ。別に何も考えないよ、男の事なんて」

「おや?考える女性でも出来ましたか?私の知る限り専務にはまだ出会いはないと思うんですけど」

「・・・余計なお世話だよ!」


役員専用エレベーターで最上階の役員専用フロアにつくと、そこでも受付の女性職員が笑顔で出迎えてくれる。父さんの趣味だろうけど1階受付の女性の制服とは別。
紺と白のマリンルックみたいな制服でパリで仕立てた一流品だそうだ・・・興味ないけど。

毎度母さんはここを無視して歩くし彼女たちも座ったままだけど、父さんか俺が来ると立ち上がって挨拶するのが慣習。
誰の指示だろうって初めは悩んだけど、今となっては気にならない。

「おはようございます、専務」
「おはよう」

「始業時刻と同時に海外事業部の佐々木部長がお越しになりましたわ。後で内線をお願いできますか?空いている時間に見ていただきたい資料があるそうですわ」
「・・・佐々木部長ね、了解」


「もう5分、早く出社いただくと助かります、専務」
「藤本が出迎えずにここにいたら良かったんじゃないの?」

「・・・人のせいですか」


こんな会話はいつものこと。
専務室に入ったら藤本が今日のスケジュールを確認する事から始まる。


「本日のスケジュールですが10時までにこちらの書類に目を通していただいて必要箇所にサインしてください。10時になりましたらテレビ会議、会議も重要ですが聞きながらで結構ですのでメールの確認してくださいね。
午後からはすぐにプレゼンに出席していただき、3時になりましたら白川産業の町田部長がいらっしゃるので打ち合わせしていただき、4時になりましたらフランスとのテレビ会議、それが終了しましたら合田商事が今度の新商品のサンプルを持ってきてますのでご確認を。以上です」

「ごめん、その時間にもう1回言ってもらえる?・・・覚えられない」

「毎朝同じ事を言われますね。朝が弱いのは知ってますがそろそろ気合いを入れていただけますか?まずは佐々木部長に内線を」

「あぁ・・・もう忘れてた」


毎日あんな朝なのに気合いが入るわけないじゃない。
ここまで辿り着いただけでも褒めて欲しいよ・・・。

それでも藤本の言う事に従って1日のスケジュールを終わらせた。


書類は内容も殆ど読まずに付箋を付けられた箇所にサインして、10時からのテレビ会議は半分ぐらい夢の世界にいた。
おかげでメールのチェックは出来ずに昼食を取りながらする羽目になった。

午後のプレゼンも人とは違うページを見てたからさりげなく注意され、白川産業の町田部長からは娘の話を聞かされた。
目が覚めてきた4時からはフランスとのテレビ会議を唯一真面目に聞いて、ラストの合田商事のサンプルは机の上に転がした。


はぁ、今日も疲れた・・・。


**


「それじゃ藤本、お疲れ様」
「お疲れ様でした。専務、明日も忙しいですから遅刻しないようにしてくださいね」

「・・・した事ないじゃん」
「いつしてもおかしくない状態ですので」


そんな藤本のひと言にムッとしながら役員フロアを後にして・・・車に向かおうとしたけど向きを変えた。

何処かで食事して帰ろう、何となくそう思ったから。


どうせ帰ってもまた朝の続きを見るだけだし、自室にいても本を読むかテレビを見るかでする事なんて何もないし。
それならたまに行くレストランでぼーっとするものいいかも。

俺がこんな気分の時に利用するのは、オフィスビルが建ち並ぶ場所の狭い通路にある隠れ家的なレストラン。
おじさんが1人でやってる小さな店で、カウンターの1番奥の端が指定席・・・いちいち干渉しないし、いつも穏やかで物静かで、この店内の落ち着いた雰囲気が好きだったから。

メニューも見なくて「おすすめで・・・軽めでいいよ」って言えば「今日はイタリアンです」と、それだけ答えて用意してくれる。
この「おすすめで」と「ご馳走様」しかこの店では言葉を出さないんだけど、それでも俺が顔を出すと嬉しそうに笑ってくれるからホッとする。数少ない俺の癒やしの場所だった。


RIN・・・♪

スマホにメッセージが入ったことを知らせる音・・・誰だろうと思って開いてみた。

『はい!類、久しぶりね。元気してる?来月、1度日本に帰国するんだけど・・・』


フランス在住の2つ年上の幼馴染みからのメッセージ。
それを見てもドキドキなんてしなかった。
感情の読み取れない文字を目で追って、最後まで読んだけど俺からの返事は『了解。その時に会おうね』、それだけ。

メッセージを送り返したらすぐにポケットにしまって、出された軽食を食べて珈琲を一杯・・・全部で30分ぐらいしかかからなかった。


「ご馳走様・・・」

「いつもありがとうございます。少しお疲れのご様子ですね。気をつけてお帰りくださいね」

「・・・ありがとう」


いつもは言われないひと言・・・俺、そんなに草臥れて見えるのかな。
仕事疲れじゃないんだけど、って思いながら会社の地下駐車場に向かって歩いていた。



その時、何処かから女性の声が聞こえた。


「助けてぇ!誰か、誰か助けてぇ!!」


随分遠くから?誰か助けてって言った?

気のせい・・・?


ヤだぁ!来ないでぇ!!誰か助けてぇーっ!!」


あれ・・・もしかして後ろから?
声が後ろから聞こえてきたような気がして振り向いたら、女の子が1人、猛スピードで走ってきた。

髪を振り乱して必死の形相・・・うそっ!すごく早いんだけど!
って、助けて?助けてってなに?まさか・・・俺?!

よく見たら女の子の後ろから大男が2人、そいつらもすごい速さで追いかけてるみたいだった。あんな男が2人掛かりで1人の女の子を?って驚いて立ち止まってしまった。
俺の周りの人達もその声のする方を振り返る。注目を浴びてる3人だったけど、どういうわけか真っ直ぐ俺に向かって走って来るような気がした。


「きゃああぁーっ!そこの人ーっ!そこの人、お願い!助けてっ!」
「・・・え?やっぱり俺の事?」

「いいからお願い!!この人達をどうにかしてぇ!」
「えぇっ?!」


「待てーっ!待たねぇか、この野郎ーっ!!」


どうにかしてって・・・どうすんのさ!!
まさかこの俺がこいつらと闘うの?この見ず知らずの女の子のために?!


そう言いながら俺の胸に飛び込んで来た彼女を慌てて抱き留めた。
会社帰りの人が大勢行き交うオフィス街の大通り・・・そのド真ん中での出来事だった。





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2018/11/02 (Fri) 06:51 | EDIT | REPLY |   
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2018/11/02 (Fri) 08:40 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様 こんにちは。

あっはは!投げ遣りな類君(笑)
いやいや、お仕事が出来ないもう1人の悩んでる「花沢専務」とは違って、こちらは仕事は出来るんですよ。
多分、朝っぱらからご両親を見てゲンナリしてたんじゃないでしょうかね?

つくしちゃんに起きた悲劇は明日ですね♥

出会ってないので話が交互でわかりにくいですよね、ごめんなさい💦



寒くなってきましたねぇ。
私は冬の方が好きなので今の所快適なのですが、インフル貰うのが上手みたいなので気をつけます!
お気遣いいただきましてありがとうございます♥

2018/11/02 (Fri) 11:41 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さゆ様、こんにちは。

大丈夫ですか?絆創膏でいい感じ?それとも病院かしら・・・。
切れすぎる包丁って怖いですもんね。この際旦那様に家事を変わってもらって・・・(笑)

私も手に沢山の傷があります。
美術やってたんで彫刻刀なんですけど、先輩に声かけられて「はい!」って答えた瞬間、彫刻刀がズルッと滑って指の中に・・・。
これが今までで1番痛かった手の怪我です(笑)

あと、子供がバレエしてるんですけど、トウシューズの底を削って加工したりするんです。で、底が固かったので手伝ってたんですよ。子供が不器用だったんで(笑)

たまたまそのメーカーは釘を使って留めていたらしく、知らなくて「えいっ!」って力を入れてトウシューズの底を剥ごうとしたら釘が掌に・・・。

今でも凄い傷跡です。とほほ・・・。


ああっ、類君ね(笑)
そうですね、そのうち甘々になるかも?♥ならなかったら・・・ごめんなさい!

2018/11/02 (Fri) 11:51 | EDIT | REPLY |   
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2018/11/02 (Fri) 13:56 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは。

あっはは!面白さならさとぴょん様には勝てませんよ。

そうですよね。普通なら無視して行きそうですけど
ご両親に「愛想良くしなさい!」と言われてるんでしょうか(笑)

ってかただ単に

「藤本の隣で食べてる」・・・この台詞を入れたかっただけ(笑)
すみません💦自己中で・・・。


変身ーーーっ!!したらいいけどショッカーに変身したらどうしよう(笑)

2018/11/02 (Fri) 19:58 | EDIT | REPLY |   
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2018/11/02 (Fri) 20:50 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

miz**様、こんばんは。

コメントありがとうございます。

確かにかなりギャップがありますね(笑)
あっ、この時間に更新されてる・・・つくしちゃんが何で走ってるか、もうわかっちゃいますね(笑)

やっと出会ったので動じ進行できます。
良かった・・・!

類君の活躍は明日かな?(笑)お楽しみに♥

2018/11/03 (Sat) 00:12 | EDIT | REPLY |   

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