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梅雨が明けて本格的な夏が来た。

大学だったら夏休み・・・だけど社会人にはそんなものはないから毎日汗を流しながらバスに揺られて通勤した。


会社にはあんまり若い人はいないんだけど、1組だけ社内恋愛中の先輩がいた。
可愛らしくて静かな印象の先輩と、何だか強面の営業の人・・・身体も大きくてがっしりしててアメフトでもしてたのか?って感じの体つき。

とても先輩とは釣り合わないような気がしてたけど、お弁当も先輩が作って手渡してるほど仲が良かった。

おじさん達にはそれがわからないのか、知っているのはその僅かな若い人達だけ。
でも冷やかしたり茶化したりしなくて温かく見守ってる感じだった。それだけみんなに好かれてる証拠・・・障害がなさそうで羨ましかった。


「え?先輩明日海水浴?田辺さんとですか?」

「うん。水着とか恥ずかしいからイヤだって言ったんだけどね。人の少ない海水浴場にするからって・・・2人とも月曜に日焼けしてると思うからみんなにバレちゃうよね」

「いいじゃないですか!楽しまなきゃダメですよ、好きな人と行けるだなんて幸せですよ?」

「つくしちゃんは?たまに車で送ってくれたり迎えに来てくれてる人は恋人じゃないの?」

「あぁ、彼は・・・彼は友達です。いや、先輩かな?ひとつ年上なんです」


何度も色んなところに行ってるけど友達・・・ドキドキしてばかりだけど、もしかしたらって思うこともあるんだけど何も言ってくれないから・・・花沢類にとっては私はただの後輩。

でも、そうじゃないと困るのよね。
先輩達みたいに周りのみんなが見守ってくれるような環境じゃないもん・・・彼の家にとっては私なんて問題外。いつか彼の隣には花沢家に相応しい人が並んで歩くのよ。

それを近くて見なければそれでいい・・・出来たら一生見たくない。



「つくしちゃん?なんかメール鳴ったよ?」
「・・・え?」

先輩に言われてスマホを見たら・・・なんてタイミングだろう、花沢類からのお誘いだった。


『海に行きたくない?今度の土曜日、あいてる?』

先輩に断りを入れて休憩室を出て、会社の外で返事をした。


『ちょうど会社で海の話をしてたのよ。もしかして聞こえたの?土曜日、あいてるよ』

『そうなんだ?奇遇だね!じゃあまた迎えに行くね』

『私、泳げないけどそれでもいい?』

『いいよ、息抜きだから』



息抜き・・・か。

月曜日、私も日焼けして会社に出勤するのかしら。
泳げないだなんて言っておきながらその日の帰り道、新しい水着を買ってしまった・・・言葉と心が天邪鬼な私。


**


土曜日、暑くなるからって早めにアパートを出る約束をしたから早起きして朝ご飯を作った。

車でも食べやすいようにサンドイッチ・・・でも中身だけは少し凝ってみた。
アスパラガスとウインナーのオムレツサンド、人参とクレソンのツナサンド、サケフレークとクリームチーズ・・・少しずつ作ってバスケットに入れて、アイスティーを準備。

冷やしたおしぼりを用意して窓から花沢類の車が来るのを待っていた。


「あっ、来た・・・今日は時間通り!」

急いで麦わら帽子とバスケットを抱えてアパートを降りたら、運転席にはサングラスをかけた花沢類が乗ってて、その見慣れない姿にドキッとした。
うわっ・・・一段と格好良くない?これ、海なんかで他の女の子が見たらどうなるの?


「どうかした?いつも迎えに来たら驚いてるね、牧野」
「あっ!ごめん・・・サングラス、珍しいと思って」

「紫外線、強いんだもん・・・目が痛くなる」
「あはは!そうなんだ?」

車に乗ったら「朝ご飯は?」って聞いてみた。案の定「食べてない」の返事。
「そうだと思ってさ・・・」って、バスケットからサンドイッチを出したら驚いてた。


「え?もしかして作ってくれたの?早起きさせちゃった?」
「ううん、大したもんじゃないよ。サンドイッチだもん、こんなのすぐに出来ちゃうよ。具の好き嫌いはダメだよ?はい、じゃオムレツサンドからね」

本当はすごく早起きして頑張ったくせに何でもないフリをして、ちょっと自分で「出来る女」みたいに話してない?
素直に「頑張ったの」って言えばいいのに・・・何故かそんな自分がイヤで彼に見えないように口を尖らせてしまった。


花沢類はサンドイッチを全部食べてくれた。
少し苦手な人参とクレソン、食べやすいようにはしたけど文句言うかと思ったのに・・・それを食べた後に「アイスティーちょうだい!」って叫んだからやっぱりダメだったのかな?


「今日は何処に行くの?人が多いのかな」
「誰もいないよ。俺達だけ」

「え?なんで?」
「うちの別荘のプライベートビーチだから」

「そうなんだ!」
「なんでそんなに嬉しそう?」

「いや・・・何でもない」


だって・・・そんな格好の花沢類を誰にも見せなくていいじゃない。



*************



千葉にある別荘のプライベートビーチ・・・ほんの少ししかないスペースだったけどこのぐらいがちょうどいい。

俺の視界の中にいつも牧野が映ってるぐらいの場所。
広くて人混みの中でも探す自信はあるけど、出来るなら2人きりがいい。そう思ってここに連れて来た。


真っ白な砂浜で少し先には岩場もあって小さな魚も見ることが出来るし、牧野が乗りたいなら小さなクルーザーもある。
別荘の前の木陰にベンチもあったけど、せっかくだからって砂浜にパラソルを立ててそこの下にシートを敷いた。

今日の牧野はショートパンツでタンクトップにラッシュガード・・・夏らしい格好だけど、その白くて細い足が真横にあってドキドキする。サングラス越しに見るだなんて疚しい気分だけど、どうしても目が行ってしまう・・・ホント、鈍感なクセに煽るよね。

大きな麦わら帽子なんて被ってるところは子供みたいなのに。


「花沢類!海に入って来てもいい?」
「うん、水着着てるの?」

「・・・ううん!このままで膝まででいいの。泳いで日焼けしたくないじゃん?」
「日焼け止めあるよ?塗ってあげようか?」

「やだやだ!いいよぉ!・・・行ってきまーす!」


そこまで拒否しなくても・・・下心、見えちゃったかな?くすっ・・・。


波打ち際でバシャバシャ音を立てて波を蹴り、大きな波が来たら笑いながら逃げて、たまに海の中で何かを探してる。
綺麗な貝殻を見つけたって俺に手を振って教えてくれる・・・誰もいない海で俺だけの牧野が笑ってる。

俺もそこまで行って、足首まで海に入れて砂が動くのを久しぶりに感じてた。


「花沢類、気持ちいいねぇ!潮の香りって好きだなぁ・・・!」
「後で髪がべとつくよ?気にならない?」

「そんなの気にならないもーん!あっ・・・!」
「牧野!」

海の中で急に身体の向きを変えたから、グラッとした牧野は蹌踉けて転けそうに・・・それを両手を出して抱き留めて、間一髪で濡れずにすんだ。


「あれ?・・・牧野、水着着てるんじゃないの?」

「あっ・・・でも、いいの!やっぱり恥ずかしいもん。泳がなくていいの、あはは!バレちゃった?」

「いいのに。誰もいないから・・・」
「花沢類がいるじゃん!」


俺だけだからいいじゃん・・・他のヤツがいたらそんな牧野を見せたくないけどさ。

牧野は俺に背中を向けてずっと沖の方に見える白い波を見つめていた。
片手で麦わら帽子を押さえて、もう片方は数枚の貝殻を持ったまま・・・麦わら帽子からはみ出た黒髪がサラサラと風に舞って、逆光だったからだろうか、とても儚げに見えた。

でも、振り返ったらすごく明るい太陽のような笑顔。


「やっぱり夏は海だよね!気持ちいい!」


大きな口を開けて笑う・・・その目にほんの少し光るものが見えた気がした。


結局渋滞回避だって言って夕方遅くまでビーチで遊んで、帰りはわざわざ館山方面からぐるっと回ってアクアラインに乗ろうって言ったのに通り過ぎて大笑い。ごめんね・・・わざと乗らなかったんだ。

疲れ切った牧野はこのあと車でぐっすりだった。






夏の休暇を婚約者と過ごすように言われ、それを拒否して牧野を海に誘った。

「あちらは楽しみにしているのよ?会社ならお休みを取っても問題ないのよ」
「これも仕事のうちだと思えばいい。お前の将来のためだ」


「誰かを愛することを仕事だと思うことに虚しさを感じませんか?俺には出来ません。自分の将来に牧野つくし・・・彼女のいない風景が思い描けないんですよ」



フランス赴任の半年前・・・もうあまり時間がない。
焦る自分の横でスゥスゥと寝息をたてる牧野に・・・触れたくて仕方なかった。





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Comments 8

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2018/11/16 (Fri) 12:40 | EDIT | REPLY |   
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2018/11/16 (Fri) 12:49 | EDIT | REPLY |   
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2018/11/16 (Fri) 14:22 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんにちは。

それぞれの想いは同じなのですけどねぇ。
Plumeriaが切ない系が好きなものですからこんな事に・・・(笑)

いつまでもこれを続けてたら読者さんから石投げられそう(笑)
頑張って早くくっつけなきゃ!

ふふふ、次は・・・そうかもしれませんよ?待っててくださいね!

2018/11/16 (Fri) 17:18 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様、こんにちは。

出だしのひと言に噴き出してしまいました!
モヤモヤさせてごめんなさい💦でも、笑ってしまった!

あはは!お願いされちゃった♥

どうしようかなぁ~どうしようかなぁ~。


ふふふ、諦めずにお待ち下さいませ。
きっといいことがあると思います♥(ないと困るんだけど)

2018/11/16 (Fri) 17:22 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さゆ様、こんにちは。

あはは!待っててくださったのに怒らせてしまったっ!
ごめんなさいねっ💦

サングラスの類・・・でも見てるのはつくしちゃんの生足です(笑)
いやん!類ったら♥

さゆ様もいつか類君に日焼け止め、塗ってもらってくださいね(笑)

2018/11/16 (Fri) 17:24 | EDIT | REPLY |   
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2018/11/17 (Sat) 15:18 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ルチノー様、こんばんは。

あっはは!そんなこと言うから見直したら・・・

確かにその通りでした(笑)

あれ?なんでかな?
すっごくシリアスな場面なのにそこで笑うかな。

そう言いながら、もう1回読んで・・・やっぱり爆笑しました!!!

「認めたくないのだな・・・若さ故の過ちというものを・・・」(若くないけど)

2018/11/17 (Sat) 22:43 | EDIT | REPLY |   

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