FC2ブログ

plumeria

plumeria

夏が終わって少し暑さが和らいだ。

日焼けした子供達が元気よく学校に通い始め、私はその子供達と擦れ違いながら会社に向かうバスに乗る。
バスに乗ったらとっくに学校が始まってる時間なのに高校生ぐらいのカップルがゆっくりと手を繋いで歩いてるのを見たりして、それに溜息をついていた。


そんな事してないで早く学校に行って勉強しなさいよ・・・!
世の中、そんなに甘くないのよ?楽しんでばかりじゃ大人になってから苦労するんだから!


あはっ、まるでおばさんの独り言みたい。
仲がいい2人にヤキモチ?・・・それとも自分の高校時代と比べたのかしら。

いいなぁ、高校の制服。
自分だってあんな感じだったじゃない?

将来の事がまだ漠然としてて、今は辛くても自分はそのうち楽しく笑って過ごしてるはず、なんて勝手に思い込んだりして・・・そんな事を考えていたらやっぱり思い出すのは花沢類の顔だった。


恐れ知らずで道明寺に立ち向かって行って、みんなから虐められて仲間はずれにされて、ゴミだらけになって傷だらけになって・・・何度花沢類に助けてもらっただろう。
何度抱きかかえられて「汚れを落としな」って・・・傷の手当てをしてもらっただろう。

怒鳴られたこともあるよ・・・でも、守ってくれたことの方が多かったね。

その頃は殆ど笑顔なんて見せてくれなかったのに。
何を話しかけても返事だってマトモに返ってこなかったのに・・・気が付いたら心の奥で道明寺とは違う恋心が小さく芽吹いてて、それに気がついた時・・・表向きは道明寺の彼女になってたよね。

道明寺家の『力』に押し潰されそうになりながら、負けるもんか!って強がってたよね・・・笑う事も忘れてたかも。


不安定だったなぁ・・・その頃は。
あっちにふらふら、こっちにふらふらしてさ。


『俺といるとき、お前は何を見てるんだ?俺の事じゃねぇだろ?』
『・・・そんなことないけど、自分でも時々わかんなくなるの』



道明寺にまで見破られるなんて最悪・・・もう認めなくちゃって思ったんだっけ。それは何年前だろう。


ハッと気が付いたら自分が降りるバス停。
慌てて降りて小走りで会社に向かった。


**


その週の金曜日の夜、彼から電話があった。
また何処かに行くのかな?嬉しいような、苦しいような気分でその電話を取った。

「もしもし・・・どうしたの?」
『え?かけちゃいけなかった?もしかして誰かといるの?』

「あはは!残念でした!1人で家でのんびりしてるよ」
『・・・驚いちゃった。ね、明日ブラブラしない?』

「え?ブラブラ?何処を?」
『何処でもいいんだけど・・・天気も良さそうだし、何処かの公園とか?』


何処かの公園?花沢類がお散歩するの?
でも、いつも車だからそれもいいのかもしれない・・・そう思って私のアパートの近くの公園で待ち合わせをした。

急だからお弁当も作れないけどって言ったのに「牧野が大変だから何処かで食べようよ」って・・・。
花沢類のために作るお弁当は大変なんかじゃないよ。そう言いたかったけど「気遣いありがと!」なんて逆のことを言ってしまった。




次の日、本当に公園の入り口に花沢類が立ってて、その似合わないこと!
遊具だって古くて入り口の看板だって錆びてて、木だって枯れかけてるような公園のフェンスに凭れ掛かって、私の姿が見えると手を振ってくれた。

「お待たせ!何処に行く?この先に川があってそこの遊歩道なら結構長いからお散歩には向いてるよ?その向こうに秋桜が沢山咲いてるはずだから行ってみる?」

「うん。何処でもいいんだ。俺、運動不足らしいから歩かなきゃ」
「え?何か言われたの?まさか・・・太った?」

「あはは!そうじゃなくて健康診断でさ、『週にどのぐらい運動しますか?』って問診があるんだけど、0時間って書いたから」

「・・・0時間、そうだろうね!あっはは!」

デートじゃなくて運動かぁ・・・それでも全然いいんだけどね。


花沢類ととても運動とは思えない速度でのんびり散歩をしていたら、何処かから大きな歓声が聞こえてきた。
ピストルの音や軽やかな音楽。子供達の声にマイクで喋る先生の声・・・運動会?

「ねぇ、花沢類。この辺で運動会してるみたいだね」
「運動会?なに、それ」

「知らないの?あっ・・・そう言えば英徳にはなかったね。運動会って秋によくやるんだけど、子供達が大好きな行事だよ。走ったり綱引きしたりして赤組と白組に分かれてね・・・見に行ってみようか?」

「ん、行ってみる」


道を少しだけ奥に入ったら小学校があって、そこが運動会の真っ最中。
警備員がいたけど保護者みたいなフリしてグラウンドに入って、保護者席の横の人混みの中に混じってその様子を眺めた。

可愛いなぁ・・・あれは1年生かしら?まだ6歳とか7歳?
進も足が遅くていつも皆の後を走ってたなぁ。ふふふ、笑ってる子も怒ってる顔の子も色々・・・でも、楽しそうだなぁ。


「牧野、あの子可愛い・・・ほら!次に走る子!」
「どの子?あっ、あの女の子?」

「そうそう!牧野みたい」
「・・・は?」

花沢類が指を指した子は黒髪のおかっぱで大きな目ですっごく口を尖らせて勝つ気満々・・・その子が私に似てるって?
ジロッと睨んだけど花沢類は凄く楽しそうに子供が走るのを見ていた。

「ねぇ、これは何をしてるの?」
「これは玉入れだよ。上のカゴに沢山玉を入れた方が勝ちなの」

「これは?なんでみんな円になってるの?」
「これは競技って言うよりダンスかな?保護者に見てもらうんだよ」

「あっ、長い縄が出てきた!もしかしてこれが綱引き?」
「そうそう・・・って、ホントに何にも知らないのね」


飽きもせずに競技を見ていたら、またさっきの黒髪の女の子が走るのが見えた。
あっ・・・本当に私みたい!足が速いんだね、って思った瞬間にその女の子がバタッ!と倒れて皆に追い抜かれてしまった。

ここまで聞こえる泣き声・・・悔しくて大泣きする女の子は先生が近寄っても、その手を取らずに1人でゴールまで歩いてた。


「・・・大丈夫なの?あの子、転けちゃったよ?手当しなきゃ」
「花沢類、大丈夫だよ。ちゃんと救護席ってのがあってそこで手当するんだよ」

「でも、本当に可愛い。泣いてる姿も子供って可愛いもんだね」
「あははっ、そうなの?」


「うん、俺は女の子が欲しいなぁ」
「・・・花沢類?」


「将来ね、子供が持てるなら女の子が1人は欲しいな。俺、あんな風に転けちゃったりしたら飛び出して行きそう!」

「・・・・・・」



************



俺が子供の話をする事が不思議だったのか、それとも別の事を考えたのか・・・牧野はこのあと黙って軽く笑いながら運動会を眺めていた。

そして急に子供達が散らばってグラウンドからいなくなった。

「あれ?牧野・・・これ何やってるの?」
「ん?今からご飯なんだよ。だから自分の家族のところでお弁当タイム!私はこの時間が1番好きだったなぁ!」

「・・・家族でお弁当?」
「やったことないからわかんないか!でも、あっても・・・類のところは難しかったのかな?」

子供達が走って行った先では家族が手を振って迎えて、そこでは沢山のおかずが詰まった弁当を広げて眩しいような笑顔があった。

「多分、誰も来ることが出来なかっただろうね」

そんな思い出なんて1つもなかった。
子供の頃の俺にこんな笑顔なんて・・・なかったような気がする。



頭の中で思い描いた。こんな小さな学校で牧野によく似た女の子が走る姿。
その子を2人で応援してさ、やっちゃいけなくても転けたら助けに行ったり、テープの代わりに俺がゴールで待っててやるんだ。

泣いたら抱き締めてやって、1等だったらもっと抱き締めてやって、お昼には牧野のお弁当食べてさ。



「なんでニヤニヤしてるの?花沢類」
「ん?なんでもないよ。牧野もお腹が空いたでしょ?もう少し歩いて何処かでご飯食べようか?」

「うん!そして帰りには秋桜見て帰るの。随分遠くなるけどいい?」
「もちろん、いいよ」






オーストラリアで本人を拒否したことで家が決めた「婚約者」は婚約破棄を申し出てきた。
どれ程花沢に有益だったかは知らないが、両親は呆れるばかりで牧野の話は聞こうともしない。

「そのお嬢さんがどれだけ花沢の役に立つというの?類・・・この方は何も持っていないでしょう?」

「反対ですよ。俺の持っていない物を総て持っている人です。彼女といるだけで景色が色付くんです。そうでなければ一生俺は暗闇の中で生きなくてはならないって思うぐらいにね」

「生きるために必要だとでも言うの?その人との時間がそれだけ大事なの?」


「他には何も要らないんです。隣に彼女がいてくれればそれだけでいいんですよ」






7c2d1b08c0f544ac75a23f1b61212399_t.jpg
★次回の「遠回りして帰ろう」は26日になります。
関連記事
Posted by

Comments 6

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/11/20 (Tue) 11:28 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/11/20 (Tue) 12:23 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんにちは。

こちらのお話は今から事件を起こしたら大変な事になりますからね(笑)

何が1番大事なのか、ご両親に早くわかってもらいたいですね。
類君、早く気持ちを伝えたいでしょうからね・・・ふふふ、もう少しでエンドです。

少し日にちがあきますが宜しくお願い致します♡

2018/11/20 (Tue) 16:55 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

みわちゃん様、こんにちは。

あらら?みわちゃん様は寒がりさんですか?
私はですね・・・やっと長袖に替えました(笑)
先週まで半袖でしたよ。

よく旦那にも言われます・・・「お前見てたら寒い!」(笑)

仕事が手作業なので袖が邪魔なんですよね・・・ってエアコンも使ってないので寒いんですけどね。


総ちゃんのお話、終わりました。応援ありがとうございました。
間もなくこちらのお話も終わります(くどいですが短編なので)

ほんわかと終わりたいのでもう少しお待ち下さいね♡

えっ!彼女か諦め・・・なかったら一大事ですっ💦短編じゃなくなっちゃう(笑)
とっとと消えていただきました。えへへ!

2018/11/20 (Tue) 17:00 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/11/20 (Tue) 21:34 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様、こんばんは!

大変でしたね💦
少しだけ早い年末大掃除・・・でも、羨ましいなぁ(笑)
うちも古いんですがレンジフードで大きなヤツなんですよ。
交換したいけどどのぐらいするのかさっぱり・・・高いんだろうなぁ・・・。


類君、小さい子の運動会、珍しかったんでしょうね。
おそらく今までは興味もなかったのでは?

つくしちゃんと出会ってからそういうところにもきっと夢を描いてるんでしょうね。
類君がゴールで待ってたら・・・1等間違いなしです!はい!頑張ります!
ゴールした勢いで押し倒しますっ!!キリッ!

ん?そうじゃない?(笑)

あはは!少しは明るくなってきましたかね?

2018/11/20 (Tue) 23:37 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply