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牧野が大学から荷物を取ってきて、そのまま2人で海まで行って夕日が沈むところを見ていた。


誰もいない秋の海・・・すごく穏やかで小さな波の音だけがリズミカルに俺達の耳に届いてる。
防波堤にあるコンクリートの段差に座るといつものように俺の右隣に牧野がくっついてる。

自然と繋がれる手・・・それだけですごく安心出来た。


恐れるものなんて何もない。
今、こんな場所で何も持ってなくても自分自身が強くなれる気がした。



「・・・今回牧野を探すのに母さんと必死になってさ。その時にあの人から色々聞いたんだよね」

「お母様と?そうなんだ・・・心配かけたね」

「うん、あんたのこと心配してた。自分の子供みたいに・・・」

ここで牧野に母さんから聞いた那須での悲しい出来事を教えた。
牧野は驚いて「だから私を見る目は優しかったの?」・・・って涙を溢した。


「女の子が欲しかったんだって・・・だから楽しみにしてたんだよ。生きていたら牧野の2つ下だからね。一緒にドレスを選んだり買い物したりしたかったんだろうと思う・・・それが夢、だったんじゃないかな」

「初めて会った時もお母様、怖くなかったもの。どんなに怖い人かと思ってビクビクしたのに優しかったから驚いた。
その夢、あの時に叶ったのかしら・・・でも、やっぱり他人だもんね。逆に悲しくならなかったのかな」

「どうだろう・・・半分半分かな。でも、今はもう娘同様に思ってるのかもね。くすっ・・・ブログであんたを見つけたときに大騒ぎして俺の背中を叩いて急かしてさ。可笑しかったよ、あんな母さん初めて見た」

「あはっ!本当は弾けないところを聞かれたんだね」


繋いでない方の指で涙を拭いて、今度はギュッと唇を噛んだ。
そして海の方に顔を向けてしばらくは黙ったまま・・・俺はその横顔を見つめていた。


「・・・これからどうしたらいいの?類は・・・花沢に戻るの?」


『花沢に戻るの』・・・牧野が1番怖がってる部分なんだろう。
この言葉を出しながら握ってる手に力が入った・・・そして聞いた後の唇も震えてる。


「俺は花沢もあんたも両方守るって決めたんだ。本当はね、父さんが牧野を追い出したときに花沢から出ようって思ったんだけど、それだとやっぱりいつかは後悔する時が来るって思ったから。あんたを連れて花沢に戻るよ。いつかはね・・・」

「いつか?」

「ん・・・俺も英徳に退学を申し出てきたんだ。あんたがここの大学で過ごす間、俺もこの土地で勉強するよ。そして自分に自信が持てたらあんたと一緒に東京に戻る。父さんにもう1度認めてもらうまで説得する・・・今はそう思ってるよ」


夕日が海に差し掛かって辺りが一層濃いオレンジ色に変わった。

俺の髪も牧野の髪も同じオレンジ色・・・瞳の中に映る色も同じで、全てが1つの色に染まった。
優しく吹く風が牧野の髪を靡かせ、それを片手で押さえながら俺の目を見つめてる。


「もう、あんたのいない場所では暮らせない・・・隣に居てくれないと俺が俺じゃなくなるんだ」

「・・・私もそうだよ、類の居ない世界には光なんてなかった・・・私、もう少しで見失うところだったの」


「くすっ、見失う前でよかった・・・」



牧野をそっと抱き寄せた。
波の音を聞きながら・・・潮の香りの中で抱き締めてキスをした。何度も・・・何度も。

そして唇を離したら真っ赤になって泣いてる牧野を今度は両手で抱き締めて耳元で囁いた。


「Fais de moi l'homme le plus heureux au monde, épouse-moi」
(俺を世界で一番幸せな男にしてほしい。だから・・・結婚しよう)


牧野の返事は頷くだけ・・・泣きじゃくって声にならない牧野は何度も俺の腕の中で頷いてくれた。



**



もう真っ暗になってからアパートまでの道を並んで歩いていた。
泣きすぎた牧野は鼻が真っ赤・・・それでも片手はあれからもずっと繋がれたままだった。

そんな時、俺のスマホが鳴って、画面をみたら母さんからのメッセージ。
立ち止まってそれを読んだら・・・クスッと笑いが出てしまった。


「類・・・誰から?」
「ん?母さんから・・・読んでみて?」

スマホを手渡すと怖々とその画面を見て、小さな声で読み始めた。

「・・・えっと、『類・・・お父様からの伝言です。大学の退学は認めないけど、それ以外は好きにしたらいい、ですってよ・・・だから2人で戻ってきて』・・・・・・」


メッセージを読み終わる頃にはまた涙が止まらない。
何度も俺の手を持ったまま自分の目元を拭っては、スマホの画面を目で追っていた。読み終わったら俺に返してくれたけど今度は足が動かない。

その場で座り込んで泣き出したから仕方ない。
とうとう牧野を背負ってしまった。


「なんでそんなに泣くのさ。もしかしたら歩きたくなかったの?甘えんぼだね、牧野」
「そんなんじゃないもん・・・」

「俺さ、着替えがないんだから濡らさないでよ?もう背中が冷たくなったんだけど」
「・・・あは、ホントだ!ごめんね、類・・・降りようか?」

「・・・降ろさないよ。あんたの途中下車はもう認められないから」
「このまま乗っかってていいの?楽ちんだなぁ!」


見上げたら東京とは全然違う満天の星空・・・きらきら星のメロディーが流れてきそうな気がして背中の牧野に話すと、小さな声で返事が返ってきた。

「東京に戻ったらピアノ弾こうかな。類・・・また一緒に弾いてくれる?」
「いいよ。今度はなんにしようか・・・アヴェ=マリア、あれ弾きたいな」

「うん、頑張る」


すごく幸せな重みを背負って「同じ部屋」に帰る。
沖縄での最後の夜・・・また狭いベッドで抱き締め合って、幸せな気分で眠りについた。




***************




「ねぇ、類。ホントにこのまま帰ってもいいの?大学の手続き何もしてないし、アパートのことも何もしてないよ?もう飛行機に乗っても大丈夫なの?」

「いいんだって!あんた、ここに来た時も何もしてないでしょ?」
「そ、そうだけど~!」


次の日の朝、私たちはもう那覇空港にいた。

お母様から帰っていらっしゃいとメッセージがあったし、その後も「いつ帰るの?」って何度も催促があったから。
類の退学も取り消されたけど、私の退学もなかったことに・・・今まで通り通いなさいってことだった。聞けば私の退学届は西門さんと美作さんが学長から取り上げてるから受理されてないんだって。

だから長期の欠課で当然特待の資格は取り消される・・・それにガックリして空港の椅子に沈み込んでいた。
そしたら類がスマホを「はい」って・・・誰かと思って耳に当てたらお母様だった!

「お、お母様!この度は・・・あの・・・」
『きゃあっ!ホントに牧野さん?いいこと?ちゃんと帰ってくるのよ!・・・本当にごめんなさいね、あの人があなたを苦しめて・・・。しばらくはバツが悪いから日本に戻ってこないと思うから安心してね?これからのことは3人で話しましょうね』

「は、はい!色々とご迷惑かけました。でも、あの・・・大学にはもう・・・」

『特待のことは気にしなくていいわ。牧野さんはうちの娘も同様になったんだから花沢できちんと大学を出るまで面倒をみます。勿論、お勉強はその分しっかりしてもらうわよ?それについては類から聞いてちょうだいね』

「お母様・・・はい!頑張ります!」


お母様の電話を切ったあと類に話したら、どうやら私は外国語とは別に経済学基礎も受けることになったらしく、ちょっと頭が痛くなったけど・・・。




持ってきた物も僅かだったけど、今度はもっと少ない荷物で類に引っ張られて羽田行きの便に向かった。

その途中、ついクセでお土産物屋さんを眺めてたら、怒ったような顔しながら「ちゅら玉」のネックレスを買ってくれた。
「夜になったら発光するんだって!」って言ったら「何処に行っても見つけられるぐらい光ったらいいのにね」
・・・しばらくはこんな嫌みも我慢しなくちゃって溜息が漏れた。



そして飛行機は沖縄を飛び立ち東京へ。

「本当は手錠でもしときたいけど」なんて恐ろしい事をいう類はまったく手を離してくれない。
CAさんにも「仲が宜しいんですのね」なんて言われて、類は無視してたけど私は必死に笑って誤魔化した。


「少しは離してくれない?ねぇ、類・・・ここ飛行機の中だから逃げないし」
「ダメ。離さない」


「どうしよう・・・まだ302号室空いてるかな?私、また類のお隣に住める?」
「あんたが帰るのは301号室だよ。隣の部屋はもう必要ないでしょ?」

「・・・ベランダ、恋しくならない?」



クスクス笑いながら類がキスしてくれる。
「隣の部屋の彼」は今日からずっと一緒・・・私の隣で私を包んでくれる「家族」になる。








fin.




violin-1061240__340.jpg

半年間にわたり連載しました「隣の部屋の彼」終了です。

お付き合いいただきました皆様に感謝致します。
明日は「後書き」をお届けします。新しいお話のご案内はその時に・・・。

温かいコメント、励ましのコメント、数多くの応援総てに・・・どうも、ありがとうございました(涙)


2018/10/28 21:12 plumeria
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Comments 20

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2018/10/29 (Mon) 00:38 | EDIT | REPLY |   
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2018/10/29 (Mon) 01:16 | EDIT | REPLY |   
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2018/10/29 (Mon) 06:20 | EDIT | REPLY |   
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2018/10/29 (Mon) 06:35 | EDIT | REPLY |   
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2018/10/29 (Mon) 06:48 | EDIT | REPLY |   
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2018/10/29 (Mon) 08:30 | EDIT | REPLY |   
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Re: タイトルなし

mizutama様 おはようございます。

コメントありがとうございます。
なんとかラストまで辿り着きホッとしております。

最初の頃の類君(笑)懐かしいなぁ!
桜の咲く頃に書き始めたのですが、実は総ちゃんの茶と華の「目出度い桜狩り」と同時進行だったんです。
あれの類君はめっちゃお茶目なので、この隣の類君のツンデレとごっちゃになって大変でした(笑)

その頃は100話いくかなぁ?って思ってたんですけど・・・まさかの192話。

いつの日か自分でも読み返してみたいです・・・どれだけ事件起こしたんでしょうね(笑)


半年間の応援、感謝致します。ありがとうございました。

2018/10/29 (Mon) 08:31 | EDIT | REPLY |   
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Re: タイトルなし

桜姫様 おはようございます。

ご訪問&コメントありがとうございます。

ハラハラしましたか?あはは!申し訳ございません。
すぐに事件起こすヤツですからね、読者さんも「またか!!」ってなりますよね(笑)

ふふふ、最終話ですからそこは勿論、Happyに!


この先の2人を楽しく妄想してやって下さい♥


え?スムーズな結婚・・・桜姫様、私にスムーズという言葉は・・・(笑)
障害と困難と回り道と逃避行・・・途中に沢山仕掛けてしまいます💦

でも、最後はハピエンで!(≧∀≦)♥


半年間の応援、感謝致します。ありがとうございました。
これからも宜しくお願い致します。

2018/10/29 (Mon) 08:38 | EDIT | REPLY |   
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Re: タイトルなし

さゆ様、おはようございます。

隣の類君(笑)可愛い省略ですね!気に入った♥
会いたくなったらいつでも来て下さいね~!

毎回くださる楽しいコメント、嬉しかったです。さゆ様の妄想もなかなか・・・(笑)

これからはあまり長編にならないと思うんですが、ボチボチゆるゆると書いていきますので宜しくお願い致します。

半年間の応援、感謝致します。ありがとうございました。

2018/10/29 (Mon) 08:44 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、おはようございます。

あはは!ハラハラドキドキでした?
比較的イチャイチャさせたつもりなのに(笑)おかしいなぁ?

切ないシーンは甘い部分を引き出すためには必要だと勝手に思っているんですよね♥
類君には切ないお話が似合うような気がしてるので(類君には迷惑だろうけど💦)また切な愛しい話を書きたいですね!
そして読者さんに怒られる(笑)

今度は全然タイプの違うお話ですが、宜しければまた覗いて下さいませ。


半年間の応援、感謝致します。ありがとうございました。

2018/10/29 (Mon) 08:51 | EDIT | REPLY |   
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Re: ありがとう

happy様 おはようございます。

ふふふ、現実逃避、悪くないと思います。私もいつもそうですからね♥

ホッとする時間のお手伝いが出来たら私も嬉しく思います。

初めから?大変ですよ?(笑)
(誤字を見つけたらそっと教えて下さい💦)

無理をせず、少しずつの前進で頑張りましょう♥


半年間の応援、感謝致します。ありがとうございました。

2018/10/29 (Mon) 08:54 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

みわちゃん様、おはようございます。

ははは、ホントに(笑)←かなり放心状態

半年間・・・「10月の向日葵」で2度とするもんか!って思ったんですけどね(笑)
今回は中断なしでの半年だったので疲れました。

でも、考えた筋書き通りに進めて終われて本当に良かった・・・。
自分の力量以上の内容にしてしまい、難しかったのですが今はホッとしています。


でも・・・これから魔の冬~春がくる・・・(笑)
総誕から類誕までのこの期間、何故か世の中がイベントだらけ!!

すぐに頭を切り替えねば・・・(笑)


半年間の応援、感謝致します。ありがとうございました。

2018/10/29 (Mon) 09:01 | EDIT | REPLY |   
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2018/10/29 (Mon) 09:15 | EDIT | REPLY |   
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2018/10/29 (Mon) 09:30 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: おはようございます🎵

水香様、おはようございます。

はい、やっと終わりました♥
そうなんですよ、100話いくかなぁって思ってたんですけどね・・・なんでかなぁ?

そこまで脱線してないんですけど(笑)
10月の向日葵は途中からプロットが外れたので大幅に増えたんですけど、これはねぇ・・・この終わり方は予定通りです。

もう無理です(笑)100話ぐらいが好きですね。
毎日更新で短編はキツいんですよ。頭がついて行きません・・・総ちゃんもありますからね。

ボチボチ頑張ります。


半年間の応援、感謝します。ありがとうございました。

2018/10/29 (Mon) 09:55 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

m・w様 おはようございます。

あはは!本当に類君がお好きなんですね?

そうですね、類君は総ちゃんのお話に出てきてもつくしちゃんのことが好きですからね♥
そういう意味では類君と他の人の組み合わせは考えられないですね。

これからも2人をラブラブさせたいので頑張りまーす!

半年間の応援、感謝します。ありがとうございました。

2018/10/29 (Mon) 10:02 | EDIT | REPLY |   
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2018/10/29 (Mon) 10:23 | EDIT | REPLY |   
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Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんにちは。

ぶはははははは!!!!
ちょっとーーーーっ!!!

自分で言うのもなんだけど、最終話公開してホッとして感動してる私にこんなっ・・・!

一番の印象がそれってなにーーーっ!!(笑)

しかもそれ、本文じゃないし!(笑)
参考資料だし!!



でも、こんなに色々書いたんですねぇ(笑)
読んでみて懐かしかったです。色々あったんですねぇ・・・この2人。

うふふ、きらきら星聴いてみて下さいね♥きっと頭にはお話と共にアレが蘇ってくると思います!!


毎回のコメント、本当にありがとうございました。
感謝、感謝でございます。

長編書き終えるとガクッとモチベーションが下がるので、しばらくボケッとしたお話が続くと思いますが(笑)
何とか2年目まで頑張るぞーーーっ!!

これからもどうぞ宜しくお願い致します♥

2018/10/29 (Mon) 10:49 | EDIT | REPLY |   
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2018/10/29 (Mon) 11:10 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

わんこ様、こんにちは。

あはは!そんなに爆弾とか落とし穴とかしてないですよぉ(笑)
おかしいなぁ?私的にはとってもラブラブシーンが多いと思うんですけど・・・ははは、ダメですか?

妄想の恐ろしさですよね・・・出会って半年ちょいでこんなに色々味わうカップルもいませんものね(笑)


少々お話作りに疲れましたのでしばらくはのんびり書き進めたいと思います。
とはいえ、これからは花男二次は大忙しのシーズン・・・のんびり出来るのかどうか(笑)

長編はしばらく書かないと思うので、そんなに事件も起こさないかも?
(そう言って毎回起こしてるけど)


半年間の応援、感謝致します。ありがとうございました。

2018/10/29 (Mon) 11:31 | EDIT | REPLY |   

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