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「本日で宗家及び茶道教室の年内の稽古は終了、各支部も仕事納めでございます。お家元と家元夫人、総二郎様は挨拶回りにお出掛けになります。牧野さんは私について本邸のお正月準備に加わっていただきます」

12月28日の朝、総二郎と本邸に戻ったら私だけが志乃さんに呼ばれてこう言われた。


所謂、大掃除のようなもの?それともおせちの準備?
これだけ広いお屋敷のお正月準備だなんてどうしたらいいんだろうって首を捻っていたら、総二郎も機嫌を悪くして私のところにやってきた。

「どうかしたの?すごく怖い顔して・・・」
「挨拶回りにまだお前を連れて行くなって言うからだよ!どうせ年明けには公表するんだから良さそうなもんじゃね?」

「そんなことで怒らないでよ。まだ後援会の幹部の方を知らないから緊張しちゃうでしょ?私はここでお正月準備するらしいから頑張るよ」

「準備?なんでつくしがするんだ?」
「さぁ?」


だって志乃さんがそう言ったんだもん。


総二郎達が出掛けた後、志乃さんに教わって西門の大きなお仏壇のお掃除と、総二郎が使う茶事用のお茶室のお掃除、そこにくっついてる水屋のお掃除をした。

そこはお手伝いさん達では手を触れない場所だそうで、西門の縁の人がすると言われた。

「牧野さんは年が明けましたら正式に婚約者となる予定ですし、ご婚儀がいつかはわかりませんが若奥様となられましたらご自分でするのですよ。家元夫人もお若い時は同じようにされたのです。今度はあなたが受け継ぐのですよ」

「はい。わかりました」

「それではもう1度手順を説明致しましょう。お茶室の畳ですが・・・」


時間をかけてそこをお掃除し、水屋という場所の道具の説明も受けた。

「今度はなんですか?おせち料理の準備とか?」
「あぁっ!いいえ、厨房には行かなくていいのです。お正月のお料理は料理長達が大晦日の日にきちんと作ってくれるので宗家の方々は何もしなくていいのです!いいですか?厨房に入ってはいけませんよ?!」

「は?はぁ・・・わかりました」


なんなの?この慌てよう・・・いつも冷静な志乃さんとは思えない言動にキョトンとしてしまった。



掃除が済んだら志乃さんとお遣い。

初釜に使うお菓子を実際に自分の目で見て選ぶようにと家元夫人から頼まれたらしく、それを私と志乃さんで決めるんだと・・・でも、私には和菓子の知識もないからどうしようかと眉を顰めたらクスクス笑われた。

「ご心配要りません。表千家は初釜に使うお茶菓子は『常盤饅頭』と決められておりますの。ですからそれは悩まないのですが、お越しいただいた方にお土産を手渡すのです。今年はお目出度いことが重なりますので特別なのですよ」

お目出度いことが重なる・・・そう言われると顔が赤くなる。
「そんなに照れないで」なんていう志乃さんだって赤くなってて、2人で歩いて近くの贔屓にしている和菓子屋さんに向かった。


選んだのは「黒豆大福」。
つきたてのお餅に黒豆をまぜ、中に粒あんを包んだもの。それと金粉が乗せられた「春霞」という薯蕷饅頭じょうようまんじゅう。お祝い事によく使われるのだとお店の人に教えてもらい、それを特注で頼んだ。


「こちらは西門家でよく使われるこし餡入りの”道明寺”ですが、今回はいかがされますか?」

「ど、道明寺?」

「はい、関西風の桜餅のことですよ。これは桜餅ではなく新春らしく椿餅と言うのですが、道明寺粉という材料が入っているので略して”道明寺”と呼ばれてるんです。お米の食感が残るのが特徴ですね。
その昔、大阪の道明寺というお寺で作っていた保存食がこれの元になっているそうです。武士達の携帯食ですね」


「・・・道明寺が携帯食」
「牧野さん?あの、お菓子のことですからね?」


深い意味はないけどこの道明寺と言われたお菓子、「椿餅」も選んだ。


**


和菓子屋さんの後は呉服屋さんに行って家元夫人に頼まれたものを注文し、今度はわざわざ本邸から離れてもないのに喫茶店で休憩。
志乃さんが落ち着きないのが気になったけど、ここで滅多に食べられない抹茶パフェを頼んだら「総二郎様の前ではしないように」と注意された。

「志乃さん、そろそろ戻らないとお家元がお帰りなんじゃないですか?もう5時半・・・パフェ食べてる時間じゃないと思うんですけど」
「え?あぁ、そうですね・・・そろそろいいかしらねぇ」

「なにがですか?」
「・・・いえ、何でもないんだけど。そうね、戻りましょうか」


暗くなった道を2人並んで歩きながら門が見える所まで行くと、お家元達が乗っていた車がちょうど移動するところだった。
どうやら少し前にお家元が戻ってるみたい。急いで帰ろうとしたら志乃さんに「はしたないので走らないように!」とまた注意された。

でも、お家元が戻ってるのよ?当然総二郎だって帰っただろうし、私がいなかったら慌てるんじゃないかしら?


門をくぐって玄関に入り、慌てて奥の間に小走りで向かった。
でもそこには誰もいない・・・いつもならここにいるのにという場所に総二郎はいなかった。

だから仕方なく母屋の総二郎の部屋に行こうとしたら、彼が大広間の方からやってくるのが見えた。


「総二郎!みんな何処にいるの?私ね、志乃さんとお遣いに行ってて・・・」
「あぁ、わかってるって。いいから来い。みんなが待ってるから」

「は?みんなって誰?待つって私のこと?私、何かしたっけ?」
「何もしてねぇよ。いいから急ごうぜ」

「あ、ちょっと、総二郎?!」


グイグイ私の手首を引っ張るもんだから、このツルツルした廊下で何回転けそうになったことか!
そんな私のことなんて無視して総二郎はまた大広間の方に・・・そして、そこの障子の前に行くと「開けてみな?」って。

恐る恐るその障子を開けてみると・・・

「Happy Birthday!!つくしちゃん!!」



「・・・・・・え?」

その言葉と同時にパーンパーン!といくつものクラッカーが鳴らされて、思わず耳を塞いで後ろに倒れそうになったら総二郎が抱き留めてくれた!
そして耳元に顔を寄せて「お前の誕生日会だってさ。良かったな!」って・・・。


「良かったわぁ!驚かせることが出来て!志乃さん、ありがとう!」
「もう困りましたよ、何処で時間を潰そうかと思って。ヒヤヒヤしましたわ」

「ははは、母さんなんか1箇所挨拶回りしたらすぐに買い物に走ってな。すぐに行方不明になるから困ったよ」
「あら!今時の女の子に何がいいのかわからなかったんですもの。宜しいじゃありませんか、夢だったのよ?」

何がどうなってるのかさっぱり・・・私が呆然と入り口で立っていたら中に入るように言われて、ここでも総二郎に引っ張られて中央に座った。


テーブルの真ん中にはフルーツで囲まれた四角いケーキがあってチョコで私の名前が書いてある。
お料理は西門では滅多に見ないオードブルみたいなもので、ちらし寿司がカップに入って可愛らしく置かれてる。それ以外にも沢山のご馳走が山ほど・・・たった今、並べたのかまだ湯気がたってる。


「・・・まさか、これを作っていたから私に厨房に行くなと?」

「あぁ、そうだろう。俺なんか屋敷を出てからこのことを聞いたんだぜ?先に話したらつくしにバラすと思ったらしい。挨拶回りなんかしねぇでお前の誕プレ買うのに付き合わされてさ」

「・・・志乃さんが私を連れ出したのはこの準備のため?」

「ははっ!そうなんだろうな。みんな必死に計画立てたんだろうよ」


嬉しすぎて総二郎に抱きついてわんわん泣いて、みんなは慌てて私の回りに集まってくる。
そしていい加減泣いたら今度は楽しくなって、志乃さんや古弟子さん、事務長さん、館長さん、料理長、みんなと一緒にご飯を食べた。


こんな温かい誕生日、何年ぶりだろう。
少なくとも5年間はなかった・・・豪華な贈り物が知らない人に寄って届けられるだけで温かくは感じなかったから。

こんなに大笑いして、ひとつおばさんになったのに嬉しくて楽しくて・・・幸せな12月28日を迎えられたのは彼のおかげだ。
今日も私の背中を支えてくれる総二郎のおかげだ。


みんなからもらったプレゼントは両手で持てないほど。
半分総二郎に持ってもらって彼の部屋に戻ったのはもう次の日になってからだった。


本真珠のネックレスは家元から。
可愛い装飾のアクセサリーケースが家元夫人から。
志乃さんから習字用の小筆と、料理長からバカラのワイングラス。事務長からパールの髪留めと館長からカシミアのマフラー。


総二郎からは・・・イヤって言うほど沢山のキスをもらった。





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これが関西風「道明寺」です。(私はこれしか知らなかった・・・💦)

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関東風と言われている「長命寺」。皮の材料には小麦粉が使われています。
江戸時代、東京の隅田川沿いにある長命寺で、桜の葉を塩漬けにし、それでお餅を包んだのが始まりだそうですよ。

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で、こちらが椿餅です。

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これが表千家の初釜用のお菓子、常盤饅頭です。

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参考までに裏千家はこちらの「花びら餅」。真ん中には甘く煮たゴボウがありますが、これは平安時代の「歯固めの儀式」に由来してるそうですよ。

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Comments 6

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2018/11/12 (Mon) 12:45 | EDIT | REPLY |   
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2018/11/12 (Mon) 13:25 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: こんにちは!

えみりん様、こんにちは!

私は今回知りました(笑)
関東ではあれが?みたいなね!・・・味は同じなんですかねぇ?
日本はなんやかんや言って広いのね(笑)

私はね、醤油派です!!
ソースもケチャップもイマイチ好きじゃないんですが、ハンバーグ作ったらこの2つを合わせたものをかけますけどね。
基本マヨネーズは口に入れません。

好き嫌いが多い子供みたい(笑)


亀、まだ超元気です・・・冬眠もう少し後かな?暖冬らしいですもんねぇ。
亀吉、亀太郎・・・どこまで大きくなるんだろう(笑)

2018/11/12 (Mon) 15:53 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

チュン太郎様、こんにちは。

ほほほほ!道明寺を・・・大丈夫でしょう(笑)
パクンと食べてしまうのですよ。パクンと!(お菓子の道明寺だからね?)

常盤饅頭の中身は白餡を緑色に染めたものだそうです。
「ずんだあん」・・・枝豆の餡
「うぐいすあん」・・・青エンドウ豆のあん、とかだそうです。


ゴボウねぇ・・・確かになんでゴボウ?ですよね!
食べてみて味はどうなんでしょうね。餅とゴボウ・・・う~ん。


つくしちゃん、良かったですね♥
総ちゃんったらクリスマスに何億も使ったからお金がなかったのかしら(笑)
身体でプレゼントしてますねっ!あっはは!

2018/11/12 (Mon) 16:03 | EDIT | REPLY |   
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2018/11/12 (Mon) 22:35 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様、こんにちは!

あはは!私はケーキがイマイチなんですよ。
1年で1回食べるかな?

クリスマスでさえケーキは買いませんし、誕生日にも買いません(笑)
和菓子なら大丈夫!!

桜餅も大好きです♥長野の「栗きんとん」が好きです!
昔、会社の工場が長野の飯田にあって、そこに研修で行ったんですが、いただいた栗きんとんが美味しかったぁ!
また食べたいなぁ・・・。

ネットで見てみよう(笑)

2018/11/13 (Tue) 15:05 | EDIT | REPLY |   

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