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今年の初釜が行われる1月7日。
本邸には九頭竜会長の他に後援会の主要幹部と各地方支部の支部長が顔を揃えた。


初釜とは元々は「稽古初め」のこと。今では家元が定めた日程で客を招き、茶事を開くことになっている。
その茶事も薄茶のみではなく茶懐石から入る本格的なもの。

つくしにはまだ経験させてなかったから水屋に控えさせて俺の初仕事を見学させることにしていた。
その時の着物は客の前には出ないけれど色味を抑えた付下げにして髪飾りなどもつけない。狭い水屋で茶懐石の用意もしてあるから派手な着物でウロウロされるのは気が散るからだ。

「つくし、いつかはこれを自分でする事もあると思う。だから空気だけでいい、今日はここでそれを感じ取ってくれ。
そして俺は茶席に集中するからお前の事には構ってやれない。かなりの回数ここと茶室を出入りするけど話すことは出来ないからな」

「はい。わかりました。静かに勉強致します」

「くくっ、そうしてくれ。音さえ立てなければ水屋で少しぐらい腹に何か入れてもいいけど客の料理に手を出すなよ?」
「そ、そのぐらいわかってるわよ!」


初釜の床には「春入千林處々鶯」が掛けられ、茶花には曙椿・結び柳を生ける。

そして待合を進んだ客を躙り口から招き入れ初釜の茶事が始まる。
懐石には寒い時期故の鴨雑煮や蒸した寿司などの温かいものを出すが、それを水屋で揃えるのをジッとつくしは見ていた。

ただ黙々と・・・静かに客の器に盛っていくのも半東がいない場合は亭主の仕事。
俺がそんなものをよそう姿が相当珍しかったのか、言葉は出さなかったけど器の中を覗き込もうとして邪魔をする。ちょっと睨んだら慌てて隅っこに引っ込んだ。

まったく・・・茶懐石は普通の飯じゃないんだからつくしみたいにてんこ盛りにしねぇんだよ!!



中入りになって客は1度茶席を離れる。
その隙に今度は濃茶、薄茶をもてなす準備に入るからつくしにも頼んで座を整えた。


「今日は初釜だから掛け物も茶花もこのままだけど、他の茶事の時はここで総て変えるんだ。独りで進めるのは大変だからこれからはお前に手伝ってもらおうと思ってる。頼んだぞ」

「はい、頑張ります!って言うか・・・ご飯、あれだけで足りるの?」

「あのな・・・茶懐石は茶の前に少しだけ食うもんだからあれで充分なんだよ。本格的にがっつり食って、その後にまた1時間半の茶会をするか?満腹状態で濃茶なんて飲めねぇと思うぞ」

「あぁ、それもそうだよね。総二郎、ケチだなぁって思ってた」

「・・・ケチ?俺、今まで1回も言われたことねぇけど」



まぁ、こんな感じで後座に入り、今度は濃茶、薄茶と続いていく。
静寂な空気の中で点てられる濃茶の後には後炭手前を行い、最後の薄茶の時には客とも会話も弾んでくる。
この会話が弾んで行く途中に正客が「もう充分にいただきました」とお開きの合図を送って来ると茶事総てが終了。

躙り口から出て行く客を見送ってから茶道具を片付ける。


今からこの連中が大広間に集まって新年の家元挨拶・・・つくしの事をみんなに紹介する時が来た。



**


ここでつくしは着物を着替えた。
地味な付下げから最高級の振袖・・・前回お袋が衝動買いしたものは朱赤の大振袖だったが、今日はまた別に手配させた振袖が出された。

京手描友禅の「四季彩吉宝花丸紋」・・・紗綾型に草花をあしらった紋綸子地を用いて、地色は上品なシェルピンクに染めたもの。
梅、椿、桔梗、桜、杜若などの風雅な草花に浮かび上がる花丸紋、そして宝尽くし。

金駒刺繍という技法で鮮やかな菊の文様が特に美しくて、つくしは着る前から袖を通すのが怖いと腰を曲げていた。


「なんでここまで来て逃げ腰なんだよっ!いいから早く着替えろ!抵抗すると俺が脱がすぞ!」
「ヤだぁ!総二郎、だってこれもすっごい金額の着物だよ?怖くて怖くて・・・こんなの着て反対されたら立ち直れない~!」

「それは大丈夫だって何度も言ってるだろう!ただ恐ろしい顔した爺さん達が20人ぐらい並んでるだけだ。お前は座ってるだけなんだから怖がるな!」

「・・・はぁ・・・なんか息が止まりそう・・・」
「目出度い席に縁起でもない!ほら、志乃さんが待ってるから部屋に入れ!」

髪結い師と着付師と志乃さんが呆れた顔して待ってる部屋につくしを放り込んで、俺も身支度を調えるために1度自室に戻った。



大広間に行く時間が来て、俺はさっきつくしを投げ込んだ部屋に向かった。

「お支度はお済みですよ」と、志乃さんが言うから中に入ると・・・一段と美しくなったつくしが立っていた。


華美になりすぎないようにと纏められた黒髪には梅の花を模った髪飾りをつけ、流石最高級の着物だから着てみると模様の流れが完璧・・・帯ももちろん特注品だが、年齢を考えて飾り結び。
蝶が羽を広げたような形に仕上げられててそこは可愛らしかった。

メイクも当然和装に相応しく、目尻にかけて赤っぽくさせた濃いめのアイカラーに黒のアイライン。着物に負けないローズの口紅はつくしによく似合っていた。

華やかなメイクと対照的にほっそりとした白い首がこんな時でも色っぽい・・・ゴクリと喉が鳴ったのを志乃さんが聞き逃さなかった。


「総二郎様、落ち着かれてくださいませね。間違っても着崩れの原因となりませんように・・・宜しいですか?」

「勿論。志乃さん、何か誤解してるよな?俺はそんな・・・」
「誤解?いえ、本心からの心配でございますが?」

「・・・・・・大丈夫。時間だからすぐに行こうか」


2人きりになったら自信がない。ここはすぐに大広間に行った方が賢明だ。



**



大広間では既に今日の客人が揃っていて、まずは家元が入室、それに次いで家元夫人、俺、孝三郎が続いて入った。
つくしの紹介はこの後だから志乃さんがついて廊下で待機。


「皆様方、明けましておめでとうございます。本年度もどうか西門を・・・」

家元の挨拶が始まり一同がそれを聞いていた。それも在り来たりの言葉で進み、続いて九頭竜会長の挨拶、支部連代表の挨拶と続いて形式的なものが総て終わると家元が俺の方をチラッと・・・あぁ、今からか、と再度姿勢を正して大広間の連中を見据えた。


「本日は皆様にご報告がございます。隣におります、息子総二郎でございますがこの度、生涯を共にしたい方がいるとの話しがございました。私共とは既に顔合わせを済ませておりまして、親としましてはこの上なく喜んでおる次第でございます。
何人かの方はもうご存じかと思いますが、ここでお相手の方をご紹介させていただこうかと思いますが・・・いかがでしょうか」

一部では知らなかったのかザワザワと声が聞こえる。
中には露骨に眉を顰めるヤツ・・・佐川の爺さんがそうだが、数人は自分の娘を・・と思っていただろうから視線を逸らせる支部の連中もいた。


「宜しいのではないでしょうかな。お家元、どうぞお呼びくださいませ。私はあのお嬢さんは大変気に入っておりますよ」

この空気の中、九頭竜会長がボソッと言うとその回りの爺さん達が途端に静かになり、家元は「それではお入りなさい」と声をかけたらスッと襖が開いた。

そしてつくしが静かに入ると「ほぅ・・・」と低い驚きの声がした。
入ってすぐその場で正座し、並んでいる客人達に丁寧に頭を下げ、顔を上げると凜とした表情で自己紹介をした。


「お集まりの皆様、初めてお目に掛かります、牧野つくしと申します。どうぞ宜しくお願い致します」


練習通りの美しい所作、力強い目・・・多少声が上擦ってはいたが堂々と挨拶を終え、俺は席を立ってつくしの傍に迎えに行った。そっと手を差し伸べたらそれを取って立ち上がり、俺の後について横に移動し、今度は正面から客達に一礼した。


「牧野さんは月代家の縁のお嬢さんで総二郎から茶の指導を受けて5年になります。先日も九頭竜会長には牧野さんの茶を飲んでいただき、和やかな時間を過ごしていただいたばかりでございます。
まだまだ稽古は必要ではございますが、何より総二郎の希望が強うございましてな・・・皆様にご了解いただければ正式に婚約者として公表したいと思っております。何かご意見はございますかな?」

家元の言葉に、何か言いたそうな人間はいるがそこには九頭竜会長がチラッと視線を送る。
婦人会の連中も何か言いたそうだったけどそれには家元夫人がニコリと笑って「何かしら?」なんて圧力をかける。


つくしはすげぇ頑張って前を見つめていたけど、時間が経つと緊張しすぎて顔が強張ってきた。
だから少しその顔を見て俺が笑うと途端に真っ赤になる・・・慌てて着物の袖を掴んで照れたような表情をしていたら会長がからかってきた。


「おやおや、仲が宜しいですなぁ。ほほほ、最近の若宗匠のお茶が優しく感じるのはお嬢さんのせいですかな?少々冷めたところをお持ちだった若宗匠がそのような笑顔になられるとは・・・余程お好きなのでしょうなぁ」

どこからともなくクスクスと笑い声が・・・。


結局誰も反意など示さず、つくしはこの日、正式に婚約者として認められた。




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茶花「椿」の一口メモ♥

茶室において、茶花は季節をあらわすもっとも重要な意味を持っているそうです。

利休の言葉、「花は野にあるように」・・・お茶室の茶花は咲き誇ったものよりも今にも咲きそうな蕾が好まれるんだそうです。
限りある命である花は「一期一会の心」も映すんだとか。


その茶花のなかでも椿は茶花として最も代表的な花。椿は茶花としての格が高いものなんだそうです。
私もよくはわからなくて本を読んだだけですが、椿は一種類の花だけで生けることができる、花としての「一種」、
花入れの口元近く低く入れる花としての「根締め」・・・という高い格のついた花。んん?何のこと?(笑)

確かに草花は色んな種類のものと生けてある写真が多いのですが椿はそれだけってものが多いです。
椿の他に一種で生けることのできる花には菖蒲、牡丹などがあるそうです。

花に品格があって一種でお茶席に季節感を示すことができることが格の高い花・・・ほう、なるほど、ですね!


炉開きが行われると茶席の花は椿が主流になります。
秋の早い時期に咲き始めるのがその名も「炉開き」、茶の花に似た小輪の種類です。

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11月の口切りの頃につぼみが玉のように丸い「白玉(しらたま)」、
とがったつぼみで木枯らしの吹く頃に咲く「初嵐(はつあらし)」などの椿が咲きます。画像は初嵐です。

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新年の最初の茶席・・・このお話のように初釜では結び柳に桃色のつぼみをつけた「曙椿(あけぼのつばき)」を生けます。

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椿を茶席で飾るには、実は葉も大切。
つぼみと葉の調和があってこそ美しくつぼみが映えるので、必要なだけの自然な枝を選びます。

春の椿の代表的なものとしては「六歌仙椿(ろっかせんつばき)」。赤と白の絞りの模様が鮮やかです。

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「乙女椿(おとめつばき)」は蕾ではなくピンクの花びらが美しく咲くものを飾ります。

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2018/11/15 (Thu) 11:34 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

利休・・・いや、抹茶と鶯様。こんばんは。

ははは!茶花・・・私はお茶の中では茶花が1番好きです!
まだ意味が少しはわかる。禅語になったら全く意味がわかりませんから。

乙女椿は家にあるのですが本当に薔薇みたいで可愛いです♥
でも意外と早くに茶色に変わって枯れてしまうので残念・・・そして落ちたら花びらが多いのでぐちゃぐちゃに(笑)

こういうのが生けられるといいんでしょうけどねぇ。
見ると簡単そうだけど「採ってきなさい」って言われたらどれ採っていいか全然わかんないんでしょうね(笑)
葉っぱは奇数か偶数か、花で決まるらしいですよ?

そこまで煩く言わなくても・・・って思うけど。ははは!


はい!ちゃんと認められてこれからお式まで・・・ふふふ、やっとこさラストです♥
応援宜しくお願い致します!


2018/11/15 (Thu) 20:48 | EDIT | REPLY |   

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