FC2ブログ

plumeria

plumeria

秋になって少し風が冷たくなった頃・・・だんだん心の奥が痛くなってきた。
あと半年・・・あと半年しかなくなったんだって、10月になったら毎日のようにその事ばかりが頭を過ぎる。

たまに仕事でミスして先輩に心配されて落ち込む時もあった。

諦めなきゃって思うほど諦められなくて、考えちゃいけないって思うほど考えてしまう。
離れなきゃって思うほど・・・やっぱり傍にいたい。
この想いを伝えずに別れた方がいいのか、それとも返事は要らないから伝えれば満足する?・・・その答えは出なかった。

傍にいられないのなら・・・それなら・・・


RRRRRR♪

どうしていつもこの人の事を考えていたら電話が鳴るんだろう・・・かけてきたのは花沢類だった。


「もしもーし。どうしたの?お昼休み?」

『うん、取引先の担当者とお昼食べてて終わったとこ。でさ、今一緒に居た人から素敵な場所があるって聞いたんだけど、紅葉見に行かない?』

「紅葉?何処に・・・遠いところ?」

『くす、その時教えてあげる。行かない?次の土曜日にさ』

行かない・・・って言った方が本当はいいんだろうけど「うん!行く」って、こんな時だけ素直に答えてしまう。
そして会わない方がいいって数分前に考えていたのに、今度は着ていく服を考える・・・これをあと何回繰り返すんだろう。




次の土曜日。
久しぶりにお弁当を作った。

前の日の夜に頑張って準備した栗ご飯。カボチャのコロッケにブロッコリーのゴマ和え、それに鶏とサツマイモの南蛮酢炒め。
後は卵焼きにサラダとフルーツ。彩りにも工夫してまるで運動会みたいに盛り付けて・・・花沢類、喜んでくれるかな?

それをバスケットに入れて、今日はホット珈琲を準備した。
朝ご飯はいつものように簡単なサンドイッチを少しだけ。どうせギリギリまで寝てる彼は食べてこないんだから。

約束の時間になって花沢類の車が見えると、急いでバスケットを持って部屋を出た。


「おはよう!花沢類」
「・・・おはよ。くすっ、今日も朝から元気だよね」

「よう言うわねぇ、誘ったのそっちじゃない。朝ご飯は?」
「食べてると思う?」

「思うわけないでしょ!」って車に乗って動き出したらすぐにガサガサとバスケットの上の方に置いてたサンドイッチを取りだした。チラッと見たらニコニコして・・・初めから期待してたな?って口を尖らしてみたけど、本当はすごく嬉しかった。

食べやすいようにサンドイッチの下の部分を紙ナフキンで包んで手渡すと「ありがと!」って小さな声で言われて、「どういたしまして。もう慣れちゃった」って答えた。
そのぐらい・・・今年は2人で出掛けたもんね。


「今日は何処に紅葉見に行くの?日光とか?人が多そうだよね」
「ううん、山じゃない。茨城県だよ」

「茨城県?へぇ・・・有名なところがあるんだ?」

「行ったらわかるよ」・・・珈琲持って片手ハンドル。
その腕に今日もつけてくれてる私のあげたブレスレット。少し秋には不似合いな色合いだったけど、今でもつけてくれてることが凄く嬉しかった。


車は北関東自動車道に入って目的地へ。
ついたのはひたちなか海浜公園って言う海に近い場所・・・紅葉って言ったからてっきり山の方だと思っていた私は開放感溢れる広い公園に驚いた。

そこの紅葉は「コキア」という植物・・・下を見ながら紅葉だなんて初めて。
コキアの向こう側には一面の秋桜畑が広がっていて、そっちはカラフルで可愛らしい花が満開!綺麗に咲きそろっていて、それが風邪に揺られて気持ち良さそうに・・・沢山の観光客もいて賑やかだった。

「驚いた?俺も話は聞いていたけど来たのは初めて。コキアってホウキギ属の一年草で、原産地はユーラシアの乾燥地帯なんだって。夏に来ると綺麗な緑色みたいだよ」

「草なのに紅葉するんだ!へぇ・・・でも真っ赤な絨毯みたいでホントに綺麗ね」

「日本だと”箒草(ほうきぐさ)”って言うみたい。昔はこの茎を乾燥させて箒を作ってたんだって。ここのは観賞用だけど実ができたら食べられるらしいよ」

「うわっ!お得な植物なんだね!」
「・・・ぷっ!」


真っ青な空と太平洋と、鮮やかな赤と秋桜・・・綺麗すぎて涙が出そう。
それがこの景色のせいなのか、それとも別の気持ちなのかはわからないけど熱くなる目元を拭ったらその手を花沢類が急に引き寄せた!

「うわっ、どうしたの?」
「ん?すごい人混みなのに牧野が立ち止まるからだよ。ほら、こっち・・・少し空いてる所に移動しようか」

「あっ、ごめん!ぼーっとしちゃった・・・感動しすぎて」
「うん、わかってる。お腹も空いたんでしょ?せっかくだから秋桜の中で食べようか」


無意識に繋がれた手・・・急にそこに熱が集中して掌に汗をかいてる。
それが伝わりませんようにって願いながら、少し前を歩く花沢類の横顔を見てた。


秋桜畑の中で作ってきたお弁当を広げて、向かい合わせじゃなくて隣に座って食べた。思ったよりシートが狭かったから・・・。
栗ご飯なんて食べたことがないって不思議そうに眺めてる。それが可笑しくてクスクス笑うと怖々とひと口食べてくれた。

「あっ、美味しいかも。栗って米の中に入るって思わないじゃん」

「あはは!変な言い方だね、花沢類」

「栗ご飯用の栗って売ってるの?」

「売られてるけど私は普通の栗から作るよ。鬼皮と渋皮を剥くの、結構大変なのよ!お湯につけて柔らかくしたらお尻の方を切り落として鬼皮を剥いて、それから渋皮でしょ?鬼皮が固いとホント疲れちゃう!でも出来上がったら美味しいから手間がかかった事なんて忘れちゃうけどね~」


「楽しないんだね、牧野」
「・・・え?」


隣を見たらカボチャコロッケ手に持って「これも美味しい!」って、子供みたいな笑顔の彼だった。



****************



どのぐらい早起きして作ったんだろう。
どのぐらい下拵えに時間をかけたんだろう・・・そのぐらい綺麗に詰められたバスケットの中身に感動して、それを残さず食べてしまった。

どれも本当に美味しくて毎回嬉しくなる。
この前見た運動会の子供達・・・俺も今、あの子達と同じ顔になってるんだろうな。


「ここさ、5月にはネモフィラって言う青い花で埋め尽くされるんだって。それもいつか見に来ようよ」

「5月・・・?でも・・・」

「ん?どうかした?真っ青な絨毯も綺麗だと思うよ」
「・・・そうだね」


でも・・・のあとはなんて言おうとしたの?
不安が限界まで来てる、そういうことなんだろうね。ごめんね、牧野・・・もう少し待ってて?


「肌寒くなってきたね。そろそろ帰ろうか」
「うん!連れて来てくれてありがとう!明日会社で自慢しなくちゃ!花沢類、写真撮って?」

「はいはい、コキアの所に行って撮ってあげる」

空になったバスケットをブンブン振って牧野が元気よく走っていく。俺はそのあとを笑いながらついて行く。
コキアの植えてある場所の少し手前で牧野が立ち止まって何かを呟いた。


逆光で顔がよく見えなくて、俺から離れ過ぎてて聞こえなかったけど・・・「何処にも行かないで」、そう言ったような気がした。


傍まで行ったらその顔は明るくて、スマホを向けたらいつもの笑顔でピースサインをした。
「花沢類も撮ってあげる」なんて言われて慌てて真顔でピースサインしたら、撮った写真を見て大笑いされた。


「じゃあさ・・・帰りは山の方に回ってモミジを見て帰ろうか」
「遅くなっちゃうね。花沢類、大丈夫?」


「大丈夫だよ。あんたがいるから」








両親が次の候補者を探し始めた。

沢山のリストから選りすぐられたその人の経歴や写真を俺に差し出し「会うだけ会ってみて?」と。
勿論見る気もしなくて書類は広げないまま突き返した。


「あの人のように傷つけたいですか?申し訳ありませんが同じようにしか接することしか出来ません。誰を連れてこられても、たとえそれが何処かの国のプリンセスだと言われようがお断りします」

「類・・・彼女と花沢、どちらを選ぶの?!」


「勿論、俺は牧野を選びますよ」


そう言い残して部屋を出ようとドアまで行ってから振り向き、母さんに聞いてみた。


「母さん、俺はあなたの手料理を1度でも食べたことがありましたか?」
「・・・え?手料理?」

「なんでもありません。失礼します」


次はどんなご飯が食べられるんだろう。俺の知らないものがきっと沢山あるんだろうね。
それを1つずつ、牧野が教えてくれるんだろうな。





ef552f54ba516769f0b5a618cbe745ae_t.jpg
関連記事
Posted by

Comments 4

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/11/26 (Mon) 11:33 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/11/26 (Mon) 12:49 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんにちは!

ネモフィラは知っていたんですがコキアは知りませんでした。
そうだなぁ・・・私は出来たらネモフィラを見たいな(笑)
綺麗でしょうねぇ・・・!

写真で見たんですが真っ赤な植物が一面にあるって怖くないですか?(笑)
モミジみたいに見上げるのは何となくわかるんですけど、コキアの紅葉は想像が出来ません。
でも、素敵なんでしょうね。秋桜は大好きですけど。

そろそろお出掛けも終わり、このお話のエンドに入ります。
長いこと焦らしてごめんなさいね♥

2018/11/26 (Mon) 16:37 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様、こんばんは!

いいなぁっ!こっちは(西日本は)紅葉はするけど鮮やかではないと思うんですよね。
1度関東以北の紅葉を見に行きたいです♥

この公園のネモフィラは7よく写真で見ていましたがコキアは初めて知りました。
私は行く機会がないんだけど、是非是非行ってみてください!行ったら感想聞かせてくださいね♥

ふふふ、類君、頑張っています。
2人の旅も実はこれが最後です。これからはラストに向かいます。お楽しみに♥

2018/11/26 (Mon) 19:40 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply