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plumeria

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大学の最終学年・・・私はまだ就職も決まってないし、その希望すらなかった。
どんな仕事をしたいとか、何処で働きたいとか、そんなことがぼんやりとしか浮かんでこなかった。

早い話がやる気が何も起きなかったって事だけど。


「はぁ・・・桜も終わったわねぇ・・・」

去年の今頃、総二郎に告白されたことを思いだして最後の桜が散っていく中を1人で歩いていた。
新入生のくせにもう彼氏なんか作ってキャアキャアしてる子が擦れ違う・・・その子達が通り過ぎてから何故か自分の眉が凄く歪んでるのに気が付いたりして。


あぁ、もう1年経ったんだなぁ・・・でも、まさか1年で終わるとは思わなかったなぁ。
だって、何度もあの人が「本気だ」って言ってくれたんだよ?

何がダメで、何を失敗して私達は別れたんだろう・・・いや、そもそも私のことなんて興味本位だったって事かな。何にも知らない子を育ててみたいって、ホントに「光源氏的発想」でからかったのかもね・・・。

まるで水たまりを蹴るかのように桜の絨毯を足で掬いながら歩いていたら、後ろから大きな溜息が聞こえた。


「何やってるんですか?先輩」
「ありゃ、桜子。あんた、いっつも変なところだけ見てるよね」

「ご自分の冴えない顔をご覧になったら?年末まではウキウキしてて可愛かったのに今年は随分と老け込みましたねぇ!」
「煩いわね!1つ歳取ったんだから当たり前でしょ!あんたみたいな顔の作りじゃなくて悪かったわね!」

「あっ、西門さん!」
「えぇっ!ど、ど、何処にっ?!」


桜子が急に彼の名前を出したから驚いて自分の周りをぐるっと見回した・・・でも、誰も騒いでないし、奇声も聞こえない。
あれ?って桜子を見たらクスクス笑っていた。

「あんたっ!ホントに性格悪いわね!そんな嘘つかないでよっ!」
「あら、嘘だなんて。見間違えだったようですわ」

あんな人と誰を見間違えるってのよ・・・全く!
桜子なんて放っといてさっさとバイトに行こうと足を早めたら、背中からまた余計なひと言が飛んで来た。


「先輩、意地なんて張らずにさっさと仲直りしたらどうです?可愛らしく『ごめんね?』っていいながらほっぺにチュっ!ってしたらいいんですわよ。なんなら私がお手本見せましょうか?」

「あのねぇ!私が謝らないといけない事なんてないのよ!総二郎が勝手に怒ってんの!もう私より他の女の子を誘って何処かに行ってるみたいだし・・・だからいいのよ!」

「それだって確かめたんですか?先輩、昔から早とちりでしょ?何か見たんですか?本人から聞いたんですか?」
「・・・ううん、何にも」


この後も私がバイト先に到着するまで延々と桜子に説教された。

好きになった相手があの人なんだから多少の事は我慢しろとか、たまには尽くしてやれとか、ドキッとさせるようなテクニックを身に付けろとか太れとか・・・最後の方はどうもアッチの話になってるようで、公道を歩きながら恥ずかしいってもんじゃない。

私みたいな平凡な子が総二郎と付き合うってのはそのぐらいの努力がいるんだって・・・。


「桜子・・・あんたの言いたいことも解るけど、それだと私が自分自身に嘘つかなきゃいけない部分も出てくるでしょ?私ね、そんなの出来ないの。雑草の牧野つくしは雑草のままであって、いきなり百合や牡丹の花にはなれないの」

「でも、頑張らないとこのままだと本当に逃がしますわよ?」

「頑張らなきゃ引き止められないんじゃ私には無理だよ・・・だって見栄張って生きることも自分を飾ることも出来ないもん。有りの儘の私を好きでいてくれるって言う人じゃなきゃ・・・そういう意味で総二郎はダメだったんだよ。
ありがとう・・・あんたの心配は嬉しいよ。気持ちだけもらっとく!じゃあね!」


あの子が何か言い出さないうちに顔も見ずに走り出した。

今日のバイト先は団子屋さん・・・早く休憩したい女将さんがきっと首を長くして待ってるんだから!



***************



大学を卒業してからは親父の隠居願望が膨らんで俺にばっかり茶会の亭主を押し付けるようになった。
今までなら文句の1つも言って半分ぐらいは拒否してきたが、今年はそれを全部引き受けたから親父達の方が驚いてやがった。

去年の今頃はつくしを手に入れて浮かれまくってたが、今年はあいつが傍にいないことで心に空いた穴を埋めるために茶会・・・全然気持ちの入らない茶会で申し訳ないような気もするが、何かしてないとつくしの笑顔が頭から離れねぇから・・・。


「総二郎さん、京都のお爺様から釣書が届いたけど見てみる?何でも関西支部長の姪御さんでK大在学中の才女ですってよ?容姿の方は・・・まぁ、支部長に似てるって感じかしら・・・どう?」

「・・・いや、そんなのどこから来ても見る気はねぇよ。悪いが断わっておいてくれ」

「お写真も見ないの?」
「関西支部長に似てるんだろ?・・・いいや、別に」

いや、狸親父に似ていようが、ミスK大と言われようがそんなものは興味ねぇし。
どんな女が来ても、あの桜の木の下で見たつくしの笑顔には勝てねぇもんな・・・。



そんな桜も終わった。
遅咲きの桜が根性で咲いてるのを茶室から眺めながら道具を手入れしていたら、使用人が血相変えて飛び込んで来て、俺への急な来客だと伝えてきた。


「総二郎様、申し訳ございません、この後のご予定をお伝えしたのですが時間はかからないからと玄関で睨まれまして・・・」
「アポも取ってねぇんだろ?追い返せ!」

「それが話すまで帰らないと仰って・・・お名前を聞きましたら『後輩です』と、それだけで・・・」
「・・・なんだと?」


誰だ?この俺に話すまで帰らないとまでいうヤツで俺の後輩?何となく1人しか思い浮かばないけど・・・。
仕方なくその場に道具を置いたまま客間に向かった。




「・・・で?なんの用だ、桜子」
「解ってるくせに。先輩のことですわ」

なんの約束もしてないのに西門に怒鳴り込んできて俺のスケジュールを無理矢理変更させ、目の前に座ってるのはやっぱり桜子。俺の顔をすげぇ恐ろしい目で睨んで、つくしのことだと言って腕組みしてやがる。

この様子だとつくしに頼まれたんじゃなく、腹を立てた桜子が自分の一存でここまで来たな?と、そう思った。


「あいつがどうかしたのか?どうせ大学で落ち込んでるとか喋らないとか食わないとかの話だろ?悪いが俺にはどうしようも出来ねぇけど?あいつが俺とはもう会わねぇって言ったんだから」

「その原因は何かって聞いてるんです!先輩は何も言わないし、西門さんにはもう他に女性が居るって言い出すし!それは本当なんですの?」

「は?俺に新しい女?そんなもん、いる訳ねぇだろうが!原因は・・・牧野がわかってるんじゃねぇの?自分の行動を思い出したら普通は気が付くだろうと思うが?」

「先輩の行動が原因?西門さんの女遊びじゃなくて?」
「だから!遊びは止めたって言ってんだろうが!」


何処でそんな話になったのか、桜子の話だけじゃそれがいつの事なのかさっぱり・・・だが、つくしと付き合う前から止めてた女遊びなんて再開させてねぇし!
茶を持ってきた使用人がビビるぐらいの俺達の睨みよう・・・美人ってのは睨んだ時の恐ろしさは半端ねぇな・・・って俺も目を吊り上げながら思った。


「西門さんはもう先輩の事をなんとも思ってないんですの?」

「・・・なんでお前に言わなきゃいけねぇんだよ。関係ねぇだろう」

「そうですか・・・それではこの先、私が先輩に素敵な男性をお世話しても文句言わないでいただけますか?」

「はっ?!あいつに男を・・・馬鹿じゃねぇの?そんなの牧野に連れて来ても無駄だと思うぞ」

「どうしてですの?もう彼氏じゃないんなら口出し無用ですわ。元彼ほど厄介で余計なものはありませんもの。邪魔しないでくださいね!」


「・・・厄介で余計で邪魔?」


この言葉を最後にスッと立ち上がり、桜子は客間を出て行った。

それにしてもつくしは何を勘違いしてんだ?
俺が他の女を誘って何処かに・・・そんなの卒業式の後に数回飲みに行って、そこの女と2軒目に行ったことは確かにあるけど、つくしがそんな場所に来るはずはない。


それにあいつに素敵な男性?俺は既に元彼?

そっちの方が実はすげぇムカついた。
つくしが簡単に俺の知らねぇ男に靡くとも思わないし、そんなに軽い女じゃねぇ。


『失恋の傷は新しい恋で癒やすんですのよ』・・・これ、いつも桜子が言ってる言葉だよな?


まさか・・・!本気で?




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