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「ねぇ、類、今日社員食堂に行ったの?どうだった?」
「うちの社員食堂はなかなか評判なんだろう?総務部の絵里子君が・・・あっ、何でもない」

夕食の時に俺が社員食堂に行ったことを噂で聞いたらしく、母さんがその話題を振ってきて父さんが墓穴を掘った。
母さんがジロリと睨んでるから早々に部屋に入って追求なんだろうね・・・ってことは置いといて、牧野が明日から社員食堂で働けることを伝えたらそれはそれで喜んでいた。


「美味しかったと思うけど人が多くて驚いた。社員証が要ることも知らなかったから藤本に教えてもらったよ」

「社員証?私たちも持ってるの?」

「俺も殆ど使わないけどシステムセキュリティールームに入る時、ドアロック解除に使うじゃん、あれだよ」


「・・・明日会社で探してみるわ」
「・・・私も探してみよう。何処かにあるんだろうな」


食事もほぼ終わって加代がいつものようにデザートと珈琲を準備していると、早く話が聞きたかったのか牧野がソワソワしてる。部屋に戻ってからゆっくり話そうと思っていたけど「少しだけ説明しようか?」って言うと嬉しそうに頷いた。

「朝は9時からで終業は5時までだって。休憩は45分ほどあるけど殆どが立ちっぱなしだよ?大丈夫?」
「うん!ずっとデスクワークだったから、そういうのに憧れてるの。体力はあると思うから頑張る!」

「結構大変そうだったよ?1日に2500食ぐらい作るって言ってたから」
「2500食?・・・すごい!そんなに人がいるの?」

「外部から一般の人も食事だけ食べに来てもいいようになってるし、商談の一部として使えるように個室もあるから取引先の人間もよく来るんだって。席だって1200席でワンフロア全部が社員食堂になってるんだ。仕事の流れは俺にはわかんないけどね」

「・・・想像できない。1200席・・・」


よく考えたら花沢の本社ビルに入ったことがないんだからわからなくて当たり前か。
大きな目を余計に大きくしながら、ケーキのフォークを口に咥えたままの牧野に3人で笑ってた。


**


「牧野、明日からこれ、持ってて」

部屋に戻ったら今日、契約したばかりのスマホを渡した。
最新型でコンパクトな大きさの白いスマホ。それには俺と両親、自宅と加代、あとは専務室直通の電話番号を入れておいた。


それとキュイジーヌ入社の書類と専用履歴書。
それを渡したら俺の部屋の椅子に座り、テーブルに並べて悩み出した。

「どこがわからない?言ってくれれば教えてあげるよ」
「住所・・・宮崎を書かなきゃダメ?」

「・・・ここを書いておけばいいよ。俺の依頼で入るってわかってるから。住所は東京都・・・」
「うん、ごめんね」

「色んな規定のこととかは自分で確認してね」


それが終わったらスマホに通信アプリを入れてお互いを登録して、これからは電話出来ない時はメッセージで連絡してね、と言えば嬉しそうに何回も試して送ってきた。
真横にいるのにそのメッセージで「色々ありがとう」って・・・隣を見ると照れ臭そうに笑っていた。


ここでずっと気になっていたことを聞いてみた。

牧野の九州での生活の事・・・立ち入らないようにしようと思っていたけど、仕事まで紹介したのならもう少しここに滞在するかもしれない。何も知らずにいることは出来ないような気がしていた。

って言うか・・・俺自身が知りたくなっていたのかもしれないけど。


「あのさ、牧野・・・ちょっと聞いてもいい?」
「ん・・・なぁに?」

終業規定の書類に目を向けながら生返事・・・そんな彼女に思い切って言葉を出した。


「宮崎の事なんだけど・・・牧野、本当は何をしてたの?自営業って言ってたよね?軟禁状態で出してもらえなくて世の中のことを知らない・・・自分で新しい事を見つけたいんだったよね?」


この言葉で驚いたような顔を見せて、読んでいた冊子を閉じた。
1度俺の事を見たけどすぐに自分の手元に視線は移り、そこで何故か困ったような顔を見せた。

何か喋られない複雑な事情でもあるんだろうか・・・知られたくないこと?まさか犯罪絡みとかじゃないよね?
話そうとしてるのか口元がもごもご動くけど言葉にならない。

だからいつものようにココアを入れて、それをコトンとテーブルに置くと小さな声で「ありがとう」なんて言ってひと口飲んで・・・ホッと小さく溜息を漏らした。


「話せる範囲でいいよ。これはね、あんたをここから出すつもりで言ってるんじゃないんだ。
花沢の内部で働くことになったし、身元って言うのかな・・・少しは知っておかないとね。喋りたくないことは無理に言わなくていいけど、せめて何をして過ごしていたかは教えてもらえる?」


「うん・・・」



*******************



類が私の事を聞いてきた。
そりゃ当たり前・・・今まで問い詰めなかったことの方が驚きだもん。

私はキュイジーヌの書類を目の前にして、そこに書いてある現住所に目が行った。東京都・・・だなんて書いちゃって。


「実はね、私・・・両親から離れてお爺様と暮らしてたの。お爺様は会社経営してるんだけど子供が私の母1人でね・・・父と結婚したんだけど、その父が気弱な人で要領も悪くて、お爺様のお気に召さなかったから私が養子になって・・・」

「じゃあ牧野のご両親は何処にいるの?」

「両親も隣に住んでたからいつも会ってたよ。両親もお爺様の会社の役員だもん・・・で、弟が1人居るんだけど、その子も同じ会社で働いてるわ」

「家族経営って事だね」


何処まで話せばいいだろう。
瀧野瀬の名前は出したくない・・・出来たら五十嵐さんの名前も出したくない。

それ以外なら話しても類は判ってくれるかしら。


「それで?牧野はお爺さんの会社の何をしてたの?デスクワークって総務とか経理じゃないの?」

「うん・・・それがね、お爺様ったら私を外部の人に会わせるのを凄く嫌ってて、高校だって送り迎え付きで行事は全部不参加で常に誰かに見られてて・・・そのぐらい友達を作ることや遊びに行くことを禁じられたの。
働くようになってから、って言うか今考えたら働いていたのかしらって思うことがあるのよ」

「どういう事?」

「・・・自宅の一室にパソコンだけ置かれて、そこでずっと為替レートのチェックしたり、お爺様に頼まれてそれを売り買いしたりしてた、それだけなの。後はたまに色んなコンピューターシステムのプログラムを作らされたりしたわ。
でも、それが私の仕事だと言われてやってきたのに、この前類がそんなことは1人ではしないって言うから、おかしいなって思って・・・私は仕事をしていたのかしら?」


質問されてるのは私なのに逆にそんなことを類に言うなんて。

でも類はずっと黙って話を聞いていてくれて、驚いた様子も嫌な顔もしなかった。少しだけ口元に手を当てて考え込んでいたようだけど、しばらくしたら真顔で聞いてきた。


「その取引って個人口座?それとも牧野のお爺さんの会社の口座?」

「お爺様の口座・・・個人名義の口座だったわ」

「じゃあ会社としての仕事じゃなくてお爺さんの個人的な投資に対する手伝いって事だね。それを仕事だと言われてたの?」

「うん。中学に入る前からこれが将来の私の仕事で、これは大事なことだから誰にも話してはいけないし、見られてもいけない・・・1人でやり遂げなさいってお爺様が言ってたわ。だから類に話したのが初めてなの」

「中学になる前って・・・小学生から?」

「そう。私、何故かその為替レートを予測するのが得意で資産を増やしていくのが面白かった・・・それをお爺様がとても素晴らしい才能だから自分の会社で役立たせろって・・・そんな時にあの人まで現れて・・・あっ!」

「あの人?」


五十嵐さんの事を言うつもりはなかったのについ・・・あの人って言葉を出したから類がそれに反応した。

でもまぁ・・・結婚するつもりもないし、それを破棄したいから飛び出したんだもん。
存在だけ話したっていいのかも?って、お爺様が勝手に決めた婚約者が居ることを話した。



「は?婚約者?・・・ってあんたに?」

「そうなの。すぐにでも結婚しろって言い出して、それが嫌で自分で恋を見つけたくて飛び出してきたの」



面白いほど目を大きくした類・・・その目がいつになったら元に戻るのかと心配になって、私も類を見つめてしまった。





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Comments 4

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2018/11/30 (Fri) 00:47 | EDIT | REPLY |   
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2018/11/30 (Fri) 05:43 | EDIT | REPLY |   
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Re: タイトルなし

まりぽん様、こんにちは!

ふふふ、こんなに巫山戯たお話ですが、実はダークな部分もあるんですよね。
それがこれから出てきます。

でも、五十嵐君より先に問題多発・・・彼が出てくるのは随分先なので忘れないでくださいね(笑)

まずはつくしちゃんにお仕事初めてもらいます!
類君がイライラする出来事もあるかも?

年内には告白させたいなぁ(笑)

2018/11/30 (Fri) 11:47 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんにちは。

知っちゃいましたねぇ(笑)
純粋に驚いてるだけみたいですけどね!

ただ、これでつくしちゃんを実家に返せないとは思ったんじゃないでしょうかね・・・。

だんだん近づいてきた2人です。
見守っていただけると嬉しいな♥

毎日コメントありがとうございます。
明日から12月・・・忙しくなりますのでお身体に気をつけて下さいね♥

2018/11/30 (Fri) 11:50 | EDIT | REPLY |   

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