FC2ブログ

plumeria

plumeria

牧野に婚約者・・・そのひと言で全身が固まってしばらく目を開けたまま放心状態だった。

この子に?こんな子供・・・いや、24歳なんだけど、こんな世間知らずな女の子に婚約者?
あまりのことにそれまで聞いた不思議な話も吹っ飛んでしまった。


「・・・えっと、ちょっと待って。為替の話はいいとして・・・婚約者、だよね?それって小学生の時にって事?」

「うん。お爺様が突然連れて来て『将来のつくしの旦那様だよ』って。その時はあんまり深く考えなかったし、その人もそれっきり屋敷には来なかったから今の顔なんて知らないの」

「はっ?最近は会ってないの?それ・・・婚約者なの?」

「多分そうだと思う。東京に行こうって決めたのはそれを言われたからなの。もうすぐ祝言を挙げようなって・・・だって、1度も恋したことないのよ?自分自身で自分の好きな人も好きな事も見つけたかったの。自分の人生をあんな山の中でずーっとだなんて嫌だったの」


・・・って事は約14年間、その男とは会ってないと?・・・それ、凄くない?


「もしさ・・・今、宮崎に帰ったら結婚させられるの?」
「今度の春って言ってた」

「新しい恋を見つけたらどうなるの?結婚しなくていいの?」
「お爺様は私には無理だって言ったわ。あの屋敷以外の何も知らない私にそんな事は出来ないって・・・だから、やってみるか?って言われたから出てきたの」


もっと詳しく聞かないと理解出来そうにはなかったけど、牧野はこのあと黙ってしまった。
自分のしていたことがよくわかっていないのと、その環境を変えたくて必死だったんだろう・・・1度に問い詰めても可哀想な気がしたから今日はこのぐらいにしておいた。

「嫌なことを思い出させた?」って聞くと小さく首を振った。
自分の故郷は嫌いじゃないと・・・でも、自由のない生活には戻りたくないとほんの少し涙を見せた。


「少しは話が聞けてよかった。もうおやすみ・・・明日は初出勤だよ?」

「・・・うん!ごめんね、類。本当は出て行かなきゃいけないんだけど、もう少しだけ甘えさせてね」

「気が済むまでいたらいいよ。でも、頼むから勝手に出て行かないでね?そっちの方が心配だから」


やっとニッコリ笑ってくれた牧野は「おやすみ~!」って、あっさり自分の部屋に戻っていった。

あれ?寂しくなってこっちで・・・って言うかと思ったのに。
バタンと閉められたドアに向かって溜息1つ・・・何故か俺の方にポカンと穴が開いたみたいになった。



**



肌寒い気がしてアラームが鳴る前に目が覚めた。
隣を見ても勿論誰もいなくて、部屋の中はシーンとしてる。牧野の部屋からも当然なんの物音も聞こえなかった。

自然と布団の中で何かを探るような動きをしてる自分にも驚いた。
何もあるわけないじゃん・・・1人で寝てるんだから。

これ以上布団に潜ってても変な事しか考えそうになかったからベッドから降りて、気分転換も兼ねてシャワーを浴びてみた。


部屋に戻ったと同時にコンコンとノックの音。くすっ、今日は忘れなかったんだ?

「どうぞ」

声と同時にドアが開いて、もう着替えを済ませた牧野がひょこっと顔を出した。
よく見たらスーツ姿・・・あぁ、初出勤だから?紺色のスーツに白いブラウスでいつもより少しだけ化粧もしてる。

いつもはヌードカラーの唇なのに今日はちょっと濃いめのピンク色・・・それにドキッとした。


「あれ?類は今シャワーしたの?昨日お風呂に入らなかったっけ?」
「入ったよ。何となく早く起きたから・・・深い意味なんてないんだけどね」

「そうなの?でも急がなきゃ朝ご飯の時間だよ?髪も乾かさなきゃまた風邪引いちゃう!」
「ん、大丈夫。すぐに着替えるから先にダイニングに行っててもいいよ」


「・・・ううん、一緒に行くから部屋で待ってる」

また急いで自分の部屋に戻って「終わったらノックしてね」って背中を向けたまま言われた。
別にバスローブ着てるんだから顔を向けられてもいいのに。


時計を見たら結構ヤバい時間になってたから俺も慌ててスーツに着替えた。



**************



お仕事に行く・・・前の日からその事で頭が一杯であんまり寝られなかった。

念願の外でのお仕事。
家の中で言われた通りにパソコンを弄くるんじゃなくて、自分の手で何かを作る仕事・・・それに憧れていたから凄くワクワクしていた。

どんな職場だろう・・・そんなに沢山の食事を作る現場ってすごく忙しいんだろうなぁ。
1度にどのくらい作るんだろう?どんな雰囲気なんだろう・・・仲良く出来る人はいるかしら。恋が出来そうな人は?
男性も多いのかしら。それとも社員さんと恋に落ちる、とかってあるんだろうか。

そもそも社員さんと接触があるの?類は・・・食べに来るんだろうか。昨日初めて食べたっていうぐらいだから来ないのかもね。


それにとうとう喋っちゃった・・・宮崎の事。
類の驚いた顔、すごかったなぁ。

私がしていたことは類に言わせると瀧野瀬のお爺様個人のことだって・・・お仕事じゃないって。それにも少しショックだった。
勉強は出来ても世間知らずで、肝心な部分を何もわかってなかったってことだよね。

じゃあ、私はお爺様の個人資産を増やすために毎日パソコンを眺めていたのかしら・・・でも、どうして?そんなにお爺様、お金には困ってなかったわよ?


五十嵐さんの事・・・何となく類には言いたくなかったな。


そんなことばかりを考えていたらいつの間にか朝になってて、もう寝てられなくて服に着替えた。
憧れていたスーツに袖を通して、滅多に履かないストッキング。そして普段は何もしないのにお化粧まで・・・これで少しは24歳に見えるかな?なんて鏡の前でピンク色のルージュを引いた。


張り紙を見て今日こそは!と、ノックをして類の部屋に入ったら今度は彼が珍しく朝シャン!
「先に行ってていいよ」って言われたけど、部屋で待つことにした。

変なの・・・ちゃんとバスローブ着てるのに、五十嵐さんの事を話してしまったから何となく顔が合わせにくかった。



そのうちコンコンとノックの音がして「食事に行こうか」って類の声が聞こえた。


「ねぇ、類。バスで行ってもいいの?」
「バス?どうして?」

いや・・・気不味いからって言えない。慌てて視線を外して窓の外を見ながら適当な返事をした。

「バ、バスに乗ったことがないからそれで通勤ってしてみたいの。ダメかなぁ・・・」
「ダメじゃないけど今日は一緒に行かないとわからないでしょ?それにバスはタダじゃないから、あんたバス賃持ってないじゃん」

「・・・・・・え?」
「東京に来てから1度コンビニでご飯食べたら、それで所持金なくなったんでしょ?」

「・・・うわっ!そうだった。じゃあ初めてのお給料をもらうまではダメって事?」


ダイニングに向かう途中にそんな話をしていて、自分が数十円しか持ってないことに今更気がついたと言えば大笑いされた。
でも、この様子じゃ類はあんまり気にしてないみたいだね・・・よかった!


そして食事が終わって、いざ、初出勤!っていう時にお母様から封筒を渡された。
中身は10万円・・・驚いて「困ります!」って言ったらニコニコ笑って「お祝いだから♥」って。


「事情はよく知らないけどつくしちゃん、何も持たずに類のところに来たんですって?その事情はいずれ話せるときが来たら話してくれればいいけど、外に出るならこれは必要なものなの。類がいないところで何かがあったら困るでしょう?
それに急にお食事に誘われたりするかもしれないわ。その時に持ってなかったらいけないでしょ?」

「お母様・・・ご迷惑かけます。ありがとうございます」

「いいのよぉ!本当は100万にしようかと思ったけど、その方が危険だって類が言うからぁ!」


「・・・100万円?」
「当たり前でしょ。そんなのあんたが持ち歩いてたらすぐに襲われるよ」


宮崎では現金を見ないだけで1日に数千万の取引をしていたから桁数では驚かなかった。
でも、ここにその『現金』があるって事がすごく安心出来た。そしてすごく嬉しかった・・・お小遣いなんてもらったことがほとんどなかったから。


「牧野様、新しい靴ですわ」

「うわぁ!ありがとうございます!嬉しい・・・社会人みたい!」
「まぁ、おほほ・・・」

加代さんがきれいなパンプスを出してくれて、それに履き替えて車に向かった。


「加代さん、今日は桃太郎と菊次郎のご飯、お願いします!」
「はいはい、ご心配なく。行ってらっしゃいませ」

「行ってきまーす!」


類が車のドアに凭れ掛かって待っててくれる。
そこに向かって元気よく走って・・・そして勢い余って車に辿り着く一歩手前で躓いて、類の腕の中に倒れ込んだ!


「うわあぁっ!!」

「危なっ・・・って、ホントにあんた、走って飛び込んでくるのが好きだよね?」





blow-1970896__340.jpg
関連記事
Posted by

Comments 2

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/12/01 (Sat) 06:37 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんにちは!

あはは!類君、相当驚いたようです。
それはジェラシーだよ!って誰か教えてあげて欲しいわ・・・(笑)

これを「恋」だと早く気がつけよーっ!って♥焦れったくてごめんなさい!

ふふふ、初出勤ですね。
類君が連れて行くんですから花沢物産、パニックですね!どうなることやら・・・(笑)

2018/12/01 (Sat) 16:58 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply