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plumeria

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次期家元を辞す、と告げても家元は眉1つ動かさなかった。
そんなことが出来るものかとでも言いたそうに・・・でも、俺は本気だった。

どれだけいい女を連れて来られても牧野には勝てない。
俺の中ではもうあいつしか考えられない。
それを誰かにすり替えるぐらいなら西門なんてどうでもいい・・・何処かで茶さえ点てていられれば俺は牧野と生きていける、そう思った。

少し時間をあけてから、家元は静かな口調で話し始めた。


「孝三郎にはこの西門を束ねるだけの資質はない。自由奔放で我儘・・・これまで自由にしてきた末っ子の甘えだろうな。それは私にも責任はあるのだろうが私の後継者は総二郎、お前だ。それは西門流内部で既に決まったこと、そして代わりなどおらん。
まさか私の代で千年続いたこの家を絶やす気でもあるまい?うちにどれだけの門下生がいると思っている?全国にどれだけ西門の関係者がいるか・・・簡単に考えてはおらんだろう?」

「勿論承知しております。ですが私の考えがそのために全て排除されるのは納得いきません。この先長く連れ添うのであれば自分で相手を選びたい、それの何処がいけないのでしょう?」

「・・・伝統と家風を守るためだ。総二郎、お前とて母の出自で自分の評価がされているとは思わんか?要するにお前の子供にも拘わってくることなのだよ」

「そのような事、今の時代ではナンセンスですね。自分の評価は自分の実力で決まるものですよ。この先なら尚のこと・・・己の力で生き抜かねば飾り物でしかないでしょう」


一瞬、家元の眉が大きく歪んだ。

でも、すぐに厳しい表情に戻し、俺の言葉なんて無視して今後の予定を話し始めた。


「明後日のお前の誕生日に相手の娘さんが挨拶に来る事になっている。その日には京都から先代もお見えになるし、各支部長も顔を揃え長野や金沢からも分家が集まるのでそのつもりで準備せよ。
その日にはお前の茶で宝生様をおもてなしして、娘の紫さんは年明けからこの屋敷に住まわせるからな」

「は?この屋敷に・・・既にそこまで話を進めてるんですか?」

「次期家元の夫人としての勉強にも時間がかかる。作法も一般教養も身に付けてはおられるが宗家のしきたりに馴染むにはその方がいいだろうと思うてな。総二郎、お前の部屋の隣に紫さんの部屋を構えるからこの家のことを自ら教えて差し上げなさい」


「お断り致します。もう何を言っても聞き入れてはくださらないようですね・・・それなら実力行使させていただきます」


そう言った途端、後ろの障子がスッと開き、数人の男がドタドタと入り込んできた!
そして俺の両腕を掴み上げ、動けないように後ろにグイッと手を回された!

「誰だ!お前ら、離しやがれ!・・・一体どういう事だ・・・親父!これはなんだ!」
「お鎮まりを、総二郎様。これ以上手荒なことは致しませんので大人しくいていただけますか」

「喧しい!!・・・お前ら、親父のボディガードか!俺を縛り上げてどうするつもりだ!おい・・・なに考えてんだ、親父!!」


それまで何とか家元として話していたが、急な出来事に激昂して親父を罵った。

それでも顔色ひとつ変えずに目の前の茶を口に運ぶ・・・その行動にムカついて隣にいた男の脇腹に膝蹴りを喰らわしたが、腕を掴み上げられてるから体勢が悪い!
その蹴りも男にはなんの効果もなくて、そいつの表情ですら歪ませることは出来なかった。

「・・・俺をこの屋敷から出さねぇつもりか!そんなことで俺が気持ちを入れ替えると思ったら大間違いだ!明後日に茶会だぁ?誰がそんなことをするか!俺を亭主に仕立てたらその茶会、ぶっ壊してやるからな!」


「そうしたければすればいい。だが、お前の相手が誰かを私たちが知らないわけがないだろう?その人のことが大事なら言うことを聞いた方が良くはないかな?総二郎」


なんだと・・・?牧野のことが大事ならってどういう事だ?
親父のひと言で男達に抵抗していた俺の動きも止まった。瞬間・・・牧野の泣いた顔が頭に浮かんだ。


「・・・牧野に何かしたのか!おい・・・まさかあいつに何か言ったのか!」
「連れて行きなさい」

「離せ!!牧野に何を言った!?親父、何を言ったんだよっ!あいつに何かあったら許さねぇぞ!!この野郎ーっ!」


「総二郎様!お鎮まりを!おい、総二郎様を例の部屋にお連れしろ!」
「はっ!」
「離せっつってんだろうが!親父、説明しろ!親父ーっ!」


前後左右を大柄な男に囲まれ、両腕を掴まれて引き摺られるようにして親父の部屋を出された。

そして投げ込まれるようにして入れられたのは、幾つもある棟の中でも一番北にある独房のような部屋。
高窓が1つあるだけで本当に昔は規則を破った使用人や屋敷内で暴れた奴らを閉じ込めたと聞く、西門の牢屋のような部屋だった。

入れられてすぐに外から鍵を掛けられ、その扉を思いっきり蹴り飛ばしたがビクともしない。
それでも蹴り続けていたら、姿が見えなくなった男の声がドアの外から聞こえてきた。


「お鎮まりくださいませ、総二郎様。お家元のご命令により3日の朝までこちらのお部屋でお過ごしいただきます。
食事もこちらで召し上がっていただきます。閑所は奥にございますが、そこから逃げることは出来ません。それに2日間、我らがこの部屋の監視を仰せつかっておりますので、どうか無茶なことはなさいませんように。あまり暴れられますと身体の自由を奪う可能性もございますから」

「なんだと?この俺を柱にでも括り付けようってのか・・・いい度胸だな!」

「・・・そういうことになりませんように大人しくなさいませ」


俺の事はどうでもいい。
・・・だけど牧野は?

あいつは今どうしてるんだ?西門に何をされた・・・牧野、お前は今、無事なのか?



****************



「おめでとうございます。もうすぐ3ヶ月目に入る頃ですかね。7~8週目だと思いますよ」

「そう、ですか・・・ありがとうございます」


家元が帰った後、夕方になって決心して産婦人科に来ていた。
自分の身体のことを知っておかなければいけない・・・そう思ったから。

検査結果は想像通りの妊娠・・・もうすぐ3ヶ月。予定日は7月の中頃だろうと言われた。

「ただですね、牧野さんの場合は双子の赤ちゃんです。この時点で確認出来るので二卵性双生児ですね。一卵性の場合はもう少し後でないと確認出来ないのですが、既に胎嚢が2つ確認できるのでね・・・なので通常の妊婦さんより負担が多いから気をつけなくてはいけませんよ?」

「双子・・・?赤ちゃん、2人なんですか?」

「ははは、嬉しいですか?でも初産ですから不安も大きいでしょう?大丈夫、一緒に頑張りましょうね。えっと・・・まだご結婚されてないのですかね。相手の方にはちゃんと伝えることが出来ますよね?」

「あっ・・・は、はい!ちゃんと伝えます。ごめんなさい、驚いちゃって・・・宜しくお願いします」


双子・・・こんな状況なのに双子?

どうしたらいいんだろう。
西門さんに相談出来るの?婚約者の人が西門に来る、このタイミングで話せるの?


話したらどうなるんだろう。西門さんは喜んでくれるかも知れないけど、西門家は・・・?
もしかしたら堕胎を勧めるんだろうか。

もし、そうなら・・・なにも言わずに1人で産んで、この子達を守らなくてはいけないんだろうか。
産まれたことを知られて引き取りたいなんて言われたら?

あの家は私から何もかも奪っていくのかしら。



産婦人科の待合室で幸せそうな顔の妊婦さんに囲まれるようにして座っているのに、私だけが囚人のような顔してる。

頭の中で赤ちゃんの泣き声と西門さんの笑顔と・・・それを壊されていく悪夢を同時に思い描いていた。





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閑所(かんじょ)・トイレのことです。
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