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紫が部屋に来てから俺達の会話が止まった。
それを察しているはずなのに出て行こうとせず、少し離れたところに正座して目線は下げている。

自分の存在がこの場をシラけさせていると思わないのか・・・あまりにも続く沈黙に気を利かせたのはあきらの方だった。


「紫さん、西門の家は覚えることが特殊で大変でしょう?こいつも意外とクセのある男で扱いにくいし」

「・・・西門流のことを覚えるのは私の務めでございますから大変だとも、それを苦労だとも思いませんわ。総二郎様のお役に立てるように日々努力すること・・・それだけを心掛けよと実家からも言われておりますの」

「総二郎の役に立つ・・・まぁ、こいつは自分の事は自分でやるヤツだから気にしなくていいんじゃないかな。ただ、あなたの意思でここに来たわけじゃないように聞いてるんだけど、それで本当に幸せなの?毎日が苦痛じゃないのかな・・・どう?紫さん」

遠回しに「自分からこの家を出ていけば?」って言ってるようなあきらの言葉。
だが紫にそんな柔な言い方はまるで通じないと知っているから、この後の返事も想像が出来た。


「ご心配いただいているのでしたら問題ないですわ。私は自分の人生は夫となる総二郎様のために使えと命じられて育てられましたし、次期家元夫人になるべく躾けられました。
私の幸せをお屋敷内で探さなくてもいいのです。総二郎様が茶道家として充実した毎日が送られたらそれが私の幸せ・・・今の所、心を通わせられてはおりませんけど、そのうち受け入れてくださる日が来ると信じておりますわ」

「へぇ・・・そういうもの?自分をそこまで押し殺しても平気なの?」
「よせ、あきら。紫に何を言っても無駄だから」

この女を西門から出すにはこいつの弱みを見つける以外ねぇっての。
俺が何をしても、どんだけ紫を裏切っても自分に非がなかったらこいつは西門に居座り続ける・・・自分の座りたい家元夫人の座につくまでは。


それなら俺がこの家を捨てればいいんじゃね?

何度もそう思いながら、西門流を潰すようなことは簡単に実行出来ない。
確かに今は納得した茶なんて点てられる心境じゃないが、俺自身は茶の世界に取り憑かれてる。そして牧野とこの世界で生きていきたいという願いを捨てられないから。
紫を実家に帰して牧野を迎えたい・・・あまりにも非現実的な夢だけど、俺の中には常にこの想いがあった。


「美作様はご結婚されているんですってね?」

急に紫があきらに質問した。
子供の話なんてされたら・・・俺はこの時だけは紫に厳しい目を向けた。

その事はたった今、あきらから衝撃的な事実をきいたばかりだったから触れてはいけないと思ったのに、何も知らない紫は張り付いた笑顔をあきらに向けていた。俺の視線なんて気が付いてるクセに無視しやがって!


「えぇ、結婚してもうすぐ1年かな・・・イギリスで式を挙げたから」

「あら、素敵ですわね。いずれ奥様にもお会いしたいと思っておりますの。総二郎様と美作様はご親友ですもの、私達も仲良く出来たら楽しいと思いますから。お子様がお生まれになる前に実現できたら嬉しいですわ。妊娠中はご気分が優れないことも多いそうですしね」

「そんな話は止めないか!」

「・・・え?」


それを聞いたあきらは嫌な顔も見せなかった。そんな辛さは通り過ぎたのか・・・それとも本当に辛いのは嫁さんの方だって思ってるのか。
もう2人だけで人生を楽しむと決めたって事か・・・もし、そうなら強い男だな、なんて落ち着いてるあきらを見てそう思った。


「総二郎、気にするな。紫さん、俺の妻は病気で子供が持てなくなったから妊娠することはないんだ。だから会うのは構わないんだけど、でもまだ無理かな・・・薬の副作用で辛そうだし、元気だって言ってるけど本調子じゃないから」

「・・・それは大変申し訳ありませんでした。知らなかったとは言え、失礼なことを申し上げましたわ」

「いや、ホントに気にしないで。もう半年経ったし前向きには考えてるから」


嫌な言葉だったろうにあきらは紫に笑顔を見せた。
それなのに、次に紫が言い出したことに俺達は呆然とした。


「残念ですわねぇ・・・いつご実家にお戻りになるのかしら」

「・・・え?どうして?」

「だって跡取りを産むことが出来ないとなると妻としてその家に居られないでしょう?私なら耐えられませんから自分から里帰りを申し出ますわ。美作様の奥様もそうなさるのではないのですか?・・・引き止めるのは逆に残酷なこともありましてよ?」

「紫!もう出て行ってくれ!それ以上喋ると今度は俺があんたを宝生に帰すぞ!」

同じ女性なのに何故そんな言葉が出せるのか・・・無神経な紫の言葉に激昂して大声で怒鳴ったが、紫は自分の言葉が悪かったなんて思わないのだろう、涼しい顔してそこを動かなかった。
あきらも少し驚いたようだけど怒ったような素振りは見せなかった。もしかしたらこの言葉は初めてじゃなかったのかもしれない・・・美作内で何度か出された言葉だったのか、すぐにその表情はいつもの冷静なあきらに戻っていた。


「・・・考え方は人それぞれだけど、俺はそんな風に考えてないよ。仁美は今のままで充分俺にとって大事な妻だし、そこに子供の存在は関係ないんだ。今でも子供のために仁美に辛い治療を受けさせなくて良かったって思ってる。
2人だけでも楽しいことはいくらでもあるし、それで美作が途絶えるわけじゃない。俺も両親も納得して仁美を受け入れてるんだ。むしろ少しでも仁美が暮らしやすいようにって全員で考えてる・・・うちはね、そういう感じだよ」


「・・・そうですか。余計なことを申し上げました。やはり、私はお邪魔のようですわね。失礼します」


スッと立ち上がると美しいお辞儀を見せて背中を向けた。
静かにドアが閉められ足音が聞こえなくなる・・・その姿を睨み付けるように見ていたら、今頃になってあきらの大きな溜息が聞こえた。


「凄いな・・・総二郎、ありゃ怖いな!」

「・・・すまなかった。あんな女なんだよ。言ったろ?外でいくら女を抱いてもいいけど、跡取りを産むために自分のことも抱けってストレートに言いやがった。宝生がそう教育したんなら恐ろしい家だな」

「俺にも不幸はあったけど、お前の方が精神的にはキツそうだな」


「・・・絶対にここから追い出してやる。牧野の居場所も見つける・・・今はそれしか考えられねぇよ」



****************


<sideあきら>

西門を出て自宅に向かう車の中、俺より辛そうな総二郎の顔が頭から離れなかった。
時々触っていたあいつの手首に付いてる見慣れないブレスレット・・・おそらく牧野からの贈り物なんだろう。

でも、どうやって探すんだ?こんなに時間が経ってたらうちのシステムでも無理だ。
日本中を歩き回る訳にもいかないだろう。そうやって見つかる確率なんて無に等しい・・・牧野の方から出てこないとあいつら、2度と会うことがないかもしれないな。

俺も・・・もう牧野には会えないんだろうか。
爽やかな初夏の光景を横目で見ながらそんな事を考え、漫然とハンドルを握っていた。



屋敷に戻るとお袋が出迎えてくれた。

「お帰りなさい。総二郎君、どうだった?怪我は治ってた?」
「あぁ、日常生活に問題ないってさ。ただ、長時間の正座が出来ないから茶は椅子に座って点ててるって・・・でも、まだ本気で茶道には向き合えないみたいだ」

「そう・・・大変ねぇ」
「まぁね。婚約者ってのにも会ったけど・・・多分、総二郎はその人のことなんて愛せそうになかったよ。見てて気の毒だった」

「・・・どこもイマイチ上手くいかないわね」
「仁美は?」


お袋は庭の奥を指さした。

そこは新種の蘭や薔薇を育ててるサンルーム。中には簡単な部屋が作ってあって、夏にはそこで星空を見ながら寝ることも出来るようにとベッドまで置いてある。昔は誰にも会いたくない時に籠もったりしたサンルームだった。


「またあそこに独りで?」
「今日も殆どご飯を食べてないの。心配だからあきら君、仁美さんに食事を食べさせて?」

「わかった。簡単でいいから用意しておいてくれる?持って行って一緒に食べるから。じゃあ着替えてくる」
「えぇ、宜しくね」


自室に戻って部屋着に着替えて、お袋が用意してくれた軽食のバスケットを持ってサンルームに向かった。
中に入ると仁美はいつものようにそこにあるカウチに座り、ぼんやりと蘭の花を眺めていた。

いや、花なんて見てないんだろう。
仁美の目には何も映っていないんだ・・・思い描いていた未来の夢を壊されてから。


「仁美・・・何も食べてないんだって?ダメじゃないか・・・ほら、一緒に食べよう?持ってきたから」

「あきらさん・・・そんなに優しくしなくてもいいのよ。私のことは放っておいてくれていいから」

「そんな男だと思ってるの?俺は君の傍にずっと居るから・・・それとも年下だから頼りない?」
「くすっ、そんなことはないわ」


バスケットはカウチの横に置いて仁美を抱き締めた。
仁美はホッとしたように俺に身体を預けてくる・・・。


だけどこの時、俺の頭の中には総二郎と同じように牧野の泣いてる姿が浮かんでいた。





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<お知らせ>
クリスマスストーリーが(例の如く)延びてしまったので23日から25日までは「嘘つきは恋の始まり」はお休みします。
「私の帰る場所」は24日から26日までお休みです。申し訳ございません。

12月23日  00:00 ChristmasConcert
        11:00 もう1度抱き締めて
        12:00 私の帰る場所
12月24日  00:00 ChristmasConcert
        11:00 ChristmasConcert
        12:00 もう1度抱き締めて
12月25日  00:00 ChristmasConcert
        11:00 もう1度抱き締めて
        12:00 もう1度抱き締めて
        15:00 花沢城物語(GPS)
12月26日  00:00 嘘つきは恋の始まり
        11:00 ChristmasConcert
        12:00 もう1度抱き締めて
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2018/12/23 (Sun) 00:27 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: こんばんは

yuka様 こんばんは!

あきら君・・・(笑)

どうしましょ。困りましたね・・・ご想像にお任せ致します。
え?わかりすぎ?あっはは!・・・ですよね~。

誰をとっても可哀想な感じですが、もしかしたらこんな中で花沢類と司君は楽しくしてるのかもしれません(笑)

どっちですかねぇ・・・こっちの方がシリアスじゃないですか?
向日葵もかなりでしたが、2人が離れてるとお話が書きにくいので本当は嫌いなんですよ💦

早く会って欲しいけど・・・まだまだねぇ💦
まぁ焦らずお付き合いくださいませ。

2018/12/23 (Sun) 00:57 | EDIT | REPLY |   

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