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それから数日後、やっぱりお腹の張りが強くて動けないから朝1番からお昼まで仕事して、それから夕方の4時までは完全に休むことにした。
そして体調次第で夕方4時から夜の出来るところまで。
お給料もその分減給してもらって、他の従業員さんには頭を下げて回った。

「いいからいいから!産んだら産んだで大変だから、しばらくはマトモに働けないって思ってた方が楽だよ?」
「そうそう!保育園が空いてれば預けてもいいけどねぇ。小さいうちはすぐにお呼びが掛かるからね」

「はい・・・産まれる前からごめんなさい」

「私達も経験者だからお互い様!それでもどうにかして職場の確保はしておかないとね!」


ここに来るおばさん達はみんな優しかった。
だから余計に申し訳なくて、涙を流したら女将さんにも叱られる・・・泣く暇があったら寝ときなさい!って腕を引っ張られて自分の部屋に連れて行かれることもあった。


そんなある日、夕食の後片付けが終わって私の業務が終った時、部屋に帰ろうとしたら女将さんに呼び止められた。

「今日もお疲れ様、つくしちゃん。この前言ってた東京からのお客さんが明日来るんだけどね、体調が良かったら例の話、宜しくね」

「あぁ、お茶ですか?いいですよ」

「体調と相談だからね。お道具類はもうお部屋には運んであるけど、そんな約束してるわけでもないんだから無理しなくていいよ。」
「はい、大丈夫だと思います」

「今日は割と元気があったみたいだね。でも油断しないでゆっくりおやすみ」
「そうですね、いつもこうだといいんだけど。ふふっ、おやすみなさい」


問題は半年以上お茶から離れてるのに上手く出来るかってことなんだけど。


お布団は敷いてあるけどそこに横にならないで、椅子に座ってまたぼんやり外を見ながら西門で習ったことを思い出していた。

本格的に点てなくてもいいんでしょ?
だって炉もないし・・・お湯を沸かした釜を持って入って柄杓で汲めばいいのかしら・・・それしかないだろうけど、それで文句なんて言われないよね。
帛紗捌きだって省いていいんでしょ?お茶会じゃないんだもん・・・ただお茶を点てればいいのよね?

くすっ、そんな言い方したら西門さんにすっごく怒られそうだけど・・・。
まさか茶道を知ってる人が来るわけじゃなし・・・観光事業のお仕事してる人でしょ?西門とは関係ないだろうしね。


お腹が大きいから茶筅、上手く回せるかしら。
それよりも妊婦がお茶なんて点てるのをお客さんが驚くだろうなぁ・・・緊張してお湯溢したらどうしよう。
お茶を差し出すときに手が震えるかもしれないなぁ。それで何度も怒られたもんね・・・『客が不信感持つような茶を出すな!』って。

この姿じゃ綺麗な所作なんて出来ないよね。
うん・・・出来る範囲でやればいいよね。「もてなす心が1番大事」、いつも西門さんが言ってたように。


離れたかったお茶の世界・・・まさかこんな場所でそれを思い出すなんて思わなかった。
それなのに何故ワクワクするのか・・・自分はそんな世界に生きる人間じゃないのにって苦笑いしながら床についた。



朝になったら女将さんが私の部屋にやってきた。
その時に体調が悪くなかったから「いいですよ~」なんて返事して朝の仕事をいつも通りに終らせ、約束の時間になったら客室に向かった。

そこはこの旅館では滅多に使わない特別室。
眺めも最高だけどこの部屋だけは畳も調度品も、襖や壁の絵も一流品。今日は床の間にも上品な花を生けたと女将さんが笑っていた。
お昼に出すお料理も勿論特別。最近こんなに豪華な物を出したことがないって料理長も話していたぐらい。

「そんなに気を遣うお客さんなんですか?」
「どうなんだろうねぇ?吉本さんがとにかく出来る限り豪華で特別なものをって言うのよ。普段からそういう食事を食べ慣れてる人だから普通の会席料理じゃ満足しないだろうって。でも若い人だったよ?」

「へぇ、そうなんですね。贅沢なのねぇ・・・」
「ははっ!私は干物があれば充分だけどね」

「ホントですよ。お味噌汁とお魚で充分です・・・」
「でもまぁ、うちを選んでくれたんだから張り切らないとねぇ!」


特別室か近づいてきたら少しだけドキドキしてきた。
東京からの若い人・・・どんな人かしら。如何にも都会の人って感じで、こんな田舎に驚いてるんだろうなぁ。


部屋に着いたら吉本さんが出てきて、私達を中に入れてくれた。
そして女将さんと私はお客さんが座っている部屋の手前で正座し、頭を低くして挨拶をした。

「失礼致します。本日は当旅館に足をお運びいただきありがとうございます。お料理までには時間がまだございますのでお抹茶などいかがかと思いまして。
ちょうどここに茶道の心得のあるものが居りますの。ご準備致しますので入っても宜しゅうございますか?」

女将さんが挨拶したら吉本さんの声で「どうぞ」って聞こえて、私はその部屋に入った。


「失礼致します。これよりお客様にお茶を差し上げたいと思いますので支度をさせていただきますね」




******************



『結城産業株式会社・結城俊郎会長告別式』

日本を代表する経済界の代表者が亡くなった。
そのために企業の代表者達は告別式に参加するため、地方からも外国からも集まってきて、当然司や類も帰国していた。
結城産業は西門にも縁がある企業だったため家元夫妻と俺も参列、何故か紫も俺の横に立っていた。

まだ正式に公表してもいないのに・・・そうは思うがこれも総て家元の指示によるもの。
それならば俺が行かないと言い張ったが聞き入れられるはずもなく、無言のまま紫と並んでいた。


「総二郎・・・」

出棺が終わった後で俺に声を掛けてきたのは類。
隣にいる紫には目もくれずに俺だけを呼んで、顔を少しだけ動かして「こっちに来い」と合図された。
いつも飄々としてる類なのに今日は少し表情が険しい・・・結城産業会長の死を悼んでのことじゃないのはわかりきってて、ポケットに手を突っ込んだまま俺に背中を向けて歩く姿にこの先に起こることを想像した。

俺も紫には声を掛けず、お袋に「先に帰っててくれ」、そう言うと少し離れた場所にいる類と司のところに向かった。

司は何処を見てるのかわからねぇが明らかに機嫌が悪い。真一文字に結んだ唇に吊り上がった眉・・・その鋭い瞳の奥に怒りの色が見えた。
重い足取りで2人の目の前まで行くと、背中を向けてた類が振り向いた。


「久しぶりだね・・・あの人がそうなんだ?」
「・・・もう聞いてんのか」

「そりゃね。西門の内部事情ぐらいすぐに耳に入ってくるよ」

類は紫のことを既に知っていた。
入院中にあきらには喋ってるから別に知られてても不思議はない・・・それに知らなきゃこっちから言うつもりだった。
牧野の行方を捜すのに助けてくれそうな数少ない友人だから。

そして人の耳に入らないように道明寺のリムジンに乗り込んで、そこでやっとネクタイを緩めた。
司がまだ俺のことを睨んでやがる・・・数年前は恋人だった牧野が行方不明だと聞いて腹が立ってるんだろう。それが西門の仕業だと聞き及んでいるだろうから。


「どういうつもりだ、総二郎」

「・・・俺の好きであんな女を横に置いてるわけじゃねぇ。もう全部知ってんのか?」

「大体のことは知ってる。牧野がいなくなったことも総二郎が宝生家の一人娘と暮らしてることも。総二郎が事故って牧野を探せなかったんだよね?その出て行く原因を作ったのは総二郎の両親・・・総二郎は抵抗してるけど家元達の方が一枚上手ってところかな」

「ムカつく言い方だな類。だが・・・当たってる」


突然司が俺の礼服の襟元を掴みあげ、すげぇ恐ろしい目を向けてきた!
持ってる力全部使って締めてるのか息が苦しくなって、リムジンの中で司の脇腹に蹴りを入れたら、それでやっと手を離しやがった!

「何しやがんだ!てめぇ・・・絞め殺す気か!」
「馬鹿野郎!!女1人守れねぇヤツが偉そうに言うな!」

「司に言われたかねぇな。お前だって牧野を泣かしたことが・・・」
「今はそんな事言ってる場合じゃないだろ!司も総二郎も頭を冷やせよ!!」

類の滅多に出さない大声に驚いて2人で掴み合ってた手を離した。


「・・・悪い。司の言う通りなんだが・・・真実がよくわかんねぇんだ。お袋は牧野が俺の将来を思って自分から出て行ったって言うんだが、俺にはどうしてもそれが信じられない。あいつと俺は・・・真剣だったんだ。
道明寺で傷ついた部分もあるだろうからそれを考えて、西門に入れるのは時間を掛けてやろうって思った矢先に家元が仕組んだ。俺の前にあんな女を持って来やがったんだ」

「死ぬ気で守れなかったのか!」

「馬鹿にすんじゃねぇ!守ろうとしたんだ!それで西門を捨てると言えば捕まって牢部屋に縛り付けやがった・・・俺に監視をつけて刃向かうなら牧野がどうなるかわからないと言われてみろ!現状がわかんねぇだけに動けねぇだろうが!
万が一牧野が西門の監視下で暮らしてたら・・・命は奪わねぇだろうが何をするかわかんねぇ。牧野の言葉で聞かないと何も信用出来ねぇんだよ!」


「・・・牢部屋に・・・そこまでしたの?家元」

「あぁ・・・余程宝生と西門を結びつけたいんだろうよ」


この後は司も類も何も言わなかった。
だから此奴らに僅かな情報でもいいから牧野のことで何かあったら知らせて欲しいと頼んでリムジンを出た。


「そう言えばあきらは?」

「美作はおじさんとおばさんが列席してあきらは来てないんだって。あいつも色々あったから大勢集まる場所にはあんまり顔を出したくないんだってさ」

「そうか・・・そうだろうな」



リムジンを降りたら少し離れたところに喪服を着た紫がいた。
小面こおもてのような笑顔・・・そんなゾッとする張り付いた笑顔を今日も俺に向けていた。





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★小面とは能面のなかで、若い女性を表す面です。
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2018/12/28 (Fri) 14:28 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様、こんばんは!

ほほほ、大変申し訳ありません・・・ドぐらいですねぇ(笑)
久しぶりにこんなに暗い話を書いてるので、私としては面白いのですが・・・ははは!

紫さん・・・この人不気味ですか?
そう感じていただけたら嬉しいです♥

裏がありそうでしょ?・・・ふふふふふ。


そろそろ・・・ですね。動いてくると思います。
暫くはつくしちゃん中心でお話が動きますので総ちゃんはおまけ程度(笑)

新年も暗いまま突入です!!
(確か去年も暗かったような気がする・・・)

読み辛いでしょうが宜しくお願い致します。

2018/12/28 (Fri) 18:41 | EDIT | REPLY |   

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