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plumeria

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「失礼致します。これよりお客様にお茶を差し上げたいと思いますので支度をさせていただきますね 」

女将さんの言葉の後、深く一礼して茶道具を持って客さん達のいる部屋に入った時、1度後ろを向いて襖を閉めていたら男性の声が私の名前を呼んだ。


「・・・牧野?牧野・・・じゃないのか?」


私は背中から聞こえたその声に驚いて手が止まり、恐る恐る振り向いた。

その声は・・・・・・聞き覚えのある穏やかな声・・・まさか!


「・・・み、まさか・・・さん?」
「牧野・・・やっぱり牧野だよな?!」

「どうして、どうして美作さんがここに居るの?!」

でもその時に美作さんの視線は私のお腹に・・・大きく膨らんでる私のお腹に向けられていた。
隠しようがない・・・これだけは隠しようがなくて襖を閉めた手が畳の上にガクンと落ち、女将さんと吉本さんが驚いて私達の事を見ていた。


どうしよう・・・まさか美作さんがここに来るだなんて。
この人達が足を運ぶような場所じゃないと思って逃げてきたのに・・・よりによって西門さんと1番仲のいい美作さんが!

すぐに西門さんに知らせる気じゃないよね・・・?
顔を上げて彼を見たら、驚きのあまり目を見開いて口を開けたまま・・・何か言いたそうだったけど美作さんも声が出ないみたい。それは私も同じで、ただそれに恐怖が加わるから身体がガクガクと震えた。

すぐ傍には熱いお湯を入れた小さな釜があって、それに少しだけ左手が当たって思わず「熱っ!」と飛び退いたら女将さんが身体を支えてくれた。

ヒリヒリする左手よりも心臓の音の方が五月蠅い。
その痛みよりも彼が私を見る視線の方が何倍も痛く感じた。


「牧野・・・お前、マジで?」
「美作さん、あの、これは・・・だから・・・」

「お前こそどうしてこんな所にいるんだ!なんでそんな身体なのにあいつの元を離れた!?」
「その事だけどお願い、美作さ・・・うっ!!」

「つくしちゃん?!」
「牧野さん!!」

「牧野・・・?!」


それまで痛くなかったのに興奮したからなのか急にお腹が痛み出して、私はその場でお腹を抱え込んで身体を丸めた!それを見て女将さんが美作さんと吉本さんに何かを言ってたけど良く聞こえない・・・!
それよりも美作さんに言わなきゃ、と思って目を向けるけど、私の身体を女将さんが庇うように覆ってるから彼が見えなかった。

「車を回してきます!美作部長、もし良かったら打ち合わせの時間をずらしても宜しいですか?この人の病院がすぐそこなんです!私が連れて行きますので女将さんは牧野さんを車椅子で玄関まで!」

「えっ、あぁ、はいはい!」
「いや、いい!俺が運ぼう」

みんなの大きな声・・・最近起こした腹痛よりも痛い気がして、恐怖を感じていたら急にふわりと抱き上げられた。

「きゃっ!」っと声は出たけどお腹の痛みの方が強くて抱き上げてくれた人・・・美作さんのスーツを凄い力で掴んでしまった。
身体に力を入れちゃいけないって判っていたけど、どうする事も出来なかった。

「み・・・みま・・・」
「いいから黙ってろ!いくら腹がデカくても牧野を落としたりしないから」

「お客様、その子の事はこちらで!」
「そんな事言ってる場合じゃ無いだろう!」


あの美作さんが怒鳴った・・・お腹を抱え込んでいてもそれには驚いて少し目を開けて彼の顔を見上げた。
結婚したからかしら・・・美作さんってこんなに男っぽかったっけ・・・?

「ううっ・・・!」
「牧野、予定日近いのか?!」

「ううん、まだあと2ヶ月・・・7月の・・・中頃なの、あぁっ!・・・痛いっ」
「心配すんな、急には産まれないしすぐに病院につれて行くから!もう少し頑張れ!」

「このまま・・・産まれるの?」
「そんなの俺にはわかんないさ。もういいから黙って掴まってろ!」

エレベーターを使って1階に降りて、吉本さんが回して来た役場の車に美作さんに抱かれたまま乗り込んだ。その光景をどう思ったのか、吉本さんが戸惑っていたら美作さんがもう1度大きな声を上げた。

「何をしている!車を早く出せ!!」
「はっ、はい!申し訳ありません!」


・・・吉本さんは美作の人じゃ無いってば!

心の中ではそんな言葉が出るけど、出産が始まった気がして怖くなって美作さんのスーツの襟元を手でギュッと掴んだ。そしたらその手を彼の左手が優しく握ってくれて、薄く目を開けたらそこにはシルバーに光る指輪があった。

あぁ・・・本当に結婚したんだ。いいなぁ・・・なんて、荒い息のままその指輪に触れてしまった。


「・・・なんだ?確かめたかったのか?」
「はは・・・ちゃんと・・・写真見せてもらったよ・・・綺麗な、奥さんだね」

「・・・まぁな。いつか会ってやってくれよ」
「はぁはぁ・・・そんな時、来るかなぁ・・・うっ、あぁ・・・っ!」

「しっかりしろ!牧野・・・着いたみたいだぞ。総二郎にすぐ電話を・・・」
「ダメ!!それだけはダメ・・・やめて、美作さん・・・お願い、誰にも言わないで!・・・うっ・・・あぁっ!」

「・・・牧野?」


「ここです!」と、吉本さんの声がして、美作さんに抱えられて産婦人科の中に入った。



**



看護師さん優しい声が頭の上から聞こえる。
診察を終えていつものベッドに横になり、天井の一点を見つめていた。

「暫くここで寝ててね。もう大丈夫だから・・・怖かったわね」
「はい・・・どうもありがとうございました」


結局今回の腹痛は陣痛などではなく、お腹の張りが酷かっただけ・・・前と症状は同じだった。
ただ違ったのは知人に会ったこと・・・それが西門さんに繋がる人だったから驚きすぎて興奮してしまったからだろう。

ベッドの傍には美作さんが座っていた。その後ろには不思議そうな顔してる吉本さん・・・私と言うより美作さんにちょっとだけ怖い目を向けていた。
女将さんは旅館のことがあるから少し前に戻ったらしい。もう何度目かの騒動に申し訳なくて胸が痛かった。


「・・・吉本君だっけ。少し外してくれないか?牧野と話がしたいから。仕事の話は明日でもいいか?」

「私なら牧野さんの事は全部知っていますから聞いても平気ですが?」

「2人だけで話がしたいと言っている。それに牧野は俺の友人だ・・・急に東京から姿を消したことについての話だ。君がいたら言いにくいこともあるだろう。君が知っている牧野はここに来てからの事だけだろ?」

「・・・わかりました。それでは本日はここまで、と言う事ですか?」

「今日俺はあの旅館に泊まるよ。また明日あそこで打ち合わせしよう」

「了解しました・・・失礼します」



私はその会話を美作さんとは反対側の窓の外を見て聞いていた。
今から美作さんは私と西門さんに起きたことを聞いてくるんだろう・・・もしかしたら私が家元に言われて出てきた事も知ってるのかもしれない。
西門さんが話をしても不思議はない・・・この2人は親友だもの。

そしたら西門さんのところに居る女性の事も私は聞くんだろうか。それには・・・凄く抵抗があった。


「牧野、さっき医者から聞いちゃったよ。双子だって?」

「・・・うん」

「そりゃ無茶し過ぎだな。うちのお袋がみたら泣くぞ?あの人は経験者だから」

「そう・・・言えばそうだよね。美作さん・・・双子の妹さんだもんね」


私を興奮させないように穏やかに話しかけてくれる・・・そういう所は昔から変わらない気遣いの人。
優しくてお兄ちゃんみたいに守ってくれて心配屋でお節介で・・・もしかしたら私のことを?って考えたこともある・・・多分、私には特別優しかった人。


その美作さんの声が今はすごく怖かった。
優しいのに怖かった・・・西門さんの現状を聞かされて、また私を地獄へ落としそうで・・・凄く怖かった。


「その腹の子・・・父親は総二郎だよな?」


私の頬をまた涙が伝った。久しぶりに私以外の人が彼の名前を言ったのを聞いたから。


「そうなんだな?牧野、その子達を守るために東京を離れたのか?」

「・・・西門さん、私が近くに居ると苦しいって言ったから・・・彼を苦しめたくなかったのよ」

「総二郎が苦しむ?」


私の言葉に美作さんが妙な反応をした。
私はそれまで視線を外していたのに、その声の様子がおかしかったから美作さんと目を合わせた。

だってそう言ったじゃない。家元夫人がそう言ったじゃない・・・まさか、あれは嘘だったの?


美作さんが驚いてる。
私はそんな彼を見て・・・冷や汗が流れた。




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2018/12/29 (Sat) 22:22 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

パール様、こんばんは!

あっはは!そうそう(笑)
今回のあきらはヤバいですよ・・・あきつくになりそうな雰囲気(笑)

確かにあの時の類君に似てるのかも・・・奥さん居るけど。

いかんいかん、総ちゃんに戻さねば・・・と思いつつ切ないあきらにちょっとだけ恋してます♥


それにしても急に寒くなっちゃって!!
心が風邪引かないように温かくしてくださいね~♡


あらら(笑)今まで支えていただいたのは私ですもの。
Pluの恩返しです(笑)

インコの落とした羽で反物作って待ってますよん!
大事なお友達です・・・笑ってて欲しいって毎日願ってます♡


今日もコメントありがとうございました。

2018/12/29 (Sat) 22:52 | EDIT | REPLY |   

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