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plumeria

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西門さんを苦しめたくなかったと言った時、美作さんが驚いた顔をした。

もし、この話が本当なら驚かないはず・・・そうか、って私を哀れむような表情をするなら意味がわかるけど、どうしてそんなに驚くの?
もしかしたら、あの話は嘘だったの?

家のために婚約者を受け入れて、それを私が許さないと思うと苦しいって・・・そう言ったんだよね?


「私が東京に居ると、婚約を決めた自分の選択を後悔し続けるって彼が嘆いてるって・・・私が一生西門さんを許さないだろう、それを近くで感じるのは辛いって・・・家元夫人はそう言ったわ。違うの?・・・美作さん、この話は違うの?」

「・・・総二郎から婚約の話は聞いた。その中に牧野の言うようなフレーズは無かったよ。細かいやりとりまでは言わなかったけど総二郎は12月1日に婚約者の話を聞いて断わり、そのまま家元に抗議したと聞いた」

「・・・1日?私の所に家元が来た日だわ。その日に抗議したの?西門さんが?」


1日は私が彼の誕生日プレゼントを買いに行った日で、家元に衝撃的な言葉を告げられた日。
でも、1番忘れられないのはこの子達の存在を病院で確かめて・・・・・・写真をもらった記念日。

確かに家元は西門さんが承諾したとは言わなかった。
ただ逆らえない話だから私に身の程を弁えろ、と言って帰って行った。


『総二郎様は家元のお話をお聞きになり既に宗家でご準備に入られました。西門流のため、ご自分の立場を弁えておいでですから素直に聞き入れられて、お迎えする方のためにお部屋のご準備も始められました』

夕方遅くに500万円持ってきた人はそう言った・・・そして次の日、家元夫人にも同じようなことを言われた。


本当はその時、西門さんは何をしてたの?


「・・・電話で聞いただけだけど総二郎は抗議した後、家を飛び出ようとしたから家元のボディガードによって屋敷内の一室に閉じ込められたらしい。あれだけ古い屋敷だからあるんだそうだ・・・座敷牢ってヤツがな」

「閉じ込め・・・られた?」

「総二郎はそこで身体を拘束されて柱に括り付けられたって言ってた。それで一晩明かして、お袋さんから牧野が東京を離れる決心をしたと聞いて、確かめるためにお前のアパートに向かったらしい。その帰りだったそうだ、総二郎の事故は・・・」


「・・・事故?」

ここでも美作さんがハッとした顔をした。

ここまでの話でも私が聞いたのと少し違ってる。
私は西門さんが近くに私が居ると思うと辛いから食事を取れないと聞いた。家元夫人は西門さんが拘束されてるなんて言わなかった・・・私に対して申し訳ないと言って泣いてるって言ったのに?
私は西門さんからお茶を取り上げたくなくて身を引き裂かれる思いであの日、飛行機に乗って九州まで逃げたのに?!


『あなたの事は本当に好きなんだと思うわ。だからこの話も家元から聞かされて驚いてたけど、今では仕方ないって言ってるの。あなたを好きな気持ちだけは本当だから、それだけは信じてやって?
でも、あの子は西門流を背負っているの。それもわかってやって?どうにも出来ないこともあるのよ・・・お願いします』



この時、両手を突いて私に頼み込んだのは家元夫人の方だよね?


「うっ、痛っ・・・」
「牧野!・・・今は止めよう。この話はお前の体調が良くなってから・・・」

「嫌だ・・・美作さん、事故ってなに?西門さん・・・事故に遭ったの?今は・・・今はどうしてるの?!」



****************

<sideあきら>

まさかこんな所で牧野に会うだなんて思いもしなかった。

まだ大勢の人間が集まる場所には行きたくなくて結城産業の告別式参加を断わり、わざわざ俺が行かなくてもいいような地方の仕事を選んだ。
場所も唐津の中心だけだったのに担当者に無理矢理呼子に誘われただけで、本当は早く東京に戻りたかったのに。

そんな偶然が重なった上に牧野に会い・・・双子を妊娠してるだなんて驚きすぎて今でも信じられないぐらいだ。
でも目の前には大きくなった腹を抱えた牧野が寝てる。


すぐにでも総二郎に知らせようかと思ったけど、牧野の急変と総二郎には連絡するなって言った時の牧野の必死な目を見たら・・・俺は彼女の診察中も総二郎に電話をすることが出来なかった。
取り敢えず牧野が落ち着いたら事情を聞こうと思って・・・それからでも遅くは無いと思ったが、牧野の口から出た話は総二郎が自分の親から聞いた話とは全然違っていた。

総二郎の予想通りと言えば当たってはいるが。

そして牧野は総二郎がバイクで事故を起こした事を知らなかった・・・自分を探しに行って事故に遭った事を知らなかったんだ。


「西門さん・・・事故に遭ったの?今は・・・今はどうしてるの?!」
「落ち着け、牧野!今は元気だから・・・まだ茶道には本格的に復帰できてないけど、それも時間を掛ければ元通りになる。心配するな」

「時間を掛ければって・・・もう半年経ってるのよ?そんなに酷い事故だったの?」


また少し痛むのか膨らんだ腹を抱えながら眉根を顰めてる。
身体に掛かってるタオルケットを握る手が筋張って、額からは汗が流れてる・・・それは痛みからなのか恐怖からなのか、牧野は俺に説明を求めた。


別に俺が牧野に隠し事をする必要は無い。
総二郎は牧野を探してるし、真実を伝えたいだろうから・・・だから牧野に総二郎の事故の話をしてやることにした。


「あいつから聞いただけだからもしかしたら真実と違う部分があるかもしれない。話してやるから牧野はまず身体の力を抜け。緊張し過ぎたらまた腹が張るぞ?怖いかもしれないけど、だからって身体に負担を掛けるな。いいか?それが出来ないと話せない」

「・・・うん、わかった。楽にする」

タオルケットから離した手をそっと中に入れてやると少しだけ頬を染めた・・・その表情を凄く懐かしく感じてた。

少し前屈みにして牧野の顔に近づき、出来るだけゆっくりと、牧野を興奮させない言葉を選んで話した。それを下唇を噛んだまま聞く彼女はもう泣きそうな目をしていた。

「2日の午後、お袋さんから牧野が東京を離れたのを確認したいなら自分の目で見てこいって言われたそうだ。だから牢部屋から出されてバイクでお前のアパートに向かったけど、もう牧野はそこには居なかった。
だからアパートを出てバイクで暴走し、牧野に似た子を見掛けて油断した時にハンドル操作を謝って転倒、バイクから投げ出される形で怪我をしたんだ」

「・・・私を探しに出掛けた帰りに・・・私に似た人を見て?」

「・・・よく知らないがそう言ってた。たまたま電話したんだ。総二郎が事故った直後に・・・あいつの誕生日だったから」

「どんな怪我?!茶道復帰にそんなに掛かるって・・・どんな怪我したの?」

「左腕の骨折と右手指の骨折、右足の脛骨・・・脛の骨を骨折したんだけど、そこが酷くて3ヶ月の入院だったらしい。俺もその時はイギリスだったから見舞いにも帰ってないし電話で聞いただけた。
日本に戻ったのが最近なんだけど、その時には西門に会いに行った。もう歩いてたよ・・・正座が出来ないらしいけど」


「・・・そんなに、そんなに酷い怪我したの?アパートに行ったせいで・・・そんなに・・・」
「泣くな。もう過ぎたことで時間が経てば元に戻るんだ・・・だから気にするな」

ポロポロ流す涙が頬を伝って、耳を伝って枕に落ちて行く。
それを指で拭ってやったけど、後から後から流れてきて止まらなかった。

そのうちシーツを握り締めて顔に当て、そのまま噎び泣いて身体を震わせた・・・俺はそんな牧野の背中を摩ってやったけど、気が付いたらシーツごと彼女を抱き締めていた。


「泣くな、牧野・・・何処かで歯車が狂ったんだ。心配しなくても総二郎は紫にはなんの感情も持ってないみたいだから・・・」

「・・・ゆかり?それが・・・西門さんの婚約者の名前なの?」

「え?あぁ・・・宝生紫って人だ」


紫の名前を聞いた途端、牧野の震えが止まった。
そしてもう1人、後ろから刺すような視線を送ってくる男の存在を俺は見逃さなかった。

牧野を抱き締めたまま振り向いたらそいつは嫉妬に満ちた目を俺に向けていた。


「席を外して欲しいと頼んだはずだが・・・」

「牧野さんの泣き声が聞こえましたから。牧野さんを泣かせる人は誰であっても許さない・・・僕は彼女にプロポーズしてるんですから」

「何だって?君が牧野に?」


驚いて牧野を見たけど、まだ彼女は虚ろな目をして固まったまま・・・握り締めていたシーツがその手から落ちても気が付かないほどに紫の存在に戸惑ってるようだった。




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次回の更新は1月5日です。
明日からNEWYEAR STORY「海に消える雪」をお届けします。
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