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5月の中頃になると裏庭に植えている紫陽花の花芽が確認出来るようになる。
それなのに今は全然茶にも気が入らないからなのか、茶花の手入れすら人任せだった。

もう歩けるのだから自分ですればいいものを・・・そう思う自分も居るがどうでもいいと投げ遣りな自分も居る。
その畑を眺めながらぼんやりとしていた。


その時、着物姿の紫が裏庭から何かを持って戻って来た。
この女が茶花の畑で何を?・・・それが不思議で滅多に話しかけないのに声を掛けてみた。

「・・・おい、あんた」

「あら、総二郎様、そこにいらっしゃったのですか?」
「・・・何をしていたんだ?あの向こうは茶室に飾るための紫陽花が植えてある場所・・・あんたに何の用があったんだ?」

「庭師の方に肥料を聞いて撒いておりましたの。総二郎様が足元の悪い場所には行きにくいんだろうと思いまして。もう春前からしておりますのよ?」

「肥料?おい!それはちゃんと庭師の指示で撒いたんだろうな?」
「・・・肥料は庭師さんにいただきましたけど?それを木の根元に撒いただけですわ。いけませんでした?」

「紫陽花ってのは品種で肥料を変えなくちゃ色が狂う花だ!勝手に何でも与えていいもんじゃねぇ。もし間違えて与えていたら今年の茶室には使えねぇんだよ!」


こんな事は些細なこと・・・茶花なんて紫陽花だけに限られてるわけじゃねぇからそれ以外を使えばいいだけのこと。
それなのに紫が手を出したことが許せなくて大声で怒鳴った。

自分でもわかってる・・・これはこの女をここから出したいがためにわざとキツく接してるんだ。
こんな乱暴で我儘な男には添い遂げられないと実家に訴えさせ、この縁組みを解消させるため・・・西門という「牢獄」から出たいと思わせるため。

「知識も無いのに余計な事をするのは迷惑だ。2度と俺の畑に足を踏み入れるな!」
「・・・・・・」


だが紫は俺が怒鳴っても顔色1つ変えなかった。
「それがどうした?」とでも言いそうな口元・・・いっそのこと、俺に楯突いてもっと怒らせ、西門から追い出せたらいいのに・・・そう思って紫の冷めた目を見ていたら、今度はいきなりその場に土下座した!


「申し訳ございません!お許しくださいませ、総二郎様・・・もっとお勉強致しますから、この度のことはお許しください!」

「・・・は?なんだ・・・いきなり」

「私が悪かったのです。総二郎様のためと思っての事でしたが、そのような大事な事とも思わずに・・・本当に申し訳ございませんでした!」

「・・・おい、何の真似だ?」

上等な着物を土で汚し、美しい手を地面に突いてそこに額が着くほどに頭を下げて大きな声を出し、それを数人の使用人が見ていた。
何だ・・・?この状況は俺が紫に土下座を強要したように見えるんじゃないのか?

まさか、それが目的か?この女・・・!


「総二郎さん!何をしているのです!」


使用人の後ろから血相変えて走ってきたのはお袋だ。
俺を弾き飛ばすような勢いで前を通り過ぎ、足袋のまま下に降りると紫の手を取って「お立ちなさい」と小さな声で囁いていた。

紫はお袋に支えられながらヨロヨロと立ち上がり、眉を顰めて汚れた着物の袖で目元を覆った。
勿論、そんなものは演技だがお袋にはそれがわかっているのか、本当に見抜けないのか・・・紫の着物をはたくと身体を支えたまま廊下に戻ってきた。


「総二郎さん・・・何があったかは知りませんが女性に何という事をさせるのです!まだ西門の事を総て覚えているわけではないのですから大きな心で接してあげなさいと言ってるでしょう!
ごめんなさいね、紫さん。許してやって?この子は少し短気な所があるけど、それだけ茶道に本気だと言う事なの・・・もう2度とこんな事はさせないから私に免じて許してちょうだい?」

「おい・・・何、勝手に想像してんだ?今のはこいつが・・・」
「お黙りなさい!今は家元夫人として話しています!宜しいですね、総二郎さん・・・もう少し紫さんを大事にしなさい!」

「・・・・・・・・・」


今は家元夫人だと言い、使用人の前で今度は俺に説教を始め、紫はその後ろについて神妙な顔をしていた。
そのうち「お義母様、もう私は大丈夫なので・・・」、そう言うとやっとお袋の怒りは収まったのか、数人の使用人を引き連れて自分の部屋に戻っていった。



空が曇って暗くなり、ポツンと木の葉に雨粒が撥ねた音がした。
それが1つ、2つと重なって、やがてザーッと降り出した。
さっき紫が跪いた場所には大きな水たまりが出来て、そこに幾つもの波紋が出来る。急に強まった雨に慌てた使用人の声が遠くから聞こえてきた。

そうなるまでの間中、紫と廊下で向かい合っていた。
俺はすげぇ恐ろしい目を向けていたはずだが此奴にはそれが恐怖でも何でもないのだろう・・・平然とした表情で紫も俺の事を見ていた。

「くすっ・・・」
「何が可笑しい?」

「私の事・・・どうぞ大事にしてくださいませね。総二郎様・・・」


雨足が強くなって遠雷が聞こえ、カッ!と稲光が走った。
ほんの少しだけ笑顔を見せた紫の顔が金色に染まり、俺はそれを見てゾッとした。

この雨が牧野の涙のように感じて胸の奥が痛んだ。



***************



西門さんが私のアパートに来た帰りに事故に遭ったと聞いて胸が締め付けられるように痛かった。

美作さんから聞いただけだけど、入院日数を考えただけでもどれだけ酷かったのかが想像できて涙が止まらなかった。その時に私は何も知らずに自分が東京を離れるために必死でここを探して、自分のこの先の生活の事で頭が一杯で・・・。

それも仕方が無いことだと美作さんは慰めてくれたけど、色々食い違う部分を聞いてしまって頭がパニックになっていた。


それを正気に戻させたのは吉本さんと美作さんの会話・・・


「牧野さんを泣かせる人は誰であっても許さない。僕は彼女にプロポーズしてるんですから」
「何だって?あんたが牧野に?」

「そうです。僕はお腹の子供達の父親になる覚悟が出来てます。何よりも牧野さんの事が好きなんです。
だからそんな悲しそうな顔にさせるのなら離れていただけませんか?仕事とは切り離してお話ししています。美作さん・・・僕が旅館に連れて帰りますから予定通り唐津のホテルにお戻りください」

「この俺に指示する気か」

「申し上げました。今は1人の男として話してます」

吉本さんの言葉は美作さんの表情を強張らせ、私はまた急に心臓がドキドキし始めた。
お腹の痛みは治まっていたけど身体中から汗が流れるような感覚・・・思わず美作さんのスーツの袖を握り締めたら、その手を優しく覆ってくれた。


「怯えなくてもいいんだ。心配すんな、牧野」
「・・・美作さん、あの今の話はね・・・」

「彼の事?お前、受けてないんだろ?」
「・・・・・・」

「返事を待ってるのは僕です。変な誘導はしないでいただきたい!」


吉本さんが少しだけ大きな声を出して、身体の横に付けてる手の拳をギュッと握った。
それを見ても私の手を離さない美作さんは凄く落ち着いた声で言葉を続けた。

「悪いが牧野は・・・こいつは子供の父親以外の男を選んだりしないと思う。経済的にその選択がいいと思っても、それだけで結婚とかには結びつけない人だからね。自分の気持ちに正直に生きることを選べば誰とも結婚なんかしないさ・・・な?牧野・・・そうなんだろ?」

「うん・・・ごめんなさい。吉本さん・・・やっぱり私はあなたとは結婚できない。美作さんの言う通り、私・・・他の人は選べないの」

「牧野さん!美作さんの言葉に動かされないで!」
「あんたの言葉が牧野を追い詰めてるとは思わないのか?!今の状況を考えろ!興奮させることがどれだけ身体に悪影響か・・・それでもあんたは覚悟が出来てるって言うのか!何も判って無いんじゃないのか!」

「・・・・・・!」


美作さんの手の力が強くなって、私はそれにもドキドキしてた。

・・・どうして?
どうしてそんなに私の手を握ってるの?美作さん・・・どうしてそんなに守ろうとしてくれるの?


この後吉本さんの車でまた旅館に戻り、美作さんは予定していた唐津ではなく、やはり「夢の屋」に泊まることになった。





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2019/01/05 (Sat) 12:41 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

みわちゃん様、こんばんは(笑)

ははは!怖いですか?ですよね~💦
何を考えているのか・・・ふふふ、殺人だけは起こらないのでご安心ください!

家元夫人もねぇ・・・自分の息子の気持ちを判ってやれよ!って思うんですが・・・ははは、これもいずれ・・・ってことですね。

総ちゃん、めっちゃ怖い所に居りますね(笑)
が、頑張れ!総ちゃん・・・そのうち助けてあげるからっ!(ちょっと時間はかかるけど)

新年早々怖いシーンからのスタートでしたね(笑)
申し訳ございません!!お許しを~💦

2019/01/05 (Sat) 19:59 | EDIT | REPLY |   

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