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あれから3年が経った。

俺は毎月のように来る見合いの話しを悉く断り、相変わらす茶を点てる毎日。
あの時に抱き締めた牧野の肌の温もりだけを思い出しながら、他の女と肌を合わせることなんて出来なかった。

酒は飲みに行くけど前のように巫山戯た店には足を運ばず、1人で気儘に飲める店を選んで隣には誰も座らせなかった。通り過ぎる時に掛けられる声にも耳を貸さず、軽く返事してヒラヒラと手を振りその場を逃げた。
そのうち出歩く街も通う店も以前とは全然違う場所になっていった。



牧野がアメリカに行ってから1年もしないうちに2人は別れたと聞いた。

どっちからなのか、何が理由なのかなんてわからなかった・・・司は世界中を飛び回って連絡すら寄越さなかったし、牧野が今、何処で何をしてるかなんて情報は何処からも来なかった。


『その言葉を出すのに時間がかかりすぎたもん。もう行ってやらなきゃヤバいでしょ?』
『西門さん、1つ勘違いしてるよ。私ね・・・あいつの事、嫌いじゃないのよ?』



俺の耳元であいつが言った言葉が3年経っても離れることがなかった。
そんな言葉を残したくせに何処に行ったんだか・・・。



そんなある日のこと、

「そろそろ身を固めてもいい年じゃないの?何方か心に決めた方がいるなら連れておいでなさいな」

誰にも興味を示さず、縁談話を無視する俺にお袋の方がそんな言い方をし始めた。
それまでは家柄だの伝統だの言ってたクセに・・・俺の素行が悪いと窘めて説教三昧だったのに。今度はそれが全く無くなると焦りだした訳だ・・・西門の跡取り問題が大袈裟なものになってくると分家筋がしゃしゃり出てくるから。

眉間に皺を寄せて「誰も居ないのなら」と釣書を押し付けてどっかへ消えて行く・・・俺はそれの封を切ることもせず事務所に返した。


「お点前の方に狂いなど生じてはないように思われますな・・・むしろ腕を上げておられる。ただ・・・茶席での若宗匠はお心が別のところに向いておられるのかと思う時がございます。そのような時のお茶は・・・まだまだかな、と」

「・・・見破られるものなのですね。申し訳ございません・・・自分でも承知しております」

俺が信頼している後援会会長の言葉に頭を下げる。
この時だけは自分の中に燻っているものが表に現れてきて、茶の味を変えてしまうらしい・・・本来もてなす側の俺が会長の前で胸の内を話した事もあった。
親父にもお袋にも言わない想い・・・彼はいつも穏やかに俺の話を聞いてくれた。

この日も最後には優しい笑顔を俺に向けて言葉をくれた。


「若宗匠、シェイクスピアの言葉をご存じですかな?」
「シェイクスピア?専門ではありませんでしたが多少は・・・」

「彼の言葉にあるのですよ。『事情が変われば己も変わるような愛、相手が心を移せば己も心を移そうとする愛、そんな愛は愛ではない』ってねぇ・・・つまりは自分自身が変わらずに真っ直ぐその人だけを見ること。あなたは自分の場所を動くことなく、その人を受け止めて差し上げたら如何ですかな?今、その人が何処に誰と居ようともご自分の心は動かさないことです。
いつか良い結果に結びつけばいいですねぇ・・・」

「・・・ありがとうございます、会長」



**



12月も終わろうって頃だった。
地方支部連の幹部連中との会食の後、見慣れない街を1人でブラブラしていた。
食った気もしない飯に、いつもの如く俺に勧めてくる見合い話・・・それにうんざりして飲み直そうと1人で店を探していた。


『旅人』・・・そう書かれた看板に何故か目が行った。

どう見ても安っぽい店・・・多分今まで入ったこともないような店内を想像させる外観なのに、俺はそこに入ってみようと扉を開けた。


「いらっしゃいま・・・」


そこに居た女は俺を見て固まった。
艶やかな黒髪が胸のラインまであって、痩せて子供みたいな体型で・・・見慣れなかったのは紅い唇。
それに似合わない下着みたいなワンピース。鶏ガラみたいな腕に光る安物のブレスレットに、鎖骨が目立ちすぎるデコルテラインには同じようなネックレス。

それでも変わらないのは俺を見る大きな瞳・・・微かに「西門さん?」って唇が動いた。


「お前・・・何してんだ?こんな所に居たのかよ」
「・・・あはっ!びっくりした。ホントに西門さん?まぁ、そんなに似てる人は他にはいないと思ったけど」

「・・・いつから日本に戻ってた?ずっとここに居たのか?なんで連絡しなかった?何があったんだ?」
「そんなに沢山1度に質問されても答えられないわ。お酒飲みに来たんでしょ?どうぞ、座って・・・カウンターでいい?」


牧野に言われて座ったのはカウンターの1番端。
「何がいい?」なんて言われても驚きすぎて返事が出来なかった俺に、「この店で1番いいものを選んでよ」なんて戯けて笑いながら言いやがった。
その作り笑顔は気に入らなかったが「好きにしろ」って言うと適当に酒を選んで、カランカランと乾いた音を立てて氷をグラスに落とし、そこに慣れた手つきで琥珀色の酒を注いだ。

「はい、どうぞ。気の利いたシャンパンなんてないからごめんね?」
「そんなのどうでもいいけどよ」

「そんなに怖い顔しないでよ。他にもお客さんがいるんだからさ」
「・・・・・・それもどうでもいいけどよ。なんであいつと別れたんだ?」


「・・・どうしてかなぁ」
「聞いてんのは俺だ」

「・・・あいつ、仕事に恋をしたみたいだったから・・・かな?それとも私が過去に恋をしたから・・・かな?」
「過去に恋?」

「・・・いいじゃない、もうそんな事。忘れていかないと前に進めないんだから・・・はい!乾杯しましょ?」


3年経っても何にも変わんねぇ幼い顔に不似合いな酒のグラス。
でも変わったのはこの酒を飲めるようになっていたこと・・・グラスの縁についた口紅がこいつらしくなくて違和感だった。
それに絶対に付けなかった仮面を付けるようになったこと。

この後も牧野は俺以外の客も愛想振りまいて自らも酒を飲んでいた。


「・・・帰るわ」
「あら、もう帰るの?気を付けてね、西門まで結構距離があるでしょ?」

「歩いて帰るわけじゃあるまいし」
「あはは!そうだったわね。そんなの私だけか!・・・もうここには来ないでしょ?」

「俺が入るような店じゃねぇからな」
「・・・うん、そうだよね。じゃ・・・元気でね」

席を立った俺の後ろに回りコートを掛けようとするから「自分でする」と言えば苦笑いでコートだけを手渡した。そして寒いのにワンピース1枚でドアの外まで来て曝け出してる腕を押さえながら小さく手を振っていた。


「・・・会えて嬉しかった。偶然ってあるんだね」
「俺もこの街は初めてだからな。驚いたわ」

「くすっ、そうだよね・・・でもさ、誰にも言わないでよ。花沢類や美作さんまで来たら困るから」
「・・・わかった」

「おやすみ・・・西門さん」



そう言って帰るわけがない・・・ここで逃がすなんて事は出来ない。
俺はこの店の電気が消えるまでずっと外で待っていた。

ただ、店の中で知らねぇ男と酒を飲むあいつを見たくなかっただけ。彼奴らにも同じようにコートを着せんのか?「おやすみ」って言葉を掛けるのか?
この俺の前で・・・それは許せなかった。


すげぇ寒い中白い息を吐きながら佇んでいたら、やがて日付が翌日に変わり店の電気が早々と消えた。
そして暗くなった店の横から薄っぺらいコートを着た牧野が出てきた。

「それじゃあマスター、また来年宜しくお願いします!よいお年を~!」
「あぁ、つくしちゃん、また来年宜しくな~」

「おやすみなさーい」


牧野の仕事納めか・・・それを聞いてコートの襟を立てた牧野に近づいた。
また現れた俺の姿に驚いて牧野は店を出て数歩で立ち止まった。


その時は・・・3年前と同じ牧野の顔だった。




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2019/01/02 (Wed) 15:50 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: こんにちは🎵

meimei様 こんにちは!

明けましておめでとうございます。
昨年はたくさんのコメント、ありがとうございました。

あはは!暗くないでしょ?ちょっとだけ大人のつくしちゃんです。
設定はね・・・実は類君と同じです。こっちの方が大人バージョンです♥

そうそう!バレましたか?
今年もそんな感じで頑張ります!!

どうぞ宜しくお願い致します~♡

2019/01/02 (Wed) 17:28 | EDIT | REPLY |   

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