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plumeria

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「西門さん・・・帰ったんじゃなかったの?」
「店の中でのお前を見たくなかっただけだ。家まで送る・・・何処だ?」

「いいよ、そんなの。毎日1人で歩いて帰ってるわ。目の鼻の先・・・すぐそこなんだから」
「じゃ、そこまで行く。俺に見付かって説明なしで逃げられると思うなよ、牧野」

グッと唇を噛み締めて眉を顰めた。
だが「お好きにどうぞ」と呟くと俺に背中を向けて細い路地を歩き出した。


小さな背中を丸めてコートのポケットに手を突っ込んで、俺の少しだけ前を牧野は歩いていた。
1度も振り返ることもなく、1度も喋ることもなく・・・そしてホントに歩いて5分ぐらいでオンボロなアパートに着いて、そこの前でやっと振り向いた。


「今までで1番最低なアパートでしょ?ふふっ、だから部屋に入ってなんて言えないの。送ってくれてありがとう」
「牧野・・・俺、お前に聞きたいこともあんだわ。あん時に逃げられた事もその後の事もな」

「・・・あはっ!あの時・・・ごめんね、朝イチにすっごく歩いてバス通りまで行ったわ。大変だったのよ?年末年始にはバス、走らないんだもん」
「逃げるなって。俺は何処でもいい・・・お前の話が聞きたい」

それまで巫山戯て笑っていた顔が急に真面目なものに変わった。
それを話しても過去は変わらないって言いたいのか、俺を見ていた目はすぐに逸らされ、赤く凍えた指先で髪の毛を耳に掛けるような仕草をする・・・そこでも不似合いなマニキュアが暗闇の中で余計赤黒く光った。

ホッとするのは指輪がねぇ・・・骨張った指の何処にも光るものはなかった。



「それじゃあさ・・・3年前と同じ約束しようか」

「・・・は?」

牧野の顔は暗闇でよく見えなかった。わざと自分の顔を月明かりで確認出来ないようにしてるのか、牧野の背中だけが光っていた。

「待ち合わせ場所はここ。ちょっとアパートが違うだけで時間も同じ午後11時。行き先も同じ・・・今度はちゃんと初日の出が見たいんだけど、どう?」
「・・・逃げねぇな?」

「何処に逃げるの?もう逃げる場所なんてないもん・・・どうする?ちゃんとあの時のスーツも持ってるから心配しなくていいよ」

「・・・わかった」


俺達はあの時のように一緒に年が変わる時間を迎え、一緒に初日の出を見ようと約束してそこで別れた。
別れる時には「店の女」みたいな顔を作りやがって「お疲れ様!」なんて声を掛けるから、俺は何も応えられなかった。

馬鹿なヤツ・・・そうやって俺の姿が見えなくなると、泣きそうな顔して部屋に戻るのなんか判りきってるのに・・・。



**



そして大晦日の午後11時。

あの日と同じバイクに跨がり、牧野用のヘルメットを持って今のあいつのアパートに向かった。
こんな静かな住宅街には大迷惑な爆音を響かせてそこに行くと、俺の目には驚く光景があった。


牧野がバイクに跨がってる・・・しかも乗ってるのはハーレーの「SOFTAIL DELUXE」メタリックブルーの特別仕様車。
確かに車高が低くて女でも乗りやすいバイクだが・・・まさか牧野がバイクに?

それに驚いて暫くヘルメットを取ることも出来なかった。


「驚いたでしょ?ふふっ・・・これね、あいつに最後のお強請りで買ってもらったバイクなの」
「これを・・・司に?」

「そう!だからそれだけでバレちゃってね、結構怒ってたわ」
「・・・・・・マジか!」

「いいじゃない、もう終わった事よ」
「お前・・・!だから司は俺を無視してんのか!」

「そうなの?あはは!・・・あいつらしいよね。行きましょ?」
「牧野!」

「早くしないとここで年超しちゃうよ?」


そう言うと長い髪を束ねて俺が持ってたヘルメットを被り、可愛気もなくこの俺に向かって指だけで「行け」と指図しやがった。当然道がわかんねぇから俺が前を走り牧野がついてくる・・・ミラーで後ろを確認しながら俺はバイクをあの時と同じ別荘に向けた。

どのぐらいのスピードならついてこられるのかもわかんねぇ・・・だからそこまでスピードを上げなかったら後ろから煽ってきやがる。かと言って本気で走れば俺を見失うだろうが!と半ギレ状態でイライラしながらバイクを走らせた。


暫く走って、まだ目的地にはほど遠い場所で新年を迎えた。
その時にあの日と同じように何処かで花火があがったのが見えて、俺は後ろに合図してバイクを停めた。

牧野もすぐに停まって、俺が降りて近づくとヘルメットを外した。


「どうかしたの?」
「バーカ!年が明けたんだよ」

「あはっ!そうか!明けましておめでとう、西門さん!」
「・・・おめでと、牧野」

これが男と女の新年の祝い方か?ってのは疑問だったがグローブのまま拳でハイタッチして、それが俺達の新年の挨拶だった。
そして花火が終わるまでそこから2人で並んで眺めていた。

遠すぎて牧野の顔を染めることなんて出来ない花火だったが「真冬の花火も中々いいよね」なんて呟いて空が元の漆黒に戻るまでガードレールに縋ってた。


「終わったな・・・じゃ、行くか」
「うん、あとどのぐらいだっけ?」

「普通ならあと1時間だろうけど、お前がいるからもう少し掛かるかな」
「・・・馬鹿にしてるな?どれだけ飛ばしてもついていくわよ?試してみる?」

「そんな事試さねぇよ。後ろに乗せてなくても大事な命に変わりはねぇよ・・・のんびりは嫌だがそこそこのスピードでいいんじゃね?」

「・・・了解。スピードは任せる・・・西門さんについていくよ」


「あぁ、ついて来い」


もう1度ヘルメットを被りグローブを填め直してバイクに跨がりエンジンをかけた。
俺が右手で合図すると軽く頷いて牧野も片手をあげる・・・そして誰もいない道を再び走り出した。

対向車が来る度にドキドキする。
後ろのライトが急に消えやしないかと気が気じゃない。
こんな俺の不安も考えてもいないんだろう、コーナーに差し掛かった時の俺は自分の走行よりも後ろが気になって何度か危なかった。

あいつみたいな小さな女があんなデカいバイクになんか乗りやがって・・・!

安全なコーナリングってのには「ブレーキング」「倒しこみ」「旋回」「立ち上がり」・・・こいつらをマスターしないといけないんだがそれが出来てるんだかどうだか。
中でもコーナーに進入する際のブレーキングテクニックはその後の動作に繋がる重要な初動だ。いつ始めていつ終わるのか、これは何度も乗って自分でコツを掴まなきゃいけねぇんだけど・・・どの程度乗りこなしてんだ?

だからコーナーに差し掛かったときに急な減速をしてねぇか、それを確かめながら心臓が爆発しそうだった。


そんな俺の心配なんて必要なかった。

こいつは目的地まで1度も遅れることなくついてきて、別荘に辿り着いてヘルメットを取った時にはニヤリと笑った。


「少しは西門さんに近づけたでしょ?」
「・・・ばーか!手加減して走ったんだよ!」

「そっか。でも、いいや・・・同じ世界に行ってみたかったのよね・・・」


ヘルメットからこぼれ落ちた黒髪が夜の風に靡いた。
俺達の耳にはあの時と同じ・・・波の音しか聞こえなかった。




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2019/01/03 (Thu) 20:28 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: こんばんは

yuka様 こんばんは!

明けましておめでとうございます。
あはは、無理がありましたか?いやいや・・・乗るんですよ!
一応女の子が乗れるヤツらしいですよ?お値段はね、250万ぐらいだったかな?特別仕様なのでもう少しお高いと思います。

因みに総ちゃんのはめっちゃ高いヤツで2000万ぐらいの特注品です(笑)

え?うちの旦那?125ccだったかしら・・・?
今は事故って廃車になったのでバイク禁止令出てます。ははは!

今年も宜しくお願い致します~!

2019/01/03 (Thu) 21:37 | EDIT | REPLY |   
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2019/01/04 (Fri) 00:47 | EDIT | REPLY |   
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2019/01/04 (Fri) 02:16 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様、こんにちは!

あっはは!びっくりしました?
私も今まで後ろには乗せてましたけどね(笑)

私の兄も大型バイクに乗っておりますが、年末に西日本から富士山を見るためにバイクで出掛けておりました。
槍ヶ岳と黒部にも行ってまして、お正月には綺麗な写真も見せてもらいました。
ハーレーではございませんがカワサキのいいヤツに乗ってます。

そしてお正月には嬉しそうに「船、もらったんよね!今度から船で釣り行くわ!」って言われてドン引き。
バイクも船も良いが、嫁はどうした!!とは言えない妹でした(笑)


さて、ラストはどうなりますか・・・お楽しみに♥

2019/01/04 (Fri) 10:41 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: No title

Aria様、こんにちは!

コメントありがとうございます。
あははは・・・総ちゃんのは連載があまりにも暗いので明るく行こうかと思ったら意外と切なくなりました(笑)

おかしいなぁ?何処で狂ったんだろう?

つくしちゃんがバイク(笑)
私は免許なんて持ってないんですけど、教習所で横倒しのバイクを起こす力がないとダメだって聞いたんですがどうなんでしょう?
私はその時点でアウトです。握力はあるけど腕力がありません。
因みに逃げ足は速いですが持久力はありません(笑)


そして普通免許を取るときに受ける原付講習で「あんた、ダメだね」って教官に言われた人です(笑)

乗れたら格好良いのにねぇ・・・💦


最終話、楽しんでいただけたら嬉しいな!



2019/01/04 (Fri) 10:50 | EDIT | REPLY |   

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