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plumeria

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「うわぁっ!あの時と何も変わってないのね。変わったのは私達が3歳年とったって事だけだね!」

「ここはあんまり使わねぇからな」

3年前と同じようにカーテンを引いて窓から外を見ながら牧野が言った。
違うのは髪の長さぐらい。そして少し化粧してるぐらいだ。それ以外は何も変わらない・・・今日の牧野はネイルもしていないし、安物のアクセサリーもつけていなかった。

作られた笑顔ってものでもない・・・窓の外を眺める目はあの時と同じだった。


「何か飲むか?身体が冷えただろ?それとも少し休むか・・・日の出に目が覚めるかどうかわかんねぇけど」

「くすっ、あの日と台詞が同じだわ」

「・・・え?」
「3年前と全く台詞が同じなの。そういう所も変わんないのね、西門さん」


そんなの覚えてるわけがない。ただこのシチュエーションじゃそのぐらいしか掛ける言葉がねぇだろう。
牧野はカーテンを元に戻してリビングに戻ってきた。そしてほんの少しスーツのファスナーを降ろして胸元を広げ、ソファーに座った。

バイクで来てるんだから酒は飲めない。
それじゃ煎れるのは珈琲ぐらいしかねぇからそれに決めて、少しだけブランデーを垂らした。

香り付けの意味もあるが身体が温まる・・・悴んだ手を擦った後で牧野は珈琲カップを両手で掴み、嬉しそうに口に運んだ。



「で・・・何があったんだ?話すって約束だ」
「やっぱり聞きたい?」

「・・・お前!」
「あはは!少し待って・・・まだ寒いから」

仕方ねぇから暖房の温度を少し上げて、ブランデーを足してやった。
「酔わない?」なんてクスクス笑うから「醒めてから帰ればいいさ」と言えば頷いて飲んでいた。


「・・・いつ戻ったんだ?理由は・・・バレたのか、あの時の事」

「アメリカには8ヶ月居たかなぁ?次のお正月も日本で迎えたわ。ふふっ、話してないわよ。勘付いたかどうかは判らないけど」

「どういう意味だ?」

「・・・嫌いじゃなかったのに触れられると私の何かが拒否したから・・・それをあいつが感じてしまうみたいでね。式の日取りもドレスも決めていたのに、私達・・・最終的には恋人になれなかったの」

「・・・拒否ってまさか、お前、司と・・・」

「ふふっ!そういうこと。覚悟なんて出来てたし、そうじゃないと結婚なんて出来ないでしょ?だけど、いざってなったらね・・・気持ちが逃げちゃうの。それが何度か続いたら流石にね・・・それに、あいつも仕事が忙しくて殆ど私の所には居なかった。戻ってきても30分ぐらいでまた出て行く時もあったしね。
すれ違いって言うのかなぁ・・・それが自然と作られたり故意に作られたりを繰り返してたらこうなっちゃったの」

最後のひと口を飲み干してからこいつには不似合いな、あの店で覚えたようなオトナの笑みを溢した。
そして言葉を続けた。


「式の少し前・・・もう招待状まで作った頃にあいつの方が『無理だな・・・』って言い出したの。それには驚いた・・・だって絶対に別れないと思ってたし、私もそう思ってた。今は受け入れることが難しくても夫婦になったら変わるような気がしてたから。
でもね、学生の時のような情熱がお互いに少しずつ冷めちゃったのね。あいつは仕事に夢中になって、私は・・・」

「・・・お前は、なんだ?」

「・・・ううん、何でもない。とにかくそういうこと。喧嘩別れでもないし追い出されたんじゃないの。話合いもろくにしなかったけど、自分たちは永遠を誓うパートナーではなくなったって気がついたの」

「・・・司の母ちゃんは?」

「社長はすぐに納得して嬉しそうだったわよ。初めからわかっていたことでしょ、なんて言われて2度と道明寺に近づかないようにって凄い金額の手切れ金も準備されたけど受け取らなかったわ。あいつもね、私には何も渡す物はないけど日本に戻ったら住む所ぐらい無いと困るだろうってマンションを譲るって言われたわ」


司・・・あれだけこいつに熱上げてたのにそんな物で手放すことが出来たのか。
それだけ世界を相手にしたら「仕事」ってヤツは面白かったのか?こいつよりスリルがあったのかよ。

俺にはわかんねぇな。閉鎖的な世界で生きてるからなのか・・・そんなつもりはねぇけどな。


「で、貰わなかったのか?それか売り払ったのか・・・いや、それならあのアパートはねぇよな?」

「貰わなかったの。その代わりがあのバイクよ。値段は100分の1よ?良心的でしょ?」

「そん時、司なんて言ったんだよ」

「・・・『もしかしたらあいつの影に俺は負けたのか』って言ってた。私は違うともそうだとも答えなかったわ。ううん、答えられなかったのかもしれない。ズルい女だよね」

「なんで日本に帰ってきた時、俺に連絡しなかった?あの時に逃げたからか?」

「・・・出来るわけないじゃん」


それまでわざと意気がった振る舞いを見せていたのに、視線を逸らせて身体を小さくさせた。
まるで過去に遡っていくように牧野が学生時代の顔に戻る・・・俺はそれが不思議と嬉しかった。目の前のこいつは狼狽えてるのに、それが幼い子供の駄々のようにも見えて可笑しかった。


「あいつにバレたんならもういいんじゃね?」

「だから・・・もう終わったことだし。私は全部忘れて新しい自分に生まれ変わりたいのよ」

「その割にはバイクに乗り慣れてるじゃねぇか。そのスーツ、捨てられなかったんだろ?」

「・・・そうだけど」

「この先も俺の後ろをついてきたい・・・それが本心じゃねぇの?」

「それは出来ない。あんな挨拶して西門を出たのに婚約も解消して安い飲み屋でホステスやって、茶道なんて全部忘れた私がもう1度あの門をくぐる事なんて出来るわけがないじゃない!」


やっと出た牧野の本音・・・それを口にしたこいつは自分でも驚いて口を塞いだ。


「確かめようか」
「は?確かめるって・・・何を?」

「あいつとは無理だった永遠のパートナーに俺が合格するかどうか・・・って事だ」


俺の差し出した手を牧野は無言で掴んだ。
その手を引き寄せて向かったのは、あの日牧野を初めて抱いた部屋・・・そこのベッドに今日は静かに牧野の身体を沈めた。


もう1度抱けるとは思わなかったこいつの身体・・・俺は夢中で牧野を欲しがった。
牧野も同じだったのかもしれない。俺の総てを受け止めたこいつはあの日と変わらず激しくて熱かった。少しだけ痩せてしまったくせに全身から放つ女の香りは前よりも甘くて強く、撓る身体は月に照らされて俺を煽る。

こいつは本当に俺しか知らない・・・俺以外の誰とも身体を逢わせなかったのだと思うと愛おしくて堪らなかった。


震える指が俺の背中を滑り、淫靡な吐息が耳を擽り、時々優しく俺の名前を囁く。
俺はそんな牧野に容赦なく自分自身打ち込んで、最後には同時に絶頂を迎えこいつの中に精を吐き出した。

倒れ込んだのは夜明け前・・・もうすぐ朝日が登る、そんな時間まで俺達はお互いの身体を離す事なんて出来なかった。


「このままじゃダメか・・・?初日の出、見んのか?」
「・・・うん、見たいな」

「俺の事を離してでも見たいのかよ・・・」
「くすっ、そんな事言うの?可愛いね、西門さん」

「・・・馬鹿にしたな?」


そんな憎たらしい口は塞いでやる・・・牧野が苦しがるほどのキスをした後でベッドから降りた。



**



7時になって沖の方に白い光が見え始めた。

今日の予報は雪・・・雲は多かったけど運のいいことに日の出の方向はそれがなかった。
そいつは周りの風景を薄いオレンジ色に変えながら姿を現し、やがて海には「光の道」が出来た。

今年初めての朝日・・・そいつが海だけじゃなく俺達の顔も照らし、その時に小さな雪も舞い落ちてきた。
ずっと日の出を見ていた牧野は少しだけ顔を上に向け、自分の前で踊っている雪に手を伸ばした。


「あの時もね・・・雪が降ってたのよ」
「あの時?」

「3年前・・・私が西門さんから逃げた時。雪が降ってたの」
「・・・へぇ、初めて聞いたわ」

「海に落ちる雪って・・・可哀想だって思ったの」
「なんで?」

「だってさ・・・1秒も形を留めずに消えるんだもん。行き先が不安だった私には何だか自分と重なって見えて嫌だったな」


自分の指先についた雪でも数秒間、形が残るのにって牧野は俺にその指先を見せた。
そいつはまるで朝日に溶けるかのように牧野の指先で形を変えた。


「・・・んじゃ、お前は雪なのかよ」
「あはは!そんなに綺麗なもんじゃないけどね」

「じゃ俺は海になってやる」
「は?西門さんが・・・海?」


「そう、俺が海になってやる。で、落ちてきたお前は全部俺が受け止めてやる。お前は姿が消えるんじゃなくて俺の中に溶けて残る・・・それだと文句ねぇだろ?」

「・・・馬鹿じゃないの?似合わないよ、そんな台詞・・・ホント、馬鹿」


「合格だろ?」


濡れた指を掴むとその手は震えながら拳を作り、今度はこいつの頬に光るものが流れる・・・それをもう片方の手で拭ってやるとそのまま俺の胸に額をつけて声をあげて泣いた。






その年の春・・・牧野は西門に住み始め、秋には艶やかな花嫁衣装に身を包んだ。
次の新しい年を迎える頃、賑やかなのが俺達の間にやってくる。










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2019/01/04 (Fri) 18:10 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

パール様 こんばんは!

そうそう!誰かが突っ込んでくれないかと思ったんですよっ!
書いてめっちゃ笑った台詞!!(爆)

つくしちゃんもよく噴き出しませんでしたよね~、感心しちゃう!

私達ならそこで歌うよねっ!

「う~みよ~、俺のう~みよ~♪」


あっ!そうそう!この歌で思い出した!
うちの兄貴、先月漁船持ったのよっ!(爆)
ホントの漁船で、写真見たけどすっごく古いの!(人から譲ってもらったらしいから)

「これで魚釣り行くん?」
「・・・それ以外の使い道あるんか?」

「いや、ないと思うけど」
「じゃ聞くな、ばか!」

「てか、海で遭難したら何処に連絡いくん?」
「○○漁港。時間になっても船が戻らんかったら探しに来てくれるはず」

・・・バイクの次は船?残るは空だけ?
母と顔を見合わせて溜息つきました(笑)


NEWYEAR STORY、最後までお付き合いいただきありがとうございました♥

2019/01/04 (Fri) 20:03 | EDIT | REPLY |   
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2019/01/04 (Fri) 22:48 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

パール様、こんばんは!

あのね、持ってたのよ!平成10年に!
船もないのになんで取ったんだか判んないけど20年も先を見越して取ったのかしらねぇ?

それがね?実家の隣が空き家なんだけど、そこの庭に秋ぐらいから「浮き」とか「イカリ」とかが置いてあって母が不審に思っていたんですって。
それを近所の人に聞いたら「お宅のお兄さんが置いて行ったよ?」って言われてびっくりした事があってね(笑)

今考えたら「漁船かーっ!!」ってなって。

「そのために浮きやらイカリをもらって来たん?」
「・・・それ以外に何があるんか」

「いや、ないけど」
「実は沖釣り用の竿買ったんよね♪」

「いつ行くの?」
「決まってない」

「1人で行くん?」
「3人まで乗れる♪」

「6人乗りでしょ?」
「救命道具を3人分しか買ってないから3人まで」


「・・・・・・そこまでして魚釣りたい?」
「おおっ!!」


じゃあ猟師になれよっ!!って思った正月でした。

そうそう!嘘つきの婚約者よ!!使ってみました(笑)
悪役でしょ?ふふふっ!
(意味わかった?)


こんな兄の相手は・・・2番か4番で!!3番は死んでもいやっ!

空を飛べる事業用操縦士もしくは自家用操縦士を取ったらお知らせしますね(笑)

2019/01/05 (Sat) 00:23 | EDIT | REPLY |   

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