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plumeria

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大学を卒業して3年、俺は西門の仕事を本格的に始めていた。
幼馴染み達は世界中を飛び回っていてもう滅多に会うこともない。
電話で話すことも稀で、企業紙などであいつらの活躍を知るぐらいだった。

今日は都内のホテルで茶道教室の打ち合わせをしていた。
主要な教室では時々次期家元の指導と称して生徒を集めるようなイベント的なこともしている。
純粋に茶道をしたい俺としてはあまり乗り気ではなかったけど、これも時代の流れで仕方がない。
今では家元の代行として亭主を務めることも多くなったが、それだけで西門流を支えていけるような現状ではなかった。

そんなあまり気乗りのしない打ち合わせも終わったあと、今日の予定が何もなかった俺は弟子達を全員帰して1人で
ホテルから歩いてオフィス街の方に向かった。


特別何かがあるわけではなかった。ただ、気ままにその道を歩いていた。

ビジネススーツを着たサラリーマンがスマホを手に持って早足で歩いて行く。
自分はカジュアルなジャケットを羽織っていていかにも自由人のように見えるんだろう、
すれ違う奴らの中には俺を珍しそうに見てくる者もいる。
平日のこんな時間に、俺くらいの年の人間が何をやってるんだって顔をして。


ふと、目をやるとそのサラリーマンの群れの中に揺れ動く黒くて長い髪を見つけた。
なんだか懐かしいその後ろ姿・・・見覚えのある歩き方・・・



「・・・牧野?」

背の高い男達に紛れて見えなくなったけど見間違えるはずがない・・・!
すこし足を速めて、その女性を追った。再びチラッと見えた彼女は・・・やはり、そうだ!


「牧野!牧野じゃないか?!」

少し声を大きくしたら彼女は振り向いた。やっぱりそうだった!
俺に気が付かなくて、あたりを見回している。その大きな瞳は学生の時と同じだ。
不思議そうな顔をして左右を何度も確認している。


「牧野!こっち!」

もう一度声をかけたら、今度は俺に気が付いた。


「うそ・・・!西門さん・・・?西門さんなの?」

そう言うと昔と同じ笑顔で近寄ってきた。幼い顔立ちは本当に変わっていない。
どこかの会社に勤めているのだろう、牧野は制服姿だった。


「久しぶりだね!何年ぶりだろう・・・3年かな?相変わらず格好いいんだね!」

「お前も全然変わってねーよ!元気してたのか?この辺で働いてんの?」

「うん。すぐそこなんだけどね。まぁ、この辺の会社の中じゃ小さい方だけど、楽しくやってるよ」

時計を見たら5時・・・このまま別れるのも惜しくて、食事に誘ってみた。

「牧野、仕事何時までだ?俺は今日、もう仕事が終わったんだけど良かったら今からメシ食いに行かないか?
久しぶりだから奢ってやるよ」

「ほんと?でも私は5時半までなの。西門さん、時間は大丈夫?」

「どっかで時間潰しとくよ。・・・あそこ、あの喫茶店でコーヒーでも飲んでるからあの店に来てくれよ」

そう言うともの凄い笑顔で頷いている。その久しぶりの笑顔は昔のままだ。
もう24・・・のはずなのに走って自分の会社に戻っていく。その後ろ姿は高校生の時と同じだな。


「あいつ、ちっともかわってねーな・・・まるで子供じゃん。少しは大人っぽくなりゃいいのにな」

それでも何故か浮かれてしまう自分がいる。
喫茶店でも牧野が来ると思う方向をずっと見ていた。なんでこんな恋人を待ってる気分になってんだ?
楽しくもない仕事の打ち合わせで気が滅入っていた俺だったのに。

しばらくしたら向こうから走ってくる牧野を見つけた。
時間は5時40分・・・あいつも急いできてくれたんだと思うと嬉しかった。


すぐに俺も喫茶店を出て、走ってくる牧野を迎えた。

「ごめんね!待たせちゃって!」
「いや、全然平気だけど。お前・・・女のくせに帰り支度早すぎねーか?一応男と待ち合わせてんのに!」

走ったために髪が少し乱れている。その髪を直してやろうと手を伸ばした。
牧野は急に俺の手が髪に触れたから、首を竦めて身体を後ろに引っ込めた。

「なんだよ!その態度は・・・感じ悪いな!髪を直してやろうと思ったのに」
「え?あぁ、そうだったの?ごめんね!まだ昔の癖が抜けてないんだと思ってさ!」

恥ずかしそうに照れ笑いをしながら、自分で髪を整えていた。


「急がせて悪かったな。何が食べたい?どこでも連れてってやるぞ」

「そんな言い方も昔と同じなのね!そうね・・・西門さんは和食が多いだろうからイタリアンか中華がいいな!」

「んじゃ、俺の気分でイタリアンだな!俺の知ってる店で良かったらすぐに予約入れるよ。近くにあるんだ」


まだ明るいオフィス街を3年ぶりに再会した牧野と歩く。なんだか右側がくすぐったかった。

牧野は昔に比べたら生活は楽になったんだろう、わりときちんとした格好をしていた。
高級とはいかないけど上品にまとめている。その黒くて長い髪もそのまま・・・
さらさらと揺れる髪が妙に色っぽく感じた。やっぱり化粧もしてるんだな、すっぴんに見えるけど・・・


「何よ・・・そんなにジロジロ見て・・・何か変?」

「いいや、変わってないようで、やっぱり少しは大人になったんだなって思ったんだよ」


軽く肘で小突かれながら予約した店まで2人で歩いた。

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