FC2ブログ

plumeria

plumeria

「それでは美作部長。明日またお話し合いの時間を取っていただけると言うことで宜しいでしょうか」

「あぁ、そうしてくれ。悪いな・・・あんたの都合まで変えさせて」
「いえ、それは大丈夫です。失礼します」


吉本さんが美作さんに深々と頭を下げて役場に帰って行ったのは夕方になってから・・・結局この人達の仕事の打ち合わせもお昼ご飯も私のせいで取れなかったと思うと申し訳なくて、私もあまり曲げられない身体を曲げて吉本さんを見送った。

女将さんが奥から出てきて美作さんに特別室を案内し、私には自分の部屋で休むようにと心配そうな目を向けられた。


「女将さん、申し訳ありません。お茶を点てるどころかまたお仕事出来なくて・・・もう、ダメですね、私・・・」

「何言ってるの!もう少しの辛抱でしょ?その後でまた頑張ってもらうから今は言うこと聞いて休みなさい」

「はい・・・ありがとうございます」


美作さんの事は何も聞かない。

私が倒れたときの様子でどんな関係か想像出来ただろうに、女将さんは何も聞いては来なかった。
話そうと思って目を向けたけど逆に小さく首を振られた・・・今はとにかく休めと言うことなのだろう。それに甘えて私は自分の部屋に戻りお布団を敷いて横になった。


「よいしょっ・・・と、はぁ・・・まだ少し痛いな・・・当たり前か」

このまま妊娠を継続出来なくなったって早産になっちゃいけない。
少しでも長くお腹の中で育てて大きくしてから出してあげなきゃ・・・それが私の1番の仕事だから、今はこの子達のことを考えなきゃダメ・・・何度も同じ言葉を繰り返して目を閉じてた。

でも、頭の中がこんがらがって休むことなんて出来ない。
突然蘇って来た12月の出来事が何度も思い出されて、その中のどれが真実で、どれが嘘なのか・・・それを考えると頭が痛かった。

同じ出来事を違う言葉で言われたのか、違う出来事を似たような言葉で言われたのか。
それ次第で全く違う結論が出る・・・もし、美作さんの言葉の方が本当なら私の決断は早すぎたのかしら。でも、あのまま残っていたら西門さんは茶道から遠ざかったに違いない。

多分そうなったら、今は良くても将来彼は後悔する。
きっと・・・後悔して過去を振り返る。

その時に自分の選択が違っていたのかもしれないと悩んだら・・・私は自分が許せなくなる。東京を出たのはそうしたくなかったからだもの。
西門さんからお茶を取り上げないために逃げたんだもの・・・。


西門さんの怪我も心配・・・交通事故だなんて、あの西門さんがバイクで事故する程動揺しただなんて・・・。
お茶を点てることも出来ずに数ヶ月間の入院・・・退院しても正座できない身体で今頃どうやって暮らしてるんだろう。

今は元気だと言うその姿を見たくて涙が溢れた。
入院してる時、彼の傍に居てあげられなかったことが凄く悔しい。
何を心の支えにしてそんな長い間耐えたんだろう・・・私が自分から姿を消したと思っていたんなら、私を恨みながらベッドに寝ていたのかしら。


そんな彼の傍には誰が居たの?
紫さんって言う婚約者・・・その人がずっと居たの?あの人の傍に・・・私の代わりに・・・。



あれだけ泣いたのに、まだ溢れる涙があることに驚く・・・それを止めさせようとするのかお腹の子供が私を蹴る。

「あはは・・・ごめんね、大丈夫。お母さんは大丈夫だよ・・・あんた達のお父さんがね、怪我したって聞いたの。
だから心配でね、少しだけ悲しくなったの。でも今は元気になったんだって・・・だから、もう泣かないね・・・ごめんね」

お腹をさすったらちょうど掌を蹴られた。
お腹の皮が間にあるのがもどかしい・・・早くその手にも足にも触れたいなって呟きながら目を閉じた。



**



もう外が暗くなってから夕食を先輩が運んできてくれて、何度も頭を下げながらそれを受け取った。

そしてたった1人で晩ご飯・・・もうお腹が大きいから1度に沢山は食べられない。ほんの少し残してしまったけど、食器を抱えて厨房に向かった。
料理長にお礼を言って、会うスタッフみんなにお詫びをして、また自分の部屋に戻る途中に女将さんが美作さんを連れて私の部屋の方に向かってくるのと出くわした。

歩き回ってる私にちょっと怒ったような顔を見せたけど、すぐに呆れたような笑顔に変わる美作さん・・・その表情は英徳で見ていた彼そのものだった。
「無理し過ぎるんだよ、牧野!」っていつも後ろ頭をくしゃっとしてきたけど、その手はすごく優しかったっけ・・・。


「あら、ご飯は食べられたかい?」

「はい、いただきました。あの・・・美作さん、どうしたんですか?」

「・・・お客様がどうしてもあんたと話したいって言われるからね。特別室に従業員をずっと入れておくことも出来ないってお話ししたら、あんたの部屋に行きたいって・・・強くご希望されるもんだからお連れしたの。どう?お話・・・出来る?」


女将さんの後ろにいる美作さんはまたニコッと笑った。
心配するなって意味なんだろう・・・私が小さく頷いたら女将さんはそこで向きを変えた。
「お休みされる時は必ずお部屋にお戻りを・・・」、そう彼に呟いたのだけは聞こえた。美作さんがそれには頷かなかったから気になったけど。


「悪いな、身体が調子悪いのに押し掛けて」

「あはっ・・・もう今更だよね。どうぞ、狭くて驚くだろうけど」


美作さんは東京でも私の部屋には入ったことはない。
だからこんな六畳一間なんて想像も出来ないだろうな・・・でも、ここで見栄なんて張る必要もないし、耐えられないなら出ていけばいいだけのこと、そう思ってドアを開けた。

中に入ったら一目で見渡せる部屋に驚いたようだった。
この人のポカンとした顔なんて初めて・・・すっごく大きな目を天井から床の隅まで向けてる。
あまりにも小さなキッチンに驚いたのか、流しの縁に手を置いて狭いシンクを眺めて、歴史を感じるテレビや蛍光灯に「レトロ感満載・・・」なんて言いながら珍しそうに見ていた。

「ふふふ、そんなに驚かないでよ。東京の私のアパートもこんな感じだったの。だから私は全然平気だけど、美作さんには衝撃だったかな?お茶入れるね・・・いいものじゃないけど」

「あぁ、気にしなくてもいいから牧野も座れよ。喉なんて渇いてないから」

「大丈夫だよ。出せるものはお茶ぐらいだから」


立て掛けていた卓袱台を出してそこにお茶を置き、美作さんはその横に座った。
敷いていたお布団を端に避けて「足を崩すけどごめんねぇ」なんていいながら向かい側に座り、膝掛けをお腹に掛けた。

やっと顔を見合わせたら・・・何故かお互いに笑いが出た。


「・・・こうしてみると変わってないな、牧野、腹を隠したら学生の時のままだ」

「そう?草臥れた顔してるでしょ?・・・美作さんは男っぽくなったね。さっきそう思ったの、結婚したからかなぁって。
そうそう、どうして日本にいるの?イギリスだったでしょ?」

「・・・嫁さんが体調崩したから日本に帰国させたんだ。それで俺も暫く付き添ってやりたいからイギリスを引き揚げて本社勤務に変わったってわけ」

「奥さんが・・・今は?大丈夫なの?イギリスに馴染めなかったのかしら・・・精神的なもの?」

「いや、心じゃなくて身体。でももうそれは手術も終って心配ないから」


1度煙草を出したけど「あ!そうか、ごめん!」なんて言って急いでポケットに戻した。
ここでも少し驚いた。西門さんは煙草を吸わないから考えたこともなかったし、美作さんも学生の間はそんなものに手を出さなかったから。
冗談で「キスしたい時に煙草吸った後じゃマズいでしょ?」なんて西門さんと言ってたよね・・・そんな言葉を思い出してた。

ホントにいつも2人は一緒に居たよね・・・私が妬いちゃうぐらい。


「・・・私が急に倒れちゃったから聞かなかったけど、美作さんがこんな田舎までお仕事に来るなんて思わなかったな。東京から若いけど凄いお偉いさんが来る、なんて女将さんが言ったんだけどね・・・まさか美作さんだったなんてホント、驚いちゃった」

「確かにな!俺が申し出たんだよ。たまには地方の視察に行ってみたいって・・・。そしたら丁度唐津で観光事業の打ち合わせがあるって言うから参加したら、彼・・・吉本君に呼子でいい料理出す旅館があるからって誘われてわざわざ足を運んだんだよ。それがここだったんだけど、まさか牧野が入ってくるなんて思わなかったから俺も驚いた。しかもさ・・・」

「こんなお腹してるからね・・・そりゃ驚くよね」

「・・・まぁな」


奥さんの事をもう1度聞いたけど、この時はあまり詳しくは教えてくれなかった。
だからその話しは止めて、今後の私の事を考えないか・・・と切り出された。

美作さんの目が真剣なものに変わり、それまで少し和んでいた空気も張り詰めた感じに変わった。


「牧野・・・ここを出て東京に帰ろう。ひとまず俺の家で子供が産まれるまで・・・あと1ヶ月もあるんだからこれからの事をその間に決めないか?総二郎にも黙ってはおけないだろう?」

「東京に・・・帰る?」


東京に帰る・・・西門さんに話すの?
「あなたの子供が居ます」って・・・?


美作さんの目を見ながら私の全身が固まった。
こんな時にでも動くお腹の中の赤ちゃん・・・無意識にそこを摩りながら、でも指先の震えが止まらなかった。




dc9a7a6f2a4563211a21bf510710405f_t.jpg
関連記事
Posted by

Comments 4

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/01/06 (Sun) 16:52 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/01/06 (Sun) 17:07 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様 こんばんは。

あはは!流石お母様のようなまりぽん様(笑)

そこまでご心配いただきありがとうございます!
あきら君、もう少し頑張ってくれますので見届けてあげてください。

でも、本当は8ヶ月目まで多胎妊娠の方は中々働けないですよね💦
会社に1人だけいましたが7か月でもう会社を辞められました。事務職だったけど無理だって言ってました。

で、次に働いた会社はとにかく女の子の多い会社でしたので妊娠する子も結構多くて(笑)
10人程度のお店だったのに妊婦が4人って時があって、そのうち3人はつわりが酷くて辞めました。
販売員だったので立ちっぱなしが悪いんでしょうね・・・だから旅館では多分無理なんでしょうね。
(そう言いながら働かせている私・・・)


私はなんと産前休暇を取ってないのです!
娘は1月初めに生まれたのですが12月30日まで働きましたから!(笑)

もうすっごい昔の話だなぁ・・・あ!誕生日プレゼント送らなきゃ(笑)

2019/01/06 (Sun) 22:34 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: こんにちは🎵

yuka様 こんばんは。

コメントありがとうございます!
あはは!本当ですよ・・・真面目な話、淋しいです💦

電話はあるんですが昨日まで居ましたからねぇ・・・いかんいかん!子離れしないと!

お話の方は・・・ははは!明るくなるのは相当先でしょ!(爆)
申し訳ないです。頑張ってついてきてください!

2019/01/06 (Sun) 22:37 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply