FC2ブログ

plumeria

plumeria

薄暗い蛍光灯だけの部屋・・・ここには不似合いな美作さんが目の前に居て、私に東京に帰ろうと言い出した。

これまで聞いた話だけでもまだ自分の中では理解出来てないのに「東京」と聞いたら身体が震える。
何か返事をしなくちゃいけないって思うのに言葉が出なくて暫く沈黙が続いた。


何処かの部屋で行われている宴会の歓声が聞こえてくる。
裏方のせわしい声もこの部屋には届いてくるから美作さんはその声のする方に顔を向けたりしていた。

数分後、やっと小さな声で言葉を出したのは私・・・彼は私が喋るまで黙って待ってくれていた。


「東京に戻る・・・って、産む前に?東京で産めって言うの?」

「そう。牧野も本当は判ってるはずだ。2人の子供を抱えてここで生活なんて出来ない・・・そんなに甘いもんじゃないって判ってるんだろう?俺なんかよりお前の方がその大変さを理解してると思うけど、違うか?」

「生活する事が大変なのは判ってるけど、子供が居たらって言うのは判んないよ。初めてだもん・・・」

「独り暮らしの方がまだ自由がある。今度はそれがないんだ・・・考えなくても判るだろ?」


私が東京に帰る・・・西門さんが居る東京に帰る?

それだけは自分の選択にはない事だったから、驚きすぎて何を言っていいのか判らなかった。
もう自分は東京には一生戻らないぐらいの覚悟で出てきたんだもん・・・西門さんを苦しめないために、私はこの子達を別の場所で大事に育てて、この子達の中にあるだろう彼の面影だけを支えに生きていこうと思っていたから・・・。

それなのに真剣な顔で「東京に帰ろう」って言われたら、また夢を見てしまう。


西門さんが1人を抱っこして、もう1人を私が抱っこして幸せそうに笑って散歩してる夢。
泣いてる子を西門さんがあやしてくれて、私が1人のおむつを替えて楽しそうに1つの部屋に住んでる夢。
お風呂に入れてくれるのは西門さんで、私は身体を洗い終わった赤ちゃんを受け取って拭いてあげる・・・そんな夢。

ハイハイしてる子を追いかける彼
立ち始めた子を心配そうにガードする彼
初めて「パパ」って呼ばれた時の嬉しそうな彼・・・想像しちゃいけないって思いながら毎日考えていた夢が一気に脳裏に浮かんできて目の前が歪んできた。

そしてやがて西門さんのようにお茶碗を持ってお茶室で・・・



「牧野・・・?」

美作さんの声でハッとして目元を拭った。


「あぁっ、ごめん!突然そんな事言うから・・・ははっ、びっくりして昔のこと思い出しちゃったじゃない!」

これからの事を想像していたのに誤魔化して過去にすり替える・・・自分までが西門に入りたいって言う願望を見抜かれるのは困る。それだけはこの先何があっても叶えられないものだから。


「突然かもしれないけど真面目な話だ。俺がここに牧野が居ると知ったのに、黙って東京に帰れると思うか?この旅館の環境が悪いって言ってるんじゃない。女将さんもいい人みたいだし、少ししか見てないけどみんなお前には親切にしてるようだしな・・・」

「うん・・・凄く良くしてもらってる」

「だからこれから先は余計に牧野は苦しむ事になるんだ。子供の事を気にせずに働けるのはもっともっと先の話だろう?
子供が自分の事を出来るようになった時に、母親が働き詰めだと今度は子供が淋しい思いをするんだ。たとえ双子でも子供だけってのは淋しいんだぞ?
牧野は住み込みだと1日中旅館のために動くだろう?勤務時間外でもここが住処だったらお前は放っておけなくて飛び出ていくようなヤツだ。かといってアパートを借りれば、それこそここより家賃は掛かるだろうし労働時間は凄く減るだろうしな」

「・・・想像なんて出来ないよ」

「牧野は貧乏だったかもしれないけど言ってただろ?自分が楽しかったのは食べるものが僅かでも4人で居たからだって・・・」


そうだね・・・お父さんとお母さんと進と・・・4人でいつも笑ってたから耐えられたよ。
そうだけど、そうだけど・・・

顔を上げたら美作さんは優しい目で私を見てる。
その優しさが逆に私を責めてるような気がして悲しくなった。


「美作なら牧野が誰にも会いたくないと言えば会わずに過ごせる。お袋も仁美も話せばわかってくれるし口は堅い。
万が一牧野の存在が西門にバレても美作邸に居れば守れる。たとえ家元が来たとしても屋敷の中にまで踏み込ませないし、探しても見つけられないだろう。知ってるよな?うちはそんな家だから安心していい」

「そういう・・・問題じゃなくて、あの・・・」

「総二郎のことだろ?牧野が会いたいなら美作の屋敷で会わせてやるから」


西門さんに会う?

会ったらどうなるんだろう・・・。

このお腹を見たらすぐに自分の子供だとわかるはず。私は西門さん以外の男性を知らないんだから。
自分に子供が居ると知ったら総てを捨ててでも私達を選ぶかもしれない。だけど、私は身を隠せるけど西門さんが隠せるとは思えない。西門を捨てたとしても必ず見つけられてしまうだろう。

そうしたら子供の事がバレてしまうかもしれない。
母親が誰であれ西門の血を引く子供・・・それを家元達が知らん顔するだろうか。


何よりあの方達が西門さんを手放すの?
確か家を出たお兄様より期待されてて、彼の弟はお茶には真剣じゃなかったはず・・・西門さんが次期家元に選ばれたのは異例の速さだとみんなが話していたのをお稽古の時に聞いたことがあるもの。

その人の血を引く子供を引き取りたいと言い出すんじゃ・・・。


さっきまで想像した幸せな光景が一気に崩れて、1人取り残された自分の姿を頭に描いてゾッとした。自分でも気が付かないうちに膝掛けの端を握り締めて手の甲が筋張ってる。
美作さんは真っ青になった私を見て心配そうな顔をしていた。


「牧野、何を悩んでる?1人で考え込むな・・・話してみろ」

「ううん、それが頭がこんがらがってよくわからないの。西門さんにこのまま会ってもいいのかどうか・・・この子達のことを知らせてもいいのかどうか、それがよくわからないの」

「知らせないつもりか?総二郎は喜ぶに決まってるだろう!きっと全力で牧野と子供を守ってくれるさ」
「ううん、守ってくれないなんて思ってないよ!」

「じゃあなんだ?」

「・・・そうじゃなくて、西門家が私からこの子達を奪うんじゃないかって・・・それが怖いの。それにその紫さんって人は婚約者で決まってるんでしょう?それは撤回しないって言ってるんでしょう?」

「・・・それには時間が掛かるかもしれないが、家元を説得するための協力なら幾らでもしてやる。家柄だけが問題なら牧野の後ろ盾に美作が付いてもいい。それは類も司も同じだろうと思うぞ?」

「ありがとう・・・でも1番想像できないのがあの家から西門さんが逃げられる?知った時なら感情にまかせて飛び出せるかもしれないけど・・・美作さん、西門さんはお茶から離れて生きていけると思う?」


美作さんの言葉も止まった。
それは美作さんにも「あなたは美作を棄てられますか?」と言ったのと同じだから・・・自分の家の大きさを知ってるから即答なんて出来るはずがない。

それに西門さんは少しだけみんなとは違う・・・彼の引き継ぐ家には歴史がある。それも想像出来ないぐらいの長い歴史を背負ってるんだもの。
それを途切れさせるような事を家元は絶対にさせない・・・そして彼もきっと出来ない。


第一、西門さんは茶道家として生きる道を既に選んでる。茶道は・・・彼の天職なんだから。



「・・・お茶、入れ直すね」
「え?あぁ・・・すまない」

よいしょ、って小さな声を出して立ち上がろうとすると美作さんが自然と手を差し伸べてくれる。それを遠慮なく掴んで立ち上がったらホッとしたように手を離す・・・そんなとこ、昔から変わらない。

冷めてしまったお茶を捨てて入れ直し、新しいお茶を彼の前に出したらまたお腹を抱えて座った。
1人で居る時はどんな格好になっても気にはならないけど、誰かが居たら緊張するものね・・・って思いながら自分の身体を摩っていた。

「蹴るのか?」なんてニコニコしながら聞いてくる。
「うん!暴れん坊なのよ、どっちに似たんだろうね」って言うと「両方だな!」なんて。この時だけは少し和やかに話しをした。


「ね・・・美作さん。私、やっぱりまだここに居ることにする」
「・・・牧野!」

「意地を張ってるんじゃないの。でも状況がよくわからないから焦って動きたくない・・・こんなお腹でいつどうなるかもわかんないでしょ?もしかしたらさっき行った病院じゃなくて総合病院に緊急で入るかもって言われてるしさ。この子達をまずは無事にこの世に出してあげたいの。それだけは絶対にしなきゃいけないの・・・それしか今は考えられないから」

「だからそれは美作で何とかするから」

「でも私は美作のお嫁さんじゃないもん。美作さんには奥さんが居るんだよ?私の事よりもその人のこと考えなきゃ・・・そうでしょ?身体を壊したのなら尚更だよ」


「・・・・・・」

「・・・美作さん?」

私をここで初めて見た時のような驚いた顔・・・私にはこの時、何故美作さんがそんな顔をしたのか判らなかった。





1c2a6bf3c66c2a04c0394a799b079adb_t.jpg
関連記事
Posted by

Comments 2

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/01/08 (Tue) 00:01 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: No title

meimei様 こんにちは。

コメントありがとうございます。
えっ?(笑)そう言われても・・・💦

大丈夫、ちゃんと総つくです(笑)離れてるから仕方ないのですよ~💦

またそんな無茶を(笑)
確かにストレスなので考えておきますね!

書けるかどうかは・・・まだわかんないので期待しないで下さいね!!

2019/01/08 (Tue) 10:23 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply