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plumeria

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<sideあきら>

牧野に自分の嫁さんのことを考えてやれと言われるまですっかり忘れていた自分に驚いた。
こいつの子供をどうやったら総二郎に抱かせてやれるかを考えていたけど、逆に自分の事はどうなんだ?

仁美に何も言わずに牧野を美作に呼ぶなんて言い出して、彼女は自分の子供が持てないのに・・・俺は勝手になんてことを考えたんだろうかと言葉が出なくなった。

今の仁美の前に大きなお腹を抱えた牧野を連れて行く事なんて出来ない。
それはあまりにも残酷な選択だ・・・多分、表向きは笑ってくれるんだろうけど俺の居ない処で泣くことなんて容易に想像できた。

ただでさえ食が細くて倒れそうなのに。
殆ど何処にも出掛けず笑顔さえ忘れかけてるのに・・・。


それほどまでに自分の妻よりも俺は・・・


「美作さん?どうしたの?・・・怖い顔してる」
「・・・あ、ごめん、何でもないよ」

「奥さんの具合、そんなに悪いの?それなら早くお仕事を片付けて帰ってあげなよ」
「いや、身体は大丈夫だ。逆に今が精神的な問題かな。牧野の言う通り早めに帰ってやるよ。何か旨いもんでも見つけて買って帰らないとな・・・」

そう言うとホッとしたようにうんうんと頷いて「唐津の方が沢山あると思うわ」なんて幾つかこっちの名産品を教えてくれた。
牧野がこの時だけは、まるで地元の人間にでもなったかのように有名な海産物の食べ方なんかを話してる。俺はそれを聞きながら頷いていたが何1つ頭には残らなかった。

屋敷じゃなかったら何処だ?なんてこいつの行き先をまだ探してる。
そしてある場所を思い付いた。


「・・・でもさ、やっぱり海の物はその土地で食べるのが1番だってここに来てから思ったのよね~って、美作さん、私の話聞いてた?」

「え?あぁ、勿論聞いてたよ」
「ホント?話してる時、奥さんの事考えてたでしょ?頷くタイミングが微妙におかしかったもん」

クスクス笑いながら自分の湯呑みに手を伸ばしてひと口飲んで、テーブルに戻すとまた腹を愛しそうに摩った。
やっぱりその腹の子を知らない土地で、牧野独りで産ませるわけにはいかない・・・自分の役目じゃ無いことは判っているけど、動いてやれるのは俺しか居ないという使命感が湧き上がっていた。


「なぁ・・・東京じゃなくても俺がすぐに駆けつけられるところならどうだ?鎌倉とか・・・その辺りなら少しは安心じゃないか?」

「は?今度は鎌倉?」


鎌倉にはお袋の実家が所有する別荘がある。
滅多に使わないし、西門も知らない別荘だ。そこなら仁美に言わずに牧野を住まわせても問題はない。
俺も空いた時間に様子を見に行けるし、使用人や看護師を常駐させて牧野の事を看てやれる。

万が一急に産気付いても美作の系列病院にすぐに運べば多胎妊娠でも大事には至らないだろう・・・咄嗟に色んなことを考えて牧野に伝えたけれど、牧野はやはり首を横に振った。

この街で産んで育てると決心したんだからを繰り返して、総二郎への連絡を頑なに断わった。


「会いたいのよ・・・本当はすごく会いたい。今すぐ会いたい・・・正直産まれる時には側に居て欲しいけど、それよりも私は西門さんからお茶を取り上げたくないの。彼には茶道家として大成して欲しい・・・それが私の夢でもあるの。
それを放棄させるような原因の1つになりたくない・・・もしそんな事になったら、それこそ一生後悔するような気がするの」

「総二郎の気持ちはどうするんだ?あいつは本気で牧野の事を想ってんだぞ?」

「・・・うん、そうだと嬉しいなって思う。でもね、会えないけど心の何処かで繋がってたらいいのかもって思う時もあるわ。
側に居ても愛情を感じないより離れてても想ってもらえれば・・・少なくとも私は紫さんって人よりも幸せじゃない?」

「それは本心じゃないだろう。あんまり自分の欲を抑え込んでるといつか爆発するぞ?牧野じゃなくて総二郎にだって有り得ることだ。今はまだ大人しくしてるけどあいつもいつそのスイッチを入れるかわからない状態だ」

「・・・スイッチ?」

「総二郎は牧野が西門に監視されてると思ってるからな。それで家元達に逆らわないようにしてるんだ。お前の身の安全を1番に考えてんだよ」

「私が・・・西門に?」


どうして牧野の言葉を無視してでも総二郎に連絡しない?
してやればいいじゃないか・・・その方が絶対にあいつは喜ぶんだって俺が1番知ってるんじゃないのか?

どうしてここまで九州に残るという牧野の意思を尊重しない?
牧野だって子供じゃないんだ・・・考えに考えて出した結論ならそうさせてやれば良い。俺はそれを応援してやるだけで良くないか?


相反する考えが交差して今度は俺が混乱してる。
でも1番自分自身を戸惑わせているのはそんな事じゃない。


どうして俺はここまで牧野を自分の・・・美作の監視下に置きたがるんだ?


自分にも理解出来ない不思議な感覚が俺の心を支配してる。
それは一体何なのか、考える間もなく牧野の説得だけを続けていた。



*****************



西門が私を監視してる・・・そう思ってるから総二郎は何も出来ない、美作さんはそう言った。

「確かに家元夫人からは沢山紹介されたよ。それこそ北海道から沖縄まで沢山の物件があったけど、それはおそらく西門が用意するものだと思ったの。だから選ぶことが出来なくて、それで住み込みで働ける所を自分で探したの。
私が探した場所も西門の秘書の人は随分と聞きたがったけど答えなかったし、3日の朝早く、誰にも見付からないうちに東京を離れたから西門はここを知らないと思うわ」

「そうか・・・やっぱりおばさん達は凄いな。家のためなら必死だからな」

「・・・うん、あれが演技なら凄いと思う。私に土下座したんだから」


美作さんの何度目かの驚いた顔・・・流石に家元夫人の土下座には言葉がなかった。



「・・・さて、美作さん。もう遅くなったし自分の部屋に戻って?私もギリギリまで働かなきゃここに居辛いでしょ?だから早く寝て体を休めなきゃ」

「え?あぁ、そうか。でも牧野、今の感じじゃ碌な給料にならないだろ?少しぐらい持ってるのか?お前は嫌かもしれないけど子供ってのはやたら金が掛かるんだから・・・」

すぐにでも私に援助しようって感じで切り出された言葉に小さく首を振った。
美作さんなら話しても大丈夫だろう・・・そう思って西門から無理矢理500万円を掴まされた事を言うとまたびっくり。それを受け取った私にも驚いたみたいだった。

それについては何年掛かっても返すつもりで、殆ど手をつけずに預金してると言えば少しは納得していたけど。


「ごめんね、美作さんにまで心配掛けて。でもお願い・・・一生このままかどうかもわからないけど、今はとにかく西門さんとは会えないの。私の事を想ってくれているのなら尚更危険な事はさせられない。茶道を捨てそうな状態なら怖くて会えないの。
もう少しの間、私がここに居ることは言わないで?」

「でもやっぱり俺には総二郎を裏切るような事は出来ない。知ってて知らん顔なんて・・・あいつに嘘を突き通す自信なんてないけどな」


「もし、ここに西門の気配を感じたら、私は黙って出て行くわ。女将さんだけには子供達の父親が西門流の茶道家だって伝えてあるの。誰か来たら教えてもらえるように・・・」


最後まで美作さんは「わかった」とは言わなかった。
「また明日話そう」、そう言って私の部屋を出て、薄暗い廊下を客室がある本館の方に向かって歩いて行った。


自分の部屋のドアに縋りながら懐かしい背中を眺める・・・美作さんの柔らかい髪が揺れてる・・・。
泣き過ぎてもう出ないだろうと思った涙がここでも1つだけ溢れ落ちた。





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