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plumeria

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吉本さんが向かっているのは唐津の方向・・・私はここに来ても出歩く事はなかったから、半年経ってても唐津には2~3回足を運んだ程度で、そこまでの風景にも見覚えなんて全然無かった。

車の中は凄く静か・・・だけど、その静けさが逆に怖かった。
あれから何も話す訳じゃなく、吉本さんは真剣な顔でハンドルを握ったまま少し怖い顔をしていたから。

私はアシストグリップを左手で持って、右手は自分のお腹を支えてドキドキしながら助手席に座っていた。
今から何処に連れて行かれて何を言われるのか・・・美作さんの事にも驚いたけど、それよりもお腹が痛くなったらどうしようかとそればかりが気になった。

旅館ならいい・・・みんなも居るし、産婦人科がすぐ近くにあって今まで何度も駆け込んでる。
でも、知らない土地で痛くなったらどうしたらいいの?この人にその時素早く動けるほどの知識があるとは思えない・・・だってこの状態の私を無理矢理連れ出したんだもの。

スマホも部屋に置いたままだし、でも美紀さんに見付かってるから女将さんにも美作さんにも知らされたはず・・・美作さんがもしかしたら助けてくれるだろうか。


だけどここは佐賀だ・・・あの美作さんにも土地勘はない。



「・・・怖がらなくても何もしないよ。話がしたいだけって言ったでしょ?美作部長に邪魔されたくなかっただけだから」

「邪魔って・・・美作さんは友達です。もう何年間も付き合いのある友人で先輩です。あなたが言うような感情はないわ」

「そうかな・・・案外牧野さんって鈍感だからわかってないんじゃないの?美作部長のあの目は普通の友達なんかじゃないよ・・・君はそうじゃなくてもあの人は違うんだよ。結婚してるって言ったけどそれってあの人の意思で?それとも家同士の結びつきのためって事じゃなかったの?」

「そんなの私にはわかりません。昨日の夜に部屋で話したけどそんな風には感じなかったわ。私は今でも世話の掛かる後輩、それだけだったもの」

「部屋?牧野さんの部屋に来たの?」

「身体の事を心配してくれただけです。そんな事より早く帰して!」


車は海から遠ざかって高台に向かっている。
それが何処なのかさっぱりわからなかったけど、公園のような場所の駐車場に車を停めてエンジンを切った。
吉本さんはまだハンドルを握ったまま、インストルメントパネルを見ながら眉を歪ませていた。


「牧野さん・・・」
「・・・はい?」

「話したよね・・・僕は本気で君のことが好きだ。幸せにする自信だってある」
「プロポーズのことならお断りしました。ごめんなさい、お気持ちは嬉しいけど本当にダメなんです・・・私には吉本さんを幸せにする自信はありません」

「くすっ・・・ストレートに言うんだね」
「いくら考えてもあなたとの未来を想像できないの」

「僕は毎日想像してたよ。君と暮らしてその子達を育てて・・・僕の子供だって欲しいって思ってる」
「無茶言わないでください!そんなの吉本さんの一方的な気持ちです。私にはそんな夢は見られないわ」


「・・・後から愛情が育ってもいいって思ってる。それでも無理なの?」

「私は不器用な人間です。順番をひっくり返した恋愛なんて出来ません」


凄い緊張感・・・自分の鼓動が外に聞こえるんじゃないかと思うぐらいドキドキしていた。

告白されてっていう意味じゃない。
吉本さんの真剣な声が怖い・・・そのハンドルに置かれた手がいつ自分に向かってくるのかと横目でジッと見てしまった。


「東京から逃げてきた理由・・・教えてはくれないの?女将さんにも聞いたんだ・・・君にプロポーズしてるって話した時にお腹の子の父親について知っていることがあれば教えて欲しいって。
だけど教えてはくれなかった。君との約束で誰にも言わないと言ってあるし、それを聞いてどうするんだって・・・聞いたら気持ちが揺らぐのなら君との結婚なんて夢見るなって言われたよ」

「・・・そうですか。えぇ、そうね・・・その事については誰にも話す気にはなりません」
「でも、美作部長は知ってるよね?」

「あの人は・・・お腹の子の父親の友人ですもの、私のこの状態を見たら嫌でも状況がわかる人なのよ」

「美作商事は日本を代表する大企業だ。その御曹司の彼が友人って事は、君の恋人ってのもそれなりに大きな家の御曹司って事だよね?・・・もしかして、その家に追い出されたかその恋人に無碍に捨てられたかって事じゃないの?」


・・・捨てられたって言葉にカッとして吉本さんを睨み返した!

捨てられたわけじゃない!私は彼の輝かしい未来を潰したくなかっただけ・・・自分の選択が正しかったのかを今でも悩んでる私には吉本さんのひと言が許せなかった。


忘れられるのなら楽なのに・・・
いっそのこと本当に捨てられたのならここまで辛くはないのに!
何より西門さんの事を非情な人間のように言われたことが我慢出来なかった。


「何も知らないクセに余計な事は言わないでください。それ以上言うといくら吉本さんでも許しませんよ!」

「そんなに怖い顔して・・・似合わないよ、君にそんな顔」
「こんな顔にさせたのはあなたでしょう?!・・・そんな事が聞きたかったんですか?それならどれだけ時間を掛けても喋りませんし、こうやってあなたと会うことも2度とありません。だからこれが返事です・・・あなたの事はこれ以上嫌いにはなりたくないのでもう帰して!!」

「・・・牧野さん!気を悪くしたんなら謝る!でも、僕は・・・僕は!」
「え?い、いや・・・ちょっと!・・・いやあぁーっ!!」

運転席から急に身体を乗り出して、助手席の私の身体を抱き締めた!それに驚いて吉本さんの腕を必死に引き離したら、今度は両方の頬を押さえられて無理矢理キスされた!


こんな強引で優しくないキスなんて・・・しかも西門さんじゃない!!


吉本さんの唇と舌の感触が伝わった瞬間、自分でも信じられないほどの力で彼を突き飛ばし、急いでドアを開けて車外に飛び出した。
彼は油断していたのか思いっきり運転席の窓に頭をぶつけて、ハンドルに倒れ込むような体勢になってる・・・その隙に大きなお腹を抱えて急いで車から離れた!

勿論走れる訳がない・・・!
だからその駐車場を飛び出て、すぐに見つけた民家の庭に入りこんで隠れた。
ブロック塀の内側で車道から見えないように、自分の頭を抱え込むようにして小さくなっていたら、吉本さんと思われる足音が聞こえてきた。
それは何度も道路を行ったり来たりして、そのうち聞こえなくなったと思ったら車が出ていく音が聞こえた。


私が見付からなかったから車で探しに行ったの?・・・そっと顔だけ出したけど吉本さんの姿は近くにはなかった。


「・・・良かった、居なくなった。はぁ、驚いた・・・」


彼が居なくなったと思ったら蘇る感触。
私は自分の唇を服の袖で拭って、溢れそうになる涙を堪えた。

こんな所で踞ってる場合じゃない。どうにかして「夢の屋」に戻らなきゃ。
1つ大きく深呼吸・・・ホッとして立ち上がろうとブロック塀に手を掛けた時、今度は貧血を起こしたのか急に目の前が暗くなった。

ヨロヨロとその場にもう1度座り込んだのまでは覚えてる・・・そのあとはもう目を開けることも出来なくて、ガラガラっと扉が開いたような音だけが遠くで聞こえた。


「・・・えっ!あんた、誰っ?!お爺さん、お爺さん!女の子が倒れとるんじゃが!」
「はぁ?何処に・・・おおっ!どうしたんじゃ、あんた!」


そんな声が聞こえる・・・でも、もう答えることも出来なくてお腹に手を当てたまま・・・・・・その後の記憶はなかった。




*****************



ガシャーン!!


「どうされました、若宗匠!」

茶室で稽古をしていた俺に、廊下で控えていた弟子が声を掛けてきた。
ハッとして自分の目の前を見たら稽古用の茶碗が足元で割れている・・・。

立礼式の棚を使い、椅子に座って茶を点てていたからだけど、手から滑り落ちた茶碗が足元に置いていた建水(水入れ)に当たったんだ。
そんなところに建水なんていつも置かないのに今日に限って置いていて、何故か急に左腕に痛みが走って手元が緩んだ。


自分の手から茶碗が離れた瞬間・・・俺の目の前は真っ暗になって意識がなかったような気がする。


「若宗匠?具合でも悪いのですか?お顔の色が真っ青ですが?」
「・・・え?いや、何でもない。少し骨折した腕が疼いて手元が狂っただけだ。悪い・・・自分で片付けるから暫く1人にしてもらえるか」

「片付けなら私が・・・」
「いや、いい。自分でしてしまったことは自分で始末する。親父達に余計な報告はすんなよ」

「畏まりました」


割れた茶碗の欠片を拾いながら今の不思議な感覚を思い出していた。
急に苦しくなったような気がする胸、身体の何処かを指されたかのような痛み・・・?いや、そうじゃなくて息が出来ないような苦しみ・・・だったのか。

何故か俺を襲う胸騒ぎ・・・まさか、牧野に何かがあったって事はねぇよな?
あいつが俺に何かを伝えたがっているのか、それとも俺は何かにつけ牧野と自分を結びつけたいのか?


最後の欠片を拾ったとき、微かに名前を呼ばれたような気がした。
忘れることのない声・・・牧野が俺を呼んだ気がした。




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拍手コメント欄にメッセージ下さいました皆様、ありがとうございました♡
現在こんなに暗いお話ではありますが(しかもまだ続くし💦)いつの日か2人が(4人かな?)笑えるように頑張ります♡
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