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plumeria

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「・・・の、・・・きの!・・・・・・ぶか?」


・・・・・・・・・誰?誰か・・・呼んでる?
でも身体に力が入らない・・・動かそうとしたら指だけがピクッとしたみたいで誰かが手に触れた・・・。


「・・・聞こえないのか?・・・わかるか?牧野」


ううん、聞こえてる・・・聞き覚えのある声がするけど目が開けられなくて、顔だけ声のする方に傾けてみた。
誰かが私の手を握ってる・・・それは男性の大きな手だって事だけはわかった。

西門さん?・・・いや、西門さんであるわけがない。それも残念だけどすぐにわかってしまった・・・彼の手より少しだけ柔らかかったから。


「牧野、大丈夫か?しっかりしろ、牧野」
「・・・・・・ん」

「気が付いたか!牧野、俺がわかるか?」

ほんの少し目を開けたら私の顔を覗き込むようにして心配してる人の顔がぼんやりと見えた。
あぁ・・・やっぱり西門さんじゃない。彼、もっと髪が短くて黒いんだもん・・・この人は西門さんじゃない。そう思うと悲しくなって涙が溢れた。

でもこの人の手は温かい・・・力の入らない私の手を強く握って離さない。
それは覚えがあるような気がして頑張って指を動かした。そしたらまた強く握り返してくる・・・私の名前もずっと呼んでる。

「牧野・・・大丈夫だったからな。腹の子は問題ないから安心しろ」
「・・・お腹の・・・子?」

「そうだ。お前腹を抱えて倒れてたけど無事だったぞ?出産が始まったわけでもないからな・・・怖かったな」
「・・・うん、怖かった」


ここまで来てやっと意識がはっきりしてきて、私の手を握ってるのが美作さんだとわかった。わかったら今度は安心して大粒の涙が溢れて止まらなくなって、彼はそんな私にハンカチを差し出して背中を摩ってくれた。
まだ何が起きたかわかってなくて、でも私は無事でお腹の子も無事で、美作さんが迎えに来てくれたんだと思ったら・・・!


「それでは見付かったらお知らせくださいな。2度とうちには来ないようにしてくださいよ!」
「申し訳ありません、女将さん」

また別の声が聞こえて、今度は部屋を見回した。
どうもここは病院みたい・・・しかも個室?少し目を動かしたら何かのモニターが真横で小さな音をたてて動いていて、そこから延びてるコードは私のお腹に繋がっているみたい。
腕には点滴・・・それ以外にも色んな機械類が並んでる、少し怖い感じがする病院のベッドだった。


「そんなに怯えなくてもいい。ここは唐津にある総合病院だ。お前はここに救急車で運ばれたんだ」
「・・・救急車?誰に・・・?」

「お前が倒れていた家の老夫婦。見つけた時には意識がなかったらしい。場所は鏡山っていう高台だそうだ・・・覚えてるか?」
「鏡山?・・・全然知らない。覚えてない・・・」

「・・・そうか。あいつは今でも行方がわからないんだそうだ。思い出したらでいいから車で何があったのか教えてくれ。今は落ち着くまで寝てていいから」
「あいつ?」

「吉本だよ。呼子の役場の」


吉本さん・・・その名前を聞いた瞬間、私の中に今朝からの事が蘇って来て、急に身体が震えだした!
思い出した!吉本さんにキスされてその次に何をされるのかと思ったら恐くなってあの人を突き飛ばして・・・私は何処かの駐車場から逃げて知らない家の庭に逃げたんだ!
そこからの記憶がない・・・って事は私はあの家の人に助けられたの?


「・・・牧野?おい、大丈夫か?」
「・・・やだ、嫌だっ!怖い・・・怖いっ!!」

「牧野!大丈夫だ・・・ここには吉本は来ないから!俺が頼んで個室にして面会謝絶にしてるから誰も来ないから!」

美作さんに抱き締められて、その腕を掴んだ。
西門さんじゃないってわかってるけど美作さんなら安心出来た・・・だからその腕の中で声をあげて泣いた。

その声を聞いたのか走り寄って来たのは女将さん。
さっき誰かと話していたのは女将さんだったみたい・・・私が目を覚ましたとわかったら女将さんまで泣きながら傍に来てくれた。

「つくしちゃん!気が付いたんだね?あぁ、良かった・・・良かったわ!」
「女将さん・・・ご心配かけました」

「何言ってるの!あんたが自分から逃げたんなら許さないけど連れ去られたんだろ?立派な犯罪だよ!何があったんだい?話せる?」

美作さんの腕から離れてもう1度ベッドに横になり、右手を美作さん、左手を女将さんに握られたまま吉本さんにされたことを話した。

彼が本気で子供の父親になる決心をしてると言ったこと、美作さんが邪魔をするから2人だけで話がしたかったこと、西門さんの事を聞いてきたけど伝えなかったこと・・・その人が大きな家の御曹司で私を捨てたんだろうって言われたこと。
それを許さないと言ったら私に襲いかかってきたこと・・・。

美作さんが私の事が好きじゃないのかって言われたことと、キスされたことは言えなかった。


「襲われそうになった時に吉本さんを突き飛ばしたんです。凄く大きな音がして彼は何処かで頭を打ったと思うんですけど、その隙に車から逃げました。でも走れないからすぐ近くの民家のお庭に逃げて隠れました。多分、そこで意識を失ったと思います」

「襲うって、こんな身体のお前にか?」
「だ、大丈夫だったの?何もされてないの?」

「は、はい!それは大丈夫です・・・驚いたけどすぐに突き飛ばしたから。吉本さんの方に怪我がなかったかしら・・・」

「お人好しだ」って2人には散々怒られた。
正直言えば心配なんてしていない。だって彼が走って探しに来たのを知ってるから。吉本さんが動ける状態なのは知ってる・・・だけどこれ以上詳しい話をしたらキスされた事を言わなきゃいけなくなるから。

それだけは誰にも知られたくなかった・・・って言うか、自分の記憶から消してしまいたかった。


「でも・・・なんで2人にはここがわかったんですか?」

「牧野が救急隊員の呼びかけに唯一答えたのが『夢の屋』って言葉と『西門』って名前だったらしい。救急隊員には西門は伝わらなくても『夢の屋』って名前には聞き覚えがあったから旅館に電話が入ったんだ」

「もう電話があったときには心臓が止まりそうだったわ!お産が始まったっていうならいいけど・・・もしもってこともあるじゃない。だからその両方じゃなくて良かったわよ。わたしゃもう胸が痛くて痛くて・・・ここに来たらあんたは意識が戻ってなくて処置室で寝てたからお客様が特別室を手配してくれたのよ」

「・・・そうなんですか。ごめんなさい・・・」
「いや、旅館の名前が出て良かったよ。病院も身元がわからなくて困っていたらしいから」


・・・そうか。無意識に西門さんを呼んでたんだ、私。


女将さんがさっき話していたのは役場の人らしい。
吉本さんが私を連れ出したことで女将さんが役場に文句を言って、それで上司にあたる人がお詫びに来たとか。
私に面会して吉本さんの行方を聞きたかったらしいけど、私は彼が何処に消えて行ったのかは知らない・・・この先も役場の人とは会わないことを女将さんに告げて、その後病院の先生が病室にやってきた。


「今は31週間目ですからもうすぐ32週目、妊娠9ヶ月になります。多胎妊娠ですから普通の人はもうとっくに産休に入ってますよ。しかも立ち仕事でしょう?張りもあるだろうしむくみも出ている・・・この状態で働くのはどうかと思いますが?
幸い今回は出血も確認されていませんし出産が早まったわけでもない。安静にすれば大丈夫と思いますが、旅館の仕事などはもう無理でしょう」

「・・・でもギリギリまで頑張りたいんです。ゆっくり動きます・・・気をつけますから」

「当院はあなたの主治医ではないし、これまでの経過は先ほど呼子の病院からデータをいただいて見ただけです。ただし、今回の検査で牧野さんは少し血圧が高いようです。それが妊婦さんには思わぬ症状をもたらすのですよ。
これ以上血圧が上がると妊娠を強制終了しなくてはいけないかもしれません」

「・・・強制終了?」
「帝王切開ですね。いずれにしても自然分娩は難しいでしょうから帝王切開のつもりでいないとダメですよ」

美作さんと女将さんの前で病状説明をされ、この先に子癇(しかん)と言う、妊娠中の高血圧が原因となって痙攣をきたす病気にかかる場合もあると言われショックだった。

赤ちゃんが産まれる前に胎盤が子宮から剥がれてしまう常位胎盤早期剥離という状態にもなる可能性があり、そうなると緊急分娩が行われる。
どちらにしてももう働けない・・・そう判断するしかなかった。

そして女将さんにも病院の先生は厳しい言葉を出したから、慌ててそれを止めた。
私が自分から申し出て動いているんであって、女将さん達が無理をさせているわけではないと。それを聞いても、もう「夢の屋」に迷惑はかけられない・・・そう思った。

そして本当に警察には届けなくていいのかっていう話まで始まり、美作さんは「絶対にこの事は外部に漏らすな」と語気を強めた。


「わかりました。仕事は休みます・・・女将さん、ごめんなさい」

「いいのよ、そんな事。1番初めに言ったでしょ?つくしちゃんはうちの娘として預かることを決めたって。だから仕事の事は気にしなくていいよ」

「お給料・・・もう私には払わないでください。何も出来てないもの・・・本当にごめんなさい」

「それはそれ。ははっ、大丈夫、つくしちゃんのお給料はそんなにないわよ!」



女将さんは先に旅館に戻ったけど、美作さんは結局打ち合わせも全部中止してずっと私に付き添ってくれた。

そして夕方、状態も落ち着いたからこの病院を出ることにした。
出る時にも散々今後の事を注意され、看護師長は美作さんが旦那さんだと思っているのか彼にもお説教のようにクドクドと同じ事を何度も説明していた。それを怒りもせずに聞いてくれて、ロビーまでは車椅子を借りて彼が押してくれた。


「ごめんね、嫌な思いさせて・・・」
「ん?別にいいさ。この病院とは今日で縁が無くなるんだから。旦那っぽく見えたのかな・・・」

「あはっ、そうじゃない?きっと無茶する夫婦だって思ってるんだよ。それよりさ、お願いがあるんだけど・・・」
「どうした?」

「連れて行って欲しい場所があるの」


それは助けてくれた老夫婦の家。住所は美作さんが病院で聞いてくれて、そこに行ったら朝のことを思い出して身体が震えた。

「無事で良かった!」と人の良さそうなお爺ちゃんとお婆ちゃんに言われ、お婆ちゃんには「素敵な旦那さんやなぁ!」って言われたけど、違うと言えばまた説明が長引く。ははは!と笑って誤魔化したけど、ここでも美作さんがお爺ちゃんにお説教されていた。
「もっと嫁さんの事を大事にせんないかん!」と・・・何故か美作さんは神妙な顔して「すみません」と頭を下げていたけど、自分の奥さんの事とダブったのかしら。

私のせいで足止めさせて申し訳ないな・・・と、ここでも胸が苦しくなった。


老夫婦にもう1度頭を下げてから待たせていたタクシーに乗ると、彼のスマホに何かの連絡が入ったみたい。それを読んでから私にこれからの事を話した。

「牧野、今日は俺の泊まる唐津のホテルに行くぞ」
「えっ?唐津に・・・どうして?」

「吉本が消えたままだからだ。何かあったらお前が困るだろ?俺の傍にいたら誰も手出し出来ないはずだ。東京から美作の連中を少し呼んだからホテルに待機してる。吉本が現れても俺の所にまでは来ることは出来ないから安心しろ」


「うん・・・わかった」






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