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plumeria

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美作さんに連れられて入ったのは唐津の中でも1番大きなホテルで、そこの特別室に私達は泊まることになった。
部屋を分けるかどうかは凄く悩んだけど、1人にさせておけないと言う彼の意見に負けて同じ部屋。ベッドルームが2つある部屋にしたからって言われて、ここは美作さんに任せることにした。

ただ、私は妊婦とは言え独身だけど美作さんは既婚者。
これをどう考えたらいいのか・・・私がそれを言うと困ったような顔して笑っていた。

「わざわざ仁美に話さなければ問題ないだろ?今は非常事態だと思えばいいし、美作の連中はこんな事を東京に報告はしない。それより吉本が何処にいるかわからないんだから牧野が不安だろう?1人で居る時に具合が悪くなっても困るしな。
それとも俺が総二郎を裏切ると思ってる?」

「ううん、そんなんじゃないけど・・・奥様にやっぱり申し訳なくて。こんなに広い部屋でも自分以外の女性を泊めたとなるといい気はしないでしょ?たとえそれが妹みたいな存在でも」

「・・・気にすんな。俺と牧野に恋愛感情がないんだから、もし知られたとしても説明すればわかるだろうからな」


恋愛感情がない・・・美作さんに言われてホッとするけど、吉本さんの言葉も思い出された。

『そうかな・・・案外牧野さんって鈍感だからわかってないんじゃないの?美作部長のあの目は普通の友達なんかじゃないよ・・・君はそうじゃなくてもあの人は違うんだよ』


チラッと美作さんを見たらスーツの上着を脱いでラフな服装に着替えていた。
その横顔をは昔と変わらなくて、私の事を意識してるなんてやっぱり思えない。世話好きなお兄ちゃんのままそこに居るような気がした。


食事も夜景が綺麗に見えるこの部屋で2人・・・でも、私はもうそんなに食べることが出来ないから少しだけ。
美作さんは「牧野が少食だなんて笑えるな!」ってわざと明るくしてくれた。

少しでも気を紛らわせようとしてるのかもしれない。
そういう気配りの人だったから。


「あぁ、そう言えばちょうど今、司も類も東京にいるよ。懐かしいだろ?」
「え?2人とも日本に帰ってるの?」

「多分まだ居るんじゃないかな。俺は行かなかったけど日本で大きな会社の会長が亡くなって葬儀があったんだ。それに出席するために戻って来たはずだ。メールが来てたから」
「美作さんは出席しなかったの?」

「・・・あぁ。あんまり大勢企業人が集まる席には居たくなかったんだ。ほら、イギリスから予定外に早く戻ってきただろ?その理由をいちいち知らない人間に説明するのが面倒臭くてさ」
「そうか・・・触れられたくない部分は誰にでもあるもんね」

「俺まで戻ってくるようなことか?って言うヤツも居るんだよ。ほら、社長って肩書きの人間は愛だ恋だって言わないだろ?」
「くすっ、美作のおじ様は言いそうだけど?」

「あの人達は特別!今でも新婚みたいだから」
「いいよねぇ、ラブラブで」


私にもあまり教えてくれなかった奥さんの病気・・・美作さんも大変だったんだろうな。
それを顔には出さずに自分が知ってる範囲で道明寺と花沢類の仕事ぶりを教えてくれた。


久しぶりに聞く懐かしい名前は私を高校生の楽しかった時に戻していく・・・それと同時にその頃の西門さんのお調子者の顔も思い出されて少しだけ悲しくなった。

あの頃は毎日笑っていたのに・・・それが家の外でだけって言うのは後から知ったけど、それでもみんなと楽しく過ごした時には中心になって巫山戯てた人。


今はどんな顔してあの家の中に居るんだろう。



**



美作さんが色々変更になった仕事の事であちこちに電話をしていた時、私は1人で部屋のテラスから海を見ていた。
ここは旅館に比べると少し高台にあって、夜景は綺麗なんだろうけど波の音は聞こえなかった。

オレンジ色に光る灯りが小さく沢山見える・・・それが直線上になってるからそこが海と陸との境界線なんだろうって思うぐらいで、後は沖に出てる船の灯りが幾つか見えた。

呼子はどの辺りなのかもわからない。
こうやって見ると本当に知らない土地にいるんだなって感じて少し心細かった。


「あぁ・・・わかった。明日には終わると思うから。ん・・・了解。仁美は?」

部屋から美作さんの声がする。仁美って奥さんの名前だ・・・凄く心配してるんだろうな。
それを聞いてるって事は美作の夢子おば様かしら。あの方も優しいからきっと仁美さんって人は大事にされてるんだろうな。

そう思ったら自分の立場と比べてしまう。

同じように大きな家柄でもご両親の考え方1つでこうも変わってしまうのかと・・・それを西門さんにはぶつけられないし、歴史そのものが違うから比べちゃダメ、それも頭では理解出来るけど感情は別物なんだろうか。
仁美さんって人が羨ましくて仕方なかった。


「・・・え?また?・・・誰か部屋に戻してくれたかな。何度言っても無駄?・・・わかった。帰ったらもう1度よく話すよ」

・・・あれ?何か問題でもあるの?
美作さんの話し方が少しだけ険しくなった・・・奥さんが不安定なんだろうか。美作さんがいないからとか?
それなのに私とこんな場所で同じ部屋に居ていいのかしら。

暫くしたら電話が終わったみたいで彼が私を呼びに来た。
テラスにあった椅子から「よいしょ」って立ち上がるとやっぱり差し出される手・・・それを掴んでリビングに戻り、ソファーに向かい合って座ったら真面目な顔してこれからの話を始めた。


「牧野、昨日話した鎌倉にある美作の別荘、そこに移るぞ。俺は明日ここでの仕事を終わらせて帰るから牧野も一緒に帰ろう」

「・・・え?移るって・・・呼子を出るの?」

「あぁ、そうだ。飛行機で帰りたいが俺と妊婦の牧野が一緒に行動するのはマズいだろうからヘリを手配した。牧野の気持ちもわかるけど吉本の事もあるだろう?これから先、今回みたいな事が起きたらどうする?よく考えろよ?
今回はお前が逃げられたから良かったし、すぐに助けられて病院に運ばれたし出産も始まらなかった。だけどこれが子供も産まれた後で、お前の外出中に何か不測の事態が起きた時、子供達はどうするんだ?」

「・・・それは」

「医者も言ってただろ?牧野に気力はあっても身体には負担が掛かりすぎて数値に異常が起き始めてる。それを甘くみてたら大変な事になるぞ。赤ん坊をなるべく腹ん中で育てて、産まれた後のリスクを減らさなきゃいけないだろ?
自然分娩で産もうなんて考えるなよ。安静にして出来るだけ予定日に近づけて、それでも保育器に入る可能性も大きい。うちのお袋がそうだったからさ。だから設備の充分整った総合病院の方がいい・・・な?俺に任せてくれないか?」


てっきり仕事のお話ししてるかと思ったのに。
電話の殆どは夢子おば様に私の事を説明していたらしい。

中々頷かない私に美作さんはゆっくり、丁寧に話してくれた。
彼も「総二郎の子供を無事にこの世に出してやりたい」と何度も繰り返して話してくれた。


「・・・わかった。美作さんに任せる。そこに行けばこの子達・・・大丈夫よね?」

「あぁ、何があっても守ってやるから」

「・・・西門さんにもまだ言わないって約束してくれる?」

「あぁ、まだ何も言ってないから安心しろ。でも俺は総二郎に伝える事に賛成なのは変わらない。だが今は牧野の安全確保の方が優先だから匿うだけだ。もし俺が総二郎の立場だったら隠されるのは辛い・・・そう思うんだよ」

「・・・そうだよね。酷い事してるよね」
「いや、牧野も被害者だからな」


私は被害者・・・ううん、1番の被害者はお腹の中の子供じゃないの?お父さんを奪われたんだから・・・でもそんな風に思いたくなくて、気が付いたらお腹を摩ってた。
それを見た美作さんも気不味そうに顔を逸らせてしまった。


「奥様に何かあったの?」
「・・・え?」

「ごめん、会話が少し聞こえたの」

1度私から外した視線を戻して「聞こえちゃったか」って髪を掻き上げる・・・その仕草が少し西門さんと重なってドキッとした。


「日本に帰ってからあんまり食事を摂らないんだよ。黙ってたら1日中気に入った場所に閉じ籠もって出てこないからお袋が困ってるみたいだ」

「そりゃ心配だね。食べないと元気が出ないもんね」
「そうだな。俺が居ると少しは食べてくれるんだ。だから早く帰らないとな・・・」

「お土産、忘れちゃダメだよ?」
「ははっ、牧野が教えてくれたものだよな!明日買っとくよ」


困ってるんだろうけど優しく目を細める美作さん。
やっぱり仁美さんはいいなって・・・彼の笑顔を見てそう思った。





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