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plumeria

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鎌倉の別荘に来てから数日が経った。
ここは少し高台にあって窓からは海が見える。

呼子の漁港とは全然風景は違うけど今日も海を眺めながらぼんやりと過ごしていた。


ここに来た翌日には美作さんの選んでくれた鎌倉の新しい病院に行き、紹介状と今までのカルテを見せて検査が始まり、お医者様の見解は同じく「絶対安静」だった。
そしてやっぱり帝王切開にすると言われ自分の好きな日にちで良いって言われた。


だから7月7日・・・七夕の日にしたいと言ったけど、それまで持つかな?・・・なんて首を傾げられた。


「血圧がこれ以上上がらなくて他の症状も出なかったらその日にしましょうね。少しでも長くお母さんのお腹の中で成長してからが望ましいですからね。でも、もしもって事になってもここまで大きくなっていたら緊急の帝王切開でも無事に産まれてくると思います。そうならないように・・・お母さんが不安になったら赤ちゃんにも障りがあると思ってのんびり過ごしなさい」

「不安が・・・伝わりますか?」

「ははは!科学的に胎児に影響が出るだなんて事はないよ。でもストレスが多いと身体に不調が出るでしょ?そういう事だよ」


先生も看護師さんも面白そうな人で優しかった。
私の事情を知っているのか診察時も正面から入らずに美作の人に付き添われて特別な入り口から入る。だから看護師さんも決まった人だけしか会わない。
牧野つくしと言う名前はカルテ以外には何処にも表示されずに、診察時も「美作」で呼ばれると言われた。

流石・・・美作さん。



その美作さんは移動してきた日の夕方までは一緒に居たけど、そのあとは自分の家に戻って、それからは来ていない。
代わりにすぐ派遣されてきたのは看護師の資格を持つお手伝いさんの小夜さん。

夢子おば様のお気に入りの方で美作家では双子ちゃんのお世話係だそうだ。小柄で明るくて可愛い人。お料理も上手でお菓子作りが趣味という、おば様とは気が合いそうな人だった。
彼女から手渡されたのは新しいスマホ・・・西門名義のものは電源を落として使わないようにして、今度からはこっちを使えと言われた。既に美作さん達の電話は登録されていて、この電話番号もみんなには教えられていると。

だからその番号を呼子の女将さんと美紀さんだけには伝えた。


「牧野様、血圧を測りましょうか」
「・・・またですか?1日にそんなに測らないとダメなんですか?」

「少し高めですので念のためです。痛くないから我慢して下さいね」

そう言って1日に6回ぐらい測られた。
食事も小夜さんが作ってくれる。塩分調節や栄養を考えて作ってくれるけど、どれも美味しくて私は残さず食べていた。

「少しずつしか食べられないから1日5回ぐらいに分けましょうね」

「あはは!食いしん坊みたいですね、私」

「そろそろ10㎏ぐらい増えてますよね?双子ちゃんですから無理ないんですけど、最終的には12㎏ぐらいに抑えるとあとが楽みたいです。奥様は14㎏太られて大騒ぎでしたわ」

「・・・あと1ヶ月少しあるから完全にオーバーかしら」

「そこが難しいんですよね。お母さんは動けないし、赤ちゃんは最後の方で一気に大きくなるしね。それに牧野様は少し血圧とむくみがあるから心配ですね。でも、もう少しです、頑張りましょうね!」


別荘にはもう1人、近藤さんも住み込んで私の警護をしていた。
呼子で会った時には黒いスーツ姿で凜々しかったけど、ここでは女性らしい格好でボディガードっぽい雰囲気はない。でも動き方はキビキビしてて目は鋭い。
たまに庭に出て周囲を警戒し、多分それなりの装備をあの服の下に隠してるんだろうと思う。


「まだ唐津の方で吉本が見付かったという話が出てきていないそうです。呼子の役場にもあれから出勤しておらず、このままだと市民に危害を加えようとしたことで解雇かもしれませんね」

「解雇・・・そうですか。何処に行ったんですかね・・・」

「ここを見つけられるとは思いませんが念のため私が常駐しています。ご心配されませんように」

そう言うとまた箒を持って玄関前に行った。
お掃除しながら異常がないかを常にチェック・・・こんなに綺麗で若い女性の1日がこんなに緊張してていいんだろうかって、守られてる私が変な心配しちゃう。


美作家の無関係な私1人のために・・・ホント、申し訳ない。


**


6月に入ってすぐ、ここに夢子おば様が来てくれた。

学生時代には何度かお屋敷に行ってるから話した事もあるし、お菓子の話で盛り上がってケーキを一緒に焼いたこともある。とてもあんな大きな会社の社長夫人だとは思えないほど可愛くて面白い方だった。

お屋敷の中で会う時にはいつも双子ちゃんとお揃いみたいなドレスだったのに、今日は上品なスーツ姿で髪にもリボンはない。年相応なのに私にはそれが珍しくて驚いてしまった。
勿論おば様の方が私のお腹を見て驚いたのは言うまでもないけど。


「つくしちゃん・・・大変だったわねぇ!あきら君から聞いた時には驚いたわ。まさかあなたが総二郎君の・・・」

「ご心配かけてすみません。それにここもお借りして・・・美作さんにも沢山迷惑掛けちゃって」

「いいのよぉ!あきら君はつくしちゃんの事、特別だと思ってるから。見つけたら放っておくはずがないわよ」

「・・・おば様?」


言ったあとでハッとして口を押さえ、「いやぁねぇ、総二郎君の事があるからよ」って笑っていた。
私の事は特別・・・自分でも少しは感じていたから驚かなかったけど、お母さんである夢子おば様までがそう思っていたのかと思うと複雑だった。


リビングでも向かい合って座っていたのに、いつの間にか横に来てお腹を摩りながらご自分の時と比べて色々教えてくれたり、双子ならではの楽しみ方を話してくれた。

「なんでも2つないと喧嘩になるの。だから初めのうちは全部色違いで2つ渡していたのよ。そうしたら今度は興味を持たなくなって2つとも投げ出しちゃうの!我儘だったわ、あの子達!」

「同じ物でも相手が持っている物が良く見えるんですかねぇ?」

「どうなのかしら。そのうちおもちゃを1つにしたら仲良く交代で遊ぶようになったわ。思いやりって言うものを学ぶのかしら・・・おもちゃ1つでも侮れないって思ったわ。でも、お人形や縫いぐるみはどうしても2つでね、服をお揃いにしたがるの。
そして2人がどうしても譲らない物が1つだけあったのよ」

「・・・なんですか?」

「あきら君の膝の上よ♡」
「あはは!それは大きくなってからでも見た事があります!お兄様の右手と左手、いつも双子ちゃんに握られてましたね!」

いつも嫌そうな顔して面倒だって言いながら、それでも双子ちゃんが自分たちから離れていくまで腕を差し出してた。
そして自分から離れて2人が何処かに行く時には少しだけ嬉しそうな・・・でも、淋しそうな顔して優しい目をしてた。お兄ちゃんっていいなぁってその時いつも思ってたっけ。


「1人が泣くともう1人も泣くでしょ?でも、同時に出来ないから1人は私で1人は小夜さんに頼んでお世話したわ。不思議と離れてても同じ事したり、相手の事がわかったり・・・双子って面白いのよ?」

「女の子同士だから余計にそうなんですかね?私は1人が男の子って言うのは聞いたんですが、もう1人はまだわからないんです。どっちかなぁ・・・」

「・・・そう、男の子なのね?」
「はい。男の子・・・です」


夢子おば様は男の子って聞いた瞬間に黙ってしまった。
いっそ女の子の双子だったら良かったのに、って思ったのかもしれない。西門に変な考えを起こされないためにも。

目の前に置かれた紅茶を飲んで、持って来てくれた手作りのタルトをお皿に移しながら、その顔は真剣なものに変わっていた。


「昔はもう少し美和子さんも総二郎君の話を聞いてたと思うんだけど、どうしてこの件はお家元の言いなりなのかしら。あきら君から聞いたんだけど、そこまでして総二郎君とつくしちゃんを引き離さなくてもって思ったのよね・・・。
好きな人同士が結ばれる方が幸せじゃない?だからあきら君にも昔からそう言ってきたんだけど・・・」

「でも美作さんは奥様と仲がいいんでしょう?素敵な写真も見せていただきましたし、九州でも奥様のことは心配していました。体調崩されたとかで・・・」

「・・・まぁね、そうなんだけど。だから美和子さんにも余計腹が立つのかもしれないわ。自分にはお孫さんが産まれるって言うのにそれも知らないで総二郎君の好きでもない女の人を持ってきて。
そりゃ仁美さんには罪はないけど、あきら君なんか恋をして結婚した訳じゃないのに、その上もう子供だって抱けないんですもの」


「・・・え?」

「そりゃ仕方ないわ、そうしないと命が危なかったから。だから子供を持つことを諦めたあきら君のことは誇りに思ってるの。
生き方は人それぞれ・・・子供が居なくても楽しい人生を歩んでいけたらそれでいいって思うのよ。そういう意味でもっと絆の深い夫婦になれたのならいいけれど、今度は仁美さんが立ち直れなくてね・・・辛いわよね、何処の家も」


子供を抱けない・・・諦めた?その言葉に返事が出来なくて紅茶のカップが止まった。
自分でも凄く驚いた顔でおば様を見てるのがわかる・・・でも、今の話の意味がよくわからなくて瞬きもせずにその目を見つめていたらおば様の方がそれに気がついて逆に驚いていた。


「・・・え?まさか・・・知らなかったの?」

「・・・ご病気だって事は聞きました。詳しい事は聞いても教えてくれなくて・・・」

「そうだったの・・・ごめんなさい、私てっきり話したものだと思って」


この後に夢子おば様は仁美さんの事を話してくれた。
それを聞いた時、美作さんの辛そうな顔が頭に浮かんできて泣きそうになった。


「大丈夫よ、仁美さんにはあきら君がついてるから、そのうちきっと2人で楽しく暮らせるようになるわよ。だからつくしちゃんも諦めないで自分の幸せを掴みに行くのよ?」





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