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plumeria

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<sideあきら>
数日間自宅を留守にした間、仁美は俺達の部屋かサンルーム、そのどちらかにいて殆ど誰とも喋らず、食事も残してばかりだったらしい。ちょっと離れていた間にも顔色が悪くなってて俺を見て笑う姿にも力がなかった。

「お帰りなさい」と言う声も小さくて、触れると指先が冷たい。
「ただいま、仁美」って額にキスしたら、少し頬を赤らめて俺の指を握り返してくれた。


暫く続けなくてはならない薬の副作用で気分が優れないと言うのもあるらしいが、それを強めてるのが精神的ショックから立ち直れないと言うストレス、医者からはそう言われていた。
ただしあまりに多くの薬を投与するのも問題ありとのことで、今は精神安定剤として1種類出てるだけ。
それも睡眠導入剤のような穏やかな薬しか出せないと言われた。


「仁美、今日は部屋で一緒に昼食を食べよう。九州の土産って言っても何も思いつかなかったから、地元の人に聞いて菓子を買ってきたから食後にどう?小豆や栗が入った和洋折衷スイーツでさ、俺も向こうで試食したけど中々美味かったよ。
いつもケーキ類が多いからたまには良くないか?」

「あきらさん、気を遣わせてごめんなさいね。お義母様から聞いたんでしょ?私が閉じ籠もってるって・・・」

「そんなんじゃないよ。ただ食べないと体力が戻らないだろ?身体に力が入るようになったら心も元気になるかなって・・・ほら、笑わないと幸せって来ないって言うじゃないか」

「くすっ、そんな言い方をする人だなんて思わなかったわ」

「そう?都合のいい言葉だけ信じることにしてるから」

地元の人間・・・って言うより牧野が教えてくれた菓子だけど、それをひと口食べて「美味しい」と笑った。同じく九州で作られてる和紅茶を煎れて久しぶりに夫婦での時間。
ドキドキするってわけじゃないけど穏やかで優しい時間だった。



夜もただ抱き締めて休むだけの日が続いていた。
医者から内部縫合面の治癒の報告があったから行為も問題はないんだけど、仁美がさりげなく拒否してるのが判ったから・・・だから無理してまで身体を繋げる必要はないと思って強請ることもしなかった。


何故か俺の方もそれで落ち着いていた。

腕の中で静かに寝息をたてる仁美で満足していたのか、もうこの年で穏やかな夫婦生活を望んだのか、子供が望めないとわかってるからしないのか・・・はっきり言えば自分でもよくわからなかった。


「あきらさん・・・予定より2日も遅かったでしょ?何かあったの?」
「ん?・・・あぁ、ごめん。言い忘れてたけど高校の時の後輩にばったり出会ってね・・・つい懐かしくて話し込んでたんだ」

「そうなの・・・男の人?」
「・・・女性。だけどそういう仲じゃなかった人だよ。今でも彼女には好きな男がいて、その事で相談受けてさ・・・」

「女性・・・あきらさん、優しいものね。相談されたらとことん付き合いそう・・・家のことも忘れて」
「忘れてないさ。ごめん・・・正直に言い過ぎた?でも誤魔化すことも出来ないからさ」

「ふふっ、知ってるわ」


珍しく仁美の方が俺の頬に手を伸ばしたから、その手を掴んで抱き寄せキスをした。
唇の次には耳にも首筋にも・・・痩せ細った身体中にキスをしたら久しぶりに仁美の甘い声を聞いた。少しずつこうやって元に戻って、そうしたらまた仁美を抱ける日が来るかもしれない。

そう考えながら急に頭の隅に総二郎と牧野が浮かんできてハッとする。


「・・・どうしたの?あきらさん」
「いや、ごめん。何でもないよ・・・仁美が久しぶりにそんな声出すから嬉しかっただけ・・・もう休もうか」

「・・・えぇ」


自分が自分の妻にキスしてるのに、どうして頭の中で牧野と総二郎が嬉しそうに抱き合う姿を思い描いたんだ?
そして何故それで自分が苦しくなる?

自分の身体に寄り添うようにして眠る仁美の髪の毛を撫でながら、逆に目が冴えて寝られなくなった俺。


牧野は今・・・鎌倉で何を思っているんだろう?


**


総二郎から酒の誘いがあったのは牧野が鎌倉に移ってから10日後。

あいつが事故って、俺が日本に帰国してから外で飲むのはこれが初めてだった。
昔良く通っていた隠れ家的なバーで待ち合わせ、仕事が終って仁美の様子を聞いてからその店に向かった。


表だけ見るとここがバーだなんて判らないような造りで看板も無く、まるで個人の自宅のよう。
静かにそこのドアを開けると薄暗い店内はまだ客が少なく静かだった。

ドアベルも鳴らないこの店は小さなカウンターとその奥に数部屋ほど個室があって、そこにはウェイターも呼ばなければ来ないと決められてる。
俺が顔を見せるとマスターがニコリと笑って1番奥の部屋まで案内してくれた。


その部屋に入るともう総二郎は先に来ていて1人で飲んでいた。
俺を見ても表情なんて変えずに組んでる足もそのままに・・・無愛想にグラスを口に運んでいた。

「総二郎・・・お前、人を呼んでおいてそんなに不機嫌な顔すんのかよ」
「いいだろ、別に。あきらにどんな顔見せようが」

「いいけどさ・・・会った瞬間、俺のテンションまで下げるの止めてくれないか」
「お前のテンションなんて考えたことないかも。ま、座れば?」

「・・・感じ悪い奴だな」
「ははっ!今更だ」


向かい側に座れば総二郎がグラスに酒を注いでくれた。
わざとなのか骨折した左腕で・・・少しだけ震えてはいたが酒のボトルを持つことに苦労はしてないようだった。

そして注ぎ終わると自分のグラスにも足して、軽く持ち上げ乾杯をした。
今から何を話す気だ?・・・そう思ったけど総二郎からは何も言わない。ただ黙って酒を口に運んでグラスの中を覗き込むだけ。

暫くしてもその姿に変わりはなかったから俺の方から切り出した。
本当は総二郎の胸の内を聞くのは辛かった・・・牧野が何処にいるんだろうって話になったら知らないフリをする事が出来るのか?何もかも喋ってしまいそうで怖かった。


「何か話があるのか?」

「いや・・・特別変わった事なんてねぇしな。あぁ、そういや司とまた殴り合いになったわ」
「はぁ?!司とって・・・まさか告別式の最中にか?」

「馬鹿言うな!そこまで常識外しちゃいねぇよ。終った後に類に呼ばれてついていったら司が待っててさ・・・車の中でだよ。
いきなり胸ぐら捕まえて首締め上げやがって、マジで焦ったから脇腹蹴り上げたさ」

「お前ら・・・!頭に血が上りやすい奴らだな!」
「ははっ!お前の代わりに類が止めてくれたよ」


なんで殴り合いになんかなったのか・・・その理由は言わなかったけど1つしか無いから言葉にはしなかった。


カランと氷の音をさせて一気に酒を流し込む。総二郎の飲み方はこんなんじゃないのに・・・って思ったが口には出さなかった。
たまにはそうやって自分を何処かで解放させなきゃやってられない、そういう生活だろうから。

すぐにまた酒を注いで今度はゆっくり口に運んでいく・・・その時の目は何処を見てるのか判らなかった。


「あきら・・・地方行ってたんだって?」
「え?・・・あぁ、まぁな」

「お前、本社の営業部長なんだろ?地方に行くこともあるのか?何処だったっけ・・・九州?」
「佐賀県に行ってた。元々はうちの福岡支店に挨拶に行くのも兼ねてたんだよ。で、こんな若造が営業本部長なんて支店じゃ面白くもないだろうからさっさと切り上げて、唐津にリゾートホテルの計画があったから現地視察に行ってたってとこかな」

「へぇ・・・お前がやるような事なのか?まぁ、わかんねぇけど」
「・・・九州でも言われたさ。本部長がわざわざ・・・ってな。何事も経験だよ。暫く海外には行かないんだから」


そこで牧野と会ったよ・・・そのひと言が言い出せなかった。


総二郎の親友だと自分でも思っているのに、牧野の気持ちの方を考えた。
総二郎が寝られないほど探してる牧野を匿っているのに・・・すぐ近くまで戻って来てると教えてやれば総二郎の沈みきった瞳が輝くだろうに。


総二郎とは違う意味で、俺も酒を飲みながら自分が何処を見てるのか判らなかった。





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