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plumeria

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久しぶりにあきらを誘って飲みに行った。
嫁さんの事があるからあまり遅くは帰らないんだと言っていたが、この日は嫁さんの体調が良かったみたいで「行ける」との返事だった。

だが会ってみれば俺だけじゃなくあきらまで様子がおかしいような気がした。
何故か俺の顔をあまり見ない・・・わざと視線を逸らされているようですげぇ気になる。


元々世話好きなヤツだから、たとえ誘ったのが俺でも色々と聞いて来ると思っていた。
自分が欠席したから会わなかった類や司の事。あれからの紫の事、西門の動き・・・それについても何も触れては来なかった。

だから俺から話をしたら普通に聞き返す。
そこにいつも質問攻めして踏み込んでくるのにそれがない事が不思議な気がした。


「嫁さん、具合どうなんだ?お前達の結婚式以来だから1度会いに行こうか・・・いや、止めた方がいいのか?」

「総二郎なら来ても問題はなさそうだけどな。子供連れの来客なんかがあるとサンルームにまで逃げてるよ。どのぐらい経てば落ち着くのかわからないよな・・・こればっかりは」

「お前は1度も考えなかったのか?紫の言うような意味じゃないが、確かに美作が受け入れても本人には辛いだろ?
嫁さんが楽になるために実家に戻す選択は1度も起きなかったのか?」

「・・・不思議かもしれないけど起きなかった。跡取りは絶対条件みたいに思われてるかもしれないけど、そこから変えていくのも必要かなって思ったし、この先自分と気の合う女性を探すのもな・・・」

「そうか・・・」


デリケートな問題だけにあきらも嫁さんの話はしたくないんだと受け止め、この後は他愛もない話をボソボソと繰り返していた。
道明寺や花沢の現状すら聞く時間がなかったからそんな事を話したり、日本での大手企業の動きを話したり・・・興味なんてない癖にそんな事しか話せない自分たちに違和感を覚えながら時間だけが過ぎていった。

もう何杯目の酒だっただろう。
そろそろあきらも家に帰さなきゃな、なんて思った時に自分の話をした。


「そういやさ・・・今度久しぶりに亭主するんだわ、俺」
「亭主?茶会に復帰するのか・・・って、出来るのか?」

「親父も考えやがったんだろうけど、茶室では無理だから屋外でやる野点でさ。椅子に座ってやるヤツで、岩代って爺さんの希望で俺が亭主なんだとさ」

「岩代?あの岩代ホールディングスのご隠居か?随分な偏屈爺さんだっていう噂の?」

「そうそう、その爺さん。しかも嘘かホントか重要文化財級の茶碗を手に入れたからそれを使って点てろってさ。今までそんな野点聞いたこともねぇから断わったけど既に決まったってヤツ?俺の話なんて聞く前に全部スケジュール組まれてたわ」

「ははっ!家元らしいな。相変わらず総ては自分の思い通りっての?お前も苦労だな」


やっと聞けたあきらの笑い声にホッとした。

お互いに少し笑顔を出せたらそこからは一気に昔話が始まってガキの頃の話題で盛り上がった。
勿論牧野が俺達の前に現れるまでの話。この日には1度も牧野の名前をお互いに出さなかった。



**************



久しぶりに美作さんが鎌倉に来た。
手土産に何か買ってこようかと思ったけど食事管理してる私には何を選んでいいのかわからなかったと言って、何も持たずに来たのを申し訳なさそうに。

「牧野に食べ物以外が思いつかなくてさ。でも今はダメなんだろ?塩分制限してるんだよな?」

「あはは!酷い言い方だなぁ。うん、血圧が下がらないから食事は小夜さんが作ってくれるもの以外は食べないの。何だか申し訳ないわ、自分の事なのに自分でしないんだもん」

「それも仕方ないな。今だけだから甘えとけば?」

小夜さんもクスクス笑いながら私達にお茶を入れてくれて、このぐらいなら大丈夫って小さめのお菓子を出してくれた。

それにしても平日のお昼なのに急な訪問・・・何かあったのかと少し不安だった。
そんな疑問が顔に出ていたのかもしれない。美作さんはチラッと私を見たら真面目な顔になって、小夜さんに「2人にしてくれるか?」と声を掛け、彼女は静かに出ていった。

そして、もうすっかり忘れかけていた人の事を教えてくれた。


「実はな、あれからも唐津に数人うちの人間を残して吉本の行方を捜していたんだけど」
「吉本さん?呼子の役場の?」

「そう。その吉本が見付かって今はうちの人間が夢の屋で身柄を拘束してるらしい。どうする?牧野・・・被害届出すか?」

「被害・・・届け?」

美作さんの話だと吉本さんは今朝早く、夢の屋の近くを彷徨いていたのを美作家のボディガードに声を掛けられ、慌てて逃げようとして捕まったらしい。

どうやら私があのあとどうなったのか全然把握してなかったみたい。
自分のした事がどのぐらいの罪なのかちゃんと知っていたんだろうけど、それを相談する人も居なかったのか、あの日から車中泊をしていたと美作の人には話しているそうだ。
唐津から離れた場所で服や下着を買って着替えてたみたいで、車の中はそんなものが散乱していたらしい。

すぐに女将さんに話して一室を借り、そこで監視されていると言われた。


ただ、私は病院に運ばれてからすぐに鎌倉に移っていたし、唐津でそんな被害届は出していない。
このままだと吉本さんを警察に引き渡すことも出来ない。美作さんはその事で相談に来たみたいだった。

「役場はあの日から欠勤してるし、上司が事情を知ってるだけに戻るにしても謹慎処分は免れない。だから役場は辞めると本人は申し出てるそうだ。家が代々役所絡みの仕事をしてるからそれも影響するんだろうけどな」

「役場を辞めちゃうの?」

「そのぐらいの事をしてるんだから職を失うのは仕方ないさ。牧野に何か手を出してたら強姦罪も加わるんだから・・・それはなかったんだよな?」

「・・・え?あ・・・うん」


無理矢理キスされた事は誰にも言ってない。知られたくない・・・だからここでもその事は黙っておいた。

確かに許せない事なのかもしれないけど、私はもう呼子から離れてしまった。
吉本さんが私を追ってここまで来るだなんて思えない。美作家の力を知ったのなら尚更これ以上の事はしないだろうと思った。


「美作さん、色々ありがとう。私は被害届なんてもう出さないよ。あそこに残るんだったらそうしたかもしれないけどこっちに戻って来ちゃったもん。もう忘れたいから何もしない・・・それでいい?」

「俺はいいけどお前は本当にいいのか?」

「うん。仕事も新しく探さなきゃいけないんでしょ?それなのに事件絡みだと吉本さん、困ると思うし」

「・・・ホントにお人好しだな!あいつ、野放しになるんだぞ?」

「だってここまで来ると思う?そんなに長い期間私の事が好きだったわけじゃないよ?出会って半年の妊婦の事なんてすぐに忘れちゃうわよ」


ちょっと不満そうな美作さんを説得して、もうこの話は終らせることにした。
吉本さんは「夢の屋」から解放し、美作の人達も東京に戻すように頼んで、あとの事は本人に任せようと。
念のため私の事は「美作の監視下にいるから近づけない」と付け加えると彼は言い、私の目の前でその指示を出していた。


「どうだ?あれから張ったりしてないか?」
「ん?うん、大丈夫。動かないからあんまり痛くないの。でもお腹が空いてもあんまり食べられないのよね~。このお腹が胃を圧迫してるんだって」

「そうだろうな、これだけデカくなってるんだから。もう少しだな」

私の横に来て「触ってもいいか?」なんて聞くから「どうぞ」って言うと恐る恐る触ってる。ちょうど赤ちゃんがその手を蹴ったのか驚いて手を退けたけど、すぐにまた触って嬉しそうな顔をしていた。
双子ちゃんがおば様のお腹にいた時は照れ臭くて触れなかったって笑いながら。


「お母さんに連絡しようかな・・・やっぱり怒るかな?産まれてすぐの時は1人じゃ大変だろうしね。でも誰の子だって言われたらどうしよう・・・西門さんの事すら話してなかったのよね」

私がそう言うとハッとした顔を向けたから「どうしたの?」って聞くと、また驚くような話を聞いた。美作さんは「今まで話し忘れててごめん!」なんて謝ったけど。


「総二郎が牧野の両親に会いに行ってるんだ。あいつが退院してすぐらしいから3月ぐらいかな。その時に事情を話したって言ってた。お前から連絡があったらすぐに知らせて欲しいって・・・お袋さん達、びっくりしてたらしいぞ」

「・・・そう、なんだ。あはっ・・・じゃあ暫くは親にも連絡できないね」

「それは牧野に任せるけど両親が知ってるのはお前が西門のせいで東京を追われたって事だけだ。当然妊娠の事なんて知らないはずだ」


「うん、だよね。そっか・・・逃げたことはバレてるんだね」


この後、美作さんからは西門さんの名前はもう出なかった。
本当言えば気になってる・・・美作さんと西門さんは会ってないんだろうかって・・・。


でもそれを確かめることはしなかった。今の彼の現状を知るのが怖かったから。





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