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plumeria

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6月の第3日曜日 岩代家の茶会の日。

前々日まで降っていた雨も昨日からやんでいて、梅雨の晴れ間で天気が良い・・・今日も雨の心配はないと言うことで予定通り野点が行われることになった。


俺用の立礼棚や道具類を専用車に乗せて弟子達は早々に西門を出て、俺達は野点の時の着物を準備し比較的落ち着いた車で行く。こういう時はリムジンのような車で客先には乗り付けないのが礼儀だ。
招待客が揃う2時間前には着くように本邸を出発した。

車内には俺と紫だけ・・・勿論、家元も家元夫人も同行するが車は別にするのはいつものことだった。
親父の考えは精神統一のため、となっているが要は俺と顔を合わせる時間を極力減らすため。そのぐらいの事は言われなくても判っていた。


「晴れて宜しゅうございましたわね」
「・・・・・・」

「お客様は椅子に座られるのでしょうね」
「・・・今は地に直接朱毛氈を敷いてやるような野点はねぇし、俺が座れないんだ。当然だろう」

「・・・失礼致しました。そうでしたわね」

この会話にもなんの感情もなく、俺の足のことを気遣った言葉なんて聞いたこともなかった。いや、気遣いが出来るぐらいなら病院でももう少し動くだろうし、俺はそれを期待していない。
何処までも平行線で歩み寄らない俺達なのに、何故今ここで一緒に居るんだ?・・・何日経とうが受け入れられない事実に今日も溜息をついた。



都内でも自然の多い場所にある岩代邸に着いたのは朝の8時。
6月とはいえ今はもう気温が高い。だから昼間は避けて出来るだけ早いうちに済ませるのが普通・・・今日の野点は10時に始まり正午前にはお開きとなる予定だった。

岩代邸もそこそこの広さのある古い日本家屋でその周囲を土塀で囲まれていたが、端から見ると判らないが耐震工事などを済ませている最新設備の整った屋敷。
正面の入り口を入ると天井には家紋入りの照明があり、ランプの1つ1つにもその家紋が刷り込まれている。

そして豪華な金唐革紙の衝立、その横には立派な花器にモダンなイメージでこの時期の花が生けられていた。
その奥の方から出てきたのは上品な女性・・・ここの使用人頭と思われる年に見えるが姿勢も良く、凜とした表情をしていた。


「おはようございます。本日は宜しくお願い致します」

「おはようございます。本日はご隠居様のお申し出を受けていただき有難く存じます。それでは皆様の控え室にご案内致しましょう。そちらでお着替えいただいた後、ご隠居様のお部屋にご案内致します。本来でしたらこちらの方からご挨拶に伺うところですが、足を悪くして居りますのでご容赦下さいませ」

「いえ、お気になさらずに。お邪魔致します」


その女性の後ろについて進んで行くと、横には見事な日本庭園が続いていて飛び石の配置が複雑でモダン・・・比較的若い職人の作品だろうって感じだった。それなりに広い池が掘られていて中島には橋まで架けられてる。
純和風な建物だけど弓形天井と言った凝った作りも見せていて、各部屋部屋で違うきめ細かな欄間はこの屋敷の人間の見栄なのか虚勢なのか・・・口に出せねぇけど俺の好みじゃなかった。

やたら古めかしく見せてるけど人工的・・・整い過ぎたこの屋敷全体が博物館の中を歩くようで落ち着かなかった。


「こちらでございます。後ほど参りますのでどうぞお着替えを・・・」
「承知致しました」

親父とお袋は隣室で、俺は気に入らないが紫と同室で着物を着替えた。
すぐ後ろに居ることは判っているが振り向く事もなくさっさと着物を着替え、本当なら任せるはずの脱いだものも自分で片付ける。紫に何かを頼むことなんてしなかった。


「あの・・・総二郎様」
「・・・なんだ?」

「帯を結んでいただけませんか?」
「自分で出来るんなら自分でしてくれ。悪いが俺はあんたの着付けをする気はねぇし」

「実は今朝ほど腕を捻って痛めましたの・・・後ろに腕を回すことが出来なくて」
「お袋に言えばいいだろう」

「お義母様に西門で申し上げましたら総二郎様にお願いするようにと言われましたわ。ですから総二郎様、お願い致します」


振り向いたら先日の着物を着て帯だけを手に持っている紫が妖しく笑った。
一瞬長襦袢だけ着て全部着せろと言うのかと思ったが・・・そうではなくて本当に帯だけ。それを俺に渡してから袖を持ち、クルリと背中を向けた。

いつもは流している髪を今日は結い上げて白い項を出している。
確かにそれは色気があり妖艶な香りがした。気持ちなんて動かないけど男としてはそこに目が行く・・・少しドキッとはしたが無視して帯を結び始めた。

相手が誰であれ帯を結ぼうと思えば身体に手を回す・・・まるで抱き締めてるかのようなポーズになるのがすげぇ腹立って無意識のうちに息まで止めていた。
それなのに力を入れるとわざとらしく蹌踉めいて俺の腕に触れる。

「あ・・・ごめんなさい」とは言うものの、振り向いた目は男を誘う時のような妖美な目付きだった。


「悪いがそんな事をしても俺にはなんの効果も無いが?」

「あら、何のことですの?総二郎様が少し乱暴に結ぼうとされるから蹌踉けたんですもの・・・女の扱い方は噂通りですのね」

「・・・宝生ではそんな風に男に媚を売れと教えるのか?」

「媚を売るというのは心外ですわ。元々はそれを商売としていらっしゃる方に使う言葉ですもの。私は総二郎様の婚約者・・・商売でお側に居るわけではありませんよ?」

「そりゃ申し訳なかったな・・・よし、これで終りだ」


鏡で確認したらまた気分が悪くなった。
俺の着物と紫の着物の青い色・・・誰が見ても2人で合わせてると判る色合いだった。




*****************




狭いキッチンで誰かが料理してる。
凄く沢山買い込んで楽しそうに鼻歌歌って味見して・・・『うん!最高!』って自分で褒めてるのは・・・私だ。

そこは東京のアパートだ・・・私が住んでいた部屋のキッチン。

もうすぐ夏が来るって言うのになんで長袖なんて着てるんだろう。


『西門さん、もうすぐ出来るから待っててね!あっ・・・えっとね、これ、お誕生日のプレゼントなんだけど』
『マジで?いいって言ったのに・・・このせいでバイトするぐらいなら俺の横に居ろって言っただろ?でも、サンキュ!見ていいか?』

『うん、気に入ってくれるといいんだけどな・・・すっごく悩んだのよ?』
『おっ!なかなかいいじゃん!』

『ホント?良かった!』



あぁ・・・喜んでくれたんだ、あのブレスレット。結構な値段だったもんね・・・気に入ってもらえて良かった。
初めて渡すから緊張したのよね・・・。


『それとね・・・実は一緒に行って欲しい所があるの』
『行きたい所?何処だよ』

『あの、それがね・・・病院なの』



西門さんの表情が見えない・・・彼の背中側しか見えなくて、今どんな顔してるのかが判らない。
嬉しいとも、困るとも言わないし、私の顔もぼやけて見えない。

何故?・・・凄く大事な話だったのにどうしてここだけ2人の顔が見えないの?


『よし!じゃあ今から行くか。バイクだけど問題ないかな』
『大丈夫だよ。病院近いし』

『じゃ、飯は帰ってからだな』
『うん!ありがとう、西門さん』



私は今、西門さんにしがみついてバイクの後ろに乗っている。
あと数分後・・・確かなことが判って、私達のこれからが大きく変わるんだよね?私は西門さんを信じてついていけばいいんだよね?
彼の服をギュッと掴む手が強くなった時・・・私達の左側から凄く眩しい光が来て、私達はその光の中に・・・・・・!!



「いやあああぁーっ!!・・・・・・あれ?・・・今の、夢?」


すごい汗・・・自分の額に手を当てたらびっしょりと濡れてて髪まで湿っていた。


なんだ・・・夢か。

凄くリアルな夢だったなぁ・・・怖かった。
時々事故の時の想像するからかな・・・その前に目が覚めて良かった。たとえ夢だと思っても彼が苦しむ所なんて見たくないもの。

それにまだぺったんこのお腹だった私の姿なんて久しぶりに見ちゃった・・・西門さんの笑顔も久しぶりだった。
ベッドからまだ起き上がれずに目だけ窓に向けたらもう随分と日が昇ってる。


「今日は晴れたんだね・・・天気はいいのに変な夢だったな・・・」




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