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plumeria

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この部屋を出た後は現当主夫妻に同じような挨拶をした。
こっちは爺さんとは違って大人しそうな男と、それに似合わないキツい表情の奥方。

部屋も古めかしい屋敷の中では今風でモダンな感じがして、むしろ茶会など面倒なのか奥方はニコリともしなかった。そしてオタクじゃねぇの?って思うような長男に並の容姿の娘が2人。
どうやら紫は此奴らとは面識がないのか、ここでは何1つ喋らなかったし、それは此奴らも同じだった。


「本当に申し訳ない事です。あのように頑固な父親ですのでやると言い出したら、他の人間の言うことなど聞き入れませんで」

「いえ、お元気な証拠です。本日は心を込めて茶を点てさせていただきますので、どうぞ宜しくお願い申し上げます」


「あまり時間を掛けても暑くなってお客様にも申し訳ございませんわ。出来るだけ手早くお願い致しますね」

「・・・そのような。私どもは何かを省くような事など致しませんが、野点と言うものは元々省略された部分が多いもの。日が高くなる前には終りましょう」


・・・茶会の省略なんて初めて言われた!
それにドン引きして怒鳴って帰ろうかと思ったが、そういう訳にもいかず、グッと堪えて親父の後ろに控えていた。



ここでの挨拶も終えたら再び自分たちの控え室に戻った。

そしてすぐに始まったのが紫への質問。爺さんとの事を何も聞かされていなかった親父とお袋は険しい顔をしていた。
怒っているとまでは言わないが不機嫌な様子で腕組みをし、隣にお袋を座らせて正面に紫を座らせた。俺はその左横・・・少しピリピリした空気が茶会の前だと言うのに流れていた。

本当ならこの時間、俺は心を落ち着けて外の空気を感じ、風の匂いを感じ、肌で自然の総てを感じるためにたった1人の時間を持つようにしていたのに。
そのどれも出来ないまま親父が紫に問い質すのを聞いていた。


「紫さん、先ほどのご隠居との会話だがね。宝生家と岩代家は何か繋がりがあったのかね?私達は何も聞いてはおらんのだが?」

「岩代様のお屋敷で野点があるとお話した時もあなたは何も言わなかったわよね?どういったご関係?あのお話の仕方だと随分昔のあなたを知っているようにも聞こえたけれど?」

「・・・お話ししなかったのは申し訳ございませんが、お伝えするほどの事でもないと思いましたの」

「それはこちらが判断すること。何があるか判らないのだから顔見知りであるなら教えてもらわないと困る」


親父の言葉には少し悲しそうな表情を見せ、着物の袖で口元を隠すような素振りを見せた。
勿論本心で「悪かった」と思っている訳じゃない・・・こいつの演技に他ならないが、そうだと思わない親父とお袋はしょんぼりする紫を宥めながら説明を求めた。

ここでも紫を無視する俺を睨んでるのはお袋。
面倒だから目を閉じて紫が話し始めるのを待った。


「宝生家と岩代家は先々代の・・・もう少し前かしら、そのぐらいの頃に訳あって家を分けたのだと聞いております。私の高祖父とこちらのご隠居様のお爺様が親子にあたるのですわ。当時、岩代家のご当主には何人もの側室の方が居られても男の子に恵まれなかったらしくて養子に入られたのだそうですが、その時に心情的なトラブルがあって絶縁したのだとか・・・それがこちらのご隠居が大らかな方で、昔の揉め事などは持ち込むまいと、私が生まれた頃に再び行き来が始まったそうです」

「そのような関係が・・・いや、この私も知らなかったが」

「無理も御座いませんわ。随分古い話ですもの。ご隠居様が私のことをたまたま可愛がって下さったからです」


それならこいつがあの茶碗の事も止めてくれればいいものを。
こちらが困っていた時には何も口出ししなかったくせに・・・。

紫の説明が終れば親父達も納得したのかそれ以上は何も言わなかった。


俺は席を立ち、残り僅かな時間を自分の心を落ち着かせるために使おうと部屋を出たが、丁度その時さっきの女性が野点開始を知らせに来た。
それを聞いて両親も腰を上げ、紫も何事もなかったかのような顔で俺の横に並んだ。


「それでは参りましょうか。本日は当家北側にございますお庭でのお茶会でございます。招待致しましたお客様もお揃いでございますので」

「・・・判りました。ご案内、宜しくお願い致します」




******************




「・・・ねぇ、小夜さん。最近少し赤ちゃんが静かになったんだけどこんな感じなんですか?少し前までは良く動いていたのに・・・何だか心配で」

「あら、どうしても気になるのなら受診しましょうか?でも多分心配ないと思いますよ?お腹の中がだんだん狭くなってくるから暴れにくいのかもしれないし、実はお腹の赤ちゃんも寝ることがあります。だから今はお昼寝かもしれませんよ?」

「えっ!寝るんですか?」
「はい、寝ますよ、そしてお母さんが眠たい夜に起きて暴れたりしてね」


私がカップを割ってしまったから新しいお茶を用意してくれて、お庭でのティータイムは続いていた。
さっき少し不安が過ぎったけどそれも忘れてまた名前の話。スマホで最近流行の名前を調べて、これは可愛いとかこれはなんて読むの?とか気に入ったものを書き出したりして夢中になっていた。

その時に門が開いた音がして小夜さんが確認に行った。


戻って来たのは2人・・・小夜さんの隣にいたのは美作さんだった。

「牧野、今日は調子が良いんだって?」
「うん!だからここでお茶をいただいてたの。美作さんはこっちでお仕事?」

「いや、少し時間が出来たから視察だって嘘ついてサボり中。お袋には言うなよ?」
「うわっ!困った部長さん・・・バレたらどうすんの?」

「まぁ、視察って言われりゃ間違ってないだろ?触っても良いか?」

「くすっ、どうぞ。やっぱり前より大きくなった?」


美作さんが私のお腹に手を置いたら、何故かポコン!とその手を蹴った!

嘘っ・・・昨日も今日もあんなに大人しかったのに?私が何度撫でても蹴らなかったのに・・・それに驚いていたら彼の方が不思議そうな顔をしていた。
だからその話をすると「ガキのクセに母ちゃんを守ろうとしてんのか!」って怒ってた。

「何だよ・・・腹の中に居るくせに親父じゃ無いって判るのかな」
「あはは!そんな事ないでしょ。変な事言うのね、美作さん。でも良かった・・・」

「良かった?蹴ったからか?」
「うん、元気だって判るでしょ?宝物だからね・・・何かがあったら怖いから」

「・・・そうだな」


小夜さんが美作さんの分もお茶を用意してくれて、今度は気を利かせたのか部屋の中に入ってしまった。
だから美作さんと2人きり・・・静かだとちょっとだけドキドキするから名前の話を出してみた。


「名前かぁ・・・何か考えてるのか?」
「全然。1人の性別が判らないから男の子1人決めて、後は産まれてから?って思ったりはするんだけど。ね、何か良いのはないかなぁ」

「つくしに似せて雑草にするか?よもぎとかナズナとかタンポポとか?」
「はぁ?!やだよ、そんなの!」

「あっはは!逞しい名前にしろよ。源太とか権太とか」
「ガキ大将みたいだね!あはは!って痛たた・・・」

「大丈夫か?ごめん、巫山戯すぎた」
「・・・ううん、大丈夫。なんともないよ」

「風が出てきたな。部屋に戻ろうか」


私の背中に当たる美作さんの手は今日も温かい。私が縋っていい手じゃ無いけど、その手に支えられて部屋に入った。
少し横になるからってベッドに座り、彼は「また来るな!」って笑ってこの部屋を出ていった。

「ありがとう。バレないようにね?」
「ははっ!秘書に同行を断わってるから疑われてるかもな」

「え?浮気相手とか嫌だからね?!」


最後までわざと巫山戯てそんな事を言う・・・ドアが閉まって車のエンジン音が聞こえたら、小夜さんの「お気を付けて」という声が聞こえた。


この瞬間が凄く淋しい。
またここに独りになった気がして心がくしゃみしそう・・・。





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