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plumeria

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本邸に戻ってからすぐ、あの時と同じように紫が家元の前に座っていた。
配置も同じくお袋は親父の横に、俺は左横に座って中央の紫を見ていた。


「今回も私達に何も言わずに岩代家にあのような贈り物を・・・紫さん、この西門をどう思っているのかな?」

「どう・・・とはどういう意味でしょう?私は少しでも総二郎様のお力になれたらと思って実家に相談したのですわ。そうしましたら父があの茶碗を使えと出してきたのです。私が提案した訳ではございません」

「誰が提案したとかの問題ではなく、何故総二郎や私達に無断で行うのかと聞いているのだ。それに宝生家にはあのような茶碗があったのか?探してすぐに見付かるようなものでもないし、誰かが所有していても簡単に譲り受けられるようなものではない。宝生家が渡した茶碗は正しく伝わってきた・・・本物、という事か?」

「そうだと思いますわ。父はそこまで興味を持っておりませんけどお爺様が長年掛けて良いと思われた品を集めておいででした。その中に偶然名品があると言うことはこれまでもございましたから」


長年集めたからと言って出てくるような代物ではない・・・親父の顔にはそう書いてあった。


うちにも確かに数点あるが、いずれも国宝に比べると少しの欠けがあったり色合いが微妙だったりで完全とは言い難い。それでも数千万から億の値が付くもので厳重に保管されていて俺達でも殆ど見ることはない。
それをいくら娘のためとは言え、すぐに決断して余所に出してしまうのか?

俺にそれほどの価値は・・・今、この段階では無いと思うが?


「・・・兎に角このような話になっているとは思わなかった。すぐに宝生家に詫びに行かねばならんな。総二郎、お前も同行しなさい。それに後援会長にも例の件で話をせねばならん。全く・・・騒々しいことだ」

「・・・判りました。しかし婚約発表を早めることなどお考えではございませんよね?」
「総二郎さん、失礼ですよ!」


紫がいるからと慌てて俺の言葉を遮ったお袋。
俺の方をチラッと見た紫の方が落ち着いていた。


「婚約の発表時期は早まっても問題はなかろう。ただし婚儀は総二郎が茶事を行うことが出来るようになってからだな。今のように野点すら満足に出来ず、茶会も事故の後は行っておらん。その状態では慶事など行えまい」

「・・・家元!発表だけなら構わないとお考えですか?」

「総二郎、忘れてはおるまいな?お前が無茶な振る舞いをすればどうなるか・・・いい加減に忘れなさい!」
「・・・・・・!」


気不味そうに俯くお袋、険しい目付きで睨み付ける家元・・・それでも能面のように表情を一切変えない紫。
そして廊下では親父の秘書が聞いている・・・そいつの目も俺の方に向けられ刃物のように鋭かった。


此奴・・・何か知ってるのか?


親父との話が取り敢えず終わり、場は解散となった。
俺はすぐに立ち去ろうとする親父の秘書を呼び止め、誰も居なくなってから牧野の事を聞いた。


「あんた・・・もしかして牧野が居なくなった時の事で何か知っているのか?」

「牧野様・・・さぁ、私は何も存じ上げませんが?」

「・・・そうか。それならいい。引き止めて悪かったな」


よく考えたら問い詰めたところで喋るわけが無い。
此奴は長年親父に仕えている秘書だ・・・親父が極秘でと言えば絶対に口を割らないだろう。無駄な事だったと自分に言い聞かせて先に部屋を出ようとしたら、この男は俺の後ろから話しかけてきた。


「総二郎様、やはりここは教えて差し上げましょう」
「・・・何をだ?」

「お家元の言葉に逆らわない方が宜しいですよ。悲しまれる方が増えるだけですから。あなた様が大人しく言うことをお聞きになれば、場所は何処であれ静かに暮らしていけると言うもの・・・騒がれた時にはその後の身の安全は絶たれるとお考えください」

「・・・どういう意味だ!」

「察していらっしゃるのでしょう?そういう事ですよ・・・それでは失礼します」


やはり牧野は西門の監視下に居るのか・・・!

出ていこうとする此奴のスーツを掴みあげ、柱に押し付けて首元を締め上げた!此奴の眼鏡が畳の上に転がり落ちたが無視して更に力加え、動けねぇようにすると途端にその顔が赤くなる。
此奴も俺の両手首に爪を立てて抵抗してるが、そんなもんでこの俺が外すと思うか・・・!


「何処にやった・・・牧野を何処に連れて行ったんだ!・・・吐け!!」
「ぐっ・・・おや・・・めくだ・・・!」

「止めるか!牧野の居場所を吐け・・・吐かねぇとどうなっても知らねぇぞ!!」
「・・・ぐわっ、だ、だれ・・・かっ!」

「言え!何処にやった!!」


「若宗匠!!お止めください、誰か、誰か来てぇ!!」
「きゃああぁーっ!総二郎様、お離し下さいませ!」


**


ドサッ!と投げ込まれたのは以前と同じ、屋敷の中で1番奥にある牢部屋。
あの後騒ぎ出した使用人に止められて親父に報告され、あの時と同じボディガードに羽交い締めにされ再びここに投げ込まれた。

そしてガチャッ!と鍵を掛けられ、扉の外からは親父の怒声が響いた。


「この馬鹿者!今度は自分の屋敷で何を騒いでおるのか!あの娘のことは忘れろと言っただろう!」
「牧野を何処にやった!あいつを何処かで監視してるんだろうが!汚ぇマネしやがって・・・牧野を解放しろ!!」

「まだ言うか!そんな事はお前の考えることでは無いわ!お前は現実を見ればいいのだ!そうすれば全てが丸く収まる・・・何度も同じ事を言わせるな!」


親父は暫くここで己と向き合えと言い残し本邸へ戻って行った。


俺は再びこの黴臭い部屋で1人、高窓からの光だけ浴びてそこに立ち竦んでいた。




******************




「それでは本日からこのお部屋で7日までゆっくり過ごしましょうね。症状は問題無いけど美作様の指示ですので面会謝絶です。どなたも私達の許可無くここに入れませんけどそれでいいですね?」

「・・・はい。宜しくお願い致します」


美作さんの系列病院の特別室。普通のホテルのスィートルームかと思うような可愛らしい部屋のベッドにチョコンと座って、担当看護師さんがアナムネ用紙に書き込むのを見ていた。

勿論美作さんも夢子おば様も一緒に・・・私が言いにくいことは美作さんが代わりに答えてくれて、余計な情報が外部に漏れないようにと何度も繰り返し話していた。


「担当の先生は同じですから安心してくださいね。何かあったらすぐに看護師を呼んで下さい」

可愛らしい看護師さんが真っ赤な顔して出ていったのは美作さんが居るからだろう、そんな事には気付きもしないで今度はスマホを耳に当て仕事の連絡をしていた。
おば様は出産後の子供のものや私の服を揃えてくれていて、まるで自分の孫が生まれるかのようなはしゃぎよう・・・それに申し訳ないような気がして「座って下さい!」と頼んでも動くのを止めなかった。


「美作さん、ここの費用、ちゃんと払うから教えて?あのお金、使うから」
「・・・は?あぁ、そんなの考えなくていいよ」

「そういう訳にはいかないよ、私は・・・」
「俺の嫁さんじゃ無いっていうんだろ?判ってるって。でも大事な友人だからな・・・それにこれまでの費用を全部計算したら牧野の持ってる金が全部無くなるぞ?」

「・・・えっ!そうなの?」
「ははっ!まぁな。だから気にすんな」


・・・いや、そうかも。
夢子おば様の並べてる服を見ただけで「私には払えない」って思った・・・。




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アナムネとはドイツ語の(anamnese)を語源とし、日本語訳は病歴です。
現在日本の医療業界でアナムネといわれる意味には、病歴だけでなく家族構成、緊急連絡先、嗜好品など幅広い患者情報を聴取することを含んでいるそうです。


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