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plumeria

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7日になって漸く牢部屋から解放され親父の前に連れて行かれた。
別に音を上げたわけでも不調を訴えたわけでもない。これから宝生家に詫びに行くというので出されただけだった。

既に俺以外は支度を済ませ、その部屋に並んで座っていて全員が冷めた表情。
先日俺が締め上げた秘書の男も廊下に待機して、相変わらず眼鏡の下の眼光は鋭かった。


「総二郎、宝生家のご当主が本日ならお会いして下さると言うことだからすぐに支度をしなさい。何を言われてもお前は詫びの言葉以外は出すなよ。判ったな」

「何を言われても、とは?何か話を進めると言われるのでしたら黙っていられるかは判りませんが」

「・・・出発は1時間後だ。行きなさい」

「・・・・・・」

何を言われても・・・何か言われればそれを素直に受け入れるって事か?家元である親父がここまで相手の言いなりになるって何だ?
親父とお袋の落ち着いた雰囲気からは不気味なものしか感じられなかった。だがその後は何も言われず、仕方なく自分の部屋に戻って出掛ける支度をした。



宝生家・・・紫の実家は三鷹にあり、広大な敷地を有し中央には歴史を感じる日本家屋がある。それを取り囲む塀は屋敷に比べ幾分モダンに仕上げられていた。
そして厳つい門に上品に掲げられた「宝生」の文字・・・紫の印象そのもので、何処か冷ややかで張り詰めた空気を感じた。


「いらっしゃいませ、西門様。お待ちしておりました」
「・・・お出迎えありがとう。ご当主がご在宅と伺いましたが」

「はい。西門様がお越しになられますのを楽しみにしておいでですわ。どうぞお上がりくださいませ。ご案内致します」


俺達を出迎えたのは意外にも小柄で若い女性の使用人。珍しくこの女性を見る紫は穏やかで柔らかな印象を受けた。
そして紫に「お嬢様、お帰りなさいませ」と言葉を出すとニコッと笑った。うちでは見せたこともないこいつの笑顔・・・それに驚いて紫を見ていたら、俺に気が付いてスッと元の表情に戻った。

実家だからか・・・それともこの女性は可愛がっていた使用人なのか?
歳なんて判らないけどどう考えても俺よりは年下に見える。ここで働いていたとしてもそんなに年月は経ってないだろうに。


「薫、元気にしていましたか?風邪など引いてない?あなたはいつも梅雨時には風邪を引いていたものね」
「・・・ご心配ありがとうございます。今年は大丈夫みたいです。咳も出ないし・・・お嬢様もお変わりありませんか?」

「えぇ、私はとても元気よ。西門家ではとても大事にしていただいてますから」

薫と呼ばれた使用人の女性も嬉しそうに顔を赤らめて、紫と話したあとは宝生の当主と会うための奥の間へと案内してくれた。
いつも・・・って事はやっぱり昔からの知り合いだって事か。まぁ、関係ねぇけど。


岩代とは違い上品な屋敷だ。
無駄な装飾もなく庭も懲りすぎず、自然のままを表現したような見事な日本庭園で清々しい。磨き上げられた廊下もどの部屋も変わらないすっきりした建具に欄干。
ほんのり香を焚きしめたかのような香りが気持ちを落ち着けるかのようだ・・・成る程、この家で紫は育ったのか、と自分の横を歩く彼女をチラッと見てしまった。

やはり視線は先頭を歩く薫・・・こいつが唯一気を許せる相手だったのかもしれねぇな。


「それではこちらの間で暫くお待ち下さいませ」

「・・・ありがとう」


家元、家元夫人、俺と並んで座るのはいいが、紫が俺の横ってのはどうなんだろう。
正式に婚約者として公表もしてないのに西門側の末席に座っていていいんだろうか。いっその事、実家側に座ればいいのに・・・そんな事を考えながら当主が来るのを待っていた。




*******************




ストレッチャーが「手術室」と書かれた部屋に入って行く。
本当なら「分娩室」だろうにって思いながら、その赤い表示の下をガラガラと通過した。
ぼーっとする薬を注射してるから頭ははっきりとしない。それでも目だけはキョロキョロ動いてしまって看護師さんと目があった。


「そんなに緊張しないで。長いこと辛かったでしょうけど、これで大きなお腹とは一旦お別れよ。明日からはその手に赤ちゃんが居ますからね・・・私達に任せてゆったりした気分で赤ちゃんを待ちましょう?」

「・・・はい、頑張ります」
「うふふ!頑張るのは赤ちゃんと先生よ?」

隣を歩いてくれる看護師さんがそんな会話で和ませてくれて、照れ笑いしながら先生が待つ手術台に移った。


「はい、それでは今から赤ちゃんをお腹から出しますからね。これから腰椎麻酔をします。胸の下あたりから足まで麻酔をかけますからね。これはすぐに効いてくるから、それが確認出来たら始めるからね」

「・・・は・・・い」

もうこの後は先生達の腕に任せて私はぼんやりした頭で身体の向きを変えたり丸まったりして、ズキッと痛みが走ったのがどうやら腰椎麻酔らしい。
その後暫くは目を閉じて先生達が何か話してるのを聞いていた。内容なんてわからなかったけど微かにみんなの声は聞こえていた。

「横切開でいけそうだね」って声がして、どうやら始まったらしい。
でも私にはもう何も感覚が伝わらない・・・勿論痛みはないけどお腹を触られてるんだなって事が少し判る程度だった。


あぁ・・・もうすぐ赤ちゃんに会えるんだ。

そんな事を思っていたらすぐに産声が聞こえた!


・・・ふんぎゃあーーっ!ふぎゃあ・・・ふんぎゃあーっ!

「よし、1人目だ。男の子だな」

・・・ふんぎゃぁ・・・ふぎゃあーっ・・・・・・ふんぎゃあ・・・!

「次は・・・女の子だ。少し身体が小さいな・・・ん、でも大丈夫だね」


男の子に・・・女の子?もう1人はやっぱり女の子だったんだ・・・!
凄く嬉しかったけど麻酔のせいでぼんやりしてるから何も言えないし、手も上手く動かせない。
それに産声は聞けたけどその顔はまだ見ていない。どんな顔してるんだろうってそればかりが気になって涙が溢れた。


「お母さん!無事に産まれましたよ。男の子と女の子の双子ちゃん!すっごく可愛いよ・・・ほら、見えるかな?」

「・・・・・・あ・・・」

「ほらね?こっちが男の子でこっちが女の子。まだ目を閉じてるからね」

看護師さんが赤ちゃんを抱っこして私の横に連れて来てくれた。
本当に小さくて真っ赤で、まだシワシワで・・・よく見たいのに涙が溢れて歪んじゃう。それを看護師さんが拭ってくれて、赤ちゃんの指を握らせてくれた。


なんて小さいんだろう・・・頼りなくて柔らかすぎて、まだ何も知らないその手は私の指を握り返してくれた。


なんとなく切れ長っぽい瞳が彼に似てる気がする。
だけど鼻が低そう・・・それは私に似ちゃったのかしら。でも・・・なんて愛おしい存在だろう。

「また綺麗にしてから後で会いましょうね。それと今から胎盤を取り出して洗浄した後に縫合します。少し辛いだろうからお母さんは少し眠ろうね?そのためのお薬使うからね・・・赤ちゃんの事は心配しないで」

返事が出来ない私は軽く頷いたけど、赤ちゃんの手を離そうとしなかったみたい。
看護師さんが優しく指を解いてくれて、何処か奥の部屋に連れて行ってしまった。



西門さん・・・赤ちゃん、無事に産まれたよ。

私、頑張ったでしょ?
夢の中でいいからさ・・・今日は夢の中でいいから抱き締めて欲しいな・・・。


そしてひと言でいいから「頑張ったな!」って褒めて「お疲れさん!」って笑ってよ・・・。






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