FC2ブログ

plumeria

plumeria

-
「お待たせ致しましたな、お家元」、その声を聞いて軽く頭を下げた。
入って来たのは紫の父親と母親。事故後、1度だけ面会したもののそれっきりでお互いに行き来は無かった。

だから余計に気不味い・・・いや、俺としては気不味い方が破談になりやすくて良かったから気にはしないが。

「ご当主、お久しぶりでございます。突然お訪ねして申し訳ない。この度の事でひと言お詫びを言わねばと思いながら日にちが少々経ってしまいました。お許しくださいませ」

親父は膝の上に手を置いたままもう1度深く頭を下げ、お袋も同じように低頭した。
それを「まぁまぁ、お家元、お顔をあげてください」と穏やかに声を掛ける父親に、俺からも詫びの言葉を出さなくてなならない。もしかしたら上辺だけの言葉だと見破られたかもしれないが、感情を押し殺した言葉で詫びた。

「・・・この度はご所有の品を手放すような所業をしてしまいましたこと、深くお詫び申し上げます。お陰様で岩代家のご隠居様からもお許しの言葉を頂きました。このような事が2度と起きませんよう、精神修行に励み、己自身を鍛え直して参る所存で御座います」

「若宗匠、そのように畏まらなくても良いでしょう。いずれは義親子となるのですからな。それよりも紫の事を宜しくお願い致しましたぞ?話を聞くと大層可愛がって頂いているそうで安心しておりますのでな」

「・・・その事でしたら・・・」
「総二郎、控えなさい」


紫の父親の言葉に俺が反論しようとしたのを小さな声で止めたのは親父。その様子に宝生の父親はほんの少し首を傾げた程度で何も問い質したりはしなかった。
俺としても詫びに来てまで騒動を起こすわけにもいかない・・・だから、今日は何も言うまいと口を噤んだ。


だが、やはり西門の紫に対する処遇を良く思わないのが母親なんだろう。父親がはっきりと言わなかった言葉を母親の方が出してきた。

「それにしてもお家元。紫がそちらにお世話になりましてから4ヶ月以上が経ちますのよ?世間に発表していただけない理由がございますの?何か紫にご不満でもあるのかしら・・・それが気になって夜も寝られないのですけれど?」

「お母様、失礼ですよ。その事は西門家にお任せしています。宝生から急かすなどみっともない・・・お止めくださいませ」

「何を言っているの、紫!あなた、自分の事ですよ?今のままでは西門家でもどういう立場で過ごしているのやら・・・使用人にも馬鹿にされていないかと親としては心配して当然です!」


いきなり始まった紫の処遇について・・・それには父親も多少は気にしていたのか母親を止めることはしなかった。
むしろうんうんと頷いて腕組みをし、家元と俺をチラッと見る。
言葉には出さずとも婚約発表の時期を急かしているのと変わらなかった。


「ご心配はご尤もです。ですが紫さんは後々総二郎の元に嫁いで下さる方と、当家に使える者総てに伝えてございます。公表は総二郎の身体が落ち着いてから、そのように考えていたために遅くなっていただけの事。それもどうやら心配が無さそうですのでそろそろ、と思っております」

「・・・お家元?!」

「故に本来は先だっての野点が終り次第と思っていましたが、このような不始末が起きましてな・・・また少しその話が延びてしまい、紫さんにも申し訳ないことをしました」

「お待ち下さい、お家元!」
「総二郎さん、静かになさい」

今度はお袋が引き止める・・・それを全く見ようともせずに親父は宝生の両親と話を進め始めた。
冗談じゃねぇ!そんな事させるか、と席を立って反抗しようとしたら「失礼致します」と、先ほどの薫の声が廊下から聞こえた。


「旦那様、お客様がお見えになりました」

「おぉ!お見えになったか?こちらにお通ししなさい。西門のお家元も居るからとな」
「・・・畏まりました」


こんな席に誰を呼んだんだ?これは親父も知らなかったのか怪訝な顔してお袋と目を合わせていた。
そしてすぐに近づいてきた足音・・・何故か杖のような音がする。
まさかと思ったが、もう1度薫が静かに障子を開けると、そこに居たのは岩代の隠居と西門の現後援会長、鷹司会長だった。

今日は他家に来ているからなのか車椅子を使わずに杖で、それを支えているのは若干爺さんよりも若いと思われる鷹司会長だ。ニコリと笑って部屋の中に入ると薫の用意した座布団に座り、俺達に軽く頭を下げ挨拶をした。

ただ俺達は呆然・・・岩代の事で詫びに来たのに、何故その本人がここに居るのか全然理解が出来なかった。


「これは・・・ご当主、どういう事ですかな?」

「ははは、実は岩代様と鷹司様からも会いたいとのお話しがありましたのでな。いやいや、野点の事ではありませんよ?紫の事でご心配いただいているのです。そうでしたな、岩代様」

「・・・そうそう、そうなのです。お家元、今日はもう野点の話なんぞどうでも良くてな。ほれ、先日仲人の話をしたであろう?その時に現後援会長に聞かねば判らぬと申されたのでここにご一緒していただいたのですわ」

「仲人の・・・その件でございますか?」
「さよう。ここで話せば全員に周知できて良かろうと思うてな。で、鷹司どの、あんたのご意見は?」


・・・何言ってんだ?
あの時に濁した話をここで決定事項にしようってのか?!自分が仲人に・・・それを現会長にこの場で退かせようとしてんのか!

くそっ・・・!そんな事をさせるか、と思ったが家元では無く、鷹司会長が俺の方に目を向けて「鎮まれ」と言ってるような気がした。


俺が西門流の中で1番信頼してるのが鷹司会長・・・この人は俺の良き理解者だと思っている。
だから鷹司会長に従って大声で怒鳴ろうとした自分を抑えた




**********************


<sideあきら>

牧野が手術室に向かってからお袋と2人で家族待機室に居た。
帝王切開の場合は始まればすぐに産まれてくる。それを知っていたから仕事にも問題はない・・・誰かが産まれてくる子を近くで待ってるんだって事があいつの支えになればと思うし。


「・・・ねぇ、あきら君。私達のしてることは本当に正しいのかしらね」
「え・・・正しいか?」

「そう。本当はここに居るのはつくしちゃんのお母さん達と総二郎君でしょ?私達、大事な時間を奪ってるみたいね」


お袋が少し目線を下げてそう言った。
誰もが幸せなはずの出産がこれでいいんだろうかって・・・それには答えることが出来なかった。
今日の事だけじゃなく、佐賀で見つけた時から思っていた。知らせなかったのは正しかったのかと・・・今でも毎日のように自分に問い質してしまうから。

それをお袋に言われると胸が苦しくなった。


「でも、良かったって思うしかないかしら。あのまま佐賀に居たらどうなっていたか判らないものね・・・つくしちゃんのことだから絶対に無理して働いただろうし、産んだ後だって生活に追い詰められるのは目に見えてるんだもの。
これで良かったのよね?あきら君」

「・・・そうだな」

「でも、何年先になっても総二郎君には教えたいわ。つくしちゃんが必死に守った命ですものね・・・怒るでしょうけど」

「その時は俺が総二郎に殴られてやるよ。いつかは知らせてやらなきゃな・・・俺もそう思うよ」


そして手術開始から30分後、看護師が待機室にやってきて俺達を呼んだ。
「お産まれになりましたよ」という笑顔を向けて「母子ともに無事ですからご安心を」と・・・そして「おめでとうございます」という言葉を俺達が受けた。
ここでも少し感じる罪悪感・・・それを顔に出さないようにして赤ん坊を見ることが出来る場所まで行き、硝子窓越しに総二郎の子供を見た。


ブルーのタオルとピンクのタオル・・・男と女か?
産まれたての真っ赤な顔を歪ませて男の子の方が激しく泣いてて、女の子の方はひと回り小さいのか泣かずに目を閉じてた。

「・・・まぁ!可愛いわねぇ!ねぇ、総二郎君に似てない?」
「判んないよ、産まれたばっかりなんだから!でも、口元は牧野じゃないか?」
「ほんと!つくしちゃんの口に似てるわ!小さいわねぇ・・・」

手術着の看護師はここで赤ん坊を奥に連れていき、ホッとした俺達はすぐ傍にあった椅子に座り込んだ。


暫くして出てきた看護師には牧野の様子も聞いた。
ちゃんと産声を聞いて涙を流して喜んでいたと。今は縫合中でもう暫くしたら病室に戻るから心配は要らないと言われた。ただ赤ん坊の方はやはり体重が少しだけ足らなくてNICU(新生児集中治療室)に入ると言われた。

男の子が2150グラムで女の子が1980グラム。両方が2300グラムになるまでは、念のためそこで24時間体制の管理を受けることになった。

「1度だけお母さんと手を握ったんですけど抱っこはまだ少し先ですね。お母さんにはそれをこれから話すんですけど、不安になったらいけないから何方かが付き添っていただけると助かります。宜しいでしょうか?」

「えぇ、私が今日一日付き添いますから大丈夫です。あきら君、あなたはもう社に戻りなさい。つくしちゃんが余計気にするから。この先は女だけの方がいいかもよ?」

「あぁ、判った。でも夜には会いに来てもいいか?」
「もうっ!自分の奥さんの所に戻りなさい!」

「・・・はいはい」


総二郎・・・お前の赤ん坊、ちゃんと産まれてきたからな。
お前より先に俺が見た事は許せよ?


おめでとう、牧野・・・総二郎。





15472601020.png
関連記事
Posted by