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plumeria

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夢子おば様が帰ってからは1人・・・だんだん痛くなってきたお腹を抱えてベッドの上で魘されていた。
麻酔が完全に切れたから当たり前だし、話は聞いていたけどこれほどとは・・・と、小さくなったお腹を押さえて溢れそうになる涙を堪えた。

『痛みは術後3日目までがもっとも強いと思います。この期間は患部の炎症期といって、皮膚の再上皮化が起こって傷口が閉じていくのですが、この際に皮膚に痛みや腫れが生じるんです。その後約3週間までが増殖期と言って新しい細胞が増殖して傷になった部分を埋めていく期間。この時は軽い痛みやかゆみ、皮膚の赤みなどがありますよ』

看護師さんがそう言ってたけど、産む前はそんなの想像も出来なくて赤ちゃんの心配ばかりだったから。


モニターは24時間見ることが出来る。
ちゃんと休みなさいと言われたけど、痛みで寝られないからもう1度私の赤ちゃんの映像を画面に映し出した。

「あっ・・・動いた。男の子の方だ・・・女の子は動かないけど寝てるのかしら」

見ていたら看護師さんがまた傍に行って何かの計器を見てる。
今更だけど、こんな設備の整った大きな病院で産めて良かったって・・・美作さんの決断に感謝した。

「・・・先に出てきたのが男の子だからお兄ちゃんと妹になるのよね」

自分がお兄ちゃんって存在に憧れがあったからほんの少し嬉しい。そんなこと、この子達には関係ないんだけど。
モニターを見ていたら少しはお腹の痛みが軽くなったみたいな気がするけど、そのうち看護師さんが見廻りにやってきてモニターは切られてしまった。
「お母さんの回復も大事なのよ」って・・・。

「牧野さん、明日にはカテーテルも外して自分でおトイレにも行くの。痛いけど早くから歩く練習が始まりますからね。これはね、血栓症を予防するためなの。そして赤ちゃんは低体重って言ってもそこまで小さくないからそのうち沐浴の練習もしましょうね」

「出来るんですか?」

「勿論よ。それをしないと退院した後に困るでしょう?お母さんと赤ちゃんの様子次第だけど、授乳も上手くいけば明後日には始まるからね。あぁ、お母さんのご飯は明日から始まるわ。食べられるといいわねぇ、丸1日食べてないんですものね」

「あはは・・・でも痛くてお腹空いたって感じはないです。いたたた・・・笑うと痛いわ」


無理しないでって看護師さんが痛み止めを注射してくれて、その後は無理矢理寝かされた。
何だか胸が張ってるような気がする。お腹もだけど胸も痛いのかな。今までの人生の中で1番の・・・いや、2番目の大事業だったのに色んな所が痛くて感動したくてもそれどころじゃなかったって言うのが残念・・・。


1番目は・・・あの「月の夜」だから。



**



次の日の朝、診察があって「うん、大丈夫だね」って言われてホッとした。

赤ちゃんにも問題はなく、通常は10日ぐらいで退院できるらしい。
でも美作さんが2週間ほど様子を看るようにって頼んでるみたいで、初めから容態に関係なく2週間の入院予定だと看護師さんに言われて驚いた。

当然赤ちゃんも同じ日数入院・・・少しでも私に楽させたいって思ってくれたんだろか。ホント、過保護なんだから。


前もってもらっていた「赤ちゃんのお世話」に関する冊子を読んでいたらノックする音が聞こえて美作さんが顔を出した。
今日もまた大きな花束持って・・・それにお菓子が入ったバスケットみたいなものを抱えてニコニコしてるから、余りにもその姿が似合ってて噴き出してしまった。

「おはよう・・・ってなんでそんなに笑うんだ?可笑しかったか?」

「おはよう、美作さん。ううん、何でもないけどそんなもの抱えて廊下を歩くの恥ずかしくなかったかなって思っただけ。そんなに大きなリボンが掛かった花束なんてもらった事なんてないもん」

「あぁ、これ?親父からなんだよ。あの人、何かあったらすぐに花束だから。看護師に頼んで生けてもらえよ」

「うん、そうする。おじ様にありがとうって伝えてね」

気遣いの彼は出産直後の私の身支度を気にしてあんまり傍に寄ろうとしない。
「もうカテーテルも外してるし、今は問題ないよ」って伝えると安心したのかベッド横の椅子に腰掛けた。今は上半身も起こせるから薄いカーディガン羽織ってベッドの脇に座るとモニターのスイッチを入れた。

「ほら、ここで見られるんだよ。こっちがお兄ちゃんで奥が妹・・・妹の方が小さくてあんまり動かないから心配だけど、看護師さんは問題ないって言ってた。昨日ね、寝られないからずっと見てたの。モニターだと表情が見えないから残念だけど」

「見に行こうか?」

「えっ、今から?そんなの聞いてないけど・・・NICUまで行ってもいいのかしら」

「母親なんだから遠慮すんな。看護師に言ってくるよ」



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<sideあきら>

本当なら7日の夜、牧野の顔を見に病院に行きたかった。
でも、牧野に会うことが出来ない総二郎のことを思うとそれは出来なかった。

自分が出向いて行って、もし子供を抱いていいって言われたら手が出るかもしれない。総二郎より先にあの子達を抱いてしまうかもしれない。
それは知らせてないとは言え、友人への裏切り行為のような気がして出来なかった。


それでも次の日の朝にはソワソワしてしまう。
仁美も居るから顔には出してなかったと思うのに、指先がテーブルをコンコン叩いていたようだ。向かい側に座っていた妹たちにも「お兄様、落ち着きがないのね」「珍しいわ、悩み事?」なんて言われて、仁美にまで不思議そうな顔をされた。


それを見たお袋が呆れたように玄関先で俺に花束を渡して、自分で焼いた菓子まで持たせてくれた。

「パパからだって言って持って行ってあげて?でも出産後の女性は色々大変だから長居しないこと!顔だけ見たら仕事に行きなさいよ?判った?」

「あぁ、サンキュ!じゃあ顔だけ見てくる」
「仁美さんが見送りに来ないから良かったけど、自分の奥さんに心配かけるような行いだけはしないでね?」

「そんな心配してんの?じゃ安心していいよ。仁美もだけど俺は友達を裏切ったりしないから」


そして病院で牧野を見た時、俺に笑顔を向けてくれたことが何故か凄く嬉しかった。
友人として・・・そんな事は判りきっていたのに。

そしてモニターの冷たい画面に向かって愛おしそうな目をする牧野につい・・・言ってしまったんだ。

「見に行こうか?」
「え?今から?そんなの聞いてないけど・・・NICUまで行ってもいいのかしら」

「母親なんだから遠慮すんな。看護師に言ってくるよ・・・牧野は歩けるのか?」
「ううん。今日から歩く練習するんだけど初めは1人じゃないって言われたよ。看護師さんが補助してくれて、その様子を見てから判断するって聞いたから」

「そうか、じゃ車椅子だな。その前に会えるかどうか聞いてくるから」


聞いてくるからなんて言うけど、そんなの俺が言えばこの病院は対応するって・・・それも判りきっていた。
だから車椅子を借りて病室に戻り、牧野をそれに座らせて俺が押してNICUまで行くことにした。それには看護師が1人ついてくることが条件だったけど、それも別に構わない。

俺は牧野が赤ん坊を抱いて嬉しそうにしてるのを直接見たかっただけ・・・それだけだったから。


「あっ!美作さん、ちょうどいいや!写真撮ってくれない?女将さんに送るの」
「あぁ、そうだな。え?でも牧野、化粧もしてないのにいいのか?」

「は?お化粧しないと写真撮っちゃダメなの?」
「・・・いや、俺はいいけど」

「・・・そんなに肌が荒れてる?」
「いや、そんな事はない。気にするな」


NICUに行くと俺にも「お入りになりますか?」と聞かれたが、ここは基本父母しか入れない。
俺はそんな部分まで踏み込む気にはならなかったから「いや、彼女だけでいい」と牧野の車椅子を看護師に渡して、硝子窓越しにその光景を見ていた。


保育器の近くまで行って特例で男の子を抱かせてもらってる。
その子を嬉しそうに抱きかかえて俺が待ってる窓の方にやってきた。

そして笑顔で子供を抱えてピースサイン。それを自分のスマホで撮って、同じように女の子の方も撮影した。
まだ母親って顔じゃなかったけど・・・子供が子供抱えてるみたいで笑えたけど、それでも今まで見た牧野の笑顔の中では最高に輝いていた。


可哀想に・・・やっぱり低い鼻は牧野似だな。で、目元はあいつだな。

ホントにその子達・・・総二郎の子なんだな。


最後に撮ったのは看護師がヒヤヒヤしながら見守る中、牧野が2人を同時に抱っこしてるヤツ。
その時の笑顔に涙があったのは嬉しかったからか?


それとも・・・別の感情だったのか。
スマホのレンズ越しに見た牧野の笑顔が嘘っぽく見えたのは気のせいだろうか。





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