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plumeria

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赤ちゃんが部屋に来て、交互に何回抱いただろう。
1度に抱けないのが辛いなぁ、なんて思いながら愛おしい存在に頬ずりしては柔らかい髪を撫でていた。


「もう10日過ぎたぞ。牧野・・・名前、まだ決まらないのか?出生届は14日以内だぞ?」

「うん・・・どうしようかなってまだ迷ってるの。男の子はね、樹(いつき)ってどうかな。女の子は楓(かえで)ちゃん・・・。
でも悩むのよね。もう少し今風なのにしようかな・・・これからは海外にも行くかもしれないしね。ってそんなお金ないけどさ!」

「牧野樹に牧野楓・・・良いんじゃないか?」

「そう?それにしようかなぁ・・・なんか一生ものじゃない?緊張するよね」

「女の子は嫁に出るぞ?いや、そうとは限らないけどさ」

慌てて言い直してる・・・くすっ、私は気にしてないよ、美作さん。


何度ダメだって自分に言い聞かせても、最終的には男の子の名前に「西門」を当て嵌めてしまうのが嫌だった。
私がつけた名前を彼のご両親がどう思うかとか・・・そんな僅かな期待を持ってる自分の甘えみたいなものが許せなかった。


<そんな事考えるなら美作さんに頼んで彼に伝えたらいいじゃない。
そんなに茶道家に相応しい名前にしたいなら、これまでの事全部話して西門さんに決めてもらえばいいじゃない>

<そんな事をしたら困るのは西門さん・・・だから私の好きなように今風の名前をつけたらいいのよ。
このまま彼には教えないつもりで東京から逃げたのは私なんだから>


・・・私の中に2つの感情があって、それが交互に私に話しかける。
この子達の顔を見てから決めようって思ったのに、もう10日も経ってしまった。

美作さんの言う通り届け出の期限が迫ってる。病院を出られない私の代わりに美作さんが提出すると言ってくれていて、最悪名前の欄は空白でも出さなくてはならない。
そして決まってから追記する形も取れるんだけど、それはこの子達の戸籍に一生残ってしまうから。

何故名前を決められなかったのか、なんて大人になって聞かれたら答えるのに悩みそう・・・。
それじゃなくても「どうしてお父さんが居ないの」って聞かれるのは覚悟しなきゃいけないんだから。


出生届は今も私の目の前にある。
殆ど記入してるから後は子供の名前だけ・・・そこだけが空欄だった。

「あ~・・・あ~、あ~ん!」

「あれ?ぐずってる・・・おむつかな?さっき飲ませたからお腹空いてるんじゃないと思うんだけど」
「見てみれば?俺が居て気になるなら廊下に出ようか?」

「ああ~ん!あ~ん!!ふぎゃあ~!!」

「うわっ、もう1人まで泣き出した!美作さん、私がこの子のおむつ見るからその子、抱っこして!」
「えっ、俺が?」

「他に誰がいるのよ、いいから抱っこしてあげて!初めてじゃないでしょ?」
「あぁ・・・そりゃそうだけど」


今まで遠慮していた美作さんが女の子の方に手を伸ばしてそっと抱き上げた。
流石、女性の扱いは馴れてるのね?美作さんが抱き上げたらその子は泣き止んで、彼は困ったような喜んでるような不思議な顔してそこに座っていた。

その時の優しそうな顔・・・まだ涙が残ってる赤ちゃんの目元を軽く指で拭いてくれて、その低い鼻に彼の高い鼻をくっつけたりして笑ってた。

「甘い匂いがする・・・赤ん坊特有のヤツ。うちの双子の時には苦手だったんだけどな、この匂い・・・」

「あはは!それだけ美作さんもおじさんになったのよ」
「はぁ?!俺が・・・おじさん?」


きっとこうでも言わなきゃこの人は抱っこもしようとしないんだろう・・・くすっ、丁度良かったのかも!


男の子の方もおむつは汚れてなくて、私が抱っこしていたらそのうち泣き止んだ。
やっぱり双子なのかしらね?って美作さんと話してて、そのうち私達の腕の中で2人共寝てしまったから静かにベッドに戻した。

「今日は奥様は?」
「家で休んでる。頭痛がするんだそうだ。もう少し調子が良かったらドライブとか連れて行ってやりたいんだけどな」

「そっかぁ・・・じゃあ、早く帰ってあげなよ。今日はどうもありがとう」
「いや、近くで見られて嬉しかったよ」

「そう?じゃ、私はテレビでも見ようかなぁ!小さい音ならこの子達も起きないかもね」


いつもは見ないテレビなのに、美作さんを帰りやすくするためにわざわざつけてみた。
それでもテレビには背中を向けて、赤ちゃんのベッドを覗き込み寝てるかどうかを確認。2人共スゥスゥ寝息をたてて気持ち良さそうに寝ていたから、それを見て微笑んでいた。


「・・・・・・え?」


その時に美作さんの小さな声が聞こえて、フッとその顔を見たら・・・テレビを見て固まってる?
それも口を開けて目を大きくさせてる。まるで呼子で私を見つけた時みたい。

「どうかしたの?何が始まったの?」


テレビに何が映ってるんだろうって振り向いたら・・・そこには西門さんが映っていた。



********************


<sideあきら>
総二郎の子供を絶対に抱かないって決めていたのに、牧野に急かされてあっさり抱いてしまった。

あいつによく似た目元の女の子・・・大きくなったらすごい美人になるんだろうなって思わせる顔立ち。ちょっと母親に似た鼻の低さが気にはなるけど、何と言っても総二郎の子供だ。美人でない訳がない。
あいつの顔立ちに牧野の性格・・・男が放っておかないんじゃないの?って思うと、何故か俺が心配になった。

その子が泣きながら小さな手をグッと握ってる姿は何故かすごく愛おしかった。
自分の妹の時とは少し感覚が違う嬉しさ・・・牧野が「おじさん」なんて言ったけど、ホントにそうなのかもしれない。自分にもこんな子供が居ても不思議じゃない歳になったから。

だけどその夢が絶たれてしまった俺には、親友の子供がまるで自分の子供のように嬉しいのかもしれない。
しかも・・・牧野の産んだ子供だから。


そして赤ん坊も泣き止んだから、早く仁美の元に帰れなんて可愛くないことを牧野に言われた。
だからもう少し居たかったけど言われた通りにしようと椅子から立ち上がろうとした、その時・・・テレビの画面が速報に切り替わり、そこに総二郎の姿が現れた。

横に紫を連れた紋付き袴姿・・・まさか、今日がその日か?!
俺は何も聞いてなかったぞ、総二郎!


「どうかしたの?何が始まったの?」


俺の様子に気が付いてテレビの方に視線を向けた牧野も総二郎の姿に固まった。
身体はまだ子供の方に向いてるのに顔だけテレビの中の総二郎に・・・いや、もしかしたらその横の振袖姿の紫に向いているのかもしれない。

そして宙に浮いてた手が布団の上にパタンと落ちて、ゆっくりテレビに身体を向けて・・・そしてガタガタ震えだした。


画面には字幕が出てる。それは嫌でも視界に入る。


『茶道表千家西門流 西門総二郎氏 婚約発表記者会見』・・・残酷すぎる文字が俺達の前に浮かび上がっていた。





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