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『それでは茶道表千家西門流、西門総二郎さんの婚約記者会見を行います』

司会者がヤケに機嫌のいい声で会見開始の言葉を出した。その瞬間、俺達にはもの凄い数のフラッシュが向けられシャッター音とその光とで気が狂いそうだった。それが一段落すると俺ではなく親父が挨拶の言葉を述べる。
それすら頭の中には入らず、隣に座っている豪華に着飾った紫を見ることもしなかった。


親父の言葉が終ったら司会者が「ご質問がある方は挙手を」なんて余計な事を言うから、ニヤけた記者達があちこちで手を挙げた。そして何処の誰かを名乗った上で俺達に質問・・・決まり切った流れでそれが始まった。

こんな時の質問の内容もある程度は決められている。
23にもなって自分の口では言わないのかと思われるかもしれないがそんな事はどうでもいい。西門に関する事は親父が総て答え、俺は自分にとって目出度い会見だと言うのに嬉しそうな顔も見せずそこに座っていた。


『総二郎さんにお伺いしても宜しいですか?紫さんの第一印象は?』

そんな質問が来てチラッとそいつの方を見た。
第一印象?病院でシレッととんでもない事を言いやがった時の印象を言えって?本気で答えたら大変な事になるけど・・・と、一瞬黙れば隣から親父の無言の圧力。そしてもう一方は恥ずかしそうに頬を染めて俺を見ていた。

「第一印象ですか・・・実は私の体調が悪いときに見舞いで来てくださったのではっきり覚えてないんです。噂通りの美しい方だと・・・そのぐらいでしょうか。余りこのような席では言葉が上手く出ませんのでご勘弁ください」

『あはは!普段は饒舌なのにやはり総二郎さんにも苦手な会見はおありなんですね?それだけ真剣だと受け止めて宜しいでしょうか?』

「・・・取り方はそちらにお任せします」

『既に紫さんは西門家にお住まいだとお聞きしましたが、総二郎さんもすぐ近くに恋人がいるというのは茶道にも良い影響があるんでしょうね?』

「・・・確かに西門に来ていただいてますが、普段は家元夫人に付き添い勉強していただいてます。余り近くで一緒に居るわけではありませんし、雑念は持ち込まないようにしておりますので」

『は?あぁ、そうですか』

素っ気ない返事が不満なのか、記者達の中には隣の人間と耳打ちするようなヤツも出始めた。
これまでのイベントなんかの会見では喋りまくった俺だ・・・この反応は当然だろな。

今度は紫に質問する記者が現れた。この時は親父も、会場の奥に控えてるお袋も違う意味でドキドキしてるんだろう。何度も水を口に運ぶ親父はハンカチで汗を拭いていた。


『紫さんは総二郎さんの何処に1番惹かれていらっしゃいますか?』

「・・・何処に・・・そうですね、お会いする前に色々な方からお聞きしたお話しの内容から、私は総二郎さんの総てに憧れておりました。お会いしてからは特にそのお考え、と言いますか西門流を守っていく姿勢に惹かれております。そのお手伝いが出来ればと思いながらお勉強させていただいております」

屋敷では余所余所しく『総二郎様』と呼ぶくせにこの場では如何にも親しげに『さん』と変えている。そういう所は頭を働かせているらしいが、思ってもいない言葉を並べられるのにはイラッとした。


『このような席で失礼かと思いますが、総二郎さんは女性に大人気ですよね?ご心配ではありませんか?』

「それは・・・実は少々心配しておりましたけど、今ではとても私を大事にしてくださっています。この先も私が心を悩ませるような事は起きないと信じておりますので・・・」

『おぉ!そうなんですね?今日は総二郎さんがとても照れていらっしゃるようなのですが、実は仲が宜しいのですね?』

「あら、そんな・・・総二郎さん、恥ずかしいですわね」
「・・・・・・」


誰が仲がいいって?誰が大事にしてるって?何処の何奴が心を悩ませないって?
あぁ、悩ませないだろうよ、愛人作りを許可してんだからな!・・・そう言えたらどんなにかすっきりするだろうに。

そして絶対に来ると思ったこの質問。

『今回は婚約と言うことですが、実際に式を挙げられる、と言うか入籍のご予定は本当に未定なんですか?』

これに親父が答えようとしたのを制して、俺が質問をした記者に目を向けた。


「はい。それは全く未定です。何故なら私はこの後に修行のために寺に籠もるからです」


親父が驚いて俺の方に目を向けている。それは奥に控えているお袋も同じだろう。
だが紫は全く動じなかった。ここで驚いたような表情を見せては婚約者としての演技が疑われる。あくまでも自分は総て知っている・・・そう思わせないといけないのだから。

それら全部を無視して前だけを見て言葉を続けた。

「実は昨年より身体を壊し、思うような茶が点てられない日々でございます。このような発表をする事になりましたが、今のままではとても妻を、などと考えられないのが本音でございます。それ故に今一度自分を鍛え直す意味で家を離れ、寺に籠もって精神修行を行うことに致しました。その間、家元や紫さんにも負担を掛けるとは思いますが、これも茶人として生きるためには欠かせないものと判断しました。どうぞご理解くださいませ」



これで良かったのかどうかなんて判らない。
ただ、時間が必要だった。

牧野の居場所を探すのも、紫の目的を探るのも・・・。




*********************



「牧野、しっかりしろ!これは総二郎の意思じゃない。俺も今日が記者会見だなんて知らなかったけど、絶対何か事情があるんだ!総二郎は紫なんて女に愛情なんて感じてないのは確かだ!牧野・・・聞いてるのか?」

「・・・・・・」

「ほら、お前にはもうここに守るべき子供が居るんだ。この子達はあいつの子だろう?牧野はこの子達を立派に育てることだけ考えるんだ。絶対に総二郎はいずれお前の元に戻ってくる・・・きっと大丈夫だから!」


美作さんがなんの保証もない話をしてる。
私の為を思ってだろうけど、西門さんの気持ちも知ってるからだろうけど・・・その話は確実なものじゃない。確実なのは西門さんが今日、紫さんって人と将来結婚するってことを世間に発表したって事だけ。

お家元と家元夫人が言っていたように、この話は消えることはない・・・その通りになっただけ。


「総二郎にも逃げられない何かがあったんだ。仕組まれたのか偶然なのか判らないけど、何処かから急かされたのかもしれない。紫の実家とか後援会とか・・・西門はそういうしがらみの多い家だから内部で色々あるんだと思う。俺が調べてみるからお前は色んなことを考えるな。牧野、判ったのか?」

「・・・・・・」


何か返事をしなくちゃ・・・そう思うのに私の唇は閉じたまま動かなかった。
美作さんが必死なのは判るけど、その声も殆ど耳に入って来ない。入って来ても言葉じゃなくて暗号みたい・・・「ソウジロウハイズレオマエノトコロニモドッテクル」・・・機械音声のような感情のない『文字の羅列』みたい。

だから彼の顔すら見ることが出来なかった。


「おぎゃあ、ほぎゃあ~!!」
「あぁ~ん!あ~ん!」

「牧野、泣いてるぞ?抱いてやらないと・・・」

「うぎゃあ~~ん!あ~ん!!」
「ほぎゃあ~、うわぁ~ん!」


「牧野?どうした?泣いてるんだぞ?」

「・・・・・・あ・・・」


美作さんが男の子を私の腕の中に・・・そして女の子は彼が抱っこしてあやしてくれた。
泣いてる子供をあやそうとしても声も出ないし顔が笑わない・・・自分自身の行動に驚いてこの子を抱き締めたまま身体が固まってしまった。



私はあれだけ1人で頑張るって言いながら
あれだけ西門さんから逃げたと言いながら・・・本当は期待してたんだ。

夢見ちゃいけないって言いながら
父親の分まで自分が愛するだなんて言いながら・・・心の1番奥では西門さんを待ってたんだ。

茶道を捨てさせちゃいけないって言いながら
西門で頑張って欲しいだなんて言いながら・・・総てを捨てて私を選ぶだろうって思ってたんだ。


それが完全に崩れた瞬間だった。





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