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plumeria

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記者会見が終わって本邸に戻ると、当然のように親父に呼ばれた。
そこには会見を記者側で見ていた宝生家、紫の両親と鷹司会長が同席し、お袋、紫も揃っていた。

内容は勿論俺の修行発言。
通常、寺籠りは家元からの指導によるものが殆どで、あのように許可も無く発表するなど有り得ない事だからだ。
何よりも世間体を気にする親父はテレビ中継されている席では絶対に反論しない、そう思って言いだしたが本当に何も言い返さなかった。

つまり俺の発言は西門流内部で決められた事だと世間に知らしめた結果となる。


憮然とした宝生の両親はさっきから俺を睨みつけている。
これが気に入らないのならさっさと紫を連れてここから出ていけばいいのに・・・その程度にしか思っていなかったから何とも思わねぇけど。

それに比べて鷹司会長は穏やかに座っていた。
この修行の案を会長が出したものとは誰も思わないだろうが、後援会としての意見を求められるだろう。打ち合わせなどはしていなかったが、ここは会長の演技力に任せるしかなかった。


「今度は何の反抗だ?あのような席で勝手な発言をしおって!今後のスケジュールなどもあるのにどういうつもりだ!」

「そうですよ、総二郎さん。お家元の負担を考えたことがあるの?確かにこれまでも後継者が修行のためにお寺にお世話になることはあったけれど、それはそのように指示してからのこと。宗家の行事に影響が出ないように考えて行ってきた事です」

「ご相談せずに話してしまったことは申し訳ないと思いますが、今の私では真面な茶会は出来ませんし、ご覧の通り内面が乱れて何事にも集中出来ない状態です。それは家元もよく判っておられるはず・・・自ら修行という道を選んだのですからご理解ください」

「寺籠りだなどと・・・何処の禅寺に籠もるつもりだ?!」

「通常宗家では京都の寺にお世話になっておりますが、この度は長野にある西門縁の寺で修行しようと思っております」

「長野・・・?」


京都など行くものか。
あそこには先代の家元がいる。あの人も宝生の事では拘りがあった。そんな人が居る処など選ぶつもりはなかった。そうなると金沢か長野か仙台か・・・その中で比較的穏やかな住職がいる長野を選んだだけ。

そこの住職はエッセイなどの執筆の為にパソコンを使うことを許してくれると聞いた。それすら許さないと言われれば外部との連絡が取れなくなる。
せめてあきらとぐらいは連絡を取り合って牧野の行方を調べたり、あの天目茶碗や紫の事も情報が得られればと思っていた。


「紫さん、あなたにも驚かせてしまったわね・・・本当にごめんなさい」

「いえ・・・大丈夫ですわ。総二郎様が少し前からお悩みだったのは知っていましたから。私は総二郎様が将来のために必要と判断された事でしたらその意思を尊重し、これからも変わらずお支えしたいと思います。修行というものは大変だと聞いていますので、お身体の方が心配ですけれど・・・」

「まぁ、優しいのねぇ、紫さん」

お袋が紫に話しかけると毎度の事ながら見事な受け答え・・・少し前から俺が悩んでいたのはあんたの事だと言いたかったが言葉を呑み込んだ。
もう何度も紫のこの態度は見ていたから驚きはしない。むしろここで泣き叫んだらドン引きしただろうけど。


「鷹司会長・・・どうでしょう。総二郎の言うことも判らんでもない。確かに心の迷いが多いようだから、茶にもそれが表れているとは私も思うところです。寺にまで行かせる気など無かったのだが本人がそう考えているのなら・・・ご意見をお聞かせいただきたいのですが」

今度は親父が会長に意見を求めた。
会長は暫く黙っていたが・・・それは演技か?と少し焦った。まさか裏切ったりはしねぇよな?


「若宗匠もまだお若い・・・今の時期に己を見つめる修行に行かれるのも宜しいかと思います。ご婚約は確かに喜ばしいことですが、ご本人がお悩みなら婚儀はまだまだ先でも構わないのではありませんか?
充分若宗匠が納得されてから・・・それも待てないと言われるお嬢様ではないとお見受けしました。何より若宗匠のことをお考えならその時期が来た時に・・・それで私は良いと考えますが」

「・・・そうですか」

「はい。お家元にはご苦労でしょうが認めて差し上げたら如何かな?」


鷹司会長が言うならと親父は渋々俺の寺籠りを認めた。いや、既に発表したんだからどちらにせよ認めざるを得ないんだが。
そして今度は宝生家に頭を下げ、俺の修行の間は紫を実家に戻すことを申し出た。だが、またも紫はこの場に居る全員を驚かせるような発言をした。


「私は本日で正式な総二郎様の婚約者となりましたので、このままこのお屋敷で勉強させていただきたいと思います。それにつきまして、総二郎様もいらっしゃらないのでしたら私は寂しゅうございますので宝生の家から薫を寄越していただけませんか?」

「はい?薫って・・・あなた付きの使用人だった薫を?」

「そうですわ、お母様。薫は私が小さい頃から一緒に居ましたから良き相談相手なのです。これまでは見習いでこちらにお世話になっていたようなものですから言い出しにくかったのですけれど、是非この機会に私の傍に薫を置いてくださいませ」


薫・・・あの宝生家で出迎えてくれた小柄な女性の事か?
紫が随分気に掛けていたと思ったが・・・あの女性をここに置き、それで西門に住み続けるってのか?

宝生から薫という使用人を呼ぶことは親父もお袋も了承し、紫が俺の修行を応援するという気持ちを口にしたから宝生の両親も婚儀先延ばしと言うことで納得した。


少し気味悪いほどスムーズに俺の修行はきまった。

だが、何かが引っ掛かる・・・。
そんな不安もあったが、とにかく俺の出発はスケジュール調整を済ませてから、早くて半月後にするとの親父の言葉でこの場は終わった。




*********************


<sideあきら>

「ちょっと!あきら君、どういう事なの?あなた、聞いてたの?」

屋敷に戻ったらいきなり俺に怒鳴ってきたのはお袋。おそらくテレビで総二郎の婚約のニュースを見たんだろう。俺の目の前で腕組みして睨むから「落ち着けよ!」と軽く言い返してリビングに向かった。

ソファーに座ってそこに深く身体を沈めて黙り込んだら、お袋はハラハラしたように俺の顔を覗き込む・・・俺が牧野の所に行ったのを知ってるから余計に心配したようだ。


「つくしちゃん・・・ニュース見たの?」

「あぁ。それまでテレビなんてつけてなくて子供をあやしてたのに、偶然つけたら始まったんだ。だが会見は見ていない。俺がすぐに消したんだ。牧野・・・驚きすぎて固まっちゃったから」

「そう・・・会見が行われるのは知っちゃったのね?勿論、何の会見か見たって事よね?」

「大きくテロップが流れたからな。総二郎の顔を見た途端、いや相手の顔かもしれないけど震え出したから」

「泣かなかった?」

「泣く準備も出来なかったんじゃないか?でもその後様子がおかしくなってさ。何1つ言葉を出さなくなったよ」

「相当ショックを受けたのね。可哀想に・・・判っていたことだけど見たくなかったんだと思うから・・・」


お袋はこの後、記者会見で家元が話した事やどんな質問があったのかを教えてくれた。
それは想像できる程度のもので、今回の場合は半分以上が作り話だ。だから驚きはしなかったが最後の総二郎の言葉は予想外だった。


「・・・寺に修行?総二郎が寺に籠もるって?」

「そうなの。家元も女性の方も特に顔色は変えなかったけど、何となく総二郎君が独断で話したように感じたわ。婚約はするけど籍を入れるのはまだ未定だって強調してたから。あきら君、それも聞いてなかったの?」

「・・・初めて聞いた。あいつ、どうしたいのかな」


「それでつくしちゃんは・・・」、お袋がそう言いかけてハッと会話を止めた。
どうしたのかと思ったら俺の後ろに仁美が来ていたようだ。普段から足音をあまりさせないから、俺達は気付かずに話していたけど、何処までを聞いてしまったのか瞬間焦った。


「あ、あら!仁美さん、具合はいいの?お茶でも飲む?」
「・・・いいえ、ごめんなさい。お話しの邪魔をしたんですね。私、お部屋に下がります」

「いや、構わないよ。友人の話をしてただけだから。こっちに来て座れば?」

子供を産んだばかりの牧野の話は辛いだろうからこれ以上は話せない。
これはお袋も同じ考えだろうから、話題を変えてお茶でも飲もうと誘ったが、仁美の足はまたドアの方に向かってしまった。

でも数歩歩いてから止まり、半分だけ顔を後ろに向けて俺に話しかけた。


「牧野さん・・・って女性?もしかして九州で会った人?」

「・・・え?」


「・・・何でもないです。私の事は気にせずお話しの続き、してくださいね」





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