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plumeria

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<sideあきら>
病院から電話があったのは次の日曜日・・・休日なのにどうしたのかと思えば、担当看護師が牧野の様子がおかしいと連絡をしてきた。
相談したい事があるので可能なら来て欲しいと言われ、彼女のことは全面的に美作が面倒みると伝えていたから「判った」と返事をした。

電話を切った後、お袋と仁美には用件は言わずに「少し出掛ける」とだけ言い残して屋敷を出て病院に向かった。


特別室のある最上階に行くと俺の顔を見た看護師がすぐに看護師長を呼びに行き、医師説明室に通された。
ここは患者の病状説明を本人と聞いたり、家族だけが聞いたりする部屋・・・何でこの部屋を使うのか疑問だったが、そこの椅子に座り担当医師が来るのも待った。


「お待たせしました。休日なのに申し訳ない、丁度私も勤務しておりましたのでね。牧野さんの事ですが美作さんにご相談して良かったんですよね?」
「はい。私で結構ですが・・・何かあったんでしょうか?」

「・・・実はですね」


医師の説明は俺が考えてもいないものだった。1枚の紙を出されたが、そこに書いてあったのは「産褥期精神病」・・・精神病と言う言葉にドキッとした。

「申し訳ありませんね。病名がそれだと驚かれるでしょう?これはあくまでも決定ではありません。昨日からの症状を見て、そうかもしれないと思っています」

医者の前置きは「可能性がある」だった。
「産褥期」とは出産してから6週間以内、「精神病」とは深刻な精神疾患だと言われた。
どうして起こるのかはっきりとした理由がないらしい・・・子供が欲しくなかったという理由でもなく、原則として子供の具合が悪いわけでもない。

これはかなり稀で、出産700件に1回ぐらいの確率でしか発生していない。精神病の経験者や、血縁の中に深刻な精神疾患にかかった人がいるような女性がかかりやすいとは言われた。
ただ、牧野本人にはこんな疾患はなかったはず・・・聞く限り両親にもそんな感じは無いと思うんだが・・・。

「この病気は妊娠後期や出産時に起こる大きなホルモン変化の影響によって起こる可能性がもっとも高いと言われています。その他では非情に強いショック、あるいは心的ストレスなどですかね・・・兎に角これと言った原因の特定は難しいと思います。本人ですらわからない場合がありますし。しかも始まるのは出産直後の数日間が尤も多いのです」

「強い心的ストレス・・・」

「お心当たりがありますか?牧野さんは何か事情がおありだったようですが、それが原因だとも言えませんからね?念のため申し上げますが原因不明の病気です。そして暫くは精神科の医師も加わって様子を見ないといけません」

「今はどうしてるんでしょうか?」

「・・・今は面会いただいても大丈夫ですが、実は昨日の夜からお子さんを見ようとしないんです。勿論育児放棄なんて意味ではありません。我々の言葉にも反応してくれないのです」

「子供を見ない?本当に?」

「はい。ただ朝は新生児室の前に立っていました。しかも泣きながら謝ってるんです。理由を聞いても何も言いませんが、先ほどは病室で楽しそうに鼻歌を歌っていました。1日だけの症状ですがこれが続くと所謂、躁鬱病ですね。
何故すぐにご連絡したかと言うとこの病気は早期発見と早期治療が必要だからです。美作様が後見人となっておられますので今後も続くのならお子さんの事も考えていかなくてはなりません」


原因不明・・・そう言われたが間違いなく昨日の総二郎の記者会見が原因じゃないのか。
自分の中で納得しようとしていただけで、本当は認めたくなかった事実を突きつけられたから・・・そういう事じゃないのか?

医者には部屋に行ってもいいと言われたから取り敢えず牧野に会いに行った。流石にドアを開けるときはドキドキした。いつもと違う牧野を見てしまったらどうしようかと・・・。


ノックをしたら「はーい!」と意外にも元気の良い声が返ってきた。

「牧野・・・?具合どうだ?」
「あっ!美作さん、いらっしゃい。ねぇねぇ、名前を考えたんだけど!」

その明るい声は、今医者から聞かされた話の中の「躁状態」って事か?
確かにこれまでいくら元気良く見せていたとしても、どうしても出てきてしまう悲しさみたいなものがあったのに。それを全然感じさせない幸せそうな牧野の笑顔を見て逆に戸惑った。

「名前、決まったんだ?」
「うん!男の子が紫音しおんでね、女の子が花音かのん!可愛いでしょ?」

「へぇ・・・紫音に花音か。いいんじゃないか?」
「そお?じゃあこれで届け出出そう!えっと、書かなきゃいけないよね。美作さん、間違えちゃいけないから見ててくれる?」

「あぁ、判った」


樹と楓はどうしたんだ?
牧野・・・本当は古風な名前にしたかったんじゃないのか?そのうち西門姓に変わってもおかしくないようにって思ったんだろう?

それなのにまるで反対じゃないか・・・。

牧野は嬉しそうに出生届の子供の名前の所にそれを記入した。「間違えてないよね?」って何度も確認して、書き上がったら記念だって言って写真まで撮って・・・。
それを封筒に丁寧に入れて俺に差し出した。

「ごめんね、ギリギリになっちゃって。美作さん、悪いけどこれ、頼んでもいい?」
「あぁ、出しておくよ」

「・・・ありがとう」

ニコニコしているけどここには双子は居なかった。
それを牧野も寂しそうにしてないし、俺に説明もしない。新生児室に居るなら見に行こうとも、この部屋に呼んでもらおうとも言わなかった。
それは病院側がこの部屋で牧野と子供だけにしないためにそうしているのだと思った。

それだけ普通じゃないって事か?


♪~♪~

その時に鳴った電話は・・・総二郎からだった。




******************




司と類からはその日のうちに電話があって怒鳴られた。
2人共凄い剣幕だった・・・とても西門に何かがあったら、なんて頼めないほど婚約を発表した俺を罵った。「寺に籠もるのは牧野から逃げるためか」とも言われた。

牧野の事を真剣に愛した奴等だから怒って当然・・・俺は黙って彼奴らの怒りを聞いた。


だが1番初めに飛んでくるだろうと思ったあきらが何も言って来なかった。
2人と違って日本に居るんだから話を聞きに来てもおかしくないのに・・・1度は紫に会ってるし、西門の様子を知ってるから何も言わないのかとその日は放っておいた。


だが次の日ですら何もない。
それが世話好きのあいつらしくなくてすげぇ気になる・・・俺の事よりも美作の嫁さんの事で何かあったのかと気になって電話をしてみた。


『もしもし、総二郎?』
「あぁ、あきら・・・今、大丈夫か?」

『・・・あぁ、出先だからそんなに話せないけど。どうした?昨日の事か?』

何だ?この反応・・・やっぱり何か俺より気になることがあるのか?
声を小さくして話してるし、微かに聞こえた女の声・・・『点滴の交換した?』・・・点滴?って事は病院か?


「お前、そこ病院か?」
『え?あぁ、実はな・・・悪い、仁美が具合悪くして病院に運んだ所だから』

「それならいい。こっちこそごめん、また掛けるわ」
『・・・あぁ、そうしてくれ。それと昨日の事だけど寺に籠るって?それ、いつからだ?何処の寺に行くんだ?』

「来月初めから長野の寺に行く。その事であきらに相談したいことがあるんだ。悪いけどそっちが落ち着いたら連絡くれないか?7月中なら東京に居るから」

『判った。こっちは大したことは無いから夜にでも電話する。じゃ、切るな』


苦しいのは俺だけじゃないってことか・・・。
嫁さんの事で悩んでいるあきらに牧野の事まで頼んでもいいんだろうか。


電話を切った後、縋りたかったあきらにまで置いて行かれた気がして虚しくなった。





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