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plumeria

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こいつにまで怒鳴られるのかと、もしそうであっても仕方ないと思っていたが落ち着いて話を聞いてくれたあきらに感謝した。
すげぇホッとした・・・張り詰めてたものが緩んだような気がして逆に震えた。

崩れ落ちる情けない姿もこいつになら曝け出せる・・・暫く項垂れたまま、それまで緊張していた自分を落ち着かせようと必死だった。

だけどあきらには頼んでおかないといけない事が有る・・・そう思って顔を上げた。


「あきら・・・これから俺が行く寺はネットが使えんだわ。だからお前とは連絡が取り合える。時間がある時でいいから調べてくれないか?」

「調べる?何を・・・牧野の行方とか?」

「牧野の事もだけど、岩代の爺さんと宝生家の持ってたって言う茶碗の出所・・・本当に昔から持っていたならそれなりに噂もあると思うんだけど俺も全然知らなかった。本物の楽茶碗がポンと出てくるなんて納得いかないんだよな」

「模造品って事か?でも、それならすぐに判るんじゃないのか?」

「確かにな・・・だが、相当腕のいい職人なら判んねぇ。茶碗の事が判らなくてもいいんだ。紫の事もあんまり世間に知られてないだろ?宝生ほどの家の娘ならもう少し話題になってもいいと思うんだよな。その辺りで判ったことがあれば知らせて欲しいんだ」

「・・・判った。でもな、そういう分野はうちの専門外だから期待すんなよ?そっちに詳しいヤツに盗品や紛失、小細工できそうな組織があるかどうかを調べてみる。判ったら連絡する。紫の事は・・・そうだな、宝生に人を潜り込ませるよ」

「悪い・・・頼む」


美作の情報網で調べられなかったらそれも仕方ない。
茶碗のことはいいとしても紫が何を考えてるのか、そっちも気になる・・・そこまで家元夫人の座を狙う必要があるのか?

むしろ西門家に恨みでもあるんじゃないのか、そんな気さえしていたから。



「あいつの情報なんて・・・やっぱりないんだろ?半年以上見付からないって・・・そういう事だろうな」

「牧野の・・・情報はないな。気には掛けてるんだけどな・・・」

暫くして出した牧野の名前にあきらの目がチラッと俺を見た。
そしてすぐに俺のグラスに新しい氷を入れて酒を注ぎ、同じように自分のグラスにも注いでいた。そいつを持ち上げた時のカランという乾いた氷の音がシーンとした部屋に響いた。


「牧野、やっぱり西門が監視してるみたいだ」
「・・・え?」

「親父の秘書が言いやがったんだ。大人しく言うことを聞いておけば安全に暮らせるはずだってな。その意味が判るだろうってよ・・・!それをこの前問い詰めたらまた座敷牢に入れられたけどな」

「家元の秘書が・・・?そんな・・・いや、悪い、何でもない」

「・・・あきら?」


何だ・・・?なんであきらがそんな困ったような顔するんだ?
今言いかけた言葉は何だ?

急に俺から視線を外してグラスを口に運んだ、そのあきらの態度に違和感を覚えた。それまで普通だったのに、どうして牧野の名前を聞いてそんなに動揺するんだ・・・?
居なくなったことなんて随分前から話してるのにも関わらず、あきらがそれについての質問をしなかったことに気が付いたのは随分後になってからだった。




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<sideあきら>

総二郎と話した2日後、仕事の合間を見て双子の出生届を代理人として提出し、問題なく受理された。
「えっと・・・お父様ではないんですよね?」なんて役場の人間に聞かれ「俺じゃないから」って答えた時の罪悪感に似た感じ・・・じゃあどんな関係だ?って不思議がられても無理はないと思うけど。

その時に鳴った電話はまた病院からだった。


『あぁ、お仕事中に申し訳ありません。牧野さんの事なんですが』
「どうしました?これから会議なのですぐには行けないんですが、どうしてもと言う事なら母を呼びますが」

『急ぐというわけではありません。ただ、今日は一昨日と違う症状が出ていまして、1度美作様に面会していただけたらと思ったんです。奥様は一昨日の様子をご覧になっていないので・・・』

一昨日と違う?って言うことは鬱状態?
そんなに日々違うのか・・・それともこれも個人差って事か?


「それでは午後の空いた時間に1度顔を出します。子供は?」
『赤ちゃんは今、新生児室です。朝は病室に連れて行ったのですが・・・ちょっと問題が起きてしまって』

「問題?あぁ、じゃあそれも行った時に聞きます」


今度は子供にも何かしたのか・・・その逆で何も出来なかったのか?
どっちにしてもこれは精神科の本格的治療が必要なレベルに行くのかもしれないと覚悟を決めて、一旦会社に戻った。


午後になって無理矢理時間を作って、秘書の同行を断わり1人で病院に向かった。
そこで一昨日と同じように別の部屋に通されて医者が来るのを待った。

「お忙しいのに申し訳ない」と、こっちも忙しそうな医者が小走りで来て俺の正面に座った。特に書類なんかは無さそうだ・・・だが少しだけ困ったような顔を俺に見せていた。


「牧野がどうかしたんですか?今日は一昨日と違うって聞きましたけど」

「はい。実はですね・・・って言うかこれを美作様にお話してもいいのかどうか悩んだんですが・・・牧野さんが授乳をしようとしないんですよ」

「・・・は?」

「まぁ、そういう反応ですよね、判ります。一昨日と違うというのはそこでして、牧野さんが意識的に子供を見ようとしないのではないかと。今朝は看護師が付き添い赤ちゃんを病室まで連れて行きましたが、わざと視線を逸らせたように思ったそうです。その前の時は無意識だったようですから、意識的にと言うのとはまた意味が違いましてね」

「育児放棄をしていると言う事ですか?」

「いや、お話しした通りこの段階でそうだとはまだ言えません。一時的なものかもしれませんし、今日これからでもまた気分が変わって抱こうとするかもしれません。この先は看護師の方が詳しいので説明を変わりますね」


一緒にこの場に居た担当看護師が医者に手招きされて俺の斜め前の席に座り、医者と同じように困ったような表情を向けている。これ・・・俺が聞いてもいいのか?って戸惑ったけど仕方がない。
やっぱりお袋の方が良かったんじゃないのかな・・・そんな風に思いながら1度咳払いをして気持ちを落ち着けようとした。


「一昨日美作様に来ていただいた時、牧野さんは凄く元気だったと思うんですが、実は昨日の午前中は起き上がることも出来ませんでした。特に何処かが痛いだなんて訴えもないんですが、ひと言も話さずに寝てるんです。ですが午後になると起き上がってまたお元気に・・・そして赤ちゃんも1度は抱いたりして嬉しそうにしていましたがすぐに寝かせてました」

「あぁ、ちゃんと抱いたんですね?だけど授乳は出来なかったって事?昨日も今朝も?」

「はい。牧野さん、授乳をしなかったのは事実なんですが、どうも母乳もあまり出ないようなんです。って言いますか、普通でしたら胸が張ってきて赤ちゃんに飲んでもらって、それが刺激になってまた母乳って作られるものなんですけど、それがないんですよね」

「・・・はぁ」

「そりゃ、たまには出ないお母さんも居るんで、そういう方は頑張って赤ちゃんに吸ってもらったり、マッサージを受けたりして必死になるものなんです。いえ、必死にならなくてもいいんですけど凄く気になって慌てる方は沢山見てきました。
でも、牧野さんは昨日からそういう姿勢がないんです。胸も張ってないし、だからって与えようともしない・・・そうなると赤ちゃんに母乳をあげられなくなるんですよね」

「原因は一昨日話した事ですか?」

「それはなんとも・・・ですが強いストレスのせいでそれまで出ていた母乳が止まってしまった人もいます。ミルクで代用すれば赤ちゃんは育ちますが、やはり母乳に勝るものはないので・・・」

「・・・それ、私がどうにか出来るものではないですよね?」

「あぁ、勿論です!牧野さんに授乳しろと説得して欲しいわけではありません。そうではなくて・・・」


じゃあ何だ?ってこっちが聞きたい。
よく判らないけど、恋人との接触で胸がどうこうって話なら俺にするのも筋違い。何かとんでもない話をする気なのかと一瞬慌ててしまった。胸の張りがどうとか言われても確認出来るわけがない。
いくら俺が後見人で、兄貴みたいな存在でも・・・相手は牧野なんだから!

それをほんの少し表情に出してしまったから看護師は狼狽えて医者に助けを求めたようだ。今度は医者の方から言葉が返ってきた。


「それも心配ですが、これが長期になると牧野さんにお子さんを任せていいのかどうか・・・」

「・・・え?」

「来ていただいたのはその事です。一昨日もお話ししましたが我々が思っていた以上に深刻かもしれません。牧野さんには病気による育児能力の欠如、やはりそれが感じられるのでご相談なのです。少し早めにお子さんの事を考えた方が良さそうだと判断しました」


その医者のひと言・・・今度は双子と牧野を引き離すって事か?

いや、これ以上牧野を1人にさせるわけにはいかない。
あの双子が牧野の希望にならなければ、何の為にあそこまで苦労して来たんだ?




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