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plumeria

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<sideあきら>

医者との話合いが終わってから牧野の部屋に行き、ノックしてみた。でも、返事はなかった。

「牧野、入るぞ」

ひと言声を掛けて静かにドアを開けると牧野はベッドの端に座ってぼーっと窓の外を見ていた。
この特別室は窓を開けることは出来るが、防犯上の理由で身体を外に出せないようにある程度の間隔で格子が取り付けられている。だから万が一・・・って心配はなかった。

その窓を開けて、入ってくる風に髪を靡かせていた。
だがこの部屋に入った俺の顔を見ようとはしなかった。

チラッとソファーに目をやると、そこには子供用の服が散乱してる。1枚や2枚じゃない・・・お袋が持ってきた服が相当数散らばっていた。牧野はこれをどうしたかったんだろう・・・そう思うけど、今は触れない方がいいような気がしてそのままにしておいた。


「何見てるんだ?そこからは何も見えないだろう?」
「・・・雲を・・・・・・雲を見てるの」

返事はする・・・ちゃんと声を聞くことは出来るのか、とホッとした。
俺は空いてる椅子に座って、さっきの医者の話の続きを思い出していた。


**


「問題はまだあります。統合失調症と言いましてね、これにかかると母親は現実から掛け離れた夢を見るような状態になったり、考えや感情が混乱するんです。どんなことが起きてもそれが自分と関係しているように感じて、もっと進むと幻聴や思い込みが激しくなったりします」

「思い込み?たとえば?」

「自分の子供が違って見えたり、すり替えられて自分の子供じゃないと言い出したり、酷くなると悪魔や救世主だとか言う言葉が出てきたりします。そうなると周りの人はその人の言葉が理解出来なくなることもありますし、中には誰かが子供に危害を加えると怯えて子供を異常に守ろうとするケースもありました。」

「・・・牧野はそうではない?」

「まだそうではありませんし、この症状も3日目です。だから余計に医療的観察をしていかないといけません。退院はもう少し先になると思います。このまま元の状態に戻っても1人には出来ないとお考えください。それは・・・大丈夫ですか?」


**


確かにこの様子だとまだそこまでは・・・だが、子供を見ようとしないというのは深刻だ。
どうにかして双子を自分の「宝物」だと言っていた牧野に戻さないと・・・そう考えても、医学的知識の無い俺には何も出来ないんだけど。

この先は1人には出来ない、それも美作で何とか出来る。小夜にこのまま引き続き牧野と一緒に住んでもらい、子育ても手伝えばいいんだし。ただそれを牧野が受け入れるかどうか、そこが問題だ。


この種の精神病は適切な治療をすれば治療結果は非常に良好だと医者は言った。
可能であれば牧野と子供が一緒に入院し、絆が断たれないようにする・・・これは牧野次第で問題はない。既に精神科医もスタッフに入った。

心理療法の効果が現れるのは数週間から数ヶ月先、それに対して薬物療法は数日から数週間以内に効果がみられるらしい。
抗うつ薬や抗精神病薬は殆ど母乳にも分泌されないから授乳を止める必要もない。これも牧野次第だけど。
ただし、炭酸リチウムという躁うつ病の治療薬は母乳に影響を与えるため授乳はストップしミルクに切り替える・・・如何にもそうなりそうだと言う医者の言葉が耳から離れなかった。

医療行為に関する同意は美作でいいのかと・・・それには頷くしかないじゃないか。


総二郎がここにいればこういう判断はあいつがするんだろうけどな。
いや、そもそも総二郎が居るんならこんな病気にはならないか・・・。



********************



私は今どうしてここに居るんだろう・・・昨日からその質問ばかりが私の頭に浮かんでくるけど答えはいつも出なかった。

何か凄く大事なことを忘れてる・・・?
私は何かしなきゃいけない事が有るんじゃないの?

さっきも誰かが入って来て私に頻りに「何か」を見せていた。
「抱っこしない?」・・・何を抱けと言うの?「お腹空いてるみたいよ」・・・私は空いてないもの。
そうしたら誰かが泣き出した。泣きたいのは私だけど、涙さえ出てこないんだもの・・・泣けるだけ羨ましい、そんな気がしてた。

可愛らしい小さな服・・・どうしてこんなにもあるんだろう。これは誰が着るの?
並べてみたけどどうして同じ物が色違いであるの?


やっぱり私は何かを忘れてる・・・ううん、何かから逃げてる?
それが何かを考えている内に頭の中で誰かが話してる声が聞こえた。


『だからよせって!これから記者会見だろう?それは家に帰ってからでよくね?』
『だって!やっと決心してくれたんですもの。嬉しいじゃない?』

『せっかく綺麗に着物着てんのに着崩れるからよせって・・・仕方ねぇな』
『・・・さん、あの人のこと忘れてくれくれたのよね?』

『あぁ、俺を置いて逃げた女の事なんか・・・』



嫌だっ!!聞きたくない・・・!

その先は聞きたくない・・・止めて・・・誰だか判らないけど止めて!


その声が聞こえたら耳を塞ぐんだけどいつも同じ声が聞こえてくる。どれだけ耳を塞いでも・・・どれだけ目を閉じても顔の見えない2人が抱き合ってるのが見える!

どうしてこんな姿が見えるの?
どうしてこんな声が聞こえるの?俺を置いて出ていった女って・・・・・・女って・・・!


嫌だ・・・・・・嫌だ・・・嫌だ、嫌だ、嫌だーーーっ!!!


「いやああああっーっ!!」
「牧野・・・?牧野、どうしたんだ?」

「いやっ!離して・・・離してぇっ!!」
「牧野!俺だ、しっかりしろ!」

ベッドから飛び退いた私の身体を、誰かが正面からガッ!と凄い力で抱き締めて来て、その腕に掴まりながら私はまたベッドに倒れるようにして身体を横たえた。
その瞬間、目が覚めたみたいになって私を抱き締めてる人を見た・・・美作さんだ。


「み・・・まさかさん?」

「・・・判るのか?俺が判るのか?」
「・・・うん、判る。ごめん・・・離してくれる?」

「あ?あぁ・・・すまない。お前が急に立ち上がって悲鳴をあげたからつい・・・」
「うん、それも判ってる。大丈夫・・・大丈夫だから離して?」

美作さんは私から離れると自分のスーツをササッと直して、目の前にあった椅子に座った。
そしてジッと私の顔を見てる。


思い出した・・・さっきの声は西門さんだ。
あの着物の後ろ姿は彼だった。そして隣に居たのは・・・あの日見た婚約者の人だ。





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