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監視カメラの事件があった次の日、いつもと同じ朝をベッドの中で迎えた。

牧野は不安な様子も無く、今朝も元気に朝食を残さず食べていた。事件を聞いていた両親もその様子を見てホッとしたのか牧野との会話もいつも通り。
俺が会社に行く時、玄関前の見送りも笑顔だった。

「行ってきます」
「うん!行ってらっしゃい、今日も早く帰ってきてね!」

「ん、判ってる。はい、じゃいつもの・・・」
「もうっ、ここはお部屋じゃ無いんだからダメだよ・・・帰ってからね」


そう、ここまではいつも通りだった。
帰ったらちゃんと抱き締めてキス出来ると思ってたのに・・・。



西門の事務長、西村さんから5年前の茶道会館移転工事の件を聞いてから、どうしても事の経緯が気になって仕方なかった。
だから花沢の情報部の人間を動員して2番目の営業責任者だった佐々木の行方を捜していた。

それはすぐに判った。
彼は妻子を連れて地元である静岡に帰っていて、家業である旅館の経営を手伝っていると連絡が入った。
佐々木は花沢の訪問に随分驚いたようだけど、退職の経緯で聞きたいことがあるから花沢本社へ来るように頼むと渋々だけど受けてくれた。

今日はその彼が来る日・・・藤本には「それ、なんの仕事ですか?」と冷ややかに言われたけどいつものように無視。


時間になってうちの情報部が付き添って佐々木が専務室までやってきた。
入って来た男は小柄で痩せ型、歳は40代中半と言ったところか?見知らぬ場所だからなのか花沢の専務室だからなのか、少し落ち着きがなかった。
確かに見た目的には「敏腕な営業責任者」という雰囲気じゃないが、真面目が取り柄でその役職まで上がっていったのかもしれない。


「佐々木さん、今回は私の無理なお願いを聞いて下さってありがとうございます。どうぞお座り下さい」
「・・・はい。私でお答えできることがあるんでしょか?もう辞めて5年にもなりますが・・・」

「あなたがお辞めになった最後の案件についてです。覚えていらっしゃる範囲で構いません」
「最後?あの西門家の事ですか?」


西門の、と言うと顔色が変わった。やはり佐々木の退職には何か特殊な事情があったんだろうか・・・?


「ご存じでしょうが五十嵐物産は花沢の系列会社です。詳しい事はお話出来ませんが少し調査をしているのです。
この件であなたが私に情報提供しても佐々木さんのお名前は一切出しません。むしろマスコミ等にも出せないような内部調査です。ご協力いただけますか?」

「はぁ、そ、そうですか」

「あなたは何故その案件の責任者になり、その後すぐに依願退職なさったのですか?その時の内容で不審な事があったとか?西門の事務担当の方はあなたが何度か見積もりの修正をしようとして、その時の差額が誤差とは言えないものだったと仰っています。何があったのでしょう?」

佐々木はその件については記憶を辿らなくてもすぐに判るようだった。
暫く口籠もっていたが、再度極秘調査である事、事実ここに来ている事も俺以外の人間は知らないと言えば漸く話し始めた。


「実は私も何故そのような大きな案件の責任者になったのか自分でも判らないのです。私はそんなに大きな工事責任者になったこともありませんでしたし、前任者の植木さんの方が成績も良かったし話し上手でした。事実、東京ではそこまで知名度もない五十嵐が西門なんて手が届かないような家と契約出来たんです。たとえ何処かから紹介されたとは言え、社内では植木さんの功績を称えて盛り上がっていましたから」

「でも彼も転勤になったんですよね?」

「植木さんは関西の方に栄転されたんです。向こうの方が支社としては大きかったですからね。
で、私がその後を引き継いだ時は社内の反応は真逆でした。何故私が・・・って感じです。それでも植木さんが頑張って取ってきてくれた案件ですから私も頑張らねばと毎日必死でした。そんな時、西門邸に関する金額の違う見積書を偶然見付けてしまったんです。支店長が保管されていた別物件のファイルに間違って挟まってたみたいで・・・」

「それが金額が随分違うもの?」

「そうです。材料名や個数、耐震設備の内容とか色々違っていたんです。西門と言えば金はかけるだろうと誰もが思うでしょう?値切ったりなんてしないとは思うんですが、流石に億の見積もりですから私も扱ったことがないし、間違っていたら大変な事になると思いました。
私はその時、自分がかなりテンパっていたことも有り、始めに持っていった見積もりが違うのだと思い込んで、後で見付けた金額の少ない方を持って行ったんです。そうしたら事務長さんに怒られ、社に戻ると西門から連絡を受けた支店長に呼び出されて怒鳴られました」

「どっちが正解だったんですか?」

「金額の高い方です。・・・でも、私は安い見積もりの内容の方が材料発注の数字と一致してると思ったんですよね。8700万円も違うって・・・それは謎のままです」


どうしてそんなものを作る必要があったんだ?億の契約での誤差ならせめて数百万だろう。

この人が相談したのは植木の部下だったが中身がはっきりせず、日付を確認したら自分が持っていった高額の見積書の日付よりも後だったため、安い方が修正後の正しい見積書だと思い込んだらしい。

そしてその安い見積もりを西門に提示したことで支社長から叱責を受けた。
それに留まらず、たまたま東京に来ていた九州本社の役員からも散々罵られ、それが原因で営業部長から降ろされることになり自ら退職を申し出たのだと説明してくれた。

見積もりが二つ存在していることについて聞けば、『工事内容に幾つか見落としがあった為に材料を追加し、西門が1番高度な技術での耐震工事をと希望したからだ』、そう言われたが、何故破棄せずに残っていたのか・・・そしてそこまで慌てる理由が判らなかったと首を捻っていた。


「当時まだ二十歳ちょっとの若者でしたが社長の息子さんです。私が40を超えていようが容赦なく乱暴な言葉を浴びせられました。余計な事をしたとか役にたたないとか、まるでパワハラかモラハラかってぐらい怒鳴られましたよ。
その時にこの会社ではもう働けないと思いましてね・・・継ぎたくはなかったんですが静岡に戻って家業を手伝っている次第です」

「・・・社長の息子ね・・・成る程」

「そう言えば私の後に責任者になった川本さんも同じ件で怒られたと聞きましたよ?五十嵐にはその見積もりはもう存在していなかったはずですが、西門の事務長さんがコピーを取っていたらしく、それを見たんだそうです。
何が起きたのか知りませんが、川本さんはその見積もりを使って不正を働いた・・・って噂でした。辞めた後、偶然川本さんに出会ったって言う人から聞いたんですけど、本当の所は判りません。真面目で正義感の強い人だったですけどね」

「懲戒処分を受けた人ですね?」

「そうなんですか?いや、それ以上は知らないんですよ」


つまり・・・やり手の植木に契約だけさせて、その後はある意味使い易い大人しめな佐々木さんを責任者に置いた。
その見積もりは不正に会社の金を動かすためのニセの見積書で、西門ほどの案件になると誰も疑わないと思うような金額。事実この人は驚きはしても疑わなかったんだから。

思いもしなかったのはニセの見積書の保管をミスってこの人に見付けられた挙句、社外の人間・・・西門に見せたって事だ。


不正をしたのは五十嵐浩司に間違いはないだろう。
そして佐々木さんの後任の川本って人間も同じ事に気が付いて・・・こっちは正義感が強かったって事はこの不正にまで気が付いて告発しようとしたのか?

でも先手を打たれて汚名を着せられた可能性もある。
そしてさっさと懲戒処分・・・そんなところかな。


「佐々木さん、どうもありがとう。お名前は出しませんし旅館にも迷惑はかけませんのでご心配なく。あ、藤本。佐々木さんに紹介してあげて」

「畏まりました」
「はっ?!紹介って・・・なんでしょう?」

「本日のお礼とお考えいただけたら結構ですが、経営されている旅館に花沢より経営コンサルタントを派遣させていただきます。それとそちら様がご希望でしたらフレンチと和食のシェフも派遣させていただきますのでご検討ください」

「ホントにいいんですか?!」
「・・・専務の我儘にお付き合いくださったんです。このぐらいは当然です」


ここに来た時より元気になって佐々木さんは帰っていった。


「・・・悪かったね、我儘で」
「おや?自覚があったんですか?それではここからは専務の本当のお仕事に入っていただきますね!」

「判ってるよ。でも次は川本の行方を捜すから」
「はっ?!まだ調べるんですか?」


当たり前でしょ。そうしないと牧野を花沢に迎えられないんだから。

隣でギャアギャア喚いてる藤本を余所に、俺は次のターゲットである川本の行方を捜すように情報部に頼んだ。
この時間に牧野の元にあいつが近寄っていたなんて知りもしないで。





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2019/02/10 (Sun) 10:04 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんばんは。

そうそう!唱えながらでお願いします(笑)

如何にも何かが起きそうな終わり方ですよね💦
さて・・・どんな手で何をするのか・・・?

連れ去るのか、つくしちゃんが出て行くのか
加代さんに捕まるのか、もしかしたら桃太郎達が浩司退治するのか!!
梅三郎が大活躍するのか、意外にも司君が帰ってくるのか?!(いやいや・・・)

そんなに驚くような事ではありませんが💦

大変失礼致しました。

2019/02/10 (Sun) 20:17 | EDIT | REPLY |   

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