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『color』

白い息を吐きながら、あたしは待ち合わせの公園のベンチに座っていた。
「……寒い」
そんな事は口にしなくても分かっていることなんだけど、ついそう呟いてしまう。

……もっと暖かい恰好にすればよかったかな。
今日の服装は白のニットワンピースの上にベージュのコートを羽織り、首元が冷えないよう黒いマフラーを巻いた。
足首も冷えないようにとブラウンのブーツを選ぶ。が、ワンピースの丈が短めだから膝が丸見えだ。
これが良くなかったのかな。やっぱズボンの方が良かった……?

いやいや、ズボンだってきっと結果は同じだ。
こんな寒空の下、じっと座っていれば体は冷えてくるに決まっている。
ちょっと動いた方が寒さもまぎれるかと思い、あたしは座っていたベンチから立ち上がった。
ストレッチでもしようと腕を伸ばすと、空の色に気がつく。

「あ、……白い」
雲が一面に広がり、青い空の色はどこにも見えない。
「今日の天気予報は曇りマークだっけ。でもこの寒さなら雪がパラつくかも……」
誰に言うでもなく、あたしはいつもの独り言を口にする。



幼稚園の時に描いた絵は、空を青色のクレヨンで塗り、太陽を赤色で塗った。
モクモクとした白い雲を2つ描き、パパとママとあたしと進が笑って立っている。
そんな絵を描いた事がある。
立体感のない、平面な子供の絵。
その話を2人にしたら、西門さんは「太陽は黄色だろ」と言い、花沢類は「オレンジ」だと言った。


小学校の高学年になったら写生大会というのがあった。
その日は遠足のようにお弁当を持ち、5.6年生みんなで近所の裏山へ絵を描きに行くイベントだ。
学校の授業が一日図工の時間となり、生徒達ははしゃいでいた。
お弁当が入ったリュックを背負い、画板の紐を肩から下げ、絵具セットと黄色いバケツを持ちながら道中友達とワイワイ話しながら歩いていると、後ろの方から先生に「しっかり歩け」なんて声が飛んでくる。
その叱責すらキラキラ輝いている思い出の一つとして残っていた。

あたしは絵の具で水色や青色、群青色など様々な色を使い、空を塗った。
座った向きに太陽はなかったので描かなかった。
けれどもその色使いを担任の先生に褒められ、市のコンクールで銀賞を貰った。
誰かに認められるっていうのが嬉しかった。
これがあたしの最初で最後の絵の賞だ。


「お待たせ、牧野」
「遅いよ!」
約束の時間を15分も過ぎた頃に2人はやってきたので、あたしはお決まりのセリフを2人にぶつける。
「総二郎が遅かったんだ」
シレっと答える花沢類に、西門さんは「おいっ」とツッコミの手を入れた。
「お前が寝てたんだろ!」
「だからもっと早くに起こしに来てくれれば……」
「なんで俺がお前の目覚ましにならなきゃなんねぇんだ。俺が迎えに行く前に起きて着替えて待ってろ!」
「……」
「……」
「……牧野、行こ」
至極当然と思われる西門さんの言葉をスルーして、花沢類は目的のお店に向かって歩き出した。
「おいっ!」
西門さんの怒りがこもった一言を耳にしながら、苦笑いで花沢類の後ろをついて行くと、西門さんも渋々と言った感じに歩き出す。


公園を出て少し歩くと、いくつものお店が並ぶ商店通りになる。
その中の一つ『伊東堂』が、本日の目的の画材店だ。
店内は少し薄暗く、通路も狭くて人とすれ違うには体を横にずらさないといけない。
陳列棚には『裏にある商品もすべて並べてしまえ』……みたいな店主の意気込みを感じる程、沢山の商品が並んでいる。
どこかやっつけ感を感じるが、何に使うのかよく分からない道具を見ると、絵を描く人には嬉しいお店かも知れないと思った。

「筆だけで200本以上ありそう……」
色を塗るための筆は、丸筆平筆などの種類以外にも色々あるらしく、この筆は『何の動物の毛を使っている』と、分かりやすく書かれた説明書きが添えてある。
「これだけあると悩むな。だが別に筆だって決めて買いに来たわけじゃないだろ。……そうだ。紙とかはどうだ?」
あたしと同じように沢山の種類の筆を前に立ち尽くした西門さんは、奥に用紙コーナーを見つけ移動した。
「そうだね。絵を描くには紙が必要だもんね」
筆と違って紙なら簡単だよね。筆みたいに種類があるとも思えないし。
……なんて思っていたが、そこでもさらに悩む事となる。
紙は画用紙という馴染みのあるもののほか、ケント紙とかいう紙。ワトソンやらアルシュなんて初めて聞く名前のものもあり……。


「……もう、何がいいかなんて分かんないよぉ」 
と、あたしはお店に到着して5分としないうちに音を上げる。
「安易に誕生日プレゼントに画材を贈ろうなんて考えたのが間違いだったか……」
まいったな……と西門さんも呟いた。
あたし達がため息をついていると、そこに1人、空気を読まないのんきな声を出す人がいる。
「ねっ、これ面白いよ」
指を差して子供の様にはしゃぐ花沢類。
このマイペース……。
あんたは一生このままな気がするわ……。と口には出さず、西門さんと目だけで語り合った。

一応、花沢類が興味惹かれたものを見てみると、紙に沢山の色が小さい四角で印刷されている。
「何、これ?」
「カラーチャートだな」
あたしの質問に答えた西門さんは、棚から赤い色の束を1つ手に取り、パラパラと捲っていった。
受験の時に使った単語カードのようにリングで一まとめにされており、赤い色が少しずつピンクに変わっていく。
カードだけでなく、本になっているものとかもある。

「カラーチャートって?」
「色の見本帳だよ。ネイルとかするとき、店の人がこういう紙を見ながら色を確認して……る……だ……」
言いながらネイルなんてしていないあたしの指先に視線を向けた西門さんは、「お前の女子力の低さを忘れてた」と一言付け加える。
「あ、あたしの女子力のベクトルは、みんなと方向が違うだけだっつーのっ!」
クラスの女子みたいなゴテゴテしたネイルをしていたら、家でご飯を作ったり、アルバイトしたり出来るわけないでしょ。
進にも言われたけど、あたしの女子力は料理なんだから。

必死に言い訳をするあたし達の会話が聞こえているのかいないのか、花沢類はどこまでもマイペースだ。
「これ回るんだ」
カラーチャートは、立体になった模型みたいなものもあり、それが回転するようになっている。
マイペース男は、楽しそうにクルクル回転させていた。
まるで子供が地球儀をクルクル回すみたいに……って、
「こ、壊さないでよ……。お店のやつなんだから」
明らかに地球儀よりもモロそうに見えるし。
けど、あたしのハラハラした心配をよそに、花沢類は目をキラキラさせて言った。

「これにしよ。誕生日プレゼント」
「その今、回転させているカラーチャートか?」
西門さんが確認すると、頷く。
「ん。これ可愛い」
「いや……。それってお前が欲しいだけじゃ……。けど、いいかもな」
西門さんは悩んでいたみたいだが、最後は同意した。
確かに筆とか紙とか、素人にはさっぱりわからない物より、まだこっちの方がいいかも。
……。
……。



……。
……。
……って、贈る物が決まったと同時に、あたし達は何も買わず肩を落として店を後にした。
……だって予算オーバーだったんだもの。

『だから足りない分は俺らが立て替えるって言ってるだろ?』
『ダメ。あたし達3人からのプレゼントなんだから、ちゃんと3人で一緒の金額じゃなきゃ』
2人は甘えろと言ってくれたけど、あたしが断固として譲らなかった。
プレゼント探しが振り出しに戻り、また一から考えることとなる。
どんなものがいいだろう……。
鳥が好きだから鳥の餌とか……。いや、それはなんかちょっと違うし……。

3人で並んで歩き、待ち合わせの公園まで戻ってきた。
同じベンチに腰を下ろすと、さっき見た空が視界に入る。
先程よりも雲が少し黒っぽくなって、濃くなったように見える。

あたしと同じように空を見た花沢類がポツリと「作る?」と言ってきた。
「「……?」」
「買えないんなら作れば?」
「カラーチャートのこと?」
あたしが聞き返すと、花沢類は頷いた。
西門さんは笑顔になって指をパチンと鳴らす。
「名案だぜ、類。プレゼントはカラーチャートがいいって、さっき決まってたしな」
「お店にあるみたいに全色じゃなくて、俺達が好きな色だけで作ればいいんじゃない?」
「そうだな。この色で俺達を描いてくれってリクエストでもするか!」
「ん」
2人はさっさとプレゼントを決めてしまい立ち上がる。

贈り物のはずなのに、まるで催促しているみたいだ。
それでいいのかなって思いつつもプレゼントを作るのは楽しみである。
あたし達は、足取り軽く今度は家へと向かった。


……ん? ちょっとまって……。
「あんた達の好きな色って……。花沢類は黒で、西門さんは白だよね? それで色見本をどうやって作るっていうの?」
あたしみたいに青が好きなら、水色、青色、藍色……って感じに色の種類があるのに。
黒と白なんて一色しかないじゃん。
「黒でも檳榔子黒とか黒紅とかあるじゃん」
……ビ、ビンロウジグロ? クロベニ?
「なにそれ?」
初めて聞く色に、花沢類は教えてくれる。
「青みがある黒や、赤みがかった黒の事」
「黒に種類なんてあるんだ……。言われてみれば服とか同じ黒でも微妙に違うかも……」
「色の3原色だろ。赤、青、黄色で黒を作ると、匙加減で微妙に違う色になるんだよ」
「なるほど」
色を混ぜて作るんだ。
 
あ、そうだった……。
あたしも小学校の時に銀賞を取った空の色は、絵具の色をそのまま使ったりせず、他の色と混ぜて使ったんだった。
空はただの「青」だけじゃない。
あたしはその事を知っている。
今日の空は白。雲の向こうに太陽があるのが分かる白。
でも少し黒っぽくもあるから灰色だ。

「え? でも西門さんの白は? あ、クリーム色とか?」
でもそれだと着色されてるよね……。
クリームって事は、白に黄色やオレンジを混ぜた色かな。
「知らないのか牧野。白は何色にもなれるんだぜ」
「……?」
「よく言うだろ。「まだ何も知らない真っ新なお前を俺色に染める」ってやつ」
「い、言うの? そんな事。初めて聞いた気がする」
って、それ質問の答えになってないよね。
絵の具とかの色の話じゃないじゃん!
疑問を覚えるあたしとは逆に、花沢類は何かピンと来たらしく、
「真っ白なものほど汚したくなるってやつ?」
と聞いた。西門さんはニヤって笑い、
「ああ。けど汚したくもないって思うジレンマっつーの? わかるか?」
「……ん。なんとなく? 俺はそうは思わないけど」
なんて、あたしには意味が分からない話で勝手に盛り上がっていた。



花沢類の部屋であたし達はプレゼントを作る。
あたしは青色を中心とした色を作り、花沢類は黒やグレーといった色が中心になった。
西門さんは白に拘ることなく、赤や緑と言ったカラフルな色を使って作っている。
あたし達の作った色。
大好きな色。

「喜んでくれるかな?」
不安になり訪ねると、2人は口を揃えて「大丈夫だろ」と言った。
それでも気になっている事を口にしてみる。
「でも「この色見本を見て絵を描いてね」何て言ったら、怒られるかも……」
「……それも大丈夫だろ。きっと描いてくれるさ」
「ああ」
優しく微笑む2人に、あたしも笑い返した。
「うん、そうだね!」


今すぐじゃなくていい。
また気が向いた時にでも……。
あたし達が作ったカラーチャートもどき? を参考にしてイラストを描いて欲しいな。

そんな願いを込めて、最後にキラキラ輝くリボンを使いラッピングをした。


Fin




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ラストは「紅茶カップ」 桃伽奈様からのお話でした~!!
桃伽奈様、ありがとうございました~!

きゃーっ!懐かしいカラーチャート!
1番簡単なヤツですが持ってました。知ってます?高いヤツは100万円ぐらいするんですよ(笑)
普通で1万円前後、色見本ですが馬鹿に出来ません!

そして「画材じゃん♥」って読んでいて、終わりの方で・・・「きっと画いてくれるさ」「ああ」・・・誰が?ねぇ、誰が?
それ、反則ですよね?類と総ちゃんに言わせる?



メッセージもいただいてますがこの後の「後書き」にて紹介させていただきます♡

☆桃伽奈様にコメントいただけましたらplumeriaが責任もってご本人様にお届け致します。
公開でも非公開でもかまいません♡


桃伽奈様のお部屋にはこちらから飛べます♥







それでは21:00 「メッセージ&後書き」を公開致します。皆様、本当にありがとうございました♥
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2019/01/31 (Thu) 22:47 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様、こんばんは!

本当に沢山ありがとうございます・・・泣けちゃう💦

画材屋さんにはその関係者しか行かないですよね。
私は何年間も同じ画材屋さんに通いましたから、そこのお爺さんが亡くなって閉店したときに大泣きしました。

なかなかないんですよね、田舎には画材屋さん。
その後は遠くの街まで行かなきゃいけなくて困りました。

今はもう絵の具を出すこともなくなったので、専ら色鉛筆♥それでも96色なので楽しいです。

では、コメントは桃伽奈様に送っていますので少しお待ちくださいね♥

2019/01/31 (Thu) 22:54 | EDIT | REPLY |   
桃伽奈  

まりぽんサマ

こんばんは。コメントありがとうございます♪
プルさんなら「絵」だよね? プレゼントは「画材」だよね? って即決ですw

そうですよね。画材店は目的がないと、なかなか行かないお店ですよね。
モデルにしたお店は、実家から歩いて1分の所にある、お爺さんとお婆さんがやっている画材店です。
(↑プルさんのコメントと被っていますがw 画材店はご高齢の方がするのか?@@; いやいや、たまたまですw)

中学生の時に授業でカラーチャートを作ったのですが、先生が家から立体模型のカラーチャート持ってきてくれて「これ20万円以上するねん」なんて言って自慢していた事を、お話を書きながら思い出しました。「触るなよ」と言って、触らせてくれなかった事もww

お話を楽しんで頂けて嬉しかったです。
ありがとうございました♪
桃伽奈<(_ _)>

2019/02/01 (Fri) 17:54 | EDIT | REPLY |   

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