FC2ブログ

plumeria

plumeria

さっきまで鋭かった川本の目が落ち着き、5年前の事を全部話してくれると言った。
だからすぐに西門の茶道会館移転工事の関係書類と出すと、それを手に取り眉を寄せた。


「見覚えありますよね?それはあなたの前任者、佐々木さんが西門に持って行ったものです。西門は私の友人宅なんですよ。それで調べていたらこの案件だけ各担当者が代わりすぎていることに気が付きました。川本さん、あなたは3番目の責任者ですね?この時に何があったんでしょう?」

「・・・この見積書は正しいものじゃないって事だ」

「そうでしょうね・・・実はもう1枚見積書があったって事ですよね?そして2枚の見積書の差額は誤差どころじゃなかった。佐々木さんはただ間違いだと思って西門の事務所にもう1枚を見せてしまったけど、すぐにまた元に戻して川本さんに担当を譲った。その時に酷く叱責を受けたことで退職されています。勿論後任のあなたは知っていますよね?」

目の前に置かれた珈琲に手を伸ばし、ひと口飲んでから腕組み・・・その時の悔しさが蘇って来たのか唇を噛み締めていた。
自分の総てを失うきっかけになった事件だ。本当は忘れてしまいたかったのかもしれないけど。


「西門の移転工事を引き継いだ時、佐々木君のミスについては西門を怒らせたと聞いていた。だから西門には何を言われても頭を下げておけ、ぐらいの言い方で機嫌を取ることだけを言われたんだ。それでも既に契約していたから余程のことがない限り工事を中止されることはない、そう思って普通に西門に出入りして事務長さんとも親しくなったんだ」

「西村さんですね?」

「あぁ、そうだ。それでいつか忘れたが打ち合わせ中に西村さんが『念のためコピーしていたんですが処分していいですか』と言って出して来たのがもう1枚の見積書だった。それを見て慌てたよ・・・自分が聞いていた金額とは随分違っていたんだから。
それでそいつをコピーさせてもらって五十嵐に持って帰って支店長に抗議した。そしたら・・・」

「宮崎から五十嵐浩司が来ましたか?」

「丁度東京に来ていたらしい。それで余計な事をするなと言われ、それに反抗して見積書の内容をもう1度説明しろと詰め寄ったんだ。どちらかというと低い方が内容的には納得だった。何故あんなにも金額が跳ね上がったのか不思議だったんだ。
でも、それは間違えて持って行ったものを西門の事務長が大事に持っていただけで、関係ないの一点張り。それを不審に思って独自で調べていたんだ。しかも振込先が2つに分かれていたのも不自然だった。儂の経験上、別々に振り込ませるなんてしたことがないからな」

「振込先が分かれてた・・・もしかしてその差額分だけ別口座に?」

「あぁ、そうだ。両方とも名義は同じだったがな」


この後も川本の説明は淡々と続いた。

金額を間違えるのにも限度がある、そう感じた川本は正しいと言われた高額な見積もりの内容を調べた。そうしたら工事には必要のない材料や数が合わないもの、そこまで高額なものを選ばなくてもいいだろうという海外製品や使わなくていい什器なんかも相当数加算されていた。
何故それが必要なのか、と聞けば「西門流からの依頼だ」と言うから確かめに行くと言えば「事務長の機嫌が悪くなるから止めろ!」と事務所に足止めを喰らった。
振込先が別れていたのは経理上の理由とだけ。詳しい説明を求めれば「営業には関係ない」で終わったらしい。


だから川本になってから暫く誰も来なかったのか・・・。


「これが不正だと思われたのは何が原因で?証拠がないと告発も出来ませんよね?」

「・・・事務所に缶詰にされてた時、支店長がパソコンで何かしてたら急に腹を抱えてトイレに駆け込んだんだ。どうやら腹を下してたみたいでな。その時、何をしてるのかと支店長の机に行ったら、そのパソコンの画面がメールの受信箱だった。
あんまり急に駆け込んだからそのままにしてたんだろうけど、そこにあったんだよ・・・フォルダの中に宮崎・瀧野瀬って文字がな」

「瀧野瀬・・・本当に?!」

「あぁ、それで聞いたこともない名前だったから急いで開いて見たんだ。そうしたら何通も『見積訂正版』とか『最終見積書』とかあって、儂が手に入れた西門の見積書の日付と同じ日にも来ていたから開けてみた。
そこには『こちらを西門に渡すように。振り込み口座が分かれていることは説明済みか?』みたいな内容があったんだ」

「そこで瀧野瀬が絡んでいることを知ったんですね?」

「・・・そうだ。急いでそのメール本文をコピーして、その日のうちに支店長に問い詰めたよ」


振込口座を分けた理由なんて簡単だ。1つは正式な五十嵐物産の表口座で最終報告はそれで総て行う。所謂「誤差」に当たる金額の振込先は「裏口座」って訳だ。
西門ぐらいの規模ならチマチマ誤魔化す必要はない。大きな金を不正に請求しても払うって見込んで・・・実際ポーンと払ってるけど。

・・・総二郎、もう少しお前がしっかりしてれば!受付嬢とキスしてる場合じゃないって!


「それで?問い詰めてどうなりました?」

「その日は黙ったままで後日きちんと説明するから黙っておけと・・・そして儂に全部その罪を被せてきたさ」

「どうやって?」

「ある日、西門じゃない所に営業で出掛けていて、戻ったら儂のデスクの前に知らない男がいた。そいつは五十嵐本社の監査役だと言って、儂のパソコンを見たいと言ってきた。理由を聞いても何も言わないが儂には疚しい部分はなかったからパソコンを起ち上げて、言われた通りにメールを見せた」

「メール・・・ですか?」


「そこには儂も知らない間に瀧野瀬というフォルダが勝手に作られ、見た事もないメールが届いてたんだ。あの西門の偽造された見積書と『誰にもバレずに上手くやれ』みたいな文章が瀧野瀬の会長から川本宛に来てたんだ!」


川本はそれを監査役の前で開かされ、どれだけ否定しても疑いは晴れなかったみたいだ。

そりゃ監査役の目の前で自分のメールにそんなものが来ていたら誰だって「犯人」にされてしまうだろう。その時の支店長は何も知らなかったと言うことを強調し、それでもこの後責任を取って降格処分にはなった。
まぁ、それだけで済んでホッとしたんだろう・・・今では副支店長にその人の名前がある。


浩司はわざわざ瀧野瀬会長に頼んで不正を告発しそうな人物を消したんだ。

メール画面にロックを掛けていなかったのかと聞けば「面倒だったから社員番号だった」・・・それも有りがちだけど、管理職なら変えるべきだったよね・・・。この人の唯一の失敗だ。


「それで懲戒処分・・・ですか?」

「支店長はその前にフォルダごと削除してたし、何処から出したのか、儂が瀧野瀬に送ったって言うメール本文のコピーも持ってた。支店長が返した文章を小細工して儂が送ったように見せかけたんだろうけどな。それだけは紙で見せられたから」


川本は懲戒解雇を不服として訴えようかと思ったが、自宅に戻れば妻が男と駆け落ち。本人は家庭を守りたいがために必死で働いたつもりだったが、妻には仕事の鬼の気持ちは通じなかった。
信じていたものに裏切られたショックは相当なものだっただろう・・・それで何もかもが嫌になり、総てを捨てて今の生活に陥ったと話してくれた。


「川本さん、今の話は録音はさせていただきました。もし、何かの時には証言してくれますよね?」

「・・・あの子の為ならな。だが、儂の話だけじゃ証拠にも何にもならんだろう。物的なものじゃないんだから」

「そうですね・・・他には何か有りませんか?あなたが知ってる事、なんでもいいんだけど」


静かに首を振った川本は「もう帰ってもいいか?」なんて言うから慌てて引き止めた。
今からホームレスの生活に戻らせる訳にもいかない。

この人に新しい仕事をさせないと・・・一応花沢グループの会社が行った不正の被害者なんだから。


「川本さん。この先はビジネスとしての話ですが聞く気はありませんか?」
「はぁ?儂とビジネス?花沢みたいな大企業に儂の居場所なんかないだろう」

「花沢物産でも構いませんが、うちで働きませんか?」
「・・・・・・は?」

「うちの庭師・・・そうだな、警備でもいい。部屋付き食事付きです。我が家を守っていただけませんか?最近悪戯も多くて困ってるんだけど」
「・・・情けなんか掛けてもらわんでもいい。儂はもう世の中に信用出来るものなんか無いんでな」


「情けなんて掛けてないでしょ?ビジネスって言ってるのに。今、牧野は留守にしてるけどそのうちここに戻る・・・もう1度会いたくないですか?彼女なら信じられるんじゃないですか?」


川本はそう言うと暫く俯いたまま考えて、そのうち気恥ずかしそうに「じゃ・・・宜しく」と呟いた。

そして部屋まで案内させようかと思った時、振り向いて思い出したことを話してくれた。


「そう言えば五十嵐には女がいると思うぞ」

「・・・え?女・・・恋人ですか?」

「東京支店長の秘書で麻生って女だ。俺がホームレス始めて半年ぐらい経った時に一緒に歩いてたのを見たんだ。向こうは儂には気が付かなかったようだが、べったりくっついてホテル街に消えて行ったからな。その女なら何か知ってるかもしれないぞ」

「秘書の麻生・・・どうもありがと。今日からゆっくり休んで下さい」


それが本当に恋人なら今度は浩司の不貞を突きつけられる!
・・・でもヤバい。女性は苦手だ・・・特に女性から何かを聞き出せって?


「類様・・・それ、出来るんですか?」
「・・・出来ると思う?」





5df5ad6a296f4c7a77a7cca48eac8788_t.jpg
関連記事
Posted by

Comments 4

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/02/18 (Mon) 06:56 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんばんは。

そうですね!ここから一気に潰しに行きます♡

あら、やっぱりそう思います?でもここは類君が頑張らないといけないと思いません?
ふふふ、助っ人は必要かもしれませんねっ!

何をするかお楽しみに♡

そうですねぇ、もう終わっちゃいます~💦
類君のコメディは難しかったです・・・(でも12時がシリアスだからなぁ・・・次はどうしよう💦)

2019/02/18 (Mon) 21:06 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/02/18 (Mon) 21:32 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

miz**様 こんにちは。

はい、これから類君、頑張って反撃です!
川本のお爺ちゃん、いい仕事してくれました!

これからは花沢で働いて楽しい老後を送っていただきたいと思います(笑)
桃太郎、菊次郎の散歩役とか・・・いや、ボルゾイにお爺ちゃんはダメですね💦

あきら君は海外なのでここは総ちゃんでしょうか?(笑)
でもつくしちゃんのためだからやっぱり類くん?

ふふふ、さてどっちでしょう?(笑)

2019/02/19 (Tue) 13:21 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply