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<sideあきら>~1年後~

紫音と花音の誕生日の翌日、牧野の居る鎌倉の別荘に向かっていた。

牧野はあれからも自分の心と闘いながら暮らしていた。
引き続き同居させてる小夜からは初めの頃より落ち着いてきたと言われ、突然はしゃぎ出したり突然泣き出したりと言う感情の起伏は随分穏やかになったらしい。

静かに過ごす日が多く、たまに子守唄のような歌を歌ってると聞いた。
その時には自分の子供のことを思い出しているのか、涙を溢したりはするが「会いたい」「抱きたい」という願望を口にすることはない。何度か送った子供達の写真も見ようとはしないと言っていた。


それが本心なのか、無理して気持ちを押し殺しているのか判らない。

小夜のことはちゃんと覚えていて妊婦だった頃と同じように話すらしい。
でも1度も双子について話した事はない・・・それが小夜にも苦しくて堪らないと電話口で泣かれた時もあった。


**


1年前、牧野が子供を育てられる状態ではないと判断された日の夜、俺は仁美にこれまでの話をする事にした。
恋愛感情ではないにしろ、女友達にそこまでしていた事を凄く怒るだろうと思って覚悟はしていたが、反応は俺の想像とは全然違っていた。


牧野の存在すら知らなかったのだからまずはそこから話し、俺達と牧野の関係と道明寺家のこと、西門家の事、佐賀での再会後の事件、鎌倉に匿ったこと、出産に立ち会ったこと・・・そして牧野の心の病気のこと。
それを長い時間掛けて説明した後、仁美に双子の養子の件を相談した。

「君に黙って牧野の世話をしていたことは謝る・・・本当にすまないと思ってる。
ただ、牧野は女性だけど俺達にとっては大事な友達だったんだ。毎日に飽きて腐ってた俺達に人の優しさと温かさを教えてくれたヤツ・・・そんな感じだったから放っておけなかった。総二郎に会えないという牧野の助けになってやりたかった。そこに恋愛感情はないんだけど君にとっては理解出来ないだろうな」

「・・・どうしてそう思うの?あきらさんはそういう人だって判って結婚したつもりだけど」
「仁美・・・許してくれるのか?」

「許すも何も・・・これは浮気じゃないんでしょ?人助け、そういう事よね?」
「あぁ、勿論。浮気だなんて・・・少しでも考えたの?」

ここまでは仁美もクスクス笑っていた。問題はここからだ。


「それで、さっき話した牧野の子供の事なんだけど」
「双子ちゃんのこと?」

「牧野の不安定すぎる精神状態から考えて子供と一緒に暮らせそうにないんだ。今日も医者に呼ばれて病院に行ったけど、不思議と今日は正気だった。でもその日によって感情が変わるんだ。産まれたのが1人なら小夜を付けて一緒に住めるかもしれないが、双子はとてもじゃないが無理だと思う」

「・・・それで?」

「病院からは乳児院か児童養護施設にって言われたけど、俺はそこに預けないで美作で育てようと思う」

「・・・・・・美作で?」


仁美の驚いた顔・・・それも無理はない。
自分も病気を乗り越えようとしてるのに、他人の子供を預かる話を出したんだから。それでも仁美の協力無しではこの話は成立しない。だからこの後も言葉を出せなかった彼女に必死になって説明をした。


「君の病気のせいで丁度いいと思ったとかそういう意味じゃないんだ。もし仁美が病気をしなかったとしても同じ事を相談したと思うから。俺は総二郎の子供に、この世界に通用するような教育を受けさせたいんだ。いつか総二郎にも会わせてやりたいと思ってるし、問題が片付けば西門の血を引く子供だからあの家に戻してやりたい。その時に子供達が嫌な思いをしなくてすむようにしてやりたいって・・・」

「そのうち・・・?今だけって事?」

「いや・・・病院で牧野の方から俺に頼むって言われた。今日は正気だったって言っただろ?牧野も自分の心の病気のことは判ってるんだ。判ってるから・・・自分には育てることが出来ないって泣いて頼まれた。
美作の子として育てて欲しいって・・・だけど、流石にこれは勝手に決められない。1番は君の理解が必要だし、君は総二郎も牧野も知らないんだから抵抗があると思う。急に母親になれって無茶言ってるんだから」

「その無茶・・・あきらさんはそうしたいのね?」

「・・・したいって言うと語弊があるかもしれない。でも、他の誰も知らないから俺しかあいつらを助けてやれないんだ。それに西門に戻したい気持ちも嘘じゃない。ただ、今はそこまで考えられない・・・牧野と総二郎次第だからね」

「・・・うちで引き取ってもその期間は未定ってこと?それってちょっと都合が良くありません?」

「ごめん、その通りだよな。俺もそこだけは答えられない。それでも理解して欲しいって・・・俺の我儘だ」


俯いた仁美は、今何を考えているんだろう。
その口から次に出る言葉にビクビクしていたけど、それを隠して彼女の目を真っ直ぐ見つめた。

そして暫く黙った後で、仁美は小さく深呼吸して顔を上げた。


「・・・判りました。あきらさんの言う通りにしましょう」
「・・・え、いいのか?」

「くすっ、ここまで必死に相談してるクセにいいのかって・・・嫌だと言っても説得は続くんでしょ?」
「いや、そうだけど、君に無理を押し付けたくないから正直に言って欲しいんだ。どうしても受け入れられないなら他の手を考えるから」

「どんな手があるの?だってうち以外で育てさせたら、今度はそっちが気になるんでしょう?それだと同じだわ」

「・・・・・・仁美、本当にいいのか?」


「・・・私もね、どうやって自分の闇から抜け出そうかと必死だったんです。何をしても心が埋まらなくて・・・でも、その子達が来たら忙しくて忘れられるかもしれないし、新しい夢が見られるかもしれないわ。
だから、その子達の為でもあるけど、私は私の為・・・そう思ってやってみるわ。手伝ってくれるんでしょう?あきらさん」



仁美の理解を得た後で、仁美の両親、うちの両親にも同じように説明し、同意をもらった。
1番揉めたのはその子達の存在を公表するかどうか・・・本来なら美作の後継者の誕生と言うことで盛大に祝うものだけど、そういう訳にもいかない。

だからそこは「美作家の方針で」という大雑把な理由を付けて、双子がそれなりに成長するまで表だって発表しないことに決めた。


牧野が退院する時、その決定事項を説明したかったが話せる状態じゃなかった。
だから話したのは退院して数ヶ月後、たまたま俺が会いに行った時に正気だった日。

美作の養子になったと言えば自分の顔を両手で覆って泣いていた。
何度も何度も俺に謝りながら・・・何度も双子の名前を口にしながら、指の間から流れ出る涙で服が濡れてしまうほどに・・・。



**



「いらっしゃいませ、あきら様。牧野様はお庭ですわ。今日は落ち着いていらっしゃいますよ」

鎌倉に着いたら出迎えてくれた小夜にそう言われたから、玄関に入らずに庭に回った。


牧野はテラスの1番前にテーブルを置いて、その横に置かれた椅子に座って海を見ていた。
そして足音に気が付いて振り向いた時、その黒髪が風に靡いた。


その柔らかい笑顔・・・学生の時のままの牧野がそこに居た。





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